理由は気分です。
「かかっ、よくぞ来た。さぁ、始めるぞ!」
土曜日、駅前に集まるように言われていたので、士道が駅に着くと、そこで耶倶矢が待っていた。
耶倶矢は英語や髑髏などが刺繍された服に、チェーンなどが付いた黒い半ズボンという動きやすそうな格好だった。
「おはよう、耶倶矢。先に来てたんだな。その恰好似合ってるな、かっこいいぞ」
「ふっ、当たり前のことだろう、我なのだから」
士道が耶倶矢の服装を褒めると、耶倶矢は素直に受け取っていた。
「ところで、夕弦はいないんだな。てっきり、夕弦と一緒に待ってるのかと思ってた」
「いや、夕弦は明日どこに行くかの視察をすると言っておったぞ。まぁ、集まったことだし、行くぞ」
耶倶矢は士道の腕を握り、駅前の道を歩き出した。
~☆~
耶倶矢について行くこと十分。目的地に着いたのか、耶倶矢が立ち止まる。
「ここは?」
「そう、アミューズメント施設。ここで遊ぶぞ!」
「なるほどな。とりあえず時間も限られているし、中に入るか」
「ふむ、では対戦の始まりだな」
二人はそう言って、アミューズメント施設に入る。
中にはボウリングやダーツ、ビリヤードなど多種多様のものがあった。
「で、何からやるんだ?」
「まずは、我の一番好きな物からだ!」
そう言って、ボウリングを指差した。
「ボウリングからか。さて、俺が勝たしてもらうかな」
「ふ、我に勝負を挑もうというのか?愚かなことよのぉ。返り討ちにしてくれる」
耶倶矢はカッコいいポーズをとり、士道たちはボウリングの受付で、シューズとボールをレンタルする。
その後、二人はボウリングのレーンに行く。
「では、どちらからやるかな?士道、お主に選ればせてやろう」
「いいのか?じゃ、耶倶矢からやってくれ。相手の力量を見極めたい」
「なるほど、相手の力量を図るのも戦いの基本であるな」
士道がそう言うと、耶倶矢はボールを手に取り、
「では、最初から飛ばしていくぞ!
耶倶矢の一投目、最初から飛ばしているのか、そう言ってボールを地面に叩き付ける。
すると、ボールが地面に叩き付けられるかのような勢いで地面にぶつかり、一気に縦回転をすると、一気にピンに突っ込む。
並んでいたピンは勢いよく吹っ飛び、両隣のレーンのピンに当たり、三レーンのピンをすべて倒す。
「見たか!これが我が実力だ」
「……なるほどな」
耶倶矢はストライクを取ったことで胸を張り自慢げに言い、士道はこの世界の耶倶矢の実力を測った。
「ま、このようなもの、夕弦と勝負済み。故に我はもう極めている」
「まぁ、俺も実力を見せてやるよ」
士道がそう言って、ボールを手に取る。
そして、勢いよくボールを地面に叩き付ける。
「それはッ」
士道がしたことに驚く耶倶矢。
士道がやったのは耶倶矢が今しがたやった技、翔乱闇黒旋風弾だった。
すると、ボールは勢いよく回転しながらピンを吹っ飛ばし、隣のレーンのピンを倒す。
さすがに隣のピンはすべて倒せなかったが、本来のレーンはストライクだった。
一周目の世界でも時々ボウリングはしていたし、千花たちとも時々やっていたので、この技を使えるようになっていたのだった。
「耶倶矢みたいにはいかないものだな」
「なるほど、まさか我が技を模倣するとはな。ならば、我も本気を出すとしよう」
耶倶矢はそう言って、腕を天に掲げる。
すると、耶倶矢の右手に光が集まる。
光が収まると、腕に黒く一部が赤いプロテクターが付いていた。
おそらくは霊力で編んだのだろう。
「……これは、なんでプロテクターを出した?」
「まさか
すると、耶倶矢はボールを手に取ろうとして、何か思いついたかのような顔をする。
そして、士道の方を向くと、
「そうだ、士道よ。今日一日この施設のもの五つで対決をせぬか?そして、負けた方は一つ言うことを聞くというのはどうだ?」
「ん?言うことを聞くのか?でもなー、それって俺に勝ってとりあえず俺に耶倶矢を選ばせようってとこか?」
「ふっ、やはりそう考えるか。だが、そんなことはせん。なぜなら、そんなことをする必要もなく、魅了されてお主は選ぶのだからな」
士道の指摘に耶倶矢は否定する。そもそも、そんなことをする必要すらないと思っているようだった。
「わかったよ。あっ、ここからは隣のレーンは倒さない方向で、店側も迷惑するだろうし」
「分かっておる。先ほどはお主に我の実力を示しただけだ。では行くぞ。
耶倶矢がボールを手に取ると、レーンに放る。
耶倶矢の手から離れたボールは、地面に着くと謎の高速横回転をしながら、ゆっくりとピンの方に向かって進む。
「これは、一体?」
「まぁ、見ておれ」
あまりに謎過ぎてそう呟くと、耶倶矢がそう返した。
ボールがピンまで届くと、ボールに触れていないのにピンが倒れていき、
やはりストライクだった。
「これも我が技の一つ。ボールの回転で周囲の空気に干渉し、風を起こしてピンを倒す技だ!」
どうやら、耶倶矢は本気で勝ちに来ているらしかった。
~☆~
それから時間が経ち、二人は施設の外を歩いて少し離れた所にある喫茶店に来ていた。
時間が中途半端なこともあり、他に客はいなかった。
ボウリングが終わった後、ビリヤードにダーツ、卓球、ピッチングをした。
「我の予想以上の実力だな、士道よ」
「そっちこそ、なかなかやるな」
ボウリングは耶倶矢の出す技に完敗、ダーツは天使が弓になることからも命中精度が高く耶倶矢が勝ち。
そして、ビリヤードは夕弦との勝負でやったことが無く初めて、卓球は力を入れ過ぎてちょくちょくコート外に飛ばしていたため、士道が勝つことが出来た。
ピッチングは二人とも全部の的に当てて引き分けになった。
「まぁ、我の方が身体能力は上であるだろうし、必然であろうな。それにしてもこのパフェ写真よりも大きいな……」
耶倶矢は力の補給とのことでパフェを食べており、士道はコーヒーを飲んでいた。
しかし、耶倶矢の食べているパフェはDXスペシャルジャンボパフェなるもので、普通のパフェの四、五倍の大きさだった。
「なんで、それ頼んだんだよ?」
「ん?名前に惹かれたー」
耶倶矢はパフェとの格闘に夢中になっており、素で返していた。
そして、そのことに本人は気づいていないようだった。
「なるほどなー。まぁ、確かに名前からしてな……」
「うん、これ食べきるのも大変だねー。あっ、士道食べる?」
耶倶矢はそう言うと、スプーンでパフェの一部を取ると士道の方に持っていく。
「ん?いいのか?では失礼して」
士道はそう言って、スプーンに乗ったパフェに口を近づけ、
「はい、あーん」
口に入れた瞬間、耶倶矢はそう言った。
士道は耶倶矢がそう言った瞬間、思わぬ攻撃に驚くがとりあえず飲み込む。
「このパフェ美味しいな」
「でしょ。……あっ、これって間接キスってやつでしょ?」
耶倶矢はニヤニヤしながらそう言う。
「……わかっててやったのか。じゃ、一つ言っとくけど、素が出てるぞ」
このままでは耶倶矢に主導権を握られそうなので、士道は反撃に出た。
すると、今更気づいたのか、ハッとする。
すると、右手を顔に当てながら、
「ふっ、忘れたのか?これは士道、お主を魅了するのが目的であるぞ。道化を演じたまでだ!」
耶倶矢は気を取り直すようにそう言った。
頬にクリームをつけて。
「ふーん。じゃぁ、頬にクリームをつけているのも道化を演じただけか」
「え?どこどこ」
士道がそう指摘すると、素に戻って顔をペタペタと触る。
「そこじゃないよ。取ってやるから、動くなって」
士道が身を乗り出して、手でクリームを取ると、そのまま舐めた。
「……ありがとね」
耶倶矢は恥ずかしくなったのか、俯いてしおらしくそう言った。
その仕草に士道はドキッとして、二人の間に何とも言えない空気が流れる。
士道はコーヒーを飲んで、落ち着こうとするがもう飲み切っていた。
すると、マスターが士道たちのもとに来ると、何も言わずにコーヒー二つとスプーンを置いた。
「あの、俺たちコーヒー頼んでいないですよ?」
士道がマスターにそう言うと、気にするな、とでも言う様に右手を上げて、そのままカウンターに戻っていった。
「なんだったんだろ?」
「さぁー?」
二人はそう言うと、とりあえずパフェを食べ始めたのだった。
~☆~
士道たちが喫茶店を出ると、空は夕焼けで橙色になっていた。
結局、会計はパフェと元々飲んでいた一杯だけで、後のおかわりはサービスということになった。
そして、ある程度精霊などのことを話したりした。
「ふー、それでまだやるのか?」
「うむ、決着は付けたい……と言いたいところだが、やめておこう。今からもう一勝負したら、辺りが暗くなって夕弦を心配させそうなのでな」
「じゃ、勝者の景品はどうするんだ?無しってことでいいのか?」
「いや、二人とも一つ相手に言うことを聞かせられる、でどうだ?」
「まぁ、耶倶矢がそれでいいなら俺はそれでもいいよ」
そんな感じに話しながら二人は駅に向かって歩いていた。
駅に着くと、士道は疑問を口にした。
「ところで、耶倶矢たちってどこに住んでいるんだ?」
「んと、夜になると隣界ってとこに引き戻されてて、朝になると私たちは再びこっちに戻って来てる感じ」
「そっか、今日は楽しかったよ」
「うん、私も楽しかったよ」
耶倶矢も笑顔でそう返すと、真剣な顔になり、
「ところで士道よ、先の戦いで互いに一つ言うことを聞くということになったが。士道よ。明日、夕弦を選べ」
「はぁ、やっぱりそうなるんだな」
「ん?わかっていたのか。では話が早いな。夕弦は私より素直だし、スタイルもいいし、私よりも可愛いからね。私は夕弦が幸せに暮らしてくれるのが一番の願いだから」
「そうか……ちなみに、俺も耶倶矢に一つ言うことを聞いてもらえるはずだけど、その願いを拒否するのはありか?」
「いや、それはダメだ。他にないのか?」
士道が考える素振りをする。
いくつかあるにはあるが、士道の今ある願いでいちばんのものは受け入れてはもらえないだろうものだった。
「んー、特に思いつかないな」
だから、願いは口にせず保留にする。
「そうか……では、もう一度言うが、夕弦を選んでくれ。そうしないと――」
~☆~
士道と耶倶矢が分かれ、耶倶矢は高台公園に来ていた。
そこには夕弦が待っていて戻りが早かったことで驚いた表情をした。
「疑問。戻ってくるの早いんですね。彼に対して何かしてしまったのですか?もしそうなら、夕弦の勝利が近づきますが」
「ちょっ、なんでそうなるのよ!暗くなったら夕弦が心配すると思ったから、早めに別れて来ただけよ」
「納得。そういうことでしたか」
「それにしても、なんで巻き込んじゃったんだろ?」
「同意。これは私たち二人のことのはずなのに。士道に会った瞬間、別の選択肢がある気がしました」
「だね。でも、そんなはずはない。ただの人間の士道にできたら、私たちはこんな争いなんてしていない。だから、何も変わらないみたいだね。どちらか片方は消えてしまう。まぁ――」
「決定。元から分かっていたことではあります。士道の介入はただの夕弦たちの気まぐれ。遅かれ早かれこの一戦で終わり。しかし――」
「――明日で終わりだね。結果に関わらず」
「――いつまで、もちますかね。せめて、勝負が決着するまではもってほしい所ですが」