デパートが崩落する数分前、士道たちはデパートの一階部分を歩いていた。といっても、このデパートは二階建てと小さめで地下と屋上に駐車場がある程度なので、さして見るところは無かった。
「あ、士道さん、あそこ行ってですか?」
『おっ、いいねぇ。僕もあそこ行きたいかもー』
すると、四糸乃とよしのんがある一点を指差した。
そこは、小さなデパートの割にやたらとスペースがとられたペットコーナーで、二人は言うや否やペットコーナーに走って行ってしまう。
(というか、空間震が起きたのに動物たちは放置かよ。せめて、シェルターに避難させてほしいな)
とりあえず、四糸乃たちを追いかける。四糸乃たちはある動物がいるガラスの前で足を止めていたので、士道は追いつくとその動物を見る。
『士道君、どう?僕と同じだよー』
そこにいた動物はウサギで、よしのんはそんなことを言う。はっきり言えば、よしのんと同じ色のウサギが何匹もいるせいか、もしガラスが無くその中によしのんが入ったら見分けがつく自信がないぐらい似ていた。
「なんか、よしのんがこの中に入ったら、俺分かんない気がする」
『えー、士道君ひどいなー。僕と彼らを見分けるなんて簡単でしょ?』
「ん、まぁ、眼帯してるしな」
「じゃぁ、眼帯外したら、わからないんですか?」
「んー、たぶん分かんないだろうなー」
『えー、士道君ひどいなー』
三人はそんなたわいのないことを言いながら、ウサギやら猫やらを見て回った。
そして、ペットコーナーを出ようとすると、デパートが大きく揺れる。
「わっ。……一体何が?」
「たぶん、ASTが強行してきたな。おそらく、これで脅かして出てくるように仕向けるのが目的だろうけど」
『となると、ここを出ないのが正解なのかな?』
「でも、出てこなければ破壊して突入か何かしてくるかもしれない。……って言ってる間にッ」
「キャッ!」
士道がそう言うと、四糸乃目掛けて、天井の一部が降ってきて、四糸乃を突き飛ばす形で、何とか四糸乃に当たるのだけは避ける。しかし、一部が落下したことで、そのままどんどん天井が落下し始める。四糸乃がいる方は吹き抜けになっており、降ってくるのはガラス系だったので、四糸乃は自身の周囲に氷の結界を張って身を護る。士道は士道で【縛める者】を出して、自身に当たりそうな瓦礫を破壊、降ってくる駐車していた車は回避していく。本当は<絶滅天使>や<灼爛殲鬼>を使いたかったが、火力があり過ぎると二次被害になりかねない(車に引火する)のでやめておいた。しかし、数が数なだけに士道の周囲は瓦礫と車の山があっという間にでき、最後のとどめとばかりに屋上の屋根が降ってきて、士道はその場に閉じ込められてしまう。結果、士道と四糸乃との間を瓦礫で遮られているので完全に分断されてしまった。
「四糸乃、大丈夫か!?」
瓦礫の向こうにいるはずの四糸乃に向かって声を出すが、どうやら瓦礫で声が届かないようだった。
(四糸乃は無事だよな?さて、どうやってここを出るかな?さすがにこの量はきついよなー)
士道は【縛める者】を持ちながら、出られそうな場所を探す。
瓦礫をよじ登って外に出ようとも考えたが、割と足場は悪く上るのも無理そうだった。
『チェーストー!』
すると、士道の背後の瓦礫の向こうからそんな声が響き、瓦礫が凍り付くと同時に砕け散った。そして、そこから<氷結傀儡>の姿のよしのんが現れた。
『ヤッハー、士道君無事?あれ?四糸乃は?』
「いや、四糸乃はこの向こうにいるはずなんだけど、いかんせん出られない。というか車が混ざってるせいで下手に破壊することもできなくて困ってるとこ。ところで、なんでよしのんは四糸乃と離れてるんだ?」
『なるほどねー。あ、僕はあの子たちを護っていたからねー。てっきり、士道君が一緒だと思ってたのに』
よしのんがそう言いつつ、出てきた方に目を向けると、そこには先ほどのペットコーナーにいた動物たちが氷でできたドームに護られていた。
「それは悪かったな。でも、緊急事態だったから、吹き抜けの方に押すのが限界だったな」
『ふーん。そっか、まぁ、あっちはそんなに重い瓦礫も無かったはずだしねー。じゃぁ、そこも凍らせて、四糸乃のもとに行くよー』
よしのんがそう言って、四糸乃がいる方に近づくと、よしのんの口から氷のブレスが放たれて一気に瓦礫が凍結していく。
そして、
『おりゃー!』
凍結した部分に突進して、そのまま吹き抜けの方に消えてしまった。
士道も慌てて追いかけて、瓦礫の山から脱出すると、そこはもう外だった。
そして、視界に広がる光景は、時季外れの大雪に見舞われ、視界いっぱいの銀世界に包まれていた。
『ありゃ?これは四糸乃の身に何か起きてる。むっ!北の方から四糸乃の気配がするよ。』
「そうなのか?まぁ、行ってみるか」
言うと同時によしのんは四糸乃がいるらしい方に走る。
士道もついて行くと、
「ハァ?なんで<ハーミット>がこんな好戦的な訳?」
「……」
突如誰かの声が響き、声のした方を見ると、AST達は一方的な状況に陥っていた。放たれた銃弾や光線は空中で凍結して分解される。そして、攻撃を随意領域でガードするとそのまま随意領域ごと凍結してしまう。
そして、それらをしているのは、四糸乃だった。
表情は暗くというか全く表情が変わらず、目にも一切の光が灯っていなかった。まるで感情を失ったかのようだった。
「一体、四糸乃の身に何が?」
士道が小さく呟くと、四糸乃は腕を振るい、残り一人になっていたASTも随意領域ごと凍らされて無力化された。
『四糸乃、もしかして精神的ストレスで凍結させていた心を開放したっていうの?』
よしのんも訳が分かんないのか、困惑しているようだった。
よしのんの声を聴き、振り返る四糸乃の目には光が灯っていなかったが、よしのんと士道の姿を視認すると、唐突に光を取り戻し満面の笑みを浮かべた。
「あっ、よしのん、士道さん!よかった無事だったんだ!」
今までにないほど元気な四糸乃に二人はやはり困惑な表情をした。そんな二人の様子に気付いていないのか、四糸乃はスキップしながらやって来る。
「士道さん、さっきは助けてくれてありがとねー」
「ん?あぁ、四糸乃も無事みたいで良かったけど……なんかテンション高いな」
「まぁねー。今まで我慢してきたけど、今日は暴れたからねー。今は気分がいいよー」
あの優しかった四糸乃はもういないのか、そんなことを言う。士道がとりあえず四糸乃の無事に安堵すると、四糸乃がハッとした顔をする。
「士道さん、いたるところに傷があるじゃないですか!」
「ん?あぁ、でも大丈夫だよ。ただのかすり傷だし、四糸乃は怪我無いか?」
「はい、全く問題ないですよー。あんな攻撃効きませんからー」
『そんな……あの内気だった四糸乃がここまでなるなんて』
士道は自分についた傷を見るが、ほとんど小さな切り傷だったのでさして気にしなかった。四糸乃も士道が平気そうにしていたこともあって、そんな軽口を叩く。結果、よしのんは衝撃を受けたような表情をしてそう言っていた。
すると、四糸乃は士道たちに背を向けて、何処かに向かって歩き出す。
「四糸乃、どこ行くんだ?」
「んと、せっかくだからね。私の平穏を壊すものを先に潰しておこうかと思ってね」
『四糸乃、本当にいいのかい?それをしたら、四糸乃もASTと同じだよ』
士道は四糸乃の言葉の意味が分からなかったが、よしのんはすぐに理解したようで、士道も四糸乃が何をする気なのか分かった気がした。
「よせ、四糸乃。もう、いいだろ?俺もよしのんも四糸乃も無事だったんだから、これ以上する必要は無いはずだ」
「ううん、これはけじめだよ。今まで、無抵抗だった私を攻撃してきたんだから、逆に攻撃されても文句は言えないはずだよ。それに、ASTは潰しておかなきゃ、他の皆にも攻撃し続けるでしょ?」
『そう……四糸乃はそう決めたんだね。じゃぁ、僕は四糸乃と一緒に行くね。四糸乃を一人にするわけにはいかないから』
よしのんはそう言って四糸乃のもとに行く。
「待ってくれ、よしのん。おまえはそれでいいのか?」
『悪いね、士道君。でも、これは四糸乃の願いなんだよ。だから、僕はそれを叶える』
「ありがと、よしのん」
『うん、僕はずっと四糸乃の味方だよ』
「行こう、よしのん」
『うん、行こうか』
よしのんに四糸乃が乗ると、ASTの駐屯地に行こうと動き出す。対して、士道はその進行方向に遮る形で立つ。そんな士道の行動に疑問顔をする。
「士道さん、そこを退いてください」
「それは無理な相談だな。四糸乃が手を汚そうとしていると分かっていて、目を背けるわけにはいかない」
「でも、目を背けてください。私はやると決めたからにはやります」
『そういうことだから、士道君退いてくれない?』
「嫌だな。何がなんでも行かせる訳にはいかないな」
「そうですか、では……」
『おりゃー』
士道が退く気ないと判断したのか、四糸乃たちの周囲から雪が渦巻き、おそらくは士道を雪で覆って動けなくするのが目的だったのか、士道の周囲を囲むように積み重なり、一瞬で雪のドームが完成し、士道はその中に閉じ込められる。
『ふぅ、とりあえずこれで士道君はもう僕たちの邪魔はできないね』
「うん、怪我もさせないでなんとか出来たね」
士道に一切の怪我をさせることもなく済んだので安堵すると、ドームが唐突に砕け散る。
破壊された際に強い風が吹き、周囲の雪も舞い上がり視界が真っ白になって何も見えなくなっていた。
「え?一体何が起きたの?」
『うわぁ、まさかとは思ってたけどねー』
「ふー、まさか一瞬で閉じ込められるとは思わなかったよ。さてと、とりあえず出ちゃったわけだけど、この先は行かせないぜ」
真っ白な視界の中、声が響き、視界が晴れるとそこには大きな槍【穿つ者】を持った士道が立っていた。
「そうでしたか、士道さんは天使を扱える特殊な人なんですね。これはちょっと大変ですね」
「じゃぁ、諦めてくれると助かるんだけど」
『それこそ無理な相談だよー。ということで、士道君を倒して行かせてもらうねー』
「やっぱりそうなるのか」
『まぁ、このままやってたら、怪我しちゃいそうだしね。こうしようか、四糸乃の背が地面についたらこっちの負け、士道君の背が地面についたら士道君の負けってことで』
「なるほどな」
「じゃぁ、行きますね」
言うと同時に、<氷結傀儡>の口から氷のブレスが放たれる。
士道はダッシュしながら、それを槍で真っ向から突っ込み、そのまま進んでいく。本来ならブレスで槍が凍るところだが、周囲に強風を巻き起こすことで無理やり凍る前に流しているので、槍も士道も凍ってしまうという事態には陥らなかった。
しかし、天使を使い続ければ、そのうち疲労で動けなくなるので短期決戦を狙いたいところだった。
そして、もう少しの所まで来ると、一気に四糸乃のもとに駆ける。おそらくは何を言っても止まらない。だから、まずやることは決まっていた。
<氷結傀儡>の口元まで来ると、ブレスを止めるために槍を突き出す。対して、四糸乃たちはブレスを止めて、バックジャンプで一気に距離を取る。
「まさか、なんのためらいもなく口を狙うなんて……」
「ま、そのブレスは厄介だからな。それに、こうすればブレス攻撃も止むわけだしな」
『士道君もひどいなー。よしのんの口を攻撃しようだなんてー』
どうやら、よしのんは士道に口を狙われたことでそんなことを言って、士道に飛びかかる。
もしもよしのんに乗っかられたら、ただでは済まなかったので士道は慌てて回避する。
『おやー、回避されちゃったよー。やっぱり大ぶりな攻撃は簡単に回避されちゃうかー』
「おい、今のは危なかったぞ。危うく腹と背がくっつくところだった」
「よしのん、ダメだよ。怪我は無しなんだから!」
『いやいや、僕の口が危なかったんだよ!』
「だーめ。怪我無く勝って、AST潰した後は士道さんをおもちゃにするんだから!」
「ちょっと待てー、おもちゃにするってなんだ?おもちゃにするって?」
四糸乃が最後に言った言葉を聞き逃すことが出来ずに、四糸乃に問う。
すると、しまった!みたいな顔をする四糸乃とよしのん。二人は明後日の方向を見る。
「……ナンノコトデスカ?」
『なんのことかなー?』
まるで、さっきの発言など無かったかのように装う二人。
いまいち腑に落ちないが、負ける訳にはいかない気がしたので、明後日の方向を見ているうちに接近する。
(ずるいかもだが、勝負なので仕方ないだろう。それに、負けたら何が起きるか怖いし……)
そして、接近しながら、四糸乃をよしのんから引きはがすために、槍を横薙ぎする。
よしのに当たると思った瞬間、目の前に氷の壁が現れ、槍と衝突し阻まれる。
「士道さん、そんな攻撃は効きませんよ。よしのん反撃だよ」
『ほい来たー』
言うと同時に、士道は氷の壁を蹴って距離を取ると、さっきまで士道がいた地点から氷の柱が飛び出す。
士道が地面に着地すると同時に、移動し氷の追撃を回避していく。
何発か回避していたら、士道は足を滑らせバランスを崩しなんとか体勢を立て直す。しかし、その隙を見逃すわけもなくよしのんが突進をし、士道にクリーンヒットして、そのままデパート(瓦礫と化している)に吹っ飛ばされる。割と近かったことと何度も回避していたことで、ここまで戻ってきていたようだった。瓦礫が積もっていたことで、クッションとなり、切り傷程度とたいした怪我にはならなかったが今の衝撃で【穿つ者】を落とし、足元に落ちていた。
「ふぅ、瓦礫でなんとかなったけど、ビルとかに突っ込んでたらやばかったか。それにしても結構飛ばされたな」
「あれ?瓦礫のせいで地面に背中ついてない。もう、本当はこれで終わるはずだったのにー」
『四糸乃、そろそろこの勝負を終わらせるよ』
そう言って、再びよしのんの口が光り、士道は攻撃を回避しようと立とうとするが、思ったよりダメージがあったのと天使の過度の使用で、うまく立ち上がることが出来なかった。
「あら?動けないんですね。じゃぁ、私の勝ちですね」
四糸乃は勝ちを確信すると、<氷結傀儡>の口からからブレスが放たれる。放たれたブレスは凍らせるというより吹き飛ばすタイプだった。
士道はできることを考えるが、思いつく手段ではどれも間に合わないか、この状況を打破できなかった。
だから、士道は吹き飛ばされないように、【穿つ者】を地面に突き刺した。なんとか吹き飛ばされないで耐え続けるが、どんどん体温が持っていかれる。だんだん体温が持っていかれた士道は徐々に力が弱まり、遂に士道は吹き飛ばされた。
その瞬間、誰かが士道の腕を掴み士道を地面に降ろす。吹き荒れていたブレスも士道に襲い掛からなくなり、冷えていた身体が徐々に暖かくなっていった。
「たく、通信は切れるわ、この天気のせいで居場所はわからなくなるわ、なんなのよ。んで、見つけたらピンチになってるし」
「……琴里!?」
士道の目の前には和装のような霊装を纏い<灼爛殲鬼>を持った琴里が立っており、周囲に炎を放出させて、士道の無事に安堵しながら文句を呟いていた。