というか、この章の時間軸七月なので。
三か月ほど前。
七罪の霊力を封印した前日、<フラクシナス>にあった<ヴァナルガンド>を拝借してきて改造が終わったということで、真那は地下のラボに来ていた。
ラボに着くと、千花はCRユニットの前に座ってパソコンをいじっていた。
「千花さん、私用のCRユニットが完成したって本当ですか?」
「うん、完成したよぉ。一周目と同等以上の性能に仕上げといたから、今後はこれで士道君と精霊達を助けてほしいんだけど、真那ちゃんの身体のことも考えると、出力はそこまで出せないんだよねぇ」
千花は真那が来たことに気付くと顔を上げ、説明を始めた。
しかし、最後の部分は歯切れが悪いというかなんというかな感じだった。
「……そうなんですか。それで、どのくらいまでなら?」
「んとねぇ、平常時は五十ぐらいかな?それ以上は状況にもよるんだけどねぇ」
「五十パーですか……まぁ、普通の魔術師相手ならなんとかなりますかね?」
「うん、たぶんね。一応それ以上は短時間だけなら使っても問題は無いけど、絶対にフルはやっちゃだめだよぉ。真那ちゃんの頭を相当酷使させちゃって、下手したらその後になんらかの障害が出る可能性もあるしぃ」
「了解です、極力五十パーにとどめるようにはしてみます。それで、今すぐにでも運用テストは行けますか?」
真那自身も障害が起きるのは困るので、その辺は留意しようと心に決めると、そう言った。すると、千花もその返答が分かっていたような感じだった。
「あっ、ちょっと待ってねぇ。今エネルギのチャージ中だからぁ」
「そうでしたか、じゃぁ、それまでは上に戻ってますね。まだ、掃除の途中なので」
「うん、お願いねぇ。本当は私がやるべきなんだろうねぇ」
千花がそんなことを言っているが、居候の身としては当たり前だと思っているので、真那はさして気にせずラボを出ようとすると、千花が何かを思い出したかのように声をかけた。
「あぁ、一つ言い忘れていたぁ。もし約束を破ってフル出力した時は――」
~☆~
「<ヴァナルガンド>――フルバースト」
真那は千花に禁じられていた、百パー出力を解放した。
すると、スラスターから魔力があふれて魔力でできた翼が生まれ、左手の武器の砲門から魔力の剣が形成される。
エレンはそんな真那の変化に距離を取って見ていた。
「なるほど、奥の手ですか。しかし、今更ですよ」
「そうでもねーですよ」
真那が重心を前に傾け、エレンも構えると、真那の姿が一瞬で消えてエレンの背後に来た瞬間右手を振るい斬りかかる。
一瞬でそばに来たことにエレンは驚きながらも、なんとか身体を回転させて剣を間に通しガードする。ガードされることはわかっていたので、真那はさして気にすることなく、左手を開いているスペースの腰に向けて振るい、随意領域が張られるが無視して切り裂く。全く壊れる気配の無かった随意領域がいとも簡単に切られ、エレンはなんとか重心をずらして回避を試みるが、腰についていたパーツが切断される。まさかの事態にエレンは動揺するが、すぐに切り替える。
「ほう、先ほどとは段違いですね。これは、私も本気を出した方がよさそうですね」
エレンは真那がさっきとは違うことを念頭に入れると、腰からもう一つデバイスを取り、二刀流になる。
そして、真那に斬りかかると真那も迎え撃つ。
二人はそのまま何度目かの高速でのぶつかり合いになり、剣に銃、随意領域と使えるものすべてを使い、互いに一歩も譲らない。真那の<ヴァナルガンド>の性能がエレンの<ペンドラゴン>の性能を上回ったことで完全に互角になっていた。
しかし、<ヴァナルガンド>を完全解放してから十分経つと、真那の視界が唐突に眩み、慌てて距離を取る。
そんでもって、<ヴァナルガンド>のセーフティーがかかり、魔力の羽と剣が消滅し元の状態に戻る。
「う、もう活動限界でいやがりますか。これ以上の使用はまずいですね」
「そうですか。ではもう終わりにしましょう。貫け、<ロンゴミアント>」
「しまったッ!」
エレンと距離を取ったとはいえ、少しの距離など無いようなものでエレンは背に背負った武器を変形させ、脇の下から砲門が伸ばされ、そこから光線が放たれる。真那は周囲に随意領域を張るが威力が高く、随意領域ごと押し出されて地面に叩き付けられる。砂漠だったことで衝撃は緩和されたが、今の防御でだいぶ魔力を消費し、CRユニットの活動影響で体はだいぶ重く、戦闘の継続は困難だった。
「DEMに戻ってくるというのなら、命は助かるわけですが、どうしますか?私としても、共に戦った者を消すのは嫌なのですけどね」
エレンは真那のそばまで降りてくると、剣を真那に向けながらそんなことを言いだした。しかし、命を奪うことに対して、そんなことを思っているようには見えなかった。
「よくもまぁ、思ってもいねーことを口にできますね。私は戻らねーですよ。戻ったところで、さらに魔力処理を施されるに決まっていやがりますから」
「……そうですか、では私も予定が詰まっているので、さよならですね」
エレンは真那の答えを予期していたようで、表情は一切変えずに剣を振りかぶる。
真那は動くこともできず、剣が真那に触れようとした瞬間、エレンは何かを察知し、真那から距離を取る。すると、今しがたエレンがいた場所に高速で何かが飛んできて地面にぶつかり、衝撃というか風圧で周囲を吹き飛ばす。倒れていた真那も風圧で少し離れた場所に飛ばされる。真那は身体を起こすと、砂煙が晴れたそこには小さなクレーターができており、中心に見覚えのあるスコップが突き刺さっていた。
「ありゃ、外しちゃったぁ?まぁ、真那ちゃんが助かったから結果オーライかなぁ。真那ちゃん、無事だよねぇ」
そして、少し離れた場所から<死之果樹園>を投げ飛ばして真那を助けた千花が真那のもとに走って来る。
真那がゆっくりと身体を起こし、エレンは千花に警戒していた。
「はい、今ので下手したら無事じゃなかったかもですけど、おかげさまで生きていますよ」
「いやぁ、間にあってよかったよぉ。真那ちゃんがフルバーストを使ったから、勝っても活動限界で動けなくなってるはずだから、真那ちゃんを拾いに来たのに、まさかだったよぉ」
「私が使うことはわかっていたんですか?」
「まぁ、相手が相手だからねぇ。だけど、前した約束は守ってもらうよぉ。でも、まずはやるべきことからかなぁ?」
そう言って、千花はエレンを見る。すると、やっと話が終わりましたか、と言うようにエレンは肩をすくめる。
「あなたは<ガーデン>ですね。精霊たちを護る精霊と聞いていましたが、精霊ではない真那まで護るとは意外ですね」
「ん?真那ちゃんは私の妹みたいなものだからねぇ。それで、どうするのぉ?私としては帰ってくれる分には何もしないけどぉ」
「残念ながら、あなたの期待には沿えませんね。私の任務は精霊の捕縛ですから。と言う訳で、あなたを捕縛するとしましょう。一人捕縛すれば、今日はまぁ、引き上げても構いませんよ」
「おや、全員捕縛しなくていいのぉ」
「えぇ、無駄な欲を出せばイレギュラーが発生して、失敗するだけですから」
「ふーん、まぁ私はやりたいこと多いから、捕縛されてあげないけどねぇ。と言う訳でここからは私が相手してあげるよぉ」
千花は<死之果樹園>を地面から引き抜くと千花の周囲が光り、数瞬すると、千花は霊装のメイド服を纏っていた。さっきまでの限定霊装と違い、完全にメイド服だった。と思ったが、限定霊装時についているヘッドドレスは無かった。
「ほう、ずいぶん可愛らしい霊装ですね。<ガーデン>ではなく今後は<メイド>と呼びましょうかね。しかし、それで戦うというんですか?」
「まぁねぇ。なんと驚きの九割で
「九割ですか。舐められたものです、ねッ!」
エレンは一気に千花のもとによると、剣で千花に切りかかる。千花は焦ること無く冷静に<死之果樹園>で受け止める。そして、そのままエレンを押し返すと地を蹴って跳躍する。空中で千花は<死之果樹園>をエレンに向けて振り、エレンも剣で対抗する。
「植物を操る間接系と聞いていましたが、基本能力も高いとはさすが精霊といったところでしょうか」
「間接系ねぇ、なるほどぉ。DEMは私をそう判断していたんだぁ。まぁ、あながち間違ってはいないかなぁ?それで、自称人類最強さんはこの程度なのかなぁ?」
「いえ、まだまだ序の口ですよ。それにしても、植物は使わなくていいのですか?あ、この気候では植物は使えませんでしたか?」
「ん?そもそも、魔術師相手なら植物使う必要性もないんだよねぇ。結局は機械頼りなんでしょぉ?」
そこからは互いに武器で攻撃しながら会話をしていた。
エレンは随意領域やユニットの砲門も使うが、千花は随意領域を紙の如く切り裂き、砲撃は回避していくため、千花の方が優勢だった。
「口先だけではないようですね。しかし、随意領域をこうも簡単に切り裂かれるのは何故でしょうか?<プリンセス>程の攻撃力は無いはずですが……」
「それを答えてあげる理由は無いよねぇ。敵に塩を送る必要も無いしぃ。それとも最強なのに敵に聞いちゃうのぉ?」
エレンはこうも簡単に随意領域を破られることに疑問を持って口にするも、千花はそれを答える気は無かった。
千花は士道たちが行った方と真那を見ると、エレンの方を見て<死之果樹園>をホームラン宣言するようにエレンに向ける。
「じゃぁ、そろそろ終わりにするかなぁ。向こうももう終わりそうだし、真那ちゃんの応急処置もしなきゃだしぃ」
「言ってくれますね。私が負けるとでも?私は最強なんですよ」
「うん、自称人類最強(笑)でしょぉ?それに、さっきも言ったけど、今の私に魔術師は勝てないよぉ」
「自称でなく事実ですよ。それにしても、魔術師は勝てないとは傲慢ですね。では私が勝ってみせましょう」
エレンは千花に自称人類最強(笑)と言われた時ムッとして、怒りをあらわにしていた。しかし、すぐに表情を戻し、千花が傲慢だと言いだした。
真那的には、エレンの態度の方が傲慢だろう、と思うが口にはしなかった。
千花がエレンに接近すると攻撃をし、随意領域でガードしようとするが、やはり<死之果樹園>によって簡単に切り裂かれる。エレンはそこに二刀の剣も重ねてガードするが遂には二刀の剣すらも紙のように切り裂かれ、エレンの装備の一部が壊される。
「なッ!剣すらも壊された!?こうなれば、<ロンゴミアント>」
エレンはスラスターを一気に噴かせて、千花から距離を取ると、再び<ロンゴミアント>を放つ。千花は地面に着地すると、<死之果樹園>をやり投げのように持ち、
「おりゃぁ!」
エレンに向けて投擲した。
<死之果樹園>はやたらと速い速度で飛んで行き、放たれた<ロンゴミアント>に突っ込む。すると、<ロンゴミアント>を中心から割りながら一切の速度低下もなくどんどん進んでいく。
そして、エレンの砲門を貫く。エレンは砲門を切り離し、移動すると切り離された砲門が爆発する。
飛んで行った<死之果樹園>は近くの地面に落下し、やはりクレーターを作っていた。
「まさか、<ロンゴミアント>を貫くとは……。つまり、随意領域もただの力任せに切られただけでしたか」
「ん?……あぁ、まぁそんな所だねぇ。で、どうするのぉ?見た感じ、武器はもうなさそうだけど……もしかして、まだ武器あったりするぅ?なければ帰ってくれるとありがたいんだけどぉ」
「いえ、残念ながらまだ武器はありますよ。しかし、武器が無いのはあなたでは?」
エレンは千花の力が強いだけと判断し、最後の一つになったデバイスを手に取り魔力で剣を形成し、未だに地面に突き刺さっている<死之果樹園>を見ながらそう問う。しかし、千花はそんなこと関係ないとばかりに余裕そうにしていた。
「たしかに、あそこから回収しないとだけど、ここで引いてくれたりしないのぉ?今なら、まだ相手が精霊だったからって言い訳もできるけどぉ」
「武器も無しに、何を言っているのか分かりませんけど?それとも、天使を瞬間ワープで回収とかできるのですか?」
「あ、それいいねぇ。まぁ、そんなことできないけどぉ。とりあえず、退却はしてくれないんだねぇ?」
「えぇ、あなたを捕縛する絶好のチャンスですからね」
「あ、そう。じゃぁ、もう終わりだねぇ」
千花はエレンが引く気がないことを確認すると、仕方ないとばかりに、残念そうな顔をする。で、ポケットから刀の柄を出す。
それは、エレンが手にしているものと同じ、魔力で形成する剣のデバイスだった。
エレンはそれを見ると、即座にそう判断し、千花に向かって剣を振るう。
千花は刀の柄から片刃の刀身を形成すると、それで剣をいなし、エレンの身体を蹴り飛ばす。蹴りはエレンの腹に張られた随意領域に当たり、エレンはそのまま吹っ飛ばされるがなんとか致命傷にはならなかった。
そして、空中で体勢を整え、もう一度攻撃をしようと顔を上げると、目の前に刀身が迫っていた。
それも、千花は一切その場を動いておらず、ただエレンのいる場所まで伸ばした刀身の横薙ぎが。
「じゃぁねぇ、人類最強さん」
次回はいつも通り投稿予定です。