カウント7
「二亜、このスケジュール無理し過ぎだろ」
「いや、何とかなるはずだよーあたしは信じてる!」
二亜のアシスタントになり、とりあえず作業部屋に行き何をするのか確認すると、士道は提示された内容に困惑を隠せなかった。しかし、二亜は問題ないと余裕そうで、七罪に関しては早速作業に取り掛かっていて、集中しているために聞こえていなかった。ちなみに七罪は今、シルブレの背景を描いていて、二亜は腕を組んで考え込んでいた。
「やっぱり無茶かな?でも、シルブレ休刊する前の最後のコミコじゃ、一週間で一冊描いて、無事二冊出せたよ。だから、行けると思ったんだけど……」
「でも、さすがに一週間で同人誌二冊とシルブレは厳しいだろ。俺と七罪は一応素人だぞ」
士道は困惑の原因を二亜に言うが、たぶん言っても無駄な気がしていた。
「へーき、へーき。なんとかなるでしょ?ま、一冊描いて、残りの日数で二冊目行くか決めるよ。……できれば二冊行きたいけどね」
二亜は軽い感じでそう言い、最後の方は若干暗い顔をしていたがすぐに表情を戻した。士道はその表情を見逃さず見てしまい、なんだか悪いことを言ってしまった気がした。
「二亜、ごめん。そうだよな、やる前からそんなんじゃ、終わるものも終わらないよな」
「ん?なんか、少年が急にやる気になったし。この一瞬に何が起きた?ま、いっか。じゃ、そろそろ始めるかな」
「そうしよう。で、何をすればいいんだ?」
二亜はキョトンとして、士道を見ると勝手に自己完結して納得する。結果的に士気が上がったからいっかと、士道は思うと、
「よし、このページの背景できた……あれ?二人とも早く始めないと終わらないわよ?」
今まで、一切話に入らず、集中していた七罪は無事描いていたページを描き終えたことで顔を上げると、まだ何もしていない二人に対して首を傾げたのだった。
~☆~
カウント4
二亜のアシスタントになって、三日が経った水曜日。
士道と七罪は毎日二亜のもとに来ていて、漫画描きをしていた。
結果的に、二亜の考えた同人誌の一冊目はもうすぐ描き終わり、二冊目の同人誌に入っていて、今のところは予定通りに進んでいた。
「しょうねーん、(同人誌の頼んだページの)ベタ塗り終わったー?」
「んと、もうちょいだな」
「りょうかーい。なっつんは?」
「もうちょいで(頼まれてたシルブレの)背景ができるはずー」
七罪は二亜がほとんど描いたシルブレの背景描きをやっており、顔を上げずに返事をしていた。
「二亜さん、ゴムかけ終わりましたよ。次は何をすれば?」
「あんがとー。よっしー、これのベタお願い」
「分かりました、やっちゃいますね」
四糸乃は二亜にそう言って、原稿を渡して次の原稿を受け取る。
朝士道が七罪のもとに行ったら、四糸乃も一緒に精霊荘から出て来て、四糸乃も二亜と面識があったらしく、手伝ってくれるとのことでここにいる。会ったのは四糸乃の霊力を封印した後で士道たちに秘密で七罪と来たらしかった。時々しか来れないのは、このマンションが動物NGだったからとのこと。今日は安静の為、暇してる真那のもとによしのんを置いてきたらしい。
「ところで今更だけどこの作業室、なんで机が四個あるんだ?たしか、アシスタントって雇ったこと無いんだよな?」
朝からぶっ通しでやっていたので、士道は今やっていたベタ塗りを終えると一息つき、作業部屋を見回す。
作業部屋には四つの作業机が中心にあり、どの机の引き出しには道具がぎっしり入っている。そんで壁には二次元の男性キャラのポスターが貼ってあった。
ここ数日で雑談してる時に聞いた話だと、アシスタントを雇ったことが無かったと聞いていたので、そんな疑問を口にすると、二亜は作業をしながら返答をする。
「んと、始めた頃はアシスタントを雇おうと思って準備したんだけど、いざ雇おうと思ったら面倒になった結果」
「……それでいいのか?一人の方が大変そうだけど」
「割と、自分のやりたいようにできるから楽だよ」
「それでいいんですか?この量を一人でやるって……」
そんな答えを聞き、若干呆れながら、本人がいいならいっかと思い、士道は作業に戻る。
四糸乃は机に広げられている原稿の量から、困惑の表情を浮かべていた。
~☆~
カウント2
作業部屋は皆集中してるため、ペンの音以外はしない静かな空間となっていた。今は夕方で、そろそろ家に戻って夕食を作らないといけない時間が迫っていた。
「なっつん、少年、進捗状況はー?」
「あともう少しで上がるはずー」
「こっちもあとちょいだな。ところで印刷所にはいつまでに出すんだ?」
「んと、明日の夜七時ー。それ以降は印刷してから会場まで持って行くのが厳しくなるはず」
話すことも進捗確認や、二亜に作業で分かんないとこを聞くぐらいだけ。それだけ集中しているということもあって、残り日数が一日半の段階で残りページが十数ページ程度まで来ていた。このままのペースだとギリギリ終えることが出来るだろうと三人は思っていた。四糸乃は夕弦たちと出かける予定があったらしく、三人で作業を行っている。
すると、七罪が作業の手を止め、聞きづらそうに二亜にあることを聞いた。
「ところで、会場のスペースに置くポップとかポスターって作んなくていいの?」
「あ、忘れてた。今のペースだと、描き終って印刷所に持って行った後でもなんとかなるとは思うけど……」
「けど?」
歯切れの悪い二亜に、士道は疑問を持つと、
「それをすると、たぶん当日私は眠くて寝ちゃう気がする」
「……」
「……」
二亜がボケてきたので、二人して冷ややかな目で見ると、二亜は両手を上げて降参のポーズをとる。
「冗談だよ、冗談。でも、こういう話をすると何か起きるって相場が決まってるじゃん」
「いや、漫画とかじゃないんだか――」
プルルルル
「あ、ごめん。あたしの電話だ。……はい、もしもし、本条です」
士道が否定しようとすると、二亜の携帯が鳴り、二亜は電話を取り通話をする。
「はい……はい……あ、そうですか。はい、わかりました。何とかしてみますね。……はい、では」
終始、二亜は話を聞いているだけだが、表情から良い話では無いようだった。だから、士道と七罪はとてつもない嫌な予感に襲われた。二亜が通話を切ると、やはり言いづらそうな表情をする。
「で、何があったんだ?」
「うん、頼んでいた印刷所の印刷機が半数寿命なのか壊れたってさ」
「それって……」
「うん、印刷速度が低下するから、明日の昼の二時までに持って行かないと間に合わなくなった。その代わりに印刷料が半額になったぜ!」
二亜は親指を立てて、印刷量が半額になったことを喜んでいるが、重大な問題があった。ただでさえ終わるのがギリギリなのに、時間が五時間も早まったことで、間に合わない可能性が高まっていた。
「どうするんだ?このままだと間に合わないぞ。それともページ数減らすのか?俺たちはそろそろ家に戻んないとだけど……」
「うーん、困った。明日二人が来るのが今日と同じで昼前だと絶対間に合わない。せめて五時間早く来てもらうか……あ、そうだ。このまま二人には泊まってもらえばワンチャンあるかも。二人とも無理?」
「いや、士道の発言聞いてた?たぶん私は連絡すればなんとかなると思うけど、士道は……」
二亜の突発的な提案に困惑する。士道としても、問題ないならいいが、琴里の夕飯が無い状態になってしまう。なんとかする手がないことには無いが。
「ちょっと、連絡を入れてみる。もしかしたらなんとかなるかもだけど、いいのか?男である俺を泊めちゃって。……その、色々あるだろ?」
「なになに、少年一体何考えちゃったのー。お姉さんに教えなさーい」
士道が泊まっていいのか心配すると、二亜は茶化してきたので、士道は問題ないなと思ったのだった。
~☆~
カウント1
結局あの後、琴里に連絡したら、外で食べてくると言っていて、七罪の方も問題は無く、二亜の部屋に泊まることが可能となった。その後、二亜の部屋で夕食を作って三人で食べ、食べ終えると漫画を描いていった。本来なら夜中は寝ても問題無いスケジュールになったが、三人とも眠気が来なかったのでそのまま描き、今は午前三時になっていた。
「……むにゃ」
七罪は数十分前からウトウトし始め、遂に眠気に負けて寝落ちしていた。士道としても若干眠く、そろそろ仮眠を取りたかったりしていた。
すると、二亜が大きく伸びをして、士道の方を見る。
「んー、なっつん寝ちゃったし、あたしたちもちょっと仮眠取ろうかな。少年はどうする?」
「じゃ、きりもいいし、俺もちょっと寝るかな」
言って、さすがに机に突っ伏して寝たら身体に悪そうだからと、士道は七罪を抱えて寝室に連れて行く。七罪をベッドに寝かせると、寝室を出て、作業室に戻る。
二亜は出たゴミをゴミ箱に入れ、多少机の上を綺麗にしていた。士道が戻って来たことに気付くと、
「ところで少年はどこで寝るー?さすがにあたしのベッドに三人はきついけど」
「いや、さすがにそこじゃ寝ないよ。てか、そこじゃ寝れる気がしない。てことで、リビングのソファーで寝るよ。結構柔らかそうだから身体を痛める心配も無さそうだし」
「りょうかーい。でも、いいの?女の子と一緒に寝れるチャンスなんて……あ、私たちが寝た後に夜這いをかける気か!」
二亜は手をポンッと置き勝手に納得する。この一週間で二亜はそう言うネタに走る傾向があることはわかっていた。
「別に夜這いをかけるとかじゃないよ。可愛い女子二人と一緒に寝たらドキドキして寝れないって話だよ」
取りあえず、二亜の発言を否定しておくが、寝ぼけていたせいで妙なことを言ったと、言ってから失言な気がした。これじゃまた二亜に茶化される気がした。
しかし、二亜は顔を薄っすら赤らめており、
「え、可愛い?」
といった感じになっていた。どうやら、二亜はそういうのに免疫が無かったようだった。
「じゃぁ、眠いから寝るかな。おやすみー」
「あ、うん。おやすみ」
士道は茶化される前に作業部屋を出ると、リビングに行ってソファーに横になる。
想像以上に疲れていたらしく、横になってすぐに眠りに落ちた。
~☆~
カウント0.5
「少年ー、スキャナーでのデータ化間に合いそう?」
「あぁ、残り数枚だから平気だ。それより二亜たちの方は大丈夫なのか?」
「こっちも平気ー。さすがに睡眠時間がいつもより少ないせいで眠くはなっているけど」
「終わったら寝ていいからもうちょい頑張ってー」
十二時を回り、無事同人誌の執筆は終わり、士道はそれらのデータ化、二亜と七罪はポップやらポスターの制作に取り掛かっていた。
士道が全てのページを全てデータ化し、二亜に終わったことを伝えるとそれをメールに同封し印刷所に送る。
「原稿を印刷所に送るのってそんな送り方でいいのか?てっきり紙の状態かデータ化したあとでUSBに入れて直接持ってくのかと思ってた」
「私も最初はそう思ってたけど、二亜の場合は極力外に出ず、人と会わずに過ごしたいんだって。印刷所の人と顔馴染みらしいし」
「そうそう、それに、直接持って行くの面倒だし、いつも終わった時って徹夜した後だからグロッキー状態だしね」
二亜の説明で士道は納得し、もしそんな状態で外に出たらまた道端に倒れていそうだと思った。まぁ、そんなこと言わないが。
とりあえず、士道は何かすることが無いかと、二人の手伝いをするのだった。
~~~~
数時間後。
~~~~
「さて、ポップとか完成したし、これで準備は終わりだー」
机にはついさっき描き上げたポスターがあり、二亜はそう言いながら両手を上げて、準備が終わったことを喜ぶ。
「ふぅ、やっと終わった。とりあえず寝たい」
「だな、なんかすんごい疲れた」
七罪は机に突っ伏して、士道は背もたれに寄りかかり、疲れた表情をする。
すると、
「よし、ちょうどいい時間だし、どっか食べに行かない?それとも少年、今から何か作ってくれるー?」
二亜は道具の片づけをしながらそう問い、士道に無茶ぶりをする。
「別に作るのは構わないけど、食材あるのか?」
「あ、食材切らしてる……」
対して、士道はそう問い返すと、二亜はキッチンを見て、食材を切らしてることに気付く。
突っ伏していた七罪が顔を上げると、呆れ顔をする。
「食材内の忘れてたんだ……もう、外でいいんじゃない?今から食材買いに行ったらいつになるかわからないし……」
「まぁ、そうだな。一応琴里には今日も遅くなるって言ってあるし」
「りょうかーい。じゃ、行こっか」
そう言って三人は、マンションを出たのだった。
行った店は、何故だか二亜がもうプッシュした、万由里の時に十香と行ったあのカレー屋だった。
なんで、ここにしたのか聞くと
「カツカレーを食べて、暑さと明日のイベントで華麗(カレー)に勝つ(カツ)!」
とのことだった。