「京都着いたぁー」
「昨日も言ってなかったか?」
「うむ、言っておったな」
「同意。言っていましたね」
「まぁ、千花だから」
修学旅行二日目、京都駅に降り立ち千花は昨日同様そんなことを言った。
ちなみにこれが本日の自由時間での行動するパーティー。士道は一対四という比率で、周囲からの視線が集まり肩身を狭くしていた。
殿町たちは他の男子たちと共に行った。この自由時間は他のクラスとも組めるので。
「さて、予定ではまず金閣寺から」
「そうだな、時間は有限であるが故に、早く行くとしようか」
「催促。早く行きましょう」
周りの生徒たちもだいぶ駅を出たようで、三人は催促し、歩き出す。
耶倶矢が言ったように時間は限られているので、士道も足を踏み出すが、すぐに足を止めた。何故か辺りをキョロキョロしている千花が歩き出さないから。
「千花、どうかしたのか?」
「ん、なんでもないよぉ。初めてくる場所だから、見回してただけぇ。それじゃ、行こぉ」
千花は気を取り直してそう言うと、二人が来ないから足を止めている三人の方に歩き出す。千花はもう一度振り向いてから歩き出した。
「さぁて、今日のデートは大変そうだねぇ。そんでもってお預けかぁー」
~☆~
「で、四人とはぐれたのか?そんな今日この頃……いや、置いていかれたのか……」
『残念ですけど、四人は今金閣寺でエンジョイしてますね』
士道は京都駅の前に立って、ため息をつく。耳に付けているインカムからは鞠亜が現状を伝える。
本来なら、はぐれるようなことは無いはずだった。士道が駅を出る前に手洗いに行った後だった。手洗いから出てくると、何故だか四人の姿が無く、辺りを探すも見つかることは無かった。電話をするが、何故か四人とも繋がらず、士道は何かあったのでは?と思うと一通のメールが来た。
『“私たちはちょいと外すけど、決してDEMが来たとかじゃないから。そう、士道君が肩身を狭そうにしてたから、四人で行くことにしましたぁ。では、武運を!(`・ω・´)ゞ”とのことですよ』
千花から来たメールを鞠亜が読むが、それは謎そのもの。
(確かに肩身は狭かったけど、勝手に行かなくても……。そして、武運ってなんのことだ?)
そして今に至り、士道はもう一度ため息をつく。
「はぁー」
『はぁー』
「はぁー」
何故かもう一つため息が聞こえてきた。士道は顔を上げ、そこに目を向けると、
「むっ、お主は」
「ん?」
そこには、白のワンピースを着た十香が、携帯を片手にため息をつき、士道に気付いたようだった。
まさかの昨日の今日での遭遇に、士道は気持ちの準備をしていなかったために行動に困った。
とりあえず、間を持たすために声を掛ける。
「んと、昨日ぶりだな。今日は京都観光か?」
「お主に話す意味は無いが、そうであるな」
「てか、何かあったのか?ため息ついてたみたいだけど」
「それを言う必要は無いな。それにお主こそため息をついていただろう」
昨日のことがあるが故か、一応返事は返してくるが、素っ気無い感じだった。士道としてもなんとなくそうなって仕方ないと思うから割り切るが、とりあえず即拒絶はされなかったので安堵する。
「で、士道は何があったのだ?」
「んと、一緒に居たメンバーに置いて行かれた」
「……愛想つかれたのか?」
「いや、一応連絡は取れたし、そんなことは無いよ」
「はっきりと言い切るんだな。昨日はあんなに曖昧だったのに。一体何があったのかは気になるが、まぁいいだろう」
士道の表情が昨日と完全に違うことを確認すると、十香は一息つく。
「それで、士道。まだ私の霊力を封印したいと言うのか?」
「あぁ、ここであったのも何かの縁だしな」
「しかし、私はお主を信用してないぞ。<ラタトスク>とやらを信用していないのに属しているようなお主は」
「そうだな、だから俺もちゃんと話すよ」
士道は予想していたような返しが十香から来たので、十香の瞳を見て言葉を紡ぐ。昨日千花と話して自分の気持ちを固めた士道の言葉を。
「まず、一つ謝っておくよ」
「ん?謝ること……偽善だと認めるのか?」
「いや、そっちじゃない。俺も勘違いしてたんだが、俺、<ラタトスク>とはそんなに関係なかった」
「ん?どういうことだ?」
士道は軽い調子でそう言うと、士道の言っていることがどうにも掴みかねているようで、十香は首を傾げる。
「<ラタトスク>の中の本当に精霊を救いたいって思っているところとしか協力してないってのが実情だな。というか幹部的な人が五人いるらしいんだけど、俺はそのうちの二人にしか会っていないんだ。協力してんのも<フラクシナス>っていう空中艦にいるメンバーだけだし」
「ふむ、つまり<ラタトスク>であって<ラタトスク>に所属していないっていうのか?」
「俺的にはそういうことだな。さすがに会ったこと無い人は信用できないし、向こうが何か言っても無視する予定だな」
士道はありのまま話す。十香は勘が鋭い方だろうから、下手な言い訳や嘘は信用してもらえなくなるので。
「なるほど、ちなみにその三人が強硬策に出て精霊で実験しようとしたら、どうするのだ?」
「全力で皆を護る。その為なら皆の力も借りる」
士道は即答する。士道としては皆が大事だから。だからこそ迷いもない。しかし、士道一人でなんとかできると驕ってもいないから、場合によっては皆の手も借りるかもしれない。できれば一人で済ませられるのが一番だとは思っていたりするが。
「まさかの即答か。同じ人間よりもバケモノである精霊を選ぶのか?」
「精霊はバケモノじゃないよ。ただ普通じゃない力を得てしまっただけの女の子だよ。だから、どっちを護りたいか考えただけだ」
「……どうやら本心のようだな。それで、話を戻すが士道が会ったというその二人は信用に足る人間なのか?」
「あぁ、一人は俺の妹で精霊だ。で、もう一人は丸腰で昨日会いに来たよ。そして、<ラタトスク>を作った理由を教えてくれた。あっ、本当に保護することが目的だったよ」
「ほう、なるほどな……」
十香は顎に手を当てて、自身の考えをまとめているようで、士道は急かさず待つことにする。その間に士道も考える。これからどうするか。千花たちはどこか行ってしまったから合流は無理。というか、ただの想像だが士道の脳裏によぎっていた。
(千花、十香が近くにいるの知ってたんだよな?そう考えれば駅での行動も十香を見かけたってとこか。で、こうなることを予想して、俺を一人にさせたのか?)
「さて、士道。私の気も変わった。生憎連れもお主と同じく何処かに行ってしまったのでな」
士道がそんな思考をしていると、十香は考えがまとまったのか顎から手を離すとそう言った。昨日会った時も言っていた連れが気になったりした。
「ん?それって昨日待ち合わせしていたって人なのか?というか誰か気になるな。精霊の十香と一緒に居るあたりが謎だし」
「ふ、それは教えてやれんな。まぁ、行き先はなんとなくわかっているが、邪魔すると後が面倒だからやめておくとしよう。一つ言えるのは、猫は私の敵のようだ」
「……なるほどなぁ、何か苦労してるんだな。その連れは野良猫のように自由にしてるのはなんとなくわかったよ」
十香の連れについては教えてはもらえそうにないので、士道は諦めて別の話題を振ることにする。
「それで、どんな感じに気が変わったんだ?」
「あぁ、そうであったな。お主は修学旅行中なのだよな?」
「あぁ、それがどうしたんだ?昼の五時までに宿泊する宿に戻れれば問題は無いけど」
士道は腕時計で時刻を確認し、宿に戻る時刻を思い出して口にする。士道の反応に、十香はため息をつく。
「見透かされているような感覚だな。まぁ、いい。ではその刻限まで私に付き合ってもらうとしよう。それで、お主という人間を見極めさせてもらおう」
「つまり……デートか?」
「あぁ、デェトだ。お主が信用に足ると判断できたのなら、私は霊力を封印することに同意する。まぁ、どんな方法なのか知らないから気になるがな」
「俺が言うのもどうかと思うけど、いいのか?」
「いいのだよ、信用できるのならな。しかし、もし信用に足らないと判断したら……」
「判断したら?」
「まぁ、秘密だ。それとも信用に足らない人間だと自分で思っているのか?まぁ、ただの偽善者なのだから自信は無いだろうか?」
十香は士道に挑発的視線を向ける。明らかに挑発されてるなぁー、とか思い、そんな安易な挑発に士道は乗らないのだが、
『士道、あんなこと言われてるんですから受けて立ちましょう!そうです、これは戦いなんです!』
今まで静かに二人の会話を聞いていた鞠亜が挑発に乗ってしまい、インカムから騒いでいた。士道がばかにされたことに腹を立てているようで、声だけでなんとなくわかった。それに、鞠亜にここまで言われたら士道としても引き下がるわけにはいかない。信じてくれている鞠亜の為にも、士道が救いたいと思う十香の為にも。
「まぁ、俺はそんなこと思ってないから、十香の誘いに乗るよ。そして、十香に信じてもらう」
「いい返事だな。では行くとしようか。が、その前に連絡を一応入れておくとするか。気まますぎるのも玉にキズだな」
十香は携帯を操作して、何処かに居る連れにメールを送る。送信から一分もしないうちに返信が来たようだった。
十香はその文面を見て、何故かため息をつくと、携帯をポケットにしまい、士道の方に向き直る。
「何があったんだ?文面を見るなりため息なんてついて」
「いや、気にするな。想像した通りの返信だっただけだ。では、行くぞ、士道よ」
「文面が気になるけど、まぁいいか。それで行くってどこに行くんだ?」
十香と何処かに行くことが決定したのはいいが、どこに行くつもりなのかわからなかった。そして、他の生徒に見られると面倒そうだとも思ったりした。
「そうだな、まずはあれからだな」
十香が指差したのは喫茶店だった。時間的にはまだ昼の時間では無いので、何故?と思う。
「まずは、喫茶店からなのか?」
「ん?いや、そこではない」
「ん?」
「さらに向こう。そう、金閣寺だ!」
~☆~
「士織よ、もっと早く歩かぬか!時間が限られているのはお主だろう」
「いや、どんな強行スケジュールだよこれ!そして、この格好歩きにくいんだが!」
一歩前を歩く十香が士道の方に顔を向けて文句を言い、それに対して今の状況に文句を言う。
金閣寺に着き見て回った後、次は銀閣寺だ!とか言って移動し、見終わると二条城、映画村と回って行った。金閣寺に居ると思われた四人は着いた時には他の場所に行ってようで遭遇することは無かった。バスやら電車やらを駆使して最小限の時間で移動しなければならず、鞠亜のサポートがあることでなんとかなっているが、士道は一番の問題点を上げる。
「なんで女装しなくちゃいけないんだよ!」
「何とは、お主が誰かに見られて変な噂が立つのが嫌だと言ったのだろう。その結果だ!それに女装ではないだろう」
「……いや、確かに女装ではないけど」
士道、訂正士織は自身の格好を見てそう言う。
金閣寺に行こうとした直後、同級生が歩いているのを見かけ士道が隠れたのが始まりだった。その結果、やはり何かあるのでは?と十香に勘ぐられてなんで隠れたのか問われた。士道は知らない人物と一緒に居るのを見られ、変に勘ぐられると後で面倒そうな気がしたからと話した。十香はそれで邪魔されたりしたら面倒だと同意し、士道の腕を掴むと近くにあった一件の店に向かって歩き出した。そして、あれよあれよという感じで、女装させられた。こうすれば、士道だとばれることは無いだろうとの判断だった。そして、士道が一番傷付いたのは、士織モードを見た十香の反応だった。
「そのなんというか……もう士織でずっといないか?それぐらい似合っているのだが……」
士織の姿が十香の想像以上に似合っていた為か、男であることを否定されるという最悪の事態。何故か士道が天使で女に変身できることを知っていたせいで渋々(本当にやりたくないが)士織になり、いつも着せられる来禅の制服ではなく、近くにあった洋服店で見た服を着ていた。で、士織を見た十香は、何故か頬を赤らめていた。まるで、士織の姿にドキドキしているかのような。
「十香は女子が好きな百合属性なのか?」
士道は自分だけ恥ずかしい目にあうのは許容できないから、十香を慌てさせようと軽い気持ちでそんな問いをする。すると、十香はハッとした表情をする。士道は思っていた以上の反応に、よし!と思うのだが、ここで悲劇が起きた。
「……何故、それ、を……」
「へ?」
「誰にもそのことは言っていないというのに……」
十香の秘密を当ててしまうという、今の状況では非常にまずいことが。ただでさえ士道に警戒しているのに、秘密を暴けば逆鱗に触れてしまうことにもなりかねない。
「ふふふふふふふ」
十香は俯きながら、肩を震わせる。士道は、やらかしたー、と心の中で叫び、どうすればいいか悩んだ。しかし、いい手が一切思いつかない。
そして、十香は顔をガバッと上げると、何故か怒っているような表情ではなかった。
「ふふっ。よくぞ私の秘密を暴いたな!」
「あれ?なんか想像していた展開じゃなかった。てっきり、秘密がばれて怒るのかと思ってた」
「何故私が怒る必要があるのだ?別にいいだろう?それに、私の秘密に気付くぐらい私を見ていただけのことだろう」
十香はばれたことに対してあっけらかんとしていて、士道は一気に張りつめていた緊張がほどけて脱力した。十香自身別にどうしても隠しておきたい秘密ではないようで、さして気にしていないようだった。
「まぁ、冗談だ。別に私は百合ではないからな。しかし、士道が私を信用させれなかったら、
「え?なにそれ……結局百合なのか?違うのか?それと、開き直って、何かとんでもない事言い出したし」
「仕方のないことだ。面白そうなことになりそうだからな。言わなきゃよかったと後悔するか?」
十香は口角をニッとあげる。十香が何を考えてるのか分からないが、面白がっているようだった。
「では、行くとしようか。何度も言うが時間は有限だしな」
「この格好で本当に行くのか?」
「嫌ならいいのだが?その場合はお主の負けということになるが」
「……はぁ、分かったよ。この状態で行くよ」
士道は渋々という感じでそう言って、二人は歩き出したのだった。
~☆~
その頃千花は、
「あれぇ?皆どこ行ったぁ?あっ、面白そうなとこ、はっけーん。入ってみーよぉ」
三人とはぐれ、偶然発見したネコ型の看板の喫茶店に突撃していた。
何度目かの士織登場。まぁ、そういうことです。
あと、十香は百合にはなっていません。冗談を言っただけです。たぶん。面白い方向に進めたいだけです。たぶん。
あと、クリスマスの番外編は昼頃にでも出しますね~。たぶん。