街にやってきた士道と六喰は、まず洋服店に来ていた。六喰の霊装は普通に出歩くにはちょっと露出があり過ぎたので目立つのと、霊力を感知されかねないので普通の服を買うのが目的だった。
一応士道の部屋から出る際にスマホと財布は持って来たので、出歩くのには問題が無かった。
「さてと、六喰。この中から好きなのを選んでくれ。六喰が着るわけだし、六喰の好みは分からないからな」
「ふむん……服がいっぱいなのじゃ。主様、主様。本当にどれでもいいのか?」
「ああ、問題ないよ」
六喰は初めて洋服店に来たかのような反応で、何故か目を輝かせて見回していた。おそらくは、精霊だから服は買う必要も無く、霊力を編めば済んだからだと判断した。街自体初めて説もあったが、本を読んでいたと言っていたことからも書店に入ったことはあるので、その説は否定する。
そして、六喰は服を手に取って見て行き、士道も六喰に似合いそうな服がないか見ていると、六喰は何処からかいい感じの服を見つけて来たようで、身体の前に当てて士道に問う。
「主様、これはどうじゃ?」
「……んと、なんでメイド服を選んだんだ?似合いそうだけど、もう少し普通な服にしてくれ。というか、どこにあったんだよ?」
「わかったのじゃ。ならばもう少し探してみるのじゃ」
何故かメイド服を手に取った六喰はメイド服を戻しに行くと、別の服を手に取り、士道に聞くと士道はそれに対して答えるのを繰り返していった。
しかし、六喰が手に取る服は、メイドやナースといったコスプレ系の物ばかりだった。なんで?と思ったら、六喰が見に行くところはそういう服が集まったコーナーだった。
普通な服があるコーナーに六喰を連れて行くと、六喰は若干不満げな表情をしながらも、服を手に取っては戻していく。
「なぁ、六喰。これはどうだ?」
服選びに悩んでいるようなので、士道は何着か服を手に取り六喰に聞いてみる。
すると、六喰は士道の選んだ服の中から、白のブラウスと紺のロングスカートを手に取り、そのまま試着室に入って行った。
試着しているその間に、服を戻していると着替え終わったのか六喰が出てくる。
六喰の格好は似合っていて、サイズもぴったりなようだった。
「主様、似合っておるか?」
「ああ、似合っているし、可愛いよ」
「むん、ふふん。なら、これにするのじゃ」
士道の返答がお気に召したのか、六喰は上機嫌になると、そのまま試着室から出てきた。
「ん?それでいいのか?」
「これがいいのじゃ。せっかく主様が選んでくれて、似合っていると言ってくれたしの」
「そっか、六喰も気に行ったなら良かったよ」
六喰はうんうんと頷くと、会計を済ませて二人は洋服店を後にするのだった。
「ん?あれは<ゾディアック>?いえ、人違いですよね」
偶然街にいた魔術師に気付くことも無く。
~☆~
「パンダは意外に大きいのじゃな。それにフサフサしていそうなのじゃ。触りたいのじゃ」
「いや、触るのは無理かな?壁の向こう側だし……いや、天使は出すな」
動物園にやってきた二人は、パンダのいる場所に居た。そして、六喰がパンダを触ろうと、<封解主>で転移しようとするのを止めるのだった。
六喰は若干天使を使うことにためらいが無い感じだったので、下手に使わないように気を配らなくてはならない気がした。
「むん、仕方ない。見るだけにしておくのじゃ。主様に要らぬ世話をかけるのも悪いからのう」
「じゃ、どんどん見て行くか。それに、この動物園には何種類かの動物なら触れる場所もあるらしいから、後でそこにも行こうな」
そこからは、サイ、ゴリラ、象、鷹、孔雀、コンドルなど様々な動物を見て回り、時間もいい感じになったので、昼食を取ることになった。
園内にあるカフェに行くと、時間が時間なだけに混んでいて、満席のため座ることが出来なかった。
「どうする六喰?待つか?」
「待つのは面倒なのじゃ。だったら、適当に買って外で食べるのじゃ。そうすれば、動物を見回りながら食べられるのじゃ」
「わかった。じゃ、適当に買ってくるからここで待っててくれ」
「むくも一緒に行くのじゃ。一人で待っているのもあれじゃしのう」
さしあたって今後のことを決めると、二人は列に並ぶ。そして、昼食を買って園内を歩き、六喰はあるエリアの前で止まり、ここで食べようと言うのだった。
「いや、流石にここは無いだろ……」
「むん?ここならだいぶ空いているから邪魔にもならないと思うのじゃ」
「ここで食べるのは怖くないか?」
士道は頬に汗を浮かべて、困惑気味な表情をする。
二人が来たエリアは、肉食系動物たちが集まっているエリアで、士道たちが買ったのは、ハンバーガーのために匂いにつられそうだった。檻があるのでそんな心配はいらないのだが。
そして、大半の動物が寝ているため、人が少ないようだった。
「主様は分かっておらぬな。ここでにおいを漂わせることで、あやつらを起こすのじゃ」
「向こうからすればはた迷惑な話だな。それと、たぶんここの動物は慣れてそうだから起きないと思うぞ」
六喰の野望に呆れながら、六喰がいいのならいいやと思いベンチに腰を下ろすと、六喰も士道の隣に腰を下ろす。士道は袋からハンバーガーを二つ取り出すと一つを六喰に手渡し、包装をはがして食べる。六喰も足をパタパタさせながら食べ始める。六喰はハッと目を見開き
士道の肩をパチパチと何故か叩く。
「主様!これは美味しいのじゃ♪」
「美味しいなら、なんで俺の肩を叩くんだよ……。まぁ、確かに美味しいな」
六喰はハンバーガーが気にいったのか、無言になってモグモグと食べていく。士道も食べながら六喰や動物たちを見ていた。ちなみに六喰の野望も虚しく動物たちが起きてくることはなかった。
六喰は最後の一口を口に入れると、飲み込んでお茶を飲む。
「六喰、口元にソースついてるぞ」
「ん?取ってなのじゃ~」
六喰にそう言うと六喰は士道に顔を近づけてそう言った。仕方ないのでの口元のソースを指で拭って舐めると、六喰はポカーンとして、若干頬を赤らめた。
(あれ?取ってって言われたから取ったのになんでこんな反応?)
「主様はあれなのか?女泣かせなのか?」
「どうしてそういう結論に至ったんだ?ただ単に取っただけだろ?」
「普通は舐めないのじゃ」
六喰はジト目で士道を見る。もっともなことを言われ、特に返すことが出来ないでいると、六喰は士道の斜め後ろを見て呟いた。
「ところで主様。動物園とは動物と戯れる場所なのじゃよな?」
「ん?戯れられるのかは分かんないけど。見る場所ではあるな」
「むん、じゃぁ、あれはどうするものなのじゃ?」
六喰が指差した方を見ると、そこには……仔ライオンがいた。しかも、何故か檻の外に。
よく見ると、仔ライオンの後ろの檻(おそらくは元々いた場所)には仔ライオンが通れそうな穴があった。
「六喰、あれ?」
「主様、主様。モフモフしているのじゃ!」
六喰の方に振り向くと何故か六喰は士道のそばを離れ、一瞬で仔ライオンのそばに行き、仔ライオンをモフっていた。
大変危険極まりないことなのだが、モフられている仔ライオンは何故か目を細めて気持ちよさそうにしていた。
そんでもって、モフっている六喰も満足しているようだった。
(色々とツッコミたいところではあるけど、なんで仔ライオンが外に出てるんだ?それにあの穴、何処かで見たような……檻に穴が開いているっていうよりも空間に穴が開いているみたいな)
「主様もどうじゃ?」
「なぁ、六喰。もしかして空間に穴開けたか?」
「むん、どこに証拠があるのじゃ?」
「ん」
何処かで見た穴だと思えば、六喰が移動する際に使っていた穴だったので、六喰にそう問うと、六喰は白を切る。白を切っても、六喰以外にあんな芸当をできないので意味が無いのだが……。
(てか、一切表情を変えないとか、ある意味すごいな。で、証拠なら……)
士道は空間の穴を指差すと、六喰は、しまったッ!みたいな表情をすることなく、平然と空間の穴を消して、なにかあるか?みたいな顔をする。
「いや、なに自然と証拠隠滅してるんだよ。普通に見えていたからな」
士道がジト目をすると、六喰はため息をつき、
「主様、冗談じゃ。別にここなら人もいないしモフれそうだったのじゃ。それに、誰にも迷惑はかからないのじゃ。さらばじゃ、ネル」
むくは檻の裏手に歩いて行くと空間の穴を開き、ネルと呼ばれた仔ライオンはてくてく歩いて穴に入って行った。
「さて、じゃぁ次のエリアに行くのじゃ」
「次からは、空間に穴をあけて動物を連れ出すなよ。あ、入るのも無しな」
「うむ、わかったのじゃ」
六喰は軽い調子で了承をし、二人はその後も動物たちを見て回った。
動物と触れ合えるエリアで六喰がアルパカをモフったり、猪に追いかけられたり、何故か六喰が士道をカンガルーと戦わせたがったりと色々なことがあったのだった。
~☆~
「ふむん。綺麗な景色じゃのう」
「だな。ここからの景色はきれいだな」
動物園を後にし、二人は動物園のそばにあった高台に来ていた。動物園で買ったパンダのぬいぐるみを抱きかかえた六喰は、高台から一望できる景色に目を奪われているようだった。
しばらくすると、六喰は景色から士道に目を移し、口を開く。
「主様。今日は楽しかったのじゃ」
「ああ、俺も楽しかったよ。まぁ、仔ライオンの時は焦ったけど……それで、六喰はどうするんだ?何事も無く平穏だったろ?」
「うむ、確かにそうじゃったな。特に邪魔されることも無く、楽しむことが出来たのじゃ。ここだけの話、途中から敵のことを忘れていたのじゃ」
「そっか。楽しめたのなら良かったよ」
六喰が途中からは完全に楽しんでいたなぁ、とか思い出しながらそんな感想を言う。士道としても六喰に楽しんでもらうのも目的だったので。
しかし、六喰は何か思うことがあったのか表情が曇る。
「むくはこの世界に居てもいいのか?むくはこの世界にとっては異質なものでしかないのじゃぞ?」
「いや、六喰は居ていいんだよ。六喰は異質なものなんかじゃない」
「でも、むくは殲滅の対象と言うのが人間の見解なのじゃろ?」
「そんなの一部の勝手に言ってる奴だけの意見だ。ほとんどの人間は精霊の存在すら知らないよ」
「じゃぁ、もし存在を知ったらむくの存在は否定されるのじゃろ?」
「そんなこと勝手に言わせておけ。俺は絶対に六喰を否定しない。何かあったら俺を頼ってくれ。一人で悩まなくていいんだ」
六喰の悩みを片っ端から答えていくと、六喰は顔をほころばせた。
「ふふん。主様はどこまでお人好しなのじゃ?そこまで言われたらむくは主様を頼っちゃうのじゃ。とことん頼ってもよいのか?」
「ああ、どんとこい」
六喰の悩みを無事扶植できたようで、六喰の表情が明るくなる。士道も六喰の悩みが解決できたようで良かったと思う。
「わかったのじゃ。むくは主様と一緒に居ることにするのじゃ」
「そっか。じゃぁ、これからも一緒だな」
士道は右手を前に出すと、六喰は士道の考えていることを理解したようで、士道の手を取ろうとする。
そして、二人の手が重なろうとした瞬間、士道は背筋に寒気を感じ、空を一瞬見て……士道は周囲に八舞の風を起こして六喰を飛ばした。
突然の士道の行動に、六喰は数メートルほど飛ばされて尻餅をついた。
「主様、いきなりなんなのじゃ!?……ん?」
六喰は士道に文句を言いながら顔を上げると、六喰がさっきまでいた地点に空から光線が降り注いでいて、光線のせいで士道の姿は見えなかった。そして、光線が止むとそこには岩が飛び散った後のクレータだけが残っていた。
「主様?」
六喰は慌てて地を蹴って、士道を探すが士道の姿は見えなかった。
「主様、どこに行ったのじゃ?悪戯が過ぎるのじゃ」
六喰は一人呟くが、誰も返事をしてはくれない。士道の姿も見えないから。
(まさか、主様は今の攻撃で?)
「総員、精霊を包囲しなさい。一気に叩きます」
空を見上げると、数十人の魔術師が六喰を包囲していた。その中の一人がバズーカのようなものを持っており、先ほどの攻撃はそれによるものだった。
(ああ、あれが主様を……)
「<
六喰はただ一言そう呟くと、六喰の周囲に霊力が集まり、霊装を形成する。
(いや、むくと関わったせいじゃな)
「<
手を何もない場所に向けると、その手に<封解主>が握られる。
「もっと主様一緒に居たかったのじゃ。もっと主様と楽しいことをしたかったのじゃ」
六喰は<封解主>を地面に突き刺した。周囲に飛んでいた魔術師たちは、六喰の謎の行動に警戒していた。
(でも、もう主様のいない世界には興味は無いのじゃ)
「――【
その瞬間、周囲の魔術師は固まり、木々も風も固まった。
そして、その日、世界の時の流れは止まった。
投稿した現在、まったくバレンタインの構想が固まっていない・・・もし、14日に投稿されなければ、諦めたと思ってください。頑張りたいとこですけど。
では、早ければ14日、遅ければ一週間後に。