「「「美嘉(ミカ)ちゃんお誕生日おめでと~~」」」
事務所に戻ったアタシを出迎えたのは、3人の自由人だった。
「あ、ありがとう。志希ちゃん、フレちゃん、周子ちゃん」
「いや~、これで美嘉ちゃんもついに大人の仲間入りだね~」
「フンフン、ちょっと大人の色香がするんじゃないかにゃ~」
「ホント、ついこの前まではカリスマJKだったのに、今やもう大人のレディだよねぇ」
「アハハ、そうかな?」
苦笑いするアタシ。確かに高校を卒業してからは変わったかもしれない。
「私も、美嘉はかなり大人っぽくなったと思うわよ」
「奏ちゃん。えへへ……奏ちゃんがそう言うってことは、自信持ってもいいかな」
奏ちゃんはすごく大人びていたのに、もっと大人っぽくなった。
同い年なはずなのに、何というか、私とはかなり違う。
「という訳で、美嘉」
そう言って奏ちゃんがアタシに詰め寄ってくる。
独特の色気を湛えた微笑を見て、アタシは後ずさる。
しかし、後ろには既にフレちゃんと志希ちゃんが行く手を塞いでおり――。
奏ちゃんに顎をくいっと掴まれ。
「今週の土曜の夜、空けておきなさい――」
「――は、はい」
何故か敬語になってしまった。
――そして土曜の夜。
「アタシはさぁ――」
そう、アタシ達は。
「あんな誘われ方するから……どこかお洒落なところに連れて行かれるのかと思ったのに――」
少し古ぼけた暖簾の前に立っていた。
「どうして居酒屋なのよっ!!」
「まぁまぁ、いいじゃない。ココって川島さんや楓さんの行きつけらしいわよ?」
それってダメな大人たちの行きつけってことじゃない。
いや、アタシたちももう大人なのか。
「まぁまぁ店の前にたむろってたら迷惑でしょー、ほら入った入った」
そう言ってアタシの背を押す周子ちゃん。
「え、ちょっと待って!アタシ初めてお酒呑みに行くなら二人きりでお洒落なバーって決めてたのにー!!」
「はいはい、誰と行きたかったかは聞かないでおいてあげるから。行くわよ」
そんなわけで、カウンターに5人並んで座る。
アタシがごねている間に、フレちゃんと志希ちゃんは既につまみを頼んでいた。
「二人とも、ちょっと気が早すぎるわよ」
「まぁまぁ奏ちゃん、そんなカリカリしないで。ホラ!酒の席はブレイコーって言うじゃない?」
「フレちゃん、ソレ意味わかって言ってるの……?まぁいいわ」
「それじゃー、とりあえず一杯頼んじゃおうか……で、志希ちゃんはさっきから何嗅いでるん?」
「ん?スルメ!あまりいい匂いじゃないけどクセになるねコレ!」
「あはは……みんな変わんないね……」
奏ちゃんはちょっと変わったけど。この自由3人組は全然変わらない。
強いて言うなら、周子ちゃんの髪型が少し長くなったくらいかも。
「じゃーフレちゃんはカシスオレンジー。志希ちゃんは?」
「じゃあ……、ジンライムでいいかなー。ライムの香り好きだしー」
「私はゴッドファーザーを」
「奏ちゃんホント強いの行くねぇ……あぁ、あたしはビールで」
「ココ居酒屋なのに、そんなお洒落なのあるんだ……。ていうか、周子ちゃんはビールなんだ……」
「やっぱ一杯目はこうじゃなくちゃね」
「そ、そうなんだ……。あ、アタシ一回呑んでみたいのあるんだよね」
「大抵のものならマスターが出してくれるから、遠慮せずに言ってみなさい」
マスターって。ココ居酒屋なんだよね?
まぁいいや。言うだけ言っておこう。
「それじゃあ……シンデレラで」
「美嘉、シンデレラってノンアルコールカクテルよ?」
「ええっ!そうなの!?……うぅ、せっかくだしちゃんとお酒呑もうかな……。アタシもカシスオレンジで……」
「ふふ、分かったわ。それじゃあお願いするわ」
「かしこまりました」
畏まってそう言ったマスター(?)さんは、シェイカーを振りだした。
浴衣にエプロンと言う奇抜な格好で。
に、似合わない……。
しかし、川島さんたちの行きつけだけあって、腕は確かなようだった。
リズミカルに振られるシェイカーに、アタシの目線は釘付けだった。
「それじゃあみんな揃ったところで、美嘉の成人を祝い――」
奏ちゃんが音頭を執る。
「「「「「乾杯!!」」」」」
「周子はジョッキをぶつけないでね」
「え~あたしだけ仲間外れ~?」
「そんなおっきなジョッキがぶつかったら、フレちゃんたちのか弱いグラスは吹っ飛んじゃうよ~」
「ま、確かにそうだね」
「にゅふふ~、良い香り~~」
「志希ちゃん、もうトリップしてるよ」
「放っておきなさい、気が向いたら話に入ってくるわよ」
「じ、自由だなぁ……。あ、美味しい」
初めて呑んだお酒は、フルーティーで呑みやすかった。
「でしょ~~、ホラホラミカちゃん、気になるの全部頼んでもいいんだよ?カナデちゃんの奢りだから!」
「奢るのは美嘉の分だけだからね?」
「「「え~奏(カナデ)ちゃんのいけず~」」」
「はいはい、あなたたちは自分のペースを守りなさいよ?」
「「「は~い」」」
この時のアタシは、初めて呑むお酒と、場の空気に完全に酔っていた。
酒は飲んでも飲まれるな。
ホントにその通りだね。
アタシはどんどん飲まれていって――。
「だぁ~かぁ~らぁ~~~、みんないつもアタシで遊びすぎなんだって~~!」
美嘉の様子がおかしい。
そんなに飲んではいない筈なんだけど……。
「美嘉?アナタ大丈夫なの?」
「こんなの平気に決まってんじゃん!!カリスマJK舐めちゃだめだゾ!」
「もう卒業してるやん……」
「そんな事より~~、志希ちゃあああん」
美嘉が志希に後ろから抱きつく。
「ん?何かにゃああああああ!」
「クンクン……、えへへ~志希ちゃんお酒くさぁい」
「うん、ソレ美嘉ちゃんの香りだよ?スーーーーーーハーーーーーーーいい匂い」
志希も負けじと首を回し、美嘉の匂いを嗅いでいる。
「えいっ」
周子が写真を撮っていた。
フレデリカは――既に落ちていた。
「はぁ――厄介なことになったわ……」
嘆息する。美嘉がこんなに弱いとは、想定外だった。
「なぁにが厄介なの~~?奏ちゃあああん」
「美嘉、そろそろ帰りましょう?アナタ結構酔いが回ってるわ」
「こんなの全然大丈夫らよ~~!そ、れ、よ、りぃ~~~」
「な、何よ?」
「奏ちゃんの唇って、やっぱりセクシーだねぇ……」
「そうかしら?自分ではあまり分からないけど」
顔が近い。酒の匂いが鼻をつく。
「ねぇ奏ちゃん――、キス、したことある?」
首に美嘉の腕が回される。太腿に体重がかかり、腰に足が回される。
「ちょっと、美嘉……」
「その様子だと無さそうだね……。ねぇ奏ちゃん、教えられるの教わるの、どっちがいい?」
美嘉の顔が近づく。何故か美嘉の艶やかな唇から、目が離せない。
だからだろう。後ろで周子と志希が、ニヤニヤしながらカメラを回しているのに気付かなかった。
鼻と鼻がくっついた。美嘉の大きな目が目の前にある。
吐息が近い。熱い。
「美、美嘉……、冗談はやめましょう?」
「アタシ、本気だよ……?」
「美嘉――」
美嘉の目が閉じられ、唇が私に触れ――
ゴチン。
「いたっ」
――触れる寸前に、美嘉の意識は落ちていた。
「――――ふぅ」
安心した。そして思い出した。
これって、3年前のステージの打ち上げで、私たちがからかったシチュエーションと逆だ。
「お酒の力もあるけど、美嘉も大人になったみたいね……」
脱力した美嘉を抱きとめながら、そう呟く。
「いや~奏ちゃん、いい風に締めようとしてるけど、奏ちゃん顔真っ赤だよ?」
「……ホラ、周子と志希はフレちゃん担いで。とりあえず私の家に行くわよ」
「あ、露骨に話題逸らした~」
「にゃふふ~、これは珍しいねぇ~」
「あなたたちねぇ……はぁ、ホラ早く帰るわよ」
「「は~い」」
そうして、酔いつぶれた美嘉とフレちゃんと私の家に運び、その日はお開きとなった。
次の日の朝、美嘉に聞いてみたが、酔った間のことを覚えていないようだった。
少し安心した。
周子と志希を口封じして、このことはあの場だけの秘密にしようと思った。
週明けの事務所で、周子が撮っていた映像をプロデューサーに見られることになるのだが、それは別のお話。