A.圧倒的な力で相手をねじ伏せる強者
勢いとノリの作品なのでそんなに突っ込まないでね?
『試合終了―――――――――!!!優勝は大会初出場にして、前代未聞の記録を打ち立てた宮永咲選手だ~~~~~~~~~~!!!』
ワアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
原村和は目の前の光景が信じられなかった。彼女は運に頼らない完全理論派(デジタル)として数々の実績を積んできた。前回は全中学生麻雀大会・インターミドル個人戦で優れた結果を残し、今年はその雪辱を晴らすつもりであった。また、ネット麻雀では『のどっち』のハンドルネームで伝説的強者と言われているほどだ。
彼女は偶然やオカルトを信じない。そんなもので勝負が決まるのでは勝負する意味がない体。偶然やオカルトは準備不足の言い訳、そうとさえ思っていた。
ならば――――
『宮永咲選手は今大会において対選手を全員プラスマイナスゼロで打ち負かす偉業を成し遂げました!!!!運の要素がルール上含まれるこの麻雀においてそんなことを人間業ではありません!!!!彼女は本当に人間なのでしょうか!!!!』
今の私の点数はなんなのだ?
原村和: 2300 ±0
★★★★ :3200 ±0
◇◇◇◇ :5600 ±0
宮永咲 :187000 +31
圧倒的である。言い訳もできないほどの点差。いくら考えてもこれほどの点差を作るのは不可能だ。それこそ偶然やオカルトが関わらなければ……
そこまで考えて首を横に振る。今何を考えた?『偶然やオカルトが関わらなければ』?馬鹿馬鹿しい。そんなものは存在しない。だが存在しないならばこの点数はどう説明する?それこそイカサマでもしなければ………イカサマ?
「どんなイカサマならできると………?」
自分で出した考えに自分で疑問ができる。宮永さんがイカサマをした。そう仮定したとしてもいったいどうやって?そんなことするには未来予知でもしなければ不可能だ。ならばイカサマをしていない?そうすると今度はこの点数が説明できない。
そうやって退場することさえ忘れて悩んでいると影が差していることに気づく。見上げると宮永咲がその場に立っていた。
驚いて後ずさろうとしても椅子に座っているせいで離れることはできない。
「ねぇ、イカサマって聞こえたけど、私がイカサマをしたと思っているの?」
何が面白いのか頬笑みを浮かべながら彼女は聞いてくる。その微笑は彼女のトレードマークといっても過言ではない。彼女は今大会においてその微笑みを一度たりとも辞めなかったのだから。
変わらない微笑みに胸の奥から熱い感情が沸いてくる錯覚を受けるが押しとどめて、彼女が言った言葉を考える。イカサマをしたと思う?そんなの…
「そうでなければこの点数はありえないでしょう!なんですか全試合±0って。そんなことができるはずが「できたけど?」……」
言葉をかぶせられて黙ると咲はヤレヤレと言いたげに肩まで手を上げて首を振る。
「できるはずがないっていうけどさ、実際私はそれを成し遂げたじゃない。どうして素直に負けて悔しいって言えないのかなぁ」
「なっ!!?」
言い聞かせるように言われたことに顔を赤面させ自分の考えを伝える。
「悔しくありません!!」
「えっ?悔しくないの?真面目にしていたように見えたけれども?」
もしかしておあそびだったの?
不思議そうに首を傾げられて慌てて言い直す
「悔しかったです!悔しかったですが勝負に勝ち負けはつきものです。普通の勝負で負けたからと言って相手に文句を言うつもりはありません!」
「でも、今原村さんは私にイカサマって言ったよね?どうして?」
不思議そうに返されて思わず言葉に詰まる。確かに自分が言ったことに当てはめると言いがかりやいちゃもんに聞こえるかもしれない。それでも
「だって、ありえないでしょう!?全試合±0ってイカサマでもなければどんな説明ができるんですか!?」
そう、イカサマでなければならない。だって、イカサマじゃなかったら、私は――――
私が最悪を思い描いていると宮永さんは納得したように頷きながら疑問が解消したのかスッキリしている。
「なるほどね。こんなにも大差をつけられたのはイカサマされたからだといいたいんだね?」
確認するように言われたことにただ首を縦にふる。そうだ、そうでなければ私がこんなに大敗するなんてことは……!
「でもね、原村さん。その考えには穴があるよ?」
「えっ?」
言われたことに呆気にとられる。穴?私の考えに?いったいどこが?
「わからない?原村さん?」
確認するように言われたことに私は首を振る。わからない。どこに穴があるのか。どうして負けたのか。でも、なぜだろう。私は答えを聞きたくはなかった。理性派なのに嫌な予感がした。
「じゃあ、答え合わせをしよっか。イカサマでもなければオカルトでもなく、偶然でもない。だけど大会で私が全試合±0をできた理由」
それはね?
ダメだ、ダメだ。その先を口に出すな。動け私の体。耳をふさげ。口を黙らせろ。その先を聞いたら私が終わってしまう。麻雀打ちとしての原村和が死んでしまう。だからお願いします。そこから先を言わないで――――
「私があなたたちより強くて、あなたたちが私より弱かった。たったそれだけのシンプルな、単純な理由だよ」
その言葉が脳に響くと同時に私の意識は闇に落ちていく。落ちていく中で一番最後に見た光景は微笑みながらも辛そうな宮永さんの顔だった。
目の前で気を失った原村さんを大会のスタッフに任せて後にする。
この後に優勝インタビューがあるらしいが30分ほど休憩時間があるので控室に戻ることにした。
「よっ、お疲れ」
片手を上げながら金髪の長身の男が慰労の言葉をかけてくる。
「京ちゃん……」
その姿をみてホッと肩の力を抜いて駆け寄る。
彼の名前は須賀京太郎。中学にはいってから仲良くなった男子(私は男女間の友情を信じているタイプ)だ。彼がここにいるのは私の案内係だそうだ。
私は遺憾ながら方向音痴らしい。確かに校舎内でもよく道に迷うがそれは道になれてないからだ。だから今では学校では迷うことはない。ただし、今回の会場のように来たこともない場所だと満足に歩けないので付き添いが必要になってくる。
本来なら女子のチームメイトがその役をするべきなのだが私にはチームメイトがいない。私以外の女子の部員は全員幽霊部員で名前だけなので唯一の部員の京ちゃんが付き添いをしてくれている。
「それで、どうだった?」
京ちゃんは私の隣で歩幅を合わせながら歩きだす。行先は言わなくてもわかっているのか足取りに迷いはない。こういうところが女子からのポイントが高いところなんだろうなぁー。
「うん、思ったほどじゃなかったよ。±0も破られなかったし」
関係ないことを頭の片隅で考えながら決勝戦のことを思い出す。さすが決勝戦ということだけあって選手の力量はそこらの人たちよりは高かった。それでも、
「私の方が強いからね」
事実を口に出しながら前を向いて歩く。実際何千、何万、何億回やっても私の勝利は揺るがなかっただろう。それは私の力もあるけど技術的な面や流れを読む力など、ありとあらゆる麻雀の勝利に必要な要素が私の方が上回っていた。これで負けるなんてウサギがカメに駆けっこで負けるようなものだ。
「そうか……」
言葉少なめに返しながら京ちゃんは何か言いたそうにしている。そんな様子に首をかしげていると京ちゃんはいきなり手を私の頭の上に置いて撫でました。
「きょ、京ちゃん!?いきなり何するの!!」
いきなり撫でられたことに文句を言いながら髪の毛を直す。この後休憩があるとしてもボサボサの髪形で人前には出たくはない。
「なぁ、咲。辛いんなら辞めてもいいんだぞ」
「えっ?」
いきなり言われたことに驚いて京ちゃんの方をむくと、気遣いながらも難しそうな顔で京ちゃんはこっちを見ている。
「今回の大会でお前だいぶ無理をしていただろ?明らかに似合わないことをしているというか、演じているというか。」
京ちゃんに言われたことにドキッとした。それは自分で選びながらも納得できていない、そんな私自身の心の一面だったからだ。
―――こうやって鋭いところがあるから京ちゃんは侮れないんだよなぁ…
心配そうにこっちを見ている京ちゃんに苦笑しながらも私は私が決めたことをはっきりと伝える。その結果がどうであっても。
「辞めないよ、京ちゃん。確かに私には合わないかもしれない。無理をしているかもしれない」
「なら「でも」」
言葉をかぶせて自分の意見を伝える。そうしないと私は京ちゃんに依存してしまいそうだから。
「決めたんだ。あの日、お母さんとお姉ちゃんが家を出て行って、何が悪かったのかをずっと探していたあの日、答えを見つけた時から……」
そう、あの日から私は後悔している。いったいどうすればよかったのか。勝っても怒られ、負けても怒られ、±0で崩壊してしまったあの日から。
どうすればよかったのだろう?ある人は「仕方なかった」という。ある人は「おまえが悪い」という。ある人は「咲ちゃんは悪くないよ」という。みんな異なる意見を述べる。それで心が軽くなることはあった。それでも私が欲しかったのは現実を、今を変える手段が欲しかったのだ。
そんな私が答えを見つけたのは趣味の読書の時だった。京ちゃんから言われていつも読んでいる文庫本からマンガやライトノベルなどの娯楽色が強い本を読んだとき、最初は暇つぶしのためであった。でも描かれていたのは苦難を、自分を、問題を超える人々の姿だった。偉い人や批評家の人からは「薄っぺらい」「教養に値しない」などと言われるが登場キャラクターの努力や熱意、願いは本物だと私は感じた。汗だくになりながらも、疲弊しながらも、怪我を負いながらも努力する人々の姿がわかりやすく表現されているのは、私に突撃槍のように突き刺さった。
そして、私は思った。私は何か努力しただろうか、と。
昔から楽な方ばかりに傾いていた。文句を言われれば従い、怒られれば反論せず、流され、その場しのぎばかりをしていた。姉と母が出て行ってから一度たりとも会いに行こうとしなかった。「嫌われているから」「いっても追い返されるだろうから」そう否定的に思い行動しようとしなかった。
私が悪いという人がいたけど、その通りだった。私は行動しようと思った。でもどうすればいいのかわからなかった。
『じゃあ、もう一回麻雀始めたら?』
悩んでいる私に声を掛けた京ちゃんに相談するとあっさりと答えが返ってきた。
『こじれた原因は麻雀なんだろ?じゃあ麻雀で解決すればいいじゃないか』
言われたことにそれもそうだと私は納得した。
原因が麻雀なら解決する手段が麻雀であってもおかしくはない。
そう考えた私はその足で麻雀部に入った。といってもうちの学校は麻雀がそれほど熱もなく、部活に入るようにと言われている学生が名前だけを入れているような有様だったが。
『咲一人じゃ不安だから俺も入ってやるよ。』
ただし、掛け持ちで。
そういって一人だった部室にも京ちゃんが来てくれるようになった。京ちゃんには申し訳なく思ったけどとてもありがたく思った。二人では試合に向けてまともに練習できなかったので私たちは普段は練習を重ね、あちこちの学校に試合を申し出させてもらった。そうすることで腕を磨くのと同時に名前を上げていこうと思ったのだ。
なのに――――
『こんな点数はありえない!』『イカサマじゃないのか』
試合に赴いた先で待っていたのは私に対する批難の数々だった。
その光景に幼いころの家族麻雀をほうふつさせた。勝ちすぎて嫌な顔をされる。言い訳される。悪者される。昔のことを思い出してくじけそうになった。
それでも――――
『ありえなくはないだろう?現にこうやってたたき出しているんだから』
『イカサマっていうけど証拠は?証拠がないならタダの言いがかりだぞ?わかってんのか?』
糾弾されて顔を俯かせる私を京ちゃんがかばってくれた。その背中に私は助けられると同時に、自分に対するふがいなさが占めていった。
どうすればいい?どうすれば認めてもらえる?どうすれば私が勝者として見てもらえる?
数回の練習試合の後、私はそんな風に考えるようになった。認めてくれる人がいるかもしれないけど、現れるのを待ていられなかった。そんな風に悩んでいた私に答えを示してくれたのはまたも、京ちゃんが貸してくれた本を読んでいた時であった。その本では圧倒的な実力を示すことで周りを黙らす場面があった。
『これだ……!』
私はいかに相手に圧倒的な実力を示せれるのか考えた。
点差を広げる?ダメだ。既に練習試合では十分と思われる点差があった。これ以上広げるのも難しいし、インパクトがない。
圧をぶつける?ダメだ。人によって感受性が異なるのは決定打にはならない。
徹底的にたたく?これもダメだ。世の中にはそれで反撃してくる人種もいる。
ならばどうするか?悩んでいた私に家族麻雀の時の記憶が思い出された。
『±0はやめてって、言っているでしょ!!』
幼いころの姉の言葉が脳に浮かぶ。これだ!そう私は直観した。
それから私は相手の点数を±0にできるように努力した。運が絡む麻雀で実現するにはなかなか難しかったけど次第にものになっていった。
それと同時に私は恐れられることになっていった。私と打つ人の中には麻雀を辞める人もいた。それでも私は進むしかなかった。私には目的があるのだから。
自分の心を隠すために試合では微笑むようになった。微笑むことで私は周囲からの視線をシャットアウトするようにしたのだ。そうしないと罪悪感で挫けそうだから。
それでもここまで来た。全中学生麻雀大会優勝。圧倒的な記録を引っ提げての優勝ならだれもが私を強者と認めてくれる。誰も私のプレーに文句を言うことはなくなるだろう。そしていつかは世界でも……。
そんな風に考えていると「そういえば」と京ちゃんが思い出したように話し出す。
「お前の二つ名?というかあだ名?が決まったらしいぞ」
「何それ?」
そんなものを決められても私は変わらないのに。でも、どうせなら可愛いのがいいなぁ。
「『魔王』だってさ」
……………………………へっ?
「いや、だから『魔王』だよ」お前の呼び名」
思いがけない呼び名にフリーズしている私をよそに京ちゃんは説明を続けていく。というか『魔王』って…………。
「なんでも相手を圧倒的な実力で叩き潰す姿から『魔王』に決まったんだってよ。」
かっこいい二つ名だな。面白そうに話す京ちゃんをよそに私は俯いて聞かされたことに考える。『魔王』って流石にひどくない?
「あー、でも、これってお前が強いって認めてもらえているってことだよな。ある意味目的通りだしいいんじゃないのか?」
私の様子に気づいたのか言い訳するように京ちゃんは付け加えてくる。」
………確かにそうかもしれないけど、なんだか納得いかない。まぁ、他人の評価なんてそんなものか。
「まっ、いっか。『魔王』でも。」
呆気からんというと京ちゃんは怪訝そうな顔をしてくる。ちょうどいいセリフが前にあったなと思いリスペクトしようと思い、少し前に行き、顔だけを振り返らせて私の考えを伝える。
言っておくけど、強がりでもないし、開き直ったわけでもないよ?だって、
「『魔王』って評価されるなら、『魔王』らしく相手を負かすだけだもん」
そう告げると京ちゃんは苦笑しながら「どこの砲撃魔法使いだよ……」と突っ込んでくれる。こういう時話が通じるのはとてもうれしい。
「ほら、控室に行くぞ」
先導する京ちゃんの背中を見ながら頭の片隅で考える。
―――私が『魔王』ならいつの日か私を倒しにくる『勇者』が来るかもしれない、と
「楽しみだなぁ……」
「何か言ったか?」振り向く京ちゃんに何でもないといってついて行く。
いつか現れるその人はどんな人なんだろうなぁ、そう考えながら控室に向かった。
取りあえずは優勝インタビューだよね