幻想郷の外来人   作:写楽―しゃらく―

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第二話です。
ゆかりん登場。
特に進展ナシ。


第二話「大抵本人には理由なんて分からない」

 

 

「お腹すいた。ご飯まだー?」

「はいはーい。ただいまー」

 

パタパタと小走りで台所から床を踏む音が聞こえる。

綺麗な同居人と一緒に囲むご飯はやはり旨いもんだ。

 

「うん。やっぱ料理上手ねアンタ」

「お褒めに預り光栄です」

 

シチュエーションが逆なら尚更なんだけどね。

当然の如く、料理の当番は俺である。

まあ居候である身、このぐらいなら文句はないさ。

このぐらいならな…………。

 

「ちょっとー、お風呂まだー?」

「はいはーい。ただいまー」

 

「ちょっとー、掃除終わったー?」

「はいはーい。ただいまー」

 

「ちょっとー、買い物はー?」

「は、はいはーい。ただいまー」

 

分担が全て俺に割り振られているのは、もしかして苛めなのでは?と、最近ちょっと思いつつある。

いや、さすがに居候であっても、ここまで全てをやらせるのはどうよ?

掃除洗濯料理に買い出し、全て俺。

お陰さまで僅か一週間でかなりの家事スキルが身に着いちまったぜ。

 

「ちょっとちょっと」

「はいはーい。なんでしょうか?」

「肩揉んで」

 

ビキリ。あ、いかん、さすがにイラッとしたぞ。

て言うか、若い女が男に直に肌を触れさせるってのは、どうなんだ?

 

「別に、あんた居候だからいいじゃない」

 

ああそうですね。全くその通りです。ちくしょう。

男として見られていないのかどうなのかは知らんが、さすがに自尊心に傷が付くわこれ。

肩を揉みながら、俺は思う。

 

一人立ちも視野にいれないとダメかも知らんね。

 

 

 

 

アイツがうちに居候するようになって早一週間が過ぎようとしていた。

男のくせになんやかんやで家事スキルが高いので、ついついコキ使ってしまう。

たまには労ってやろうとか思うのだが、私がそう思い付いた時には既にアイツは行動を終えているのだ。

 

「あ、霊夢。ご飯もう少しだから」

「ああ、そう」

 

料理をしようとしたらこう言われ

 

「あ、霊夢。風呂沸いたぜ」

「分かったわ」

 

お風呂を沸かそうと思ったら先回りされ

 

「ほれ、霊夢。欲しがってた雑誌だ」

「あら、ありがとう」

 

なんでそんなことまで知ってんのよ。びっくりするわ。

 

かように、私が望むことを既にやってしまっている。

文句の言いようもないけれど、なんだか腹立つ。

 

 

しかしなぜ、アイツはここに残ると言ったのだろう。考えてみても答えは出ない。

以前魔理沙も言ったように、幻想郷へとやって来て元の世界に戻れる人間はほんの一握りだ。

運良く安全な地域に飛ばされたとしても、私と全く接点がなければ戻ることは叶わない。

そもそもが、大半の外来人が危険地区に置き去りにされてしまう幻想入りでは、こうして私の住処である博麗神社に飛ばされると言うこと事態が、極めて異例であるのだけれど。

そう考えると、そもそもどうしてアイツは博麗神社に飛ばされたのか。

何か理由でもあるのか?

 

「紫、居るんでしょ?」

 

他に誰も居ない居間で、私は何もない空間に向かって話しかける。するとその空間から亀裂が走り、薄気味の悪いスキマが現れた。

 

「相変わらず勘の良いことで」

 

中から顔をニュッと覗かせて来たのは、いけ好かないスキマ、もとい胡散臭い妖怪、八雲紫。

この幻想郷の管理者で、幻想郷創設時よりこの世界に住んでいる。

 

「『胡散臭い』妖怪って何よ。私は『スキマ』妖怪よ」

「はいはい。で、アンタは何か知ってるの?」

 

相変わらず頭の回転が早すぎるのか、読心に近いくらいの精度で思考を読んでくる。

私の問いかけに、紫は口許を扇子で隠しながら答えた。

 

「分かりませんわ。そもそもが私の管理する幻想郷。結界を破って侵入する事自体不可能なはずですのに」

「ちょっと待って。アンタ今なんて言った?」

 

結界を『破って』?すり抜けたのではなく?

 

「そうですわ。あの子、幻想郷に張られた博麗大結界を、自力で破ってここに来たのよ」

 

まさか、そんなこと…………。

 

「あり得ないわね」

 

今まで前例がなかった訳ではない。かつての守矢神社の例もある。

だけど、守矢の件は明らかに例外だ。太古の二柱がそれぞれ全身全霊を持って、正しく命懸けで結界を破ってこの世界に来たのだ。それこそ神話級の力を用いて。

だけど、アイツはただの人間だ。そんな力があるとは思えない。

 

「私も同意件ですわ」

 

再び私の思考を読んだ紫が答える。

 

「彼は正真正銘、ただの人間。それも、神に見捨てられたレベルの。そんな人間が、そもそも幻想郷に迷い混む何て言うのは、予想の範囲外ですわ」

 

未だに口許を隠した紫ではあるけど、しかしその表情は言葉に反して、どこか楽しそうだった。

 

「アンタ、何か企んでる?」

「私が企むなんて、心外ですわ」

 

ヨヨヨ、と口で言いながらハンカチで目元を拭う仕草をする紫に軽く殺意を抱いた所だった。

 

「ただいまー」

 

アイツが帰って来た。

 

「帰って来たわね。紫、何か分かったら教えてよね」

「分かっていますわ。それではご機嫌よう」

 

しゅん、と言う音と共に、紫はスキマの中へと消えて行った。

それと同時に、アイツが居間へと入ってきた。

 

「ん?今誰かと話してなかったか?」

「気のせいでしょ。それより頼んでたの、買ってきてくれた?」

「はいこれ」

 

そうして私に手渡して来たのは、人里で売られている雑誌だ。

とあるはた迷惑な新聞記者が発行しているもので、現在人里でかなりの人気があるらしい。

かく言う私も講読者である。

 

「ありがと。今日のネタは…………『成田離婚する夫婦の理由を徹底解明』?アイツも相変わらず人気取るのに必死ねぇ…………」

 

さも興味なさげにパラパラとページを捲る音が、居間に響いた。

 

 

 

 

「さて、と。俺は晩飯の準備するよ」

「はーい」

 

気の抜けた返事を返す霊夢。今はどうやら雑誌に夢中らしい。

俺は俺で買い込んだ食料を台所まで運び、それらを使って料理の下拵えを始めようとしていた――のだが。

 

「さっきから誰だ?俺を見てるのは」

 

買い物の最中から、ずっと感じる視線が帰ってきてから更に強く感じるようになった。

俺の言葉に反応するように、目の前の空間にヒビが入り、そこから謎空間が現れた。

 

「あらあらぁ?何時から気付いていらっしゃったのかしら?」

「買い物の途中から、かな?もしかしてさっき霊夢と話してたのはアンタか?」

 

声の主はそのヒビから顔をニュッと覗かせる。

すっげえ美人でビビった。

霊夢や魔理沙が、未だ子供っぽさを残した可愛らしい美人と言うのなら、彼女は正に大人の妖艶さで出来ていると言う感じの美女だった。

 

「あら?嬉しい事を言ってくれるわね。世渡り上手なのかしら」

「言ってないけど。て言うか、思考を読むな。ここの住人は読心がステータスなのか?」

 

俺の言葉に、美女はニヤニヤと顔をニヤつかせている。

第一印象を一言で言うならば、『胡散臭い』。これに尽きる。

 

「胡散臭いだなんて、酷いですわ。私以上に清廉潔白な者など居ないのに」

「自分で言っちゃうところがまた胡散臭い。て言うか読むなっつの」

 

俺が言うと、女性は更に楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「なかなか面白い子ね。私は八雲紫。この幻想郷を管理する、スキマを操る妖怪ですわ」

「へー」

「…………もうちょっと興味を持ってくれてもいいのではなくて?さすがの私も少し傷つきますわ」

「興味ないんじゃないけど」

「じゃあどうして?」

「聞く気がないだけ」

「更に酷いですわ」

 

ガックシ、と口で言っちゃうところもまた胡散臭い。なんなんだこの人。

昔テレビで見た、ぶりっこをキャラとして売り出そうとしていたアイドルみたいだ。当然の如く一瞬で消えたけど。

 

「まぁいいですわ。アナタに幾つか聞きたいことがあるのですけれど」

「料理をしながら応えられる範囲であれば、なんでもどうぞ」

「アナタは何者?」

「今料理してるからちょっと待って」

「早速!?酷すぎやしませんこと!?」

 

さすがに酷すぎだったのか、本当にショックを受けているような表情をする紫さん。しかしそれも胡散臭いのだけれど。

 

「冗談は半分だけにしておいて」

「半分は本気だったんですの…………?」

 

閑話休題。

 

「名前はもう霊夢から聞いているんだろうから割愛するとして。1991年8月10日生まれの24歳独身。趣味はバイクでの旅行。以上」

「もっと他にあるでしょうに」

「ないんだよね」

 

俺の言葉に、紫は怪訝そうな表情をして口許を扇子で隠す。

 

「今まで一人で生きてきたから、俺の人生って聞かれても、これ以上の回答は求められないよ」

「…………なるほど」

 

何故か納得したかのような紫さん。自分で言うのもなんだが、今ので本当に分かったのだろうか。

 

「まぁアナタのことは大体分かりましたわ。私が聞きたいのは、どうやってここ、幻想郷へとやって来れたのか。それだけです」

 

先程までとは打って変わって、紫さんは真剣な表情をしていた。

どうやってと聞かれても…………。

とりあえず、俺がこの世界にやって来る直前の出来事を説明した。

 

 

 

~青年説明中~

 

 

 

「ふぅん。現実の世界の廃れた神社で、ねぇ」

 

何やら考え込むような紫さんである。何を思ったのだろう。

 

「確かに、この博麗神社は幻想郷と現実を繋ぐ役割を持っていますわ。現実世界に、こちらとは対となる博麗神社があるのも事実。だけど、向こうの博麗神社は普段は強固な隠匿の術がかかっているから、ある特殊な人間、妖怪以外に見つけられるはずがないのですけど」

「いや、普通に行けたけど」

「だから分からないのですわ」

 

はぁ、と小さくため息を吐いて、まるで窓の燦に肘掛けるようにして頬付きをする紫さん。妙に色っぽい。

 

「アナタのような一般人に、そもそも見つけることが可能なはずがないのですわ。術が効力を発揮するのは、現実では忘れ去られた妖怪が主ですの」

「でも、霊夢や魔理沙は、たまに外来人が迷い混む、って言っていたけど」

 

俺の疑問の声に、紫さんは何気なく答えた。

 

「それは私が連れて来ているからですわ」

「え?」

 

事案発生。

 

「そもそも、この幻想郷にやって来る外来人は私が向こうからゆうk―ご招待している人達ですので」

「今誘拐って言いかけなかった?」

「気のせいですわ」

 

気のせいか。ならしょうがないね。

 

「そもそも、幻想郷に住む妖怪たちの中には人間を食料としている者も多いのですが、人里の人間は襲ってはいけないと言う決まりがある以上、外からご招待するしか方法がないのが実情でして」

「やっぱ気のせいじゃねぇ!明らかに餌として入荷してるんじゃねえか!」

 

となると、俺がここへやって来たのもこの人が原因な気がしてきたぞ。

 

「だとしたら、どれだけ気が楽か」

「どういうことだ?」

「私がご招待したのであれば、わざわざ博麗神社になんて転移させません。それこそ最も危険な地区に飛ばすでしょうね」

「さらりと怖いこと言うのマジやめて」

「ですがアナタはこの幻想郷に於いて最も安全な場所に到達し、その上幻想郷最強と謳われる博麗の巫女の庇護を受けている…………。私が干渉しなかった唯一の外来人であるアナタがそんな幸運に恵まれていることは、はたして偶然なのでしょうか?」

 

それは…………、確かに俺もそう思う。

俺みたいに『不幸』な人間に、そんなラッキーなど起こるはずもない。

そもそもが凡人である俺が、そんな物語の主人公のようなことになるはずもないのだ。

 

「ま、今は考えても仕方がないですわ」

 

紫さんはそれ以上話を続ける気はない、と言った感じで切り上げた。

確かに、分からないことを無理に考え続けても時間の無駄だ。ならば今は早く晩飯を作ってしまおう。

 

「話し込んでいても、料理をする手は止まらないんですのね。さすがですわ」

「そりゃどうも。なんなら一緒に食べてくか?」

「お誘いは嬉しいのだけれど、ご遠慮いたしますわ。こう見えても私多忙ですので」

 

それじゃ、と言って紫さんはスキマの向こうへと消えて行った。

残された俺は、少し困っていた。

 

「参ったな。おかず作りすぎちまったよ」

 

その日偶然にも魔理沙が遊びに来ていなければ、おそらく晩飯は無駄になっていたことだろう。

 




ゆかりん黒幕節は否定。
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