幻想郷の外来人 作:写楽―しゃらく―
という訳で、初のバトル展開です。正直バトルと言えるだろうか…………。
「お、これは食えるんだぜ」
「マジか。かなり毒々しい色してんだけど」
「これはカモフラージュなんだぜ。実際食べるとかなり芳醇な味なんだぜ?」
「既に実食済みとは恐れ入ったわ」
俺は今、魔法の森とやらに来ている。
理由は単純で、食料の確保だ。
博麗神社は別に生活に困ると言う事はないが、しかしそれでも二人で暮らすとなるとそれなりに節約していかなければならない、という事で、自然から供給出来る物があれば肖ろう、と言うことになった。
「お、これも食えそうだぜ」
「マジですか魔理沙さん。さっきの奴よりヤバい色してんだけど」
青いキノコとか初めて見たわ。さっきの奴もエメラルド色してたし。恐るべし幻想郷。
と言う感じで、魔法の森及びキノコに詳しい魔理沙が誘ってくれたこともあり、現在キノコ狩の真っ最中である。
しかし先程から魔理沙が「食えるんだぜ」と断言したキノコの殆どは、確実に外敵から身を守るための色と思われるような配色ばかりだ。青やら緑やら銀色やら。本当に食えんのかよ。
「大丈夫だぜ。食べた後にまた食べたくなる衝動を押さえられなくなる位に上手いんだぜ」
「それ多分ヤバい成分入ってるよね」
確実に中毒だ。よし。これらは捨てておこう。もやしっこである俺には荷が重い。
「お、これ松茸っぽいな」
かのキノコの王様を見つけ、俺は即座にそれを手に取ろうとした―のだが。
「待つんだぜ」
魔理沙に伸ばした腕を捕まれて止められた。
「なんでだ?松茸だぜ?」
「それもカモフラージュだ。そもそも松茸ってのは松の木の下に出来るから松茸なんだ。ここいらに松の木はない。良く見てろ」
魔理沙はそう言って、俺の手を引いてそのキノコから少し離れた。
そして地面に落ちていた手頃な石ころを広い、そのキノコに向かって放り投げると―
ドカン!
と、キノコが爆発した。
「うぉぉ…………」
「あれはヒトカリタケって言って、松茸に似た形で触れた相手を爆死させて養分にする食人キノコなんだぜ」
食人キノコって初めて聞いたわ。冬虫夏草みたいだな。人限定ってところが禍々しい。
「さすが幻想郷。侮ってたわ」
「森の奥深くに入って行くと群生してるポイントがあるから、それにはマジで近寄るな。これから気を付けろよ。中には襲いかかってくるキノコもあるからな」
「そん時には守ってください」
「はっはっは!当然だぜ!」
胸を張って笑う魔理沙は、なんだが可愛らしかった。
「しっかしあれだな。お前さんが霊夢の所に住み始めて、もう半月も経つのか。時間が経つのは早いんだぜ」
「年寄りみたいなことを言うな。俺と大して変わらないだろ?」
「昔に比べりゃ早く感じるぜ。異変が立て続けに起こりまくった時代だったからな」
「へー」
たまに聞く、『異変』。それが俺にはどうもピンとこなかった。
「そもそも、『異変』ってなんなんだ?」
「ん?あー。お前さんは知らないんだよな。そういや最近はかなり平和だからなぁ」
そう言って魔理沙は説明を始めてくれた。
―異変。それすなわち異なる変化。
幻想郷全てを巻き込み、秩序を変えようとした事件のことを総じて『異変』と呼ぶらしい。
「へぇー」
「まぁその異変も、霊夢や私たちのお陰で全て解決してきたんだがな」
「そりゃ凄い」
これには、俺も素直に感嘆した。
俺にはそんな主人公然のような真似は、多分死んでも出来ないだろうから。
「空が真っ赤に染まったこともあったし、いつまでも冬が続くような異変もあったぜ」
「まさに人外魔境だな」
平和な時代にやって来て良かったと切に思う。多分俺のことだ。巻き込まれこそするが大した役にも立たないだろうから、それこそ死に物狂いになることだろう。マジで予想出来るから本当に嫌だ。
「まぁここ最近は本当に落ち着いてるからな。弾幕ごっこが普及し始めた頃の混迷期ってのもあったんだろうぜ」
「ほーん」
「……生返事だな。そんなに私の話は退屈か?」
「いやいやそんなことは…………ん?」
やけに話し込んでいたと思ったら、いつの間にか空が真っ暗になっていた。
あれ?でもさっきまで燦々照りの陽気だったのに、何でだ?
「なぁ魔理沙。俺達どんぐらい話し込んでた?」
「……数分、って所だろうぜ。こりゃおかしいな」
どうやら魔理沙も異変に気がついていたようで、黒い帽子を深く被り直す。
「どうやら、人間の気配を感じてやって来た妖怪が居るみたいだぜ」
「マジか。始めて出会うわ」
そう。実は幻想郷に来て以来、未だに妖怪と出会ったことがない俺であった。
怖いもの見たさに見てみたいこともあるが、触らぬ神になんとやら、と言う俺の人生経験がその時が来るまで待ってろと告げていたから、積極的に関わらないでいた。
「暗闇を生み出す、ってことは…………」
どうやら心当たりがあるらしい魔理沙が、懐からなにかを取り出す。
…………なんだあれ。八角形の小箱のような物だった。
「出てこいルーミア!マスタースパーク!!」
「おわぁ!!」
ドオオオオオオ!!と言う音と共に、目映い光が辺りを一瞬で包み込む。あまりの眩さに思わず変な声出ちまった。
「クックック…………。さすがは普通の魔法使い。我が闇の能力を前にしてその胆力、感心するぞ…………」
「なにこのラスボスっぽい感じの台詞!?すげー強そう()!!」
「落ち着けだぜ。おいルーミア!お前なんかキャラ変わってないか!?」
魔理沙がそう言うと同時に、土煙が晴れてきた。
もうもうと立ち込める煙の中から現れたのは……黒い服に身を包んだ、金髪の幼い女の子だった。
しかし、その身に宿る禍々しいオーラに、俺は圧されてしまった。
…………これが、妖怪…………!
実感する。命の危機を、明確に。
「我が名はルーミア。闇の化身にして闇そのもの也…………」
「だからどうしたんだせルーミア。いつもは、『わはー』とか『そーなのかー』とか言ってるじゃないか」
「え?そうなの?」
「フゥーハッハハハ!それは実は私の仮の姿…………!その正体は闇の化身にして闇そのもの!宵闇の妖怪ルーm」
「あ、二回言ったな」
「こいつとあと三人くらいいつも一緒にいる奴らが居るんだが、四人まとめて『バカルテット』なんて呼ばれててだな。普段はこの辺りはこいつのテリトリーじゃないんだが」
「もー!なんなのだー!?魔理沙はー!?」
魔理沙が次々にネタバレをしていくと、そのルーミアとか言う闇そのもの()は目をバッテンにして両手をバタバタと振り回して怒っていた。
「折角私が考えついた『新規の外来人相手に強そうなキャラ設定持ってってイメージ固定させる』計画が台無しなのだー!」
「長いんだぜ。もっと端的に言え」
「ようは俺をビビらせる計画がおじゃんになった、と。そう言うことか」
なんだ。ビビって損した気分だ。
「むー!魔理沙は空気が読めないのだー!もう少しノッてくれてもいいのだー!」
「悪いな。なんせ私、『普通の魔法使い』なもんで」
ハハハ!と高笑いする魔理沙に、涙目で地団駄を踏むルーミア。端から見ればいい大人が幼い子供を泣かしてると言う実に事案な光景なのだが、しかし相手が妖怪ならまぁ大丈夫か。
「んで?一体なんの用なんだぜ?」
「私が用があるのはそっちの人間なのだー!魔理沙はあっち行ってろなのだー!」
「あー。そう言うことか」
「え?どういうこと?」
俺に用があるって、この小さい子が?なんで?
「まずいな…………。ここに来て俺にも遂にモテ期到来か…………?」
「いや、全く検討違いも甚だしいぜ。ようはお前を襲おうって魂胆だろうぜ」
「襲う!?こんな小っさい子供が!?」
「子供とは失敬なのだー!こう見えても私はお前より歳上なのだ!」
プンスカと言う擬音が聞こえてきそうな程に、ルーミアは怒っていた。
いやぁ、明るい所でよくよく見ると、実に可愛らしい。
妖怪ってこんななのか。
「まぁ侮ること無かれ、だぜ。こいつはこう見えても人喰い妖怪。お前みたいな一般人には天地が逆さになっても勝てる相手じゃあない」
「そうなの?」
いや、それもそうなのか……?妖怪だしな。うん。
「で?その計画が瓦解してしまった闇そのもの()さんは、これから一体どうするつもり?」
「フッフッフ……。侮るなよ人間。私が用意してきた作戦はこれだけじゃないのだ!チルノぉ!」
『よしきた!』
ルーミアがそう言うと、どこからともなく声が響いた。また妖怪か?
「なんだかんだと言っても、魔理沙が付いている以上危険は―」
「オイ!こっちに来るんだぜ!!」
と、魔理沙が叫んだ。その瞬間、俺と魔理沙の間に何かが突き刺さった。
「な!なんだ!?」
ヒヤリとした冷気が身を包み込む。これは……氷?なぜいきなりこんな大量の氷が……?
『クッソ!油断したぜ!今回はなかなか賢いじゃねーか!チルノ!』
『ふはははははー!あたいってばサイキョーね!』
氷の壁の向こうからそんなやり取りが聞こえる。って言うかそれ以上にヤバいことがある。
こちら側が、俺とルーミアの二人になってしまった、という事だ。
「ようやく二人きりになれたのだ…………」
「ロマンチックな台詞だが、しかしここは逃げるのみ!」
俺は即座にその場を駆け出した。
直後に闇が迫っていた。
☆
「くっ……。こりゃぁいよいよ本格的にヤバいんだぜ」
バカルテットの見事な作戦にはまり、私とアイツが分断されてしまった。
「どーだ魔理沙!あたいのこと見直したか!」
「ああ、今日はしてやられたぜ」
まさかこいつらがここまでの作戦を立てて来るとは思いもしなかった。いつの間に妖精ごときがこんな知恵を身に付けたのやら。
「ヤバいな。ルーミア相手とは言え、アイツは普通の人間。対抗手段が全くないんだぜ」
箒に跨がってアイツらの後を追いかけようとするも、当然の如くチルノが立ちはだかる。
「チルノ。私はかなり急いでるんだ。怪我したくなかったらそこを退くんだぜ」
「ふん!そんな言い訳が通用するほど、幻想郷が甘くないってことは、魔理沙が一番よくわかってるでしょ!」
ヒュオオオオ……。と、冷気が辺りを包み込む。春先とは言え、未だ冬の名残を残しているからか、チルノは至って元気そうだ。
「やるしかないか…………。弾幕ごっこ!」
「かかってこい魔理沙!サイキョーのあたいがこてんぱんに伸してやる!」
こうして、氷の妖精、チルノとの弾幕勝負が始まった。
☆
「あははははははは!アナタ美味しそうな匂いがするのだー!」
「女の子がそんなこと言うんじゃありません!はしたないですよ!!」
そして現在である。これにはさすがの俺も軽口を隠しきれないぜ。
「待て待てー!美味しそうな人間ー!」
「ああちくしょう!さすがにこれは恨むぞ神様!!」
とまぁ、居もしない神様を恨んだところで事態が好転するわけもなく、実際のところ逃げ惑いつつもどうするかを思考していた。
①ナイスガイな俺は突如逆転の策を思い付く。
②魔理沙が助けに来るまでなんとか逃げ続ける。
③助からない。現実は非情である。
まず①だが、これはあんまり期待出来そうもない。なんせただの人間である俺には、ルーミアを撃退するに足る力がない。弾幕とやらを撃つことも叶わないからな。
続いて②。これは少しだけ期待出来るかもしれない。魔理沙が先程の氷の壁を生み出した奴を速攻で倒してくれたのなら、だ。懸念すべきは、それまで俺の体力が保つかどうか。
最後に③だが、実は一番可能性が高かったりする。
つまり策も思い付かず、魔理沙も助けに来ず、体力が尽きた俺はこの少女に美味しく食べられてしまう、と言うことだ。
とまぁ、思考が行き止まりに行き着いた段階で絶望しかけたのだが、しかし俺は諦めない。
なんのために今まで不様に生きてきたのか。他人を不幸にしてきてまで。
俺には俺の信条がある。
決して死ぬわけには行かない。
俺の人生は俺のものだ。誰にだって奪わせやしない。例えそれが神様であってもだ。
「むー……。鬼ごっこには飽きたのだー」
ルーミアはそう言うと、突如速度を上げた。マジですか。全力疾走の俺を簡単に抜き去るんですか。さすが妖怪。て言うか飛んでるから向こうのが有利だけど。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
「もう少し恐怖を与えたかったんだけど、私ももうおなか空きすぎてツラいのだー。だから、ここで終わりなのだー」
「はっ!恐怖を、ねぇ」
俺はわざとらしくそれっぽい言葉を投げ掛ける。ルーミアは不敵そうに、そしてその容姿からは想像できない程に妖艶な笑みを浮かべる。
「ま、アナタは最初から美味しそうだったから、少しスパイスが加わっただけで我慢するのだー」
「ははっ。スパイス掛けすぎにはご注意してください、ってな」
俺はそう言って、地面に落ちていた石ころを無造作に投げつける。
「わははー!そんなもの当たってもどうってことないのだー!」
「くっ!!」
一発だけ…………!一発だけ当たりさえすればこっちのものなんだ!早く、早く!!
ブンブンと石ころを投げ続けるが、ルーミアには一向に当たらない。
石ころをかわすこともなく、ルーミアは悠々と俺へ歩み寄ってくる。
「クスクスクス。その表情いいのだー。さっきより断然美味しそうになったのだ」
「…………」
ピタリと。俺は小石を投げるのをやめる。
「どうしたのだ?無駄な抵抗はもう終わり?」
「……ああ。そうだな」
無駄な抵抗は、な。
今からやるのは、有効な抵抗だ!
俺は再び石ころを手にとってルーミアの『足下』へ投げつける。
当然の如く、ルーミアには当たらない。
「だからそんなもの当たらな――がぁっ!!」
そう、当たらない。
そもそも、当てるつもりがないからな。
俺が狙っていたのは、ルーミアの足下にあったキノコ。
ヒトカリタケだった。
『森の奥深くに入って行くと群生してるポイントがあるから、それにはマジで近寄るな。これから気を付けろよ』
先程魔理沙はこう言っていた。確かにその爆弾キノコが群生していた。
十や廿じゃ到底利かない。百以上からなる、『ヒトカリタケの群生地』。
ルーミアに石ころを投げつけたのは、奴を油断させて俺の近くまで引き寄せるためだ。
森の先を走っていたのは俺だ。当然、ヒトカリタケの群生地に先に入るのも俺だ。
これ以上進んだら俺も不意に触れてしまうかもしれなかったから、群生地ギリギリのラインを探していたのだ。ルーミアが俺を飛び越して先に立ったのは嬉しい誤算だった。
そして、これも魔理沙が言っていた。
『普段はこの辺りはこいつのテリトリーじゃないんだが』
と言う事は、ヒトカリタケの存在を知らない可能性もあった。俺はこれに賭けてみた。
精々人を一人爆殺する程度の威力だが、しかしそれだけの威力であっても、妖怪からしたら、死なないにしろ怪我くらいはするだろう。
見立て通り、ルーミアは爆発に吹き飛ばされて行った。
「正解は①、ってなぁ。読者のみなさん当たってましたかねぇ……」
最後に軽口を叩きつつ、俺はその場にへたりこんだのだった。
☆
そのあと、どうやらチルノとか言う妖精を倒したらしい魔理沙と合流し、事なきを得た。
「お前さんなかなかやるじゃないか!見直したぜ!」
ルーミアを撃退したことで、魔理沙からそんなことを言われた。
普通人間が妖怪に勝てる見込みは、雷が直撃するくらいにあり得ないらしい。
まぁ、そこも含めて、今回はルーミアの『運が悪かった』ってだけなんだよな。
「むー。くーやーしーいーのーだー!!」
あれだけの爆発をまともに食らったルーミアはと言うと、思った以上にピンピンしていた。
正直な話、爆発に驚いて混乱していただけだったらしい。すぐに魔理沙が来てくれなかったらそれこそ食われていただろう。あな恐ろしや。
「次はこうはいかないのだ!覚悟しとけなのだー!」
そんな負け犬っぽい捨て台詞を吐いて、ルーミアが帰っていく。
「次は絶対勝つからな!バーカバーカ!」
チルノとか言う妖精も次いでその場を後にした。
残された俺は、なんだかどっと疲れた気分だ。
「なかなかにハードな一日だったろう?お疲れさん」
「ああ。早く帰って飯食って寝た…………?」
何か忘れている気がする。なんだっけ?
「そういやお前さん。もう夜も遅いが大丈夫なのか?」
「ちくしょうルーミア!また夜にしやがったな!」
「いや、これは正真正銘夜だぜ」
その後、俺の帰りを待っていた霊夢さんにこっぴどく叱られた俺は、泥のように床に就いたのだった。
如何でしょう。こんなもんです。