幻想郷の外来人   作:写楽―しゃらく―

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どうも。写楽です。
主人公、幼女に詰られ身悶える回です。


第四話後編「タイトル考えるのって結構大変」

「宵闇の妖怪を倒したと言うのは、本当なのかしら?」

 

あの後、我を失いかけていた咲夜さんをなんとか宥めたレミリアさんと俺は、漸くにして一つのテーブルを囲んで茶をしばいていた。

 

「倒したと言うか、なんと言うか…………。運が良かっただけですよ」

 

目の前に出された紅茶に全く手を付けずに俺は話す。や、失礼ってのは分かってるけどさ、さっきの咲夜さん見た後に、彼女が淹れた紅茶なんか飲めねえよ。なに入ってるか分かんねえし。

 

「ふふ。運も実力の内、と言うわ。なんの力も持たないあなたが、この幻想郷で妖怪を相手に大立回り出来ると言うことはそう言うことよ」

 

見た目こそ幼女のそれではあるが、しかしその口調から聞こえる言葉には、どこか年季を感じさせる説得力があった。不思議な感じだ。

 

「そんなもんですかねぇ」

「そんなもんよ。この世って言うのは、それが全てなのよ」

「運が全て、ってこと?」

「そうよ」

 

優雅に紅茶を口にする姿は、やはり長年生きてきた妖怪だと感じさせる。俺とは格が違うと言うことをひしひしと思い起こさせる。

 

「まぁあなたの思う通り、油断は死に繋がり、慢心は破滅をもたらすわ。あなたのように謙虚に自分を評価出来ると言うのはとても大事なことよ。大切になさい」

「そっすか」

 

なんか説教臭くなってきたな。やはり思考はおばあちゃんなのか?

 

「失礼ね。誰がおばあちゃんよ。私はまだ五百歳よ」

「いや、十分年季入ってますよねぇ」

 

現代であっても人間の平均年齢が七~八十歳前後だと言うのに。と言うか本当、読まないでくれ。気が気じゃない。

 

「いや、実際この幻想郷に於いては私はまだ若い部類よ?もっと長く生きてる妖怪だっているし、人類が誕生するより以前から生きている宇宙人も居るしね」

「宇宙人!?何それ超見てみたい!」

「ふふ。そのうち会うことにはなるでしょ。あなたがこの幻想郷で長く生きていければ、ね」

 

いろんな人が居るんだなぁ、と、単純なことを考える俺だった。

そう言えば――

 

「そう言えばレミリアさん、妹居るんですか?」

「あら、どうして知っているの?」

「さっき咲夜さんが『妹様』とか言ってたから、かな」

「ふぅん。でもそれじゃあパチェ――私の親友の妹かも知れないじゃない」

「それだと、レミリアさんとその『妹様』って言うのを比較したってことになるでしょ?忠誠心に篤い従者として、主と他人の妹を比べる訳にもいかないだろうし」

「…………」

 

俺の説明に、一番驚いていたのはレミリアさんではなく、傍らに立っていた咲夜さんだった。対称的にレミリアさんは楽しそうに笑っていた。

 

「あははははは!なかなかに面白い!この咲夜を出し抜くなんて、あなた想像以上だわ!」

 

大笑いして、咲夜さんの方を見るレミリアさん。

 

「一本取られたわね、咲夜」

「申し訳ありません、お嬢様に仕える者として恥ずかしい限りです」

 

本当に悔しそうな顔をして、しかしなんの表情も表さない瞳で俺を見る咲夜さん。やめてその目。怖いから。

 

「まぁまぁ、落ち着きなさい咲夜。私たちが思っていたよりも、この外来人は頭が回るっことよ。侮っていたのはこちらも同じ…………。いえ、こちらだけだったようだから、お互い様よ」

 

さすがは吸血鬼と言うべきか、落ち着いた口調で咲夜さんを宥めるその姿は、見た目に反してかなり大人っぽい。

 

「さて、面白い話もまだまだ聞けそうね。今度はあなたの話を聞かせてくれないかしら?」

 

 

 

 

「俺の話……ですか」

 

私の振った質問に、彼は少し戸惑っていた。何が気掛かりなのか。

 

「ええそうよ。あなたのこれまでの話が聞きたいわ」

 

彼と言う人間を、実際に見て分かったことが一つ。

肝が据わっている。それに尽きる。

大抵の人間ならば、まず妖怪なんていう人外に出会っただけで心を蝕まれるのが普通だ。それは例え力の弱い妖怪相手であっても例外ではない。

私のような、伝説に属する種族のような妖怪ならばなおのこと。こうしてテーブルを囲んで和気藹々とティータイムに興じるなど、あり得ない。

しかし、彼は私のことを恐れないばかりか、初めて私を見た時から、私のことを恐れてはいなかった。

それどころか、私の容姿を、まぁ見栄を張って変身していたとは言え、絶賛するなど、普通の人間の思考とは思えない。恐らく魔理沙から事前情報として私の正体を聞かされていたのにも関わらず、だ。

ますます以て興味深い。

一体どんな人生を歩めばそんな思考に辿り着けるのか、気になって仕方がない。

 

「聞かせて頂戴。あなたのこれまでの人生を。何をし、何をされ、何があったのかを」

「…………分かりました。別に面白い話じゃないですけど」

 

彼はそう言って話始める。何故だか、私にはいつか感じたかのような気持ちが甦っていた。かつての不死の少年のような、あの感覚を。

 

 

 

 

いつからだったか、俺は期待をしなくなった。

俺の人生に。俺の運命に。一切の期待を持たないようにした。

俺がそれを望めば望むだけ、俺以外の他人が不幸になる。まるで皺寄せのように。

俺の望みが大きければ大きいほど、比例するように不幸は大きくなる。

だから俺は、一人で生きてきた。いや、そうするしかなかったんだ。

多分、俺がそれを願えば願うほど、俺以外の誰かがそのツケを払うことになる。

知らない人は知らないが、しかし知っている人がそうなれば、俺の心はまるで鑢でゆっくりと削られていくような感覚になる。

ならば、望まなければいい。

いつからだったか、期待をしなくなったそれを。

諦めればいい。

いつしか必ず、幸せになると言う夢を。

 

 

 

 

「それで思ったんです。俺が幸せを願うたびに、他の人が不幸になるのならば、逆に俺が不幸になればそれだけ他の人が幸せになる…………。だったら、幸せなんか願わなければいい、って」

「…………」

 

一通り話終えた俺の話を、レミリアさんは黙って聞いていた。どこか不機嫌そうだった。

 

「……あの」

「つまらないわね」

 

一蹴だった。いや、別に面白い話じゃないって最初に断ったよね?

 

「そう言う意味じゃなくて、あなたのその考え方がつまらないのよ」

「俺の、考え方?」

 

他人が不幸になるのが嫌だ、って考え方か?でも俺にはそう考えるしか――。

 

「そこも確かに気に入らないけれどそれ以上に」

 

一拍間を開けて。

 

「幸せなんか願わなければいい、って考え方が私には気に入らないわね」

「え?」

 

この人、俺の話聞いていたのか?俺が願うと、他人が不幸になる。それだけで俺は迷惑な人間だ。

 

「だから、その考え方よ」

 

レミリアさんは俺の思考を読むように言葉を放つ。どこか怒りにも似た語気に、少し圧されてしまう。

 

「あなたは聖人かなにかなのかしら?他人が不幸になるのが嫌、って言うのは分かる。私だって、パチェや咲夜、この館に住む私の家族が不幸になるのは嫌だしね。でも」

「でも?」

「それは彼女らが私の身内だからこそ。見知らぬ他人にまで気を配れるほど、それほどの器量は私にはないわ。私でさえ、自分自身でもそう思うのに、あなたはなぜそこまで思えるのかしら?」

「…………」

 

俺は、答えない。答えられるだけの答えを持っていない。

 

「正直に言うわ」

 

レミリアさんは、さらに意地悪そうな表情を浮かべて言い放つ。

 

「あなたのその『優しさ』?とも言えない考え方。正直に言って気持ちが悪いわよ?」

 

 

 

「よろしかったのですか?お嬢様」

「何がかしら?」

 

彼が帰宅したあと、私の傍らに立ち世話をする、私の一番のお気に入りの人間が口を開いて質問する。

 

「お嬢様はあの外来人を、かなりお気に召しておられたご様子ですが」

「ああ。それね」

 

確かに、あの外来人は面白い。最後の話を聞いてもなお、私は彼に対して好印象を持っていると断言できる。

 

「だからこそ、かしらね」

「と言うと?」

 

空になったティーカップにおかわりを求める僅かな仕草を読み取って、咲夜は紅茶を淹れながら問う。

 

「あの人間……、何かしら『運命』を背負っているように見えたのよ」

「お嬢様……能力をお使いに?」

 

咲夜は尋ねる。私の能力『運命を操る程度の能力』。それは絶対不干渉である運命をねじ曲げることが出来る可能性を持つ。

けれど、いまだに若輩である私には、まだ完璧に操れると言う訳ではない。

あくまで、運命を見ることが出来るのが精一杯だ。満月の夜などでは十全に使えるのだけれど、使用が限られる能力など、不完全であるのは言わずもがなだ。

 

「さぁねぇ。確かに、彼の『運命』少し見たわ」

 

私は含みを持たせて言う。

 

「けれど、見れたのは本の少しだけ…………。と言うか、見させられた、とも言うべきかしら」

「見させられた、でごさいますか?」

 

怪訝そうな表情をする咲夜。この子もまだまだ青いわねぇ。瀟洒を目指すようにと言ったけれど、もう少しかかるかしら。

 

「勝手に見えた運命をペラペラと話すほど、私は寛容じゃあないわ。ま、長い目で見ていましょう。あの人間が、これから起こす幻想郷での『異変』を」

 

 

 

 

ボーっと歩く。来た道をただただひたすらに。

 

『あなたのその『優しさ』?とも言えない考え方。正直に言って気持ちが悪いわよ?』

 

別に小さな女の子に『気持ちが悪い』って言われたことに対してヘコんでいるわけではない。

むしろ、その前の文言だ。

『優しさ』、か…………。

俺にとって、優しさと言うのがどう言うものか、正直に言って理解出来ていないと思う。

今まで人に迷惑ばかりかけてきたからか、俺は誰からも親切にされることはなかった。

…………いや、一回だけあったな。それも遠い記憶に沈みかかっているのだが。

――――

しかし、その程度で俺の心は揺らぐのだろうか。悩んで悩んで悩み尽くした結果に至った考えを、五百歳とは言え見た目幼女の姿をした吸血鬼に言われただけで。

――――い……。

俺自身、その考えを『優しさ』だなどと考えたことなど一度もない。人と関われない俺が、他人に対して親切になど出来るはずはない。

 

「おいって言ってるんだぜコラァ!」

「ひでぶ!?」

 

突如後頭部に衝撃が走り、俺は前のめりにずっこけた。何しやがる。

 

「何しやがんだこのやろう!!殺す気ですか!?」

「この程度で死ぬほど、人間は柔じゃないんだぜ。実証済みだ」

「それは一体いつ!どこで!誰でなんですかねぇ!?」

 

て言うか、本当に死んだらどうすんだ。後頭部は危険だよマジで。

 

「悪い悪い。でもお前も酷いんだぜ。私に声もかけずに先に帰っちゃうんだからな」

「俺を一人で吸血鬼の元に置き去りにした人間の言う言葉じゃねえな。もしやお前が俺の敵なのか?」

「何言ってるんだぜ。最大の敵は己自身だぜ?」

「何ドヤ顔でかっこいいっぽいこと言ってんだ!かっこいいなんて思ってねえーし!」

「何かあったんか?」

 

ボーイッシュな笑顔のまま、魔理沙は俺に聞いてきた。こいつも読心出来んのかよ。

 

「私のはただの勘ってやつさ。こう見えても繊細な乙女なんだぜ?」

「繊細な乙女は突然通り魔的に人の後頭部を殴打などしない」

 

しかし、魔理沙の勘も正しいのは事実だった。だから俺はレミリアさんとの会話を説明した。

 

「ほお。あのレミリアがそんなことを」

「なぁ魔理沙。俺って気持ち悪いか?」

「ああ」

 

即答やめて…………。泣きたくなる。

 

「ま、その質問に的確に答えられる人間なんてーのは、居ないだろうぜ」

「じゃあどうしたら…………」

「テメェで考えな」

 

冷たい言い方をするんだな。と、恨めしく思っていた俺に、魔理沙は最後に付け加えて言った。

 

「他人に迷惑をかけない人間なんて、居ないぜ?」

「…………」

 

俺は再び黙る。それだと、俺が考えた答えを否定することになる。それはよく分かっていた。

 

「ま、答えとまではいかないにしろ、何かしらヒントが欲しいんだったら、霊夢に聞いてみるんだな。知ってるか?アイツああ見えても巫女さんやってんだぜ?笑っちゃうよな」

 

カカカ!と、最後まで男前な魔理沙に、俺も思わず苦笑してしまった。

 

 

 

 

「ふぅん。レミリアにそんなことを、ねぇ」

 

神社に帰り夕食を終えて一息ついたとき、俺は霊夢と話していた。内容は昼間のレミリアさんとの会話。

 

「で?あんたはどうしたいの?」

「……分かんねぇ」

 

相も変わらず、俺には答えなんて分からない。だから霊夢に聞いたんだ。

 

「私が知ってるはずないじゃない。馬鹿じゃないの?」

「もう少し優しい言葉をくれても良いんじゃないっすか?」

 

俺の心はボロボロだ。

 

「…………」

「…………」

 

暫くの間、居間に沈黙が通る。問答は終わりだと言う風に、霊夢はゆっくりと湯飲みを傾けていた。

頃合いか、と俺も見切りを付けて立ち上がろうとした時だった。

 

「私ってね、どうやら主人公なんだって」

「はい?」

 

何を言ってるんですかねぇ。

 

「この前魔理沙に言われたのよ。『幻想郷と言う世界がもしも、本やゲームや、まぁ何かしらの物語の中の、想像上の世界だったとして、霊夢の立ち位置はその世界の守護者。若くしてその地位を絶対の物とし、他者を圧倒する力を持って生まれた人間。絶対に主人公設定になるだろうぜ』って」

「なんだそりゃ」

「ま、そう思うわよね。私だってそう思ったし。でもね、なんだか妙に納得出来る所もあるのよね」

 

ズズ、と茶を啜り、霊夢はふぅ、と息をつく。

 

「魔理沙はこうも言ったのよ。『主人公は誰にも負けないんだぜ』って」

「…………」

「あんたがどれだけ『不幸』を撒き散らそうが、私には関係ないわ。そんな程度のことに、負けるつもりなんて毛頭ないのだし」

「…………」

 

主人公。即ち公に主と認められた人のことだ。物語の中心にして、全て。

もし、俺の振り撒く『不幸』によって、霊夢に何かが起きたら、『主人公』を失ったこの世界はどうなるのだろう。

想像も出来ない。故に霊夢は『負けるつもりはない』と言ったのだ。

『主人公』として、この世界を守るために。

 

「だからあんたも、好き勝手生きてみたらどう?もしその『不幸』が暴走したときには、キチンと退治してあげるから」

「…………はは」

 

乾いた声は震えている。笑い声なのに、涙が溢れそうになる。

いつからだろうか。泣いたのなんか久しぶりだ。

と言うか、もしかしたら初めてかもしれない。

大の男が、女の前でみっともなく泣いた姿は、恐らくなかなかにシュールだろう。

 

「多分、答えなんてないんじゃない?」

 

その言葉は何よりも、俺の心に深く刻まれた。

 

 

答えがないなら、探せばいい。

答えを探せば、見つかるかもしれない。見つからないかもしれない。

でも、きっと。

いつか――

 

 




次回予告


やめて!大食いの幽々子の力で、中華、和食、洋食を全て同時におかわりされたら、厨房で調理を続けている主人公の精神まで燃え尽きちゃう!

お願い、食べないで幽々子!あなたが今ここでおかわりしたら、白玉楼の冷蔵庫はどうなっちゃうの? 甘味がまだ残ってる。ここを我慢すれば、デザートが作れるんだから!

次回「主人公死す」。デュエルスタンバイ!
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