ISのファフナー Siegfried and Brunhild 作:アルカンシェル
感想に影響されたわけではないのですが、思いついたのでやってしまいました。
年代差は気にしないでください。
「グッモーニン、全国のみなさん、みんなのアイドル堂馬広登と」
「日野弓子です」
「さあ、今年もこの日がやって参りましたIS学園学年別トーナメント!」
「IS学園でも数少ない公開行事。今回の注目は?」
「まずなんと言っても最初に挙げられるのは二年の更識楯無さんでしょう」
「あらそうなの?」
「なんとこの更識さん学生でありながら、すでにロシアの国家代表を務めています」
「それはすごいわね。でも、他にもっと注目するべき選手がいるでしょ?」
「もちろん更識さんだけじゃなく、三年生にはアメリカの代表候補生、二年生にも更識さんの他に専用機を持っている人が一人ずついます」
「もう、そうじゃなくて」
「分かってますよ。
今年一番の注目選手はずばり、世界で唯一の男性IS操縦者、世界最強のブリュンヒルデの弟、専用機ファフナーを駆る織斑一夏!
果たして彼はブリュンヒルデの隣に立つジークフリートになれるのでしょうか?」
「続きはCMの後で」
*
「簪の裏切り者」
「ごめんね、箒。てっきり一組の人と組むと思ってたから」
恨み言を漏らした箒に簪が謝る。
本来は個人のトーナメントだったが、急遽タッグ形式に変更になった大会で箒が組もうとした相手は簪だったのだが、彼女はすでに別の者と組んでいた。
同じボ――人付き合いが苦手な仲間だと思っていたのに。
「いや、別に責めているわけではなくてだな……すまん」
更衣室の中はほとんどタッグを組む者たちで集まっている。
その中で一人だけでいるのは居心地が悪い。
簪のパートナーもすぐ近くにいるし、試合の打ち合わせもあるだろうからあまり話し込むわけにはいかない。
「ペアができなかった者は抽選で組まされるって聞いたけど、箒のパートナーはもう決まってるの?」
「いや、トーナメント表の発表で知らせるとしか言われてないからまだ分からん」
「箒は優勝を目指すんだよね?」
「ああ、そういう簪は訓練機で出るのか?」
「うん、まだ打鉄弐式はできてないから出せないけど、日本の代表候補生としては実力を示しておかないといけないから」
「大変だな。候補生というのは」
「そういう箒も今回の大会では注目選手の一人だよ」
「何だと?」
「えっとほら……箒はお姉さんが篠ノ之博士だから」
「……ああ、そうだったな」
だが、期待されたところで答えられるものは箒にはない。
「あっ……対戦表が決まったみたい」
簪の言葉に大型モニターに目を向ければ、確かにそこに対戦表が映されていた。
「え……?」
「私はAブロック一回戦一組目か……相手はラウラ・ボーデヴィッヒとシャルル・デュノアのペアか」
シャルルの方はともかく、ラウラの方には箒は近親憎悪を感じていた。
彼女が鈴とセシリアに暴虐を働いたところに箒はいた。
むしろ、アリーナで簪を含めて話し合っていたところに乱入された。
友達と呼べる二人を不必要に痛めつけたことに思うところがある。
仇討ちだと意気込むつもりではないが、力が全てだと思っている彼女の姿は過去の自分を乗り越える相手として丁度いい。
「相手にとって不足はない」
「箒……」
気合を入れていたところに、簪が震える指でモニターを指した。
「箒のペアが……」
「ん、そういえば――なっ!?」
相手のことばかりで自分のペアを確認するのを忘れていた箒は改めてモニターを見て、絶句した。
『篠ノ之箒』その名前の横にあった名前は見間違えるはずもない。
『織斑一夏』ファフナーの使用を禁止されているはずの彼の名前がそこにあった。
*
「一夏が僕の相手……?」
一人の更衣室でモニターを見たシャルロットが呆然と呟いた。
行事の参加を学園側で認められていない一夏の名前が何故、そこにあるのかは分からない。
それでもこうして発表されているのだから、学園側は彼の参加を認めたのだろう。
そして、自分のペアも問題だった。
「ボーデヴィッヒさんがパートナー」
同じ日に転入して来たドイツの代表候補生。
彼女とは接点がほとんどなかったが、悪い噂はシャルロットの耳にも多く届いている。
曰く、協調性がまったくない他人を見下した狂犬。
「どうしよ……」
一夏の実力は未知数。複数の能力、ニーベルング接続の恩恵がどれだけのものか分からない。
少なくても情報だけなら決して侮っていい相手ではない。
できれば連携を使って戦いたいと思うが、あのパートナーにそれを要求することは難しそうだった。
「はぁ……」
思わずため息を吐いて、次の瞬間飲み込んだ。
携帯が着信を知らせる音を一人しかいない更衣室に響かせる。
シャルロットにその携帯で連絡を取る人間は一人だけ、シャルロットは身を強張らせながらゆっくりと携帯を取る。
「……はい。シャルルです……おと……デュノア社長……」
*
「これはどういうことだっ!」
第一アリーナの教師用の観察室で今しがた決まったトーナメントの対戦表を見て千冬は怒鳴り声を上げていた。
「どうして一夏の名前が対戦表に出ている! 誰がこんなことをした!?」
「あわわわ」
声だけで他の教員達を竦み上がらせるほどにその声には殺気が満ちていた。
「私ですが、何か問題が?」
しかし、そんな空気に臆することなく一人の女性が織斑千冬――世界最強の前に進み出た。
「二組の狩谷か……一夏にはISを使った授業や行事に参加させないことを決定してあったはずだ。なのに何故こんなことをした?」
刀は持ってないが今にも斬りかかりそうな衝動を必死に抑えて千冬は問う。
「私も同化現象のことは理解しているわ。でも、先日ボーデヴィッヒが起こした私闘でうちのクラスの凰がこの大会に出られなくなりました」
「その意趣返しだとでも言うのか?」
「まさか、ボーデヴィッヒの暴走の原因は織斑に対する強い敵対心によるもの。
それを解消しなければ、また同じことが起きる可能性が高いと思わないかしら?」
「それをさせないためにボーデヴィッヒにはISの使用を制限させたはずだ」
「ISを使わなくたって問題は起こせるわよ。織斑先生。そして起こされてからでは遅いのよ」
千冬の睨みを真っ向から受けても狩谷は怯まない。
「織斑の体調を考慮し、対戦表に細工をしてボーデヴィッヒと一回戦で当たるようにしました。
仮に織斑がボーデヴィッヒに勝ったとすれば、以降の試合はパートナーには悪いけど棄権させればいいでしょう」
「くっ……」
理路整然とした説明に千冬は気押される。
「本来なら私が監督する第二アリーナでやらせるつもりでしたが。
織斑先生にも無関係な話ではないので第一アリーナにさせたけど、貴女が無理だと言うなら代わるわよ」
どうしますか、と尋ねてくる狩谷に千冬はなんとか首を振る。
「心遣い感謝する。私が二人の戦いを見届ける」
「弟のことで頭が一杯なのは理解してあげるけど、生徒を公平に扱えないのなら山田先生のように大人しく休んでいなさい」
そう言って狩谷は自分の担当アリーナに行くと踵を返す。
「待て狩谷」
「まだ何か、織斑先生?」
「お前は織斑の同化現象が進行したらどう責任を取るつもりだ?」
千冬の問いに対して、狩谷は臆することなく答えを返した。
「どうせいなくなるのなら、そこにいた証を残すことも大切だとは思いませんか?」
*
「箒、今日はよろしくな」
少し遅れてピットに来た一夏は片手を上げてそうのたまった。
「よろしくじゃない。いったいどういうことだ、お前はISの使用を禁止されていたはずだろ?」
「ちゃんと許可は取ってあるから大丈夫だって」
「大丈夫ってお前……」
思わず、箒は顔を近づけて一夏の瞳を覗き込む。
日本人らしい黒い目。赤くなってはいないことに箒は安堵する。
「何だよ箒、顔が近いぞ?」
一夏に指摘され、箒は急に気恥ずかしくなって距離を取る。
箒は逡巡して、それを嘘を口にした。
「姉さんから聞いたぞ。ファフナーの使用は同化現象で……そこからいなくなる……と」
「大丈夫だ。薬はちゃんと飲んできた。まだ機体に食われたりはしないさ」
「っ……」
束と連絡なんてしていない。
ただ自分が見聞きしたものをそのまま疑問にして尋ねただけ。
できれば、否定して欲しかったのに一夏の口から出てきたのは肯定の言葉だった。
「それが分かってるなら何故ファフナーを使うっ!?」
「あいつをこのままにしておいたら、今度は箒や簪を狙うかもしれない。そんなこと見過ごすわけにはいかないだろ」
お前を守る。そう言われているようで嬉しい気持ちを抱いてしまう自分に自己嫌悪した。
「ところで、シャ……ルルのISってどんなものなんだ? 専用機があるって聞いたけど、俺実習に出てないからどんなのか知らないんだけど」
「デュノアのISは訓練機でもあるラファールを改造したものだ。特徴的なのは武器の多さとそれを扱う『高速切替』だ」
「『高速切替』?」
「それは――」
説明をしながら箒は戦いのことを考える。
まだ詳しい事情は分からないが、一夏がファフナーに乗ることで悪影響があることは確定している。
――ならば、私は……
一夏の敵は全て自分が斬る。
そのためにクラス対抗戦の日から一夏と過ごす時間を削って千冬に教えを請いた。
まだまだ、千冬に認められる腕には至ってないが、その力はまさに今使うべき状況だった。
「一夏……勝つぞ」
「おう」
*
試合開始直後。
誰よりも早く動いたのは直前まで険悪な言葉を交わしていた一夏でもラウラでもなかった。
「箒っ!?」
自分よりも速く飛び出した幼なじみに一夏は驚き、思わず足を止めてしまった。
「ふん……開始直後の先制攻撃か。実に素人らしいな」
ラウラは自分に突撃してくる箒に左腕をかざしAICの力場で箒の突撃を制止させる。
慣性停止能力。
それがドイツの第三世代型ISの特殊機能。
傍から見ると理不尽と思える近接・物理殺しの能力だった。
「くっ……」
歯噛みする箒にラウラはそのまま、肩のレール砲の砲口を向ける。
「お前の相手は俺だろ」
箒の頭上から一夏は飛び出し、ルガーランスのプラズマ弾を撃つ。
「ちっ……」
肩のカノンをそれによって逸らされ、箒に向けて放った砲弾が空を切る。
「はあぁっ!」
間合いを取ろうと急後退したラウラを箒が追い縋り、ブレードを振り抜く。
しかし、横からのシールドバッシュが箒を大きく弾き飛ばした。
「僕のことを忘れてもらったら困るよ」
「くっ……ならばお前も斬るっ!」
「箒っ! 一旦さがれっ!」
頭を熱くした箒は一夏の声を聞かずに今度はシャルルに斬りかかる。
「馬鹿っ! 箒、避けろっ!」
「ふん、素人が隙だらけだ」
意識が離れたラウラはすかさず箒にカノンを向ける。
牽制にプラズマ弾を撃つが、元々近接武器に内蔵された射撃武器なので命中精度は高くない。
悠然と、ラウラは回避行動を取りながら箒に狙いをつけ、撃つ。
「がっ!?」
シャルルの『高速切替』に翻弄されていた箒は背中にその砲撃を受けて吹き飛ばされる。
そこにシャルルがショットガンを撃ち込んでさらに弾き、追い縋り両手の武器をマシンガンに換装、零距離から箒の打鉄にそれぞれのマガジンが空になるまで打ち切った。
「ごめんね……」
「あ……そんな……」
その一言をシャルルが箒にかけ、箒の打鉄のシールドエネルギーは0となり失格となった。
一旦試合が止まり、アリーナの中央にいた箒の避難が整うを待つ。
「一夏……」
申し訳なさそうに名前を呟き、直後に俯く箒に一夏はため息を吐いて言葉をかける。
「安心しろ。必ず勝つから次の試合で挽回してくれ」
身体を震わせているのは悔しいからだと一夏は判断する。
近頃、箒が積極的に特訓していたことを一夏は知っていた。
しかし、初めてのIS戦で緊張して空回り、その特訓の成果が発揮できなかったのが悔しかったのだろう。
「それじゃあ……改めて、行くぜっ!」
試合再開の合図と同時にワームがファフナーを包み、空間跳躍してラウラの背後を取る。
「そんなネタが明かされた手品が通用すると思うなっ!」
振り向き様に抜かれるプラズマ手刀。
ファフナーはルガーランスでそれを弾き、続く二の逆の腕から振られる同じものを難なく弾き返す。
「何だと……? 手数はこちらが倍だというのに押し負ける?」
ファフナーはラウラの両腕から繰り出される二つの刃をルガーランス一本で防ぎ、さらには反撃の腕を伸ばしてプラズマ手刀の発生器を掴む。
「遅えよ……」
左腕の武装を握り潰し、それでも怯まずに果敢に攻めてくるラウラにファフナーは機械とは思えない動きで避けてみせる。
神経接合システムに合わせて感度を高めたハイパーセンサーはわずかな挙動で相手の次の動作を見切らせてくれる。
よく見える目に、細部まで把握できてよく意思通りに動いてくれる身体。
到底、負ける気はしなかった。
「ボーデヴィッヒさん、引いて!」
そこにシャルルがアサルトライフルの銃弾を浴びせる。
ファフナーはラウラから距離を取って、それを回避する。
「邪魔をするなっ!」
「え……うわっ!?」
しかし、当のラウラは邪魔だとシャルルをワイヤーブレードで絡め取って明後日の方向に投げ捨てる。
ラウラは肩のカノンと右腕の手刀、そして六本のワイヤーブレードを駆使してファフナーに襲い掛かる。
「何故だ……何故当たらないっ!」
三次元躍動で高速で飛び交う鏃も、マークニヒトのケーブルアンカーと比べれば止まって見える。
迫るワイヤブレードを二本まとめて切り払い、同時に突き出されたプラズマ手刀を後ろ回し蹴りで迎撃。
そして、回転した勢いでルガーランスをレールカノンに突き立て、刀身を展開、内部にプラズマ弾を撃ち込んで完全に破壊する。
「うあああっ!」
右肩の爆発を至近で受けて、ラウラの小さな身体が吹き飛ばされる。
地面に転がるラウラを一夏は見下ろした。
*
「ふあー、すごいですねぇ。織斑くん……能力を使わずにボーデヴィッヒさんを圧倒するなんて」
モニターに映し出された戦闘映像を眺めながら真耶は感嘆した言葉をもらした。
「元々ファフナーは467機のISを13機で対抗することを目的とした機体だ。むしろ、ようやく本領を発揮し出したというべきだろうな」
今まで変性意識で好戦的になっていても、本人の意思は戦うことに消極的だった。
しかし、今回の一夏は自分から戦うことを決め、変性意識を受け入れて戦っている。
一夏の動きからそれが見て取れる。
「でも、それを動かしているのは織斑くんってすごいですね。才能ありますよね」
「あれはファフナーの一体型操縦の性能によるものだ」
「でも、あのシステムってデメリットの方が強いと思うんですけど。
確かに素早く動けるのは有利になりますが、装甲に痛覚があったりしたらまともに戦闘もできませんよ」
真耶の感想に千冬はとんでもないと、否定する。
「何を言っている。あのシステムの本命はむしろそっちの方だ」
「そうなんですか?」
「人間の五感の中で、身体のバランスを取り、身体の位置、状態を把握するのは触覚、つまりは痛覚だ。
私たちでは想像して把握するしかない機体の大きさを一夏は体感で把握できるからこそ、無駄のない動作をすることができる。
その上で私たちは頭で動かさなければならない機体を一夏は思考することなく反射で動かせる」
リスクのことを考えなければ、千冬にとっては羨ましいと思えるシステムだった。
動きの慣性を全身で感じられ、思考の反射ではなく、身体の反射で思うように動かせる。
そして何より腕の力だけではなく、全身の力を効率よく乗せられる。
パワーアーム越しに刀を握る感覚には慣れたが、やはり刀を握るのは生身に限ると常々千冬は思っている。
「これが射撃主体の機動戦ならまだしも、近接格闘戦という一夏の土俵で戦う限りボーデヴィッヒに勝ち目はない」
ラウラの経験も知識も、単純な反応速度で凌駕してしまっている。
「ISとの一体化か……これを作ったのが束ではないというのが信じられんな」
もちろん、技術力ではISを一から作り上げた束の方が圧倒しているだろう。
しかし、後追いだったとしてもISコアを作り出す技術に、それに対抗するためのまったく異なるシステム。
「天才……いや、執念か……」
ファフナーの設計思想を思い出して、千冬はため息を吐く。
「それにしても篠ノ之さん、あっさりと負けてしまいましたね」
「あれは専用機のあるなし以前に気負いすぎだ。一夏に戦わせたくない気持ちは分かるが、焦りのある雑な動きでは代表候補生の的にしかならん」
内心で千冬は舌打ちする。
クラス代表戦が終わってから、箒は自分に教えを乞いに来た。
最初こそ、一生徒を特別扱いできないと拒絶したが、一夏を守るために強くなりたいと譲らなかった箒に結局は折れた。
しかし、自分が教えたことを何一つ発揮できずに箒は負けてしまった。
「これが終わったら訓練を三倍に増やしてやる」
「篠ノ之さん……強く生きてください」
千冬の呟きに真耶は未来の箒の冥福を祈る。
「それより一夏のバイタルは正常か?」
「はい。問題はありません。むしろボーデヴィッヒさんの方がまずいかもしれません」
一夏に嬲るように痛めつけられるラウラのシールドエネルギーは確実に減っていく。
だが、それよりもモニターに映る彼女の表情は普段の冷たい無表情ではなく、涙を堪える幼子のそれだった。
もしこれが他の誰かが相手をしていれば、攻撃を躊躇ったかもしれないが、変性意識で動く一夏に余計な情はない。
「……変わらないな。強さを攻撃力と同一だと思っている。そんな強さなど別の強さに押し潰されるだけだというのに」
千冬は皮肉を呟いて自嘲する。
自分もラウラと同じだ。
世界最強の力など、社会の中では決して大きな力ではない。
真耶や多くの者はそれに魅了され千冬に付き従ってくれるが、狩谷のように確たる個を持っている者からすれば御山の大将にしか見えないのだろう。
「それでは、もう一夏くんの勝ちは決まりですかね?」
「そうだな。ボーデヴィッヒが自分の弱さを受け入れられなければ一夏の勝ちは揺るがない」
そう言って、ラウラにとって唯一の勝機であるパートナーを千冬は見た。
*
「AICが……AICで捕まえられれば……」
全ての武装を破壊されたラウラは残された特殊機能に縋るように右腕を振り回す。
しかし、展開した停止結界も容易に見切られ、むしろそこに集中したことで致命的な隙をさらしてしまう。
結界を回り込まれて殴り飛ばされる。
ルガーランスは不要とばかりの態度にラウラは泣きそうになった。
「私は認めない……絶対に認めない。お前なんか認めない!」
一夏に見下ろされ、屈辱に震えるラウラ。
授業を居眠りし、サボるような人間が自分よりも強いなどと認めることはできなかった。
「ならお前が認める強さってなんだよっ!?」
言葉と共にファフナーの拳が振るわれる。
「これが、お前が鈴とセシリアにしたことだ! こんなものが千冬姉に教わった強さかっ!?」
下からのアッパーにラウラは吹き飛ばされて、地面に投げ出される。
「そんな強さ、俺が認めないっ!」
そこに止めと言わんばかりに結晶で繋がったルガーランスの砲口をファフナーが向ける。
しかし、プラズマ砲がラウラを襲うことはなかった。
「ここからは僕が相手だよ。一夏っ!」
もはやラウラが戦闘続行不可能だと判断して、静観していたシャルルがファフナーと戦闘を始める。
――教官に教わったこと……
地面に仰向けに倒れたまま、一夏の発した言葉を反芻してラウラは過去に思いを飛ばす。
『いいか。刀は振るうものだ。振られるようでは、剣術とは言わない』
それは好奇心と憧れから千冬が持ち込んだ日本刀に触れた時の記憶。
『重いだろう。それが、人の命を絶つ武器の、重さだ』
覚えている。思い出した。
あの時、手に感じた鋼鉄の重さ。冷たく、鈍色に煌めく、刀。
人を斬るために生まれ、作られ、鍛えられた、その存在。そこに親近感が湧いた。
『この重さを振るうことがどういう意味を持つのか、考えろ。まあ、軍人のお前にはいらぬ説法だろうがな』
「刀の……重さ……」
身体が重い。
そう感じたのは初めてだった。
四肢に装着されたIS。それが今の自分の刀。人の命を絶つ武器の重さ。
果たして自分はそれを正しく振れていたのだろうか。
正しく振れていると、胸を張ってあの人に言えるだろうか。
「私は……弱い……私は……脆い……」
一夏に負けた。
機体の性能差のせいだと言い訳をする気はない。
信じていた力で負け、まるで『失敗作』の烙印を押された時のような絶望感に落ちていく。
一夏とシャルルはもう、自分などいなかったとばかりに激しい戦いを展開している。
アリーナの観客達の目も二人の戦いに集中して、もうラウラのことなど見向きもしていない。
そしてシールドエネルギーもわずかにしかない。
「私の……ま――」
言いかけて、条件反射のようにラウラはその口を閉じた。
『降参だと? まだシールドエネルギーは残っているはずだ』
『しかし、相手との残量の差でこのまま戦っても私の負けは確実です。これ以上の戦闘の継続に意味はないかと思います』
『それでも貴様は軍人か? お前は自分がもう勝てないから戦うことを諦めるということは、お前の後ろにある民間人の命を差し出すことと同じだ!』
「諦めることは……教わっていない」
まだわずかでもシールドエネルギーは残っている。
手足だって動く。目も見える。
武装はなくても、それで十分だ。
「私は……まだ、ここにいるぞっ!」
自分を無視して戦っている二人にラウラは咆哮を上げ、左目の眼帯を投げ捨てる。
弾幕を張って高速機動で飛び回るシャルル。その機動の先に空間跳躍で先回りしたファフナーのルガーランスがシャルルを捕らえる寸前、ラウラは『瞬時加速』の勢いでファフナーを蹴り飛ばす。
「ボーデヴィッヒさん?」
「デュノア、そいつをよこせ……いや、貸してくれ」
「え……?」
「私の武装はAIC以外にもうない。だから私がお前を援護する」
蹴り飛ばしたファフナーを見据えてラウラは内心で言葉を作る。
――お前が強いことは認めよう……だが、このままでは終われない……
使用許諾されたアサルトライフルと小型ブレード。そして物理盾を受け取ったラウラはそのまま尋ねる。
「何か切り札となるものはあるか?」
「あるよ」
間髪入れずに返ってきた自信のある答え。
「ならば、私が奴に空間跳躍を使わせる。その直後にお前が決めろ」
「でも、ボーデヴィッヒさんのシールドエネルギーはもうほとんどないでしょ?」
「何とかしてみせる。私にも意地があるからな。それから……」
「それから?」
「ラウラでいい」
一方的に言ってラウラはファフナーに向かって加速する。
ライフルを乱射しながら接近し、『瞬時加速』で一気に懐に入り込む。
が、それにファフナーは難なく対応し、ブレードをランスで受け止めて払い除ける。
反撃に繰り出される突きの予備動作を『越界の瞳』で捕らえて、回避行動を取る。
顔のすぐ脇を鋼の刃が擦過して、髪が落ちる。
――『越界の瞳』を使ってなお、追い切れないか……
神経接合システムの恩恵に改めて舌を巻く。
ファフナーの動きはIS操縦者としては熟練者の域にあった。
剣を振るにも腕の力だけではなく、踏み込み、腰の捻り、肩の動き、そして体重移動。
それらが全てうまく機能しているからこそ、予備動作は少なくそれでいて、凄まじいパワーとスピードを両立させる。
「だが、それでもっ!」
喰らいつく、『越界の瞳』の使用で鈍い痛みが頭に苛むが、ラウラはそれでもその瞳を閉じない。
――反応速度では勝てない。だが、私にはお前よりも勝っているものが一つだけあるぞっ!
四度の防御で盾に亀裂が走る。
ラウラは盾をファフナーの顔の前に放り、同時に後ろに飛んで、アサルトライフルをフルオートで撃ち出した。
わずか数瞬、視界を隠されたファフナーの反応が遅れてその身体に銃弾を受ける。
「っ……」
痛みに呻く一夏のくぐもった声が聞こえ、ファフナーの動きが鈍る。
すかさず、ラウラはブレードを構え、『瞬時加速』でファフナーに再び接近する。
ラウラはブレードを前に突き出し注意をブレードに集中させ――横に投げ捨てた。
それを追ってファフナーの視線が横に反れる。
「ここだっ!」
加速の勢いを緩めずにラウラはファフナーの腰にタックルを極める。
が、流石の反応力。
押し倒すことはできず、ファフナーはラウラのタックルを受け止めた。
「この距離なら集中する必要はない」
自分ごと停止結界で周囲の動きを止める。
「お前に見せてやるシュヴァルツェア・レーゲンの奥の手を」
「ちっ……」
実際はそんなものはないのだが、真に受けた一夏はすかさずワームの空間跳躍で停止結界から逃げる。
「デュノアッ!」
「任せてっ!」
*
ハイパーセンサーの感度を高めて、その時を待っていたシャルルは空間跳躍して現れたファフナーに向かって準備していた『瞬時加速』で一気に近付き、ファフナーを射程に入れる。
「このタイミングなら、外さない」
盾の装甲がはじけ飛び、中からリボルバーと杭が融合した装備が露出する。
「まさか、パイルバンカーッ!?」
「一夏にはちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね♪」
情け容赦なく、シャルルは痛覚のあるファフナーに盾殺しを叩き込んだ。
壁まで吹き飛ばされるファフナーにシャルルは追い縋りさらに二発、三発と叩き込み、さらに――
「っ……」
ぞくりと背筋を震わせた悪寒にシャルルはファフナーから距離を取った。
「どうした? あのまま全弾叩き込んでいれば私たちの勝ちだったぞ」
シャルルの行動に不満をさらすラウラ。
「ごめん……何かよく分からないけど……嫌な予感がした」
「いやな予感だと……っ」
シャルルの言葉を聞き、遅れてラウラはそれを感じたようだった。
背筋を冷たくする空気。殺気によく似た気配。
「これは……憎悪か?」
ラウラの呟きに答えるように、変化が起こる。
胸に大きな亀裂が走っていた装甲が緑の結晶に覆われたかと思うと、砕けて修復されていた。
変化はそれだけに留まらず、ファフナーの両肩に緑の結晶が溢れ出す。
音を立てて結晶が砕けると、そこにはそれまでなかったカスタムウイングが存在していた。
「あれは……マークニヒトの武装?」
ハイパーセンサーが新しい武装の情報をネットワークから収得してくる。
――マークニヒト。一ヶ月前にクラス対抗戦に乱入してきた機体の装備がどうしてファフナーに?
疑問に思考を割いていると、ファフナーが動いた。
新たな武装のレーザー発振体から赤いレーザーが上空に放たれた。
「どこに撃ってるの?」
在らぬ方向に向かって撃たれたレーザーの三連射。
しかし、次の瞬間シャルルは血相を変えた。
「ラウラ、僕の下にっ!」
「っ……!」
アリーナの天頂から折り返されたレーザーの雨が降り注ぐ。
シャルルは新たな盾を傘のようにして破壊の雨の衝撃に耐える。
レーザーの雨が止むと、そこは盛大に舞い上がった土煙で視界が利かなくなっていた。
「デュノア、右だっ!」
ラウラの言葉を聞いた瞬間、土煙を突き破って飛来したアンカーケーブルにシャルルは弾き飛ばされた。
壁に叩きつけられたところにさらに鋭いアンカーがシャルルの眼前で止まっていた。
「あ……ありがとうラウラ」
見れば、シュヴァルツェア・レーゲンの右腕が停止結界を展開して上でアンカーを掴み止めていた。
「礼などいいそれより――っ!?」
アンカーを掴んでいたシュヴァルツェア・レーゲンの右腕が突然緑の結晶に覆いつくされ、砕け散った。
残ったのは白いラウラの細く小さい腕だけ。
「ラウラ。今のは?」
「分からん。が、右腕パーツはなくなった」
ようやく晴れてきた土煙。
自分達の上を取って浮遊するファフナーは新たに追加されたカスタムウイングの様相から悪魔のように見えた。
「ど……どうする……?」
直接目視してしまったため、改めてファフナーが自分達に向けているものをシャルルは感じて身震いする。
「まだシールドエネルギーは残っている。身体も動く。ならば戦うだけだ」
「本気?」
「本気だ。次の武器を貸してくれ」
「……君、厚かましいにもほどがあるよ」
言いつつ、シャルルはサブマシンガンを二挺、使用許諾してラウラに渡す。
寸前、させまいとファフナーがルガーランスのプラズマ弾を撃ち込んできた。
咄嗟に身を翻し、出した武装でシャルルはそのままファフナーを撃つ。
「え……?」
ファフナーは回避行動を取らずに、左腕を前にかざす。
そこに現れた四角い力場が銃弾を受け止めた。
「うそ……まさかAIC?」
まるでシュヴァルツェア・レーゲンの特殊武装のように銃撃を防いだファフナーにシャルルは目を見張る。
しかし、驚きはそれだけでは留まらなかった。
銃弾を受け止めた力場が飛んで来て、左腕ごとサブマシンガンを捕らえた。
三つの力場が武装と手首、そして腕にかかり、それはすぐに起きた。
「うわあっ!?」
三つの力場が捩れるように回転してサブマシンガンとラファールの腕をひしゃげる。
「左腕パージッ!」
咄嗟に命令を出して、左腕を強制解放して生身を逃がす。
投げ出されたラファールの左腕が空中で捻り潰される。
「何……これ……まさか、これがラウラの言ってたAICの奥の手?」
「そんな機能はない」
「ブラフだったの!?」
プライベート・チャンネルからのラウラの言葉にシャルルは思わず叫ぶ。
「っていうか、それじゃあ、あれは何なのっ!?」
「おそらく……AICを空間に直接作用させて、不可侵の盾を作っているのだと思う……
さらにはそれを三層で敵を拘束して、それぞれに違うベクトルの回転をかけることで攻撃に転用している……ようだ」
「何それっ!? 何で一夏が当たり前みたいに第三世代型の特殊能力を単一仕様能力に発展させて使ってるの!?」
「いや、私に言われても……その困る」
「だいたい偏向レーザーだってイギリスの第三世代型の理論技術のはずだよね?」
「デュノア、一つ偉大な人の言葉を教えてやろう」
「何……?」
「諦めたらそこで試合は終了だ」
「…………」
あれだけの力差を見せ付けられてもまだ、戦意を喪失させていないラウラにシャルルは感服して、呆れた。
「あ……」
そこでそれにシャルルは気が付いた。
戦闘中だというにも関わらず、送りつけられたメールが勝手に開き、文面をシャルルの前に表示させる。
それを読んで、シャルルは来賓席にいる父親を見た。
「ごめん……ラウラ」
「いきなり何を言い出す?」
命令が更新された。
だから、シャルル・デュノアはそれを実行する。
『ヴァルキリー・トレース・システム』
本来は解決まで書こうとしたんですが、長くなったので一旦切ります。
弓子さんではなく、芹にすべきだったのだろうか。
でも、芹はあくまで広登の付き合いだったから、うーん……