ISのファフナー Siegfried and Brunhild   作:アルカンシェル

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「何をやってるんだろうな、みんな……」

 

 一人でいる一夏は暇を持て余していた。

 室外から出ることを禁じられたため、千冬の同室である一夏は話相手もいなければ、暇を潰す娯楽もない。

 

「何だろう……これは……敵意?」

 

 ピリピリと刺すように感じる何かが近付いていることが何となく分かる。

 

「あれは……セシリアと鈴」

 

 窓の外を眺めていると、浜辺の方から二人が敵意の方へ飛び立った。

 

「っ……」

 

 慌てて一夏は部屋から飛び出した。

 

「何処に行くつもり織斑?」

 

「狩谷先生……」

 

 部屋の前で待ち構えていた狩谷が出てきた一夏を迎えた。

 

「室外に出たら教師たちが拘束する、そう言っておいたはずよ」

 

「分かってる。でも……嫌な予感がするんです」

 

「嫌な予感?」

 

「敵意が近付いている。たぶん、ファフナーとは違うミールがいる」

 

「そう……」

 

「だから――」

 

「今は極秘の作戦行動中よ。部外者は大人しくしていなさい」

 

 取り付く島もなく、狩谷は一夏の言葉を遮る。

 

「俺はまだ完全に戦えないわけじゃない」

 

 もどかしさを胸に感じながら、一夏は訴える。

 

「俺が必要なら、使ってくれてかまわない!」

 

「分かったわ。織斑先生にそう伝えておくわ。だから、今は大人しくしていなさい」

 

 

 

 

 

 

「第一迎撃隊、エンゲージ」

 

 薄暗くした室内で千冬は位置情報だけを映したモニターの前に腕組をしてたたずむ。

 

「目標の誘導に成功……福音、移動速度を落として予定進路を外れました」

 

「第一段階はクリアか」

 

 まずは胸を撫で下ろす。

 広域殲滅型のISを市街地から引き離せたことに安堵する。

 そして、それは同時にこちら側も周囲の被害を気にせずに戦えることに他ならない。

 

「第二迎撃隊、エンゲージ……奇襲は……失敗。通常戦闘に移行しました」

 

「そうか……」

 

 奇襲で仕損じたことを惜しくも感じるが、別に撃破に拘る必要はない。

 

「第三迎撃隊、バトルフィールドに移動しろ」

 

「了解」

 

「真耶、アメリカのファング・クエイクの到着予想時間は?」

 

「予定よりも早いです。あと十分もすれば到着します」

 

「そうか……」

 

 作戦は順調だった。

 今も第一、第二迎撃隊は敵を倒すのではなく、逃がさないように戦っている。

 ほどなくすれば、アメリカの二機が到着し、ラウラも揃う。

 計七機による包囲が完了すれば、例え広域殲滅を目的とした機体でも押し勝てるものではない。

 

「アメリカ部隊、エンゲージ……え?」

 

「どうした?」

 

「ファング・クエイクの長距離砲により、ブルー・ティアーズ、撃墜されました」

 

「何だとっ!? 誤射か?」

 

「分かりません。ファング・クエイクαの操縦者、応答してください!」

 

 山田が通信機に向かって呼びかけるが、返事は無かった。

 

 

 

 

 

「やあ、いっくん」

 

 窓の外を、セシリアたちが向かった水平線の彼方をジッと見つめていた一夏の前に束が文字通り顔を出した。

 

「束さん……」

 

「よっと」

 

 そのまま、窓から部屋に入ってくる束。

 一夏は全てを知っていそうな彼女に尋ねる。

 

「束さん。別のミールが来てるんですか?」

 

「さすがいっくん話が早い。そうだよ、敵はファフナータイプのディアブロ型。芽生えさせた能力は他人の機体の制御を奪う力だよ」

 

「箒たちの勝算は?」

 

「本体は隠れてるから、何とも言えないかな……

 未来とは違って、紅椿は強化しといたし、零落白夜も載せた。でも――」

 

「未来ではどうだったんですか?」

 

 一夏の問いに束は珍しくためらって、告げた。

 

「みんな帰ってこなかった」

 

「っ……俺はその時何をしてたんですか?」

 

「いっくんはその時にはもう同化現象が酷くなって学園で寝たきりの状態だったよ」

 

「なら――」

 

「いっくん、束さんからお願いがあるんだけど」

 

 一夏の言葉を遮って、束は真剣な表情でそう言った。

 彼女が何を言うのか、予想がついていた一夏は躊躇わずそれに頷いた。

 

 

 

 

「何っ!?」

 

 突然のセシリアを落とした砲撃にシャルロットは声を上げる。

 それは敵である福音による攻撃ではなかった。

 

「大丈夫、セシリア!?」

 

「だ、大丈夫ですわ。でもスラスターが大破してしまいました」

 

 しっかりとした返事にシャルロットは安堵して狙撃手を探す。

 射線は福音とは真逆の方向から撃たれた。

 そちらに意識を向けると、ハイパーセンサーが新たな敵影を捕らえた。

 

「アメリカのファング・クエイク? でも、あれは何……?」

 

 二つの機体コードは来ると知らされていたものと一致していたが、目視で確認して異常が見て取れた。

 

「金の結晶……?」

 

 操縦者がいる場所には金色の結晶の塊があった。

 

「人は乗っていないの?」

 

 疑問を口にすると同時に、そのファング・クエイクにロックされたことが知らされる。

 

「くっ……」

 

 咄嗟に回避行動を取ってファング・クエイクαからの砲撃を避ける。

 

「シャルロットっ、上っ!」

 

 それに合わせたファング・クエイクβの砲撃を無理な体勢になって避けたところで福音の羽が降り注ぐ。

 防御パッケージ『ガーデン・カーテン』で防ぐものの、その場に釘付けにされたシャルロットはファング・クエイクからの攻撃警告を受ける。

 

 ――まずい……

 

 そう思ったところで、甲龍の拡散衝撃砲と、紅椿の雨月による光線がファング・クエイクの砲撃を撃ち落した。

 

「ありがとう、二人とも」

 

「礼なんていいからすぐにそこから離脱しなさいっ!」

 

「それより、まずいことになったぞ」

 

 箒も何のことを言っているのかすぐに分かった。

 目の前に並び立つ福音と二機のファング・クエイク。

 争う素振りは無く、むしろ仲間だと言わんばかりの様子だった。

 

「数の利はなくなった。相手は三機とも軍用IS」

 

「セシリアは行動不能、ラウラが到着するのにはあと十分かかる」

 

「だが、一人一機のノルマだ。福音は私がやる」

 

「箒、不足の事態が発生してるんだよ。ここはまずラウラと合流することを第一に考えて、最悪は撤退も――」

 

「撤退はダメだっ!」

 

 シャルロットの言葉を箒は強く拒絶した。

 

「撤退したら、私達がここで退いたら、次は一夏が召集されるかもしれない」

 

 金の結晶と緑の結晶。

 それが無関係だとは思えない。おそらくはファフナーとは別のミールが存在しているはず。

 

「一夏を戦わせるのだけはダメなんだ」

 

「確かにそれはないわね」

 

 箒の言葉に鈴が真っ先に同意する。

 司令部に指示を仰ぐべき段階の異常事態だが、シャルロットも異を唱えることはしなかった。

 

「いくぞっ!」

 

 箒の号令に、散開する。

 それに合わせて、福音とファング・クエイクも三方に分かれた。

 シャルロットは高速切替を用い、相手の戦法を分析していく。

 

 ――アメリカの第三世代型……

 

 コンセプトは鈴の甲龍と同じ安定性と効率を重視した機体。

 そのため、奇抜な兵装は無いが四基のスラスターによる個別連続瞬時加速を行えることが特徴だった。

 そして、その加速にシャルロットは翻弄されていた。

 

「本当に無人機なの!?」

 

 人が操作しているとしか思えない複雑な機動。

 要所で瞬時加速を織り交ぜられ、急激な離脱と接近を繰り返される。

 間合いが離れて遠距離武器に変えた瞬間に逆に間合いを詰められる。

 見れば、鈴も同じように苦戦していた。

 

「鈴、十秒後にスイッチ!」

 

「了解」

 

 シャルロットは自分が相手をしていたファング・クエイクαに閃光弾と音響弾、それにチャフをグレネードで乱射して、機首を鈴と戦っているファング・クエイクβに向けた。

 鈴がファング・クエイクβを衝撃砲で吹き飛ばす。

 そこにシャルロットは瞬時加速を発動させ、一気に肉薄する。

 

「もらったっ!」

 

 六十九口径のパイルバンカー、盾殺しをファング・クエイクβの胸に叩きつけて引き金を引く。

 

「…………え?」

 

 その衝撃に金の結晶が砕け、中からデータで知らされた女性が現れた。

 

「何……これ……?」

 

 人が乗っているのなら絶対防御が発動して、衝撃は吹き飛ぶ力になっていたはず。

 なのに、発射された杭はISの絶対防御などなかったかのように人体を貫通し、シャルロットの上に赤い雨を降らせた。

 

「うわあああああああっ!?」

 

 

 

 

 

 

「どこに行くの一夏っ!?」

 

 束に連れられて窓から外に出た一夏は背後から呼び止められた。

 

「簪……」

 

「やあ、かんちゃん。こんなところで奇遇だね」

 

「篠ノ之博士、一夏をどうするつもりですか?」

 

「かんちゃんが考えている通りだよ」

 

「そんなことをしたら一夏は――」

 

「でも、ここでディアブロ型を止めないと、かんちゃんがたっちゃんを殺さないといけない未来になるよ」

 

「っ……」

 

 束の指摘に簪は息を飲んで口をつぐんだ。

 

「束さん、それはどういう意味ですか?」

 

「今、箒ちゃんたちが戦っているISを操っているミールはこの後、IS学園を強襲するの、その時にたっちゃんは他の生徒を守ってディアブロ型に食べられちゃったの」

 

「そっか……守るものが増えたな」

 

 これまでたくさん迷惑をかけた楯無も守れることに一夏は笑みを浮かべる。

 そんな一夏に簪は縋りつくように近付く。

 

「……ダメ……行っちゃ……ダメだよ」

 

「ずっと考えていた、最後の生き方を」

 

「行かないで……」

 

「今日、命の使い道を教えてもらった」

 

 彷徨い出された簪の手を取って一夏は続ける。

 

「こいつに教えてやらなくちゃいけないんだ。憎悪じゃない思いを……

 新しく生まれ直すこいつに、未来でできなかった祝福を俺があげないといけないんだ」

 

「一夏……」

 

「ありがとう……止めてくれて。ありがとう、一緒の未来が見たいって言ってくれて、嬉しかった」

 

「行かないで一夏っ! 私は――っ!?」

 

 簪の言葉を遮って、彼女の手が結晶に包まれた。

 

「っ……」

 

 激痛に顔を歪める簪に一夏はすぐに手を放すと、結晶は砕けて消えた。

 

「ごめん、ありがとう……さよなら」

 

 崩れ落ちる簪を束に任せてる。

 

「束さん、簪のことよろしくお願いします」

 

「うんうん、かんちゃんには束さんの最高のバックアップを約束しちゃうよん!」

 

 束の答えに笑みを返して、一夏は浜辺を歩き出した。

 その先に何故か彼女がいる。そう思った。

 

「何をしている、織斑?」

 

 予感の通り、そこに織斑千冬がいた。

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああっ!?」

 

「何よ、それ……?」

 

 悲鳴を上げるシャルロットに対して、鈴は呆然とそれを見ていた。

 ファング・クエイクを貫通して背中から突き出た杭は赤く染まっている。

 

「まさか、これって人なの!?」

 

 結晶の塊が人だと思っていなかった。

 

「僕……人を……打った……違う、そんなつもりじゃなかった!」

 

 半狂乱になって叫ぶシャルロットに鈴は舌打ちするのを堪える。

 数の上では一機落として、三対二になったがシャルロットはもう使い物になりそうになかった。

 

 ――忘れていた。これは実戦だったんだ……

 

 競技ではないのだから当然命の危険は承知していた。

 だが、逆に自分が人を殺してしまう可能性を考えていなかった。

 

「きゃあっ!?」

 

 動揺に動きを止めていた鈴は、先程までシャルロットが相手をしていたファング・クエイクαからの攻撃を受けて右の龍砲が破壊された。

 

「マズ――」

 

 バランスを崩した機体を立て直そうとしているところに、ナイフを両手に装備したファング・クエイクが迫る。

 脳裏に先程の光景が浮かび、思わず身が竦む。

 しかし、遠く離れた場所からの砲撃がファング・クエイクに命中して鈴を救った。

 

「ラウラッ!」

 

「すまない、遅くなった。セシリア、動けるならシャルロットを回収して戦域を離脱してくれ」

 

「了解しましたわ」

 

「鈴、お前は私とツインドックを組んで迅速にもう一体のファング・クエイクを落とす。そしてすぐに箒の援護だ」

 

「落とすって、あれは……」

 

「止めは私が刺す。援護もできないのならすぐに撤退しろ」

 

「っ……できるわよ。やってやるわよっ!」

 

 萎縮しそうな心に活を入れて、鈴はファング・クエイクαを睨み付けた。

 福音の援護に向かおうとするファング・クエイクαに追従して、行かせまいと残った衝撃砲を撃って進路を塞ぐ。

 大きく旋回するファング・クエイクの機動を牽制し、ラウラの方へと誘導していく。

 砲戦パッケージを装備しているシュヴァルツェア・レーゲンが両肩の大砲を交互に撃ち込む。

 それに合わせて鈴も衝撃砲を撃ち込む。

 

「――命中、畳み掛けろ鈴っ!」

 

 砲撃が当たりファング・クエイクαが大きく体勢を崩す。

 

「さっさと落ちろっ!」

 

 そこに鈴が双天牙月を振り上げて斬りかかる。

 

「っ……!?」

 

「きゃあっ!?」

 

 そこに何処からともなく飛来してきた黒いリングにラウラと鈴は襲われた。

 

「くそっ、新手か」

 

 ラウラは破壊された砲台を捨てて、今の攻撃をしてきた敵影を探す。

 しかし、他の敵影はどこにもいなかった。

 そして、ラウラの意識が一瞬だけ離れていた空白でファング・クエイクαは箒と福音の戦場に向かって飛翔した。

 

「しまった!」

 

 

 

 

 

 浜辺で一夏と千冬は向き合った。

 悟ったような穏やかな雰囲気をまとう一夏とは対照的に、千冬は剣呑な雰囲気を纏って、腰に佩いた刀の柄を握り締める。

 

「もう一度聞く。何をしている織斑一夏。待機命令は解除していない。すぐに部屋に戻れ」

 

「千冬姉……俺は行くよ」

 

 その一言に千冬は動いた。

 一夏の目には捉えられない速度で踏み込み、居合いの要領で抜き放った刀を一夏の、ISの腕輪がある右腕に走らせる。

 

「っ……」

 

 一夏は何もできなかったが、何もしなかった。

 千冬の刀は一夏の二の腕を浅く裂き、そこで止まっていた。

 

「ば……か…………もの……が……」

 

 目を伏せて俯く千冬は刀を砂浜に落とす。

 一夏は立ち尽くす千冬の横に並び、顔を見ない、見せないように話かけた。

 

「ありがとう、千冬姉」

 

 今までの全てを込めて言った。

 

「今まで育ててくれて」

 

 そうして、千冬の横から前に足を踏み出して、一夏は最後になるファフナーを展開した。

 

 

 

 

 箒と福音の戦いは箒の優勢でことが進んでいた。

 本来なら燃費の悪い武装ばかりの紅椿では、すぐにエネルギー切れを起こしてしまう。

 だが、アクセラレータの効果によってその消費はかなり抑えられていた。

 福音の三十六の砲口から撃ち出される羽の弾丸を機動だけで振り切り、雨月と空裂で弾幕を引き裂き、雪片で斬りかかる。

 寸前で避けられるが、それは福音が防御や逃げに徹しているからであり、追い詰めるのは時間の問題だった。

 

「いける」

 

 確かな手応えを箒は感じていた。

 驚異的な物量攻撃を持っているが、接近戦能力はそこまで高くない。

 そして距離を取られても紅椿の加速なら、容易に福音の懐に入り込める。

 しかし、不意に福音は箒から踵を返し、在らぬ方向に羽を撃ち出した。

 

「――しまった。セシリア、シャルロットッ!」

 

 福音が羽を撃ち出した先にいる二人を見て、箒は叫び動いていた。

 紅椿の加速なら十分に間に合う距離。

 機体性能を高めるアクセラレータが唸り、紅椿は箒の願いを受けて加速する。

 

「待てっ! 行くな箒っ!」

 

 ラウラの声が届いた瞬間、箒は軌道を読んだファング・クエイクに直上から襲撃された。

 高速機動をしていた紅椿は予想以上のダメージを受けて、背中のウイングが砕け散る。

 

「ぐあっ!」

 

 激しい衝撃を受け、失速して墜落する箒は無数のエネルギー弾に降り注がれる二人に手を伸ばす。

 

「やめろ……やめろっ!」

 

 箒の叫びは空しく響き渡り、羽が着弾――

 その瞬間、一条の光が無数に撃ち出された羽の弾丸を一気に薙ぎ払った。

 

「え……?」

 

 そして、落下していた箒は誰かに受け止められた。

 

「……一夏……?」

 

 目の前に現れたのは濃紺のIS、ファフナーだった。

 

「何で……何でお前がここにいる?」

 

 助けてくれたことに感謝することも、ファフナーを起動させたことに怒ることも、何も考えられず箒は呆然と尋ねた。

 

「箒たちがいなくなるって言われた」

 

「一夏……」

 

「守るよ。みんなを、それがたぶん俺の命がまだここにある理由だから」

 

 一夏は近くの孤島に箒を降ろして、自分は逆に空に身を翻す。

 

「これが俺が箒たちに残せる、祝福だっ!」

 

 

 

 

 ファング・クエイクαが有らん限りの武装を展開して、ファフナーを迎え撃つ。

 ミサイルや銃弾の嵐。

 ファフナーは左腕を虚空に振り払い、そこから紫電を迸らせる。

 一瞬で全ての攻撃が紫電を伴って発生した無数のワームスフィアに飲み込まれて消失した。

 ファング・クエイクαはその現象に慄き距離を取ろうとする。

 

「逃がさない」

 

 ファフナーは肩のホーミングレーザーを撃ち出す。

 身体を削りつつも、逃げ延びるファング・クエイクα。

 

「逃がさないって言ったはずだ!」

 

 その軌道の前にファフナーが空間跳躍して待ち構え、すれ違い様にルガーランスを一閃してファング・クエイクを落とす。

 

「La…………♪」

 

 その直後に福音の羽が降り注ぐ。

 羽に見立てた弾丸が、ファフナーに突き刺さり爆ぜる。

 

「おおおおおおっ!」

 

 しかし、破損した箇所は一瞬で緑の結晶に包まれ、修復される。

 ファフナーは左腕を前に突き出して、高密度障壁を展開。

 立て続けに放たれた羽をそれで受け止めると同時に、障壁を飛ばして福音のウイングスラスターを捻じ壊す。

 墜落していく福音。

 一夏は荒くなった息のまま、力を使う。

 

「そこにいるのは分かっているぞ――来いっ!」

 

 隠れてほくそ笑んでいた気配を捕まえて、一夏は力でそいつを目の前に引き寄せる。

 

「ファフナー、ディアブロ型……こいつが――」

 

 金色の人型。

 右腕が鞭にも見える鋭い槍なのが特徴的だが、全体の造りはファフナーに似ている。

 しかし、外見は禍々しいまさに悪魔のような風貌だった。

 

「悪いが……お前には無に帰ってもらう!」

 

 突然、移動させられたディアブロは戸惑いながらも、ファフナーから距離を取り、手を上にかざす。

 その手の平から三つのリング状のワームスフィアが浮かび上がり、放たれた。

 

「くっ……」

 

 ルガーランスで受け止めるが、防ぎ切れずに刀身が折られ、ファフナーの胸に傷を刻む。

 

「ワームスフィアの変形か……」

 

 ファフナーはアンカーケーブルを射出する。

 一夏の意のままに動くアンカーは縦横からディアブロを追い詰めて、右腕に突き立つ。

 その右腕が緑の結晶に埋め尽くされ、消失する。

 

「ちっ……同化は無理か」

 

 ディアブロはファフナーと同じように、ただし金の結晶を溢れさせて右腕を修復する。

 

「来いっ!」

 

 一夏は周囲に打ち捨てられた武器を呼び出し、それぞれをアンカーケーブルに同化させる。

 

「行けっ!」

 

 銃火器を内蔵したアンカーは威力を強化された弾丸を吐き出しながら、ディアブロに襲い掛かる。

 容赦なく追い詰める様はどちらが悪魔なのか分からなかった。

 六基のビットと化したアンカーに翻弄されるディアブロ。

 一夏はルガーランスを修復させ、瞬時加速を発動して一気に肉薄する。

 それを拒絶するようにディアブロは手を前にかざして、障壁を展開した。

 ルガーランスの穂先と障壁が激突して、激しい光が迸る。

 

「うおおおおおっ!」

 

 穂先がバリアーにめり込む。

 そこでルガーランスの刀身を展開し、内部に直接プラズマ砲を撃ち込んだ。

 咄嗟に身を捩り、ディアブロは直撃を避けるものの、右肩を大きく穿たれて悲鳴を上げる。

 

「これでっ!」

 

 止めを刺そうと迫るファフナー。

 しかし、横から飛び出してきた福音の体当たりに阻まれた。

 動きを封じるように福音に下半身を押さえ込まれる。

 その隙にディアブロはファフナーに背を向けて逃げ出した。

 

「まだだっ!」

 

 渾身の力を込めて、ファフナーがルガーランスを投げる。

 一瞬、遅れて倒したはずのファング・クエイクαが右腕にしがみ付き、左腕に胸に大穴を空けたファング・クエイクβが同じようにしがみ付く。

 投擲したルガーランスはディアブロ型の背中に突き刺さり、失速して墜落、海に消えた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 その光景を見届けて、一夏はやり遂げたのだと息を吐いて安堵した。

 

『フェンリル、スタート』

 

 三方向から聞こえる自爆装置の起動。

 

「……最後の仕事だ。ファフナー」

 

 結晶がゆっくりと生えてくる身体を一夏は見下ろした。

 身体を引き裂く痛みは感じない。

 むしろ直前まで荒ぶっていた心は穏やかに澄み渡っていた。

 

「……いなくなるのは……俺一人で十分だ」

 

 背面のスラスターの出力を結晶で増幅し、三機のISに組み付かれたまま一夏は空へと飛翔した。

 

 

 

 

 

「待て一夏っ! 何をするつもりだっ!?」

 

 急上昇を始めるファフナーに向かって箒が叫ぶ。

 

「飛べ紅椿っ! 一夏が、一夏が!」

 

 しかし、背面のウイングを失っている紅椿の加速では、例え三機のISを乗せていてもスラスター出力を増幅させて飛ぶファフナーに追いつかなかった。

 

「待てっ! 行くなっ! 一夏っ!!」

 

 空に向かって描かれるスラスターが作る飛行機雲に向かって、箒は必死に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

「一夏っ! 何をしている!? 一夏っ!」

 

 本当の敵を圧倒的な力で倒したファフナー。

 しかし、まだ状況は終わっていなかった。

 千冬は何度も何度も通信で呼びかける。

 そうしてやっと答えが帰って来た。

 

「ごめん……千冬姉……もう……帰れそうにない」

 

「何を言っている。すぐにそいつらを振り払ってその場を離脱しろっ! そうすれば――」

 

「それは……ダメだ……こいつらを……ここで爆発……させたら……みんな……いなくなる」

 

「っ……」

 

 それは千冬も分かっている。

 だが、それでもと、言おうとして口をつぐむ。

 

「俺が……おれが……みんなを……まもるんだ」

 

「一夏……」

 

「ちふゆ……ねえ……ちふゆねえ……」

 

「何だ? 一夏……もっとお前の声を聞かせてくれ。もっと話をして――」

 

「ちふゆねえって……だれ……だっけ?」

 

 その言葉に千冬は心臓が止まったように感じた。

 

「っ……は……っ……ち、千冬姉は……お前の姉の名前……だ」

 

「あね…………そうだ……おれには……すごい……ねえさんがいて……」

 

「ああ……」

 

「そのひとがたいせつで……おれは……みとめてほしくて……おれは……」

 

「一夏……」

 

「おれは…………ねえさんみたいに……だれかを……まもれた……の……」

 

「一夏っ。お前は……お前は……」

 

 込み上げてくるものでそれ以上の言葉が続かなかった。

 たくさん言いたいことがある。たくさん褒めてやりたい。たくさん叱ることだってある。

 なのに何一つ言葉が作れない。

 

「ああ……きれいな――」

 

『フェンリル、エクスキュート』

 

 一夏の言葉を遮って、機械の無機質な声が響く。そして、そこで通信が途切れた。

 遅れて爆発の衝撃が鈍く千冬の身体を揺らした。

 

 

 

 

「一夏……」

 

 差し出した手の向こうで大きな光が閃いて、消えた。

 

「一夏……嘘だ。何で……ようやくお前を守る力を手に入れたのに……何で……!?」

 

 紅椿が認めたくない情報を無感情に押し付けてくる。

 

「一夏……一夏っ! 一夏っ!!」

 

 箒の慟哭が、澄み渡った蒼い空に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

19 翔空―ぎせい―

 

 

 

 






 燃え尽きました。
 一番初めに考えた山場です。もう思い残すことはありません。
 どうせ、この後に残っているのは幼女との対話とスーパーザインタイム……うん、超重要ですね。


 一応、言葉が少なかった千冬姉のためのフォロー。
 言葉では一夏は止まらないと分かっているため、ファフナーと一夏を切り離す最終手段である。結晶化されるよりも早く物理的に切断することを実行する。
 しかし、結局千冬は一夏を斬ることはできず、止めることもできなかった。

 この話のスーパーザルヴァートルモデルの作り方。
 複数のISコアを同化して、三機分のフェンリルでチンします。これくらいしか思いつきませんでした。
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