ISのファフナー Siegfried and Brunhild 作:アルカンシェル
今回は少し短いです。
「先行し過ぎよ箒っ!」
鈴の忠告など箒に耳に入ってなかった。
「何で……」
形態移行の瞬間、絶対防御に匹敵するバリアーが発生することは確認されている。
だが、それは三機分のフェンリルに耐えられるものではない。
もしかしたら、二次移行することで単一仕様能力を芽生えさせ、その力で生き残ったのかもしれない。
コアが操縦者を守る。
そんな仮説も上がったが、その全てがどうでもよかった。
何にしても奇跡は起こった。しかし、その奇跡は箒が望んだものではなかった。
「何でお前なんだ!」
箒は叫ぶ。
束に修復された紅椿を駆り、見つけた敵に向かって突撃する。
「何で一夏じゃないっ!」
隠す気のない突撃に福音はすぐに反応した。
ファフナーに捻り壊された大型のウイングスラスターの代わりに光の翼を広げる。
その光の翼の全てが砲口を兼ねているのか、第一形態の時の比ではない量の弾丸が一斉に放たれた。
「ああああああああああっ!」
全身の展開装甲を雪片とリンクさせ、全身に零落白夜を展開させる。
アクセラレータが起動しているが、それでももの凄い勢いでシールドエネルギーが減少していく。
その消費では一分も持たずにエネルギーが枯渇する。
だが、その消費に見合う価値はあった。
視界を埋め尽くす弾幕を一気に駆け抜けて、逃げようと急加速した福音を追い縋る。
「くらえぇっ!」
そのまま箒は雪片を振り下ろす。
が、福音は身を捩りその斬撃を避けると、回し蹴りで箒を蹴り飛ばした。
「ぐぅ……」
零落白夜の起動が途切れ、一気にエネルギー残量が危険域に入る。
そこに福音は頭上で集束させたエネルギー塊から一つにまとめたエネルギー弾の束を撃ち放った。
命中する寸前、鈴が横から掻っ攫うようにして箒をその砲撃から助け出した。
「言わんこっちゃない。少しは――」
「一夏だっ!」
「はぁ!? いきなり――」
「今の動き、一夏の動きだったっ!」
「そんなわけないでしょ! 機体コードもパイロット認証も一夏のじゃない、あれは一夏じゃないわよ」
「だったら今のは何だったんだ!?」
昼間の戦いで福音は格闘戦をしてこなかったが、今はしてきた。
たった一度の攻撃だったが、あれは篠ノ之流古武術だった。
二人が言い合っている間に、セシリアとラウラが福音と戦闘を開始する。
第二移行した福音の機動力は凄まじく、その戦い方も変わっていた。
距離を取って弾幕を張る以前とは違い、接近しても砲台の制限がなくなっているから密着した体勢でも羽の弾丸が撃ってくる。
「だったら何で一夏があたしたちに攻撃してくるのよっ!?」
「それは……」
箒は口ごもる。所詮は根拠のない勘でしかない。
だが一度違和感を持ってしまうと拭えない。
「あんたはもう下がってなさい、あいつはあたし達で落とす。一夏の弔い合戦よ」
「待て、それなら私も――」
「そんなエネルギーで何ができるのよ? 素人はすっこんでなさいっ!」
そう言われてしまえば口をつぐむしかなかった。
鈴は言うだけ言って、劣勢な二人に加勢しに行く。
「私は……何をやっているんだ……」
感情のまま突き進み、間違える。
何度も同じ失敗を馬鹿みたいに繰り返す。
戦いたくてももうそのエネルギーはない。
もう三人の戦いを見ていることしか箒にはできなかった。
「…………何だ?」
そうして、遠くで見ていたからこそ箒は違和感に気がついた。
福音の性能は三人のそれと比べて圧倒的だった。
なのに、福音は積極的に三人を落とそうとはしていなかった。
弾幕をばら撒き、何度も何度もその場から離脱することを試みて、三人の包囲を崩せず身を引く。
箒の時に見せた急加速の機動力も見せていない。
「福音は……本当に暴走しているのか?」
暴走していた福音と刃を交えていたから、今の福音がその時とは違うと確信できた。
「だから、何だと言うんだっ! あいつは一夏を殺した敵だっ! どんな思惑があったってあいつは一夏の仇なんだっ!」
『そんな寂しいこと言うなよ、箒』
「一夏っ!?」
その声に振り返るが、そこには当然誰もいない。
しかし、その言葉を箒は反芻して、心を決めた。
「もらったっ!」
二人の援護を受けて、鈴が双天牙月で福音に斬りかかる。
絶好のタイミング。
しかし、その重い一撃を箒は二刀の刃を交差して受け止めた。
「箒っ!? あんた何をっ!」
「そこまでだ。私にこいつと話をさせろ」
「はぁ……あんたいきなり何を――」
「鈴さん」
「何よセシリア……って……え……?」
鈴は声をかけたセシリアに言葉を返すが、答えをもらうよりも先にそれを見た。
「福音が……止まった?」
ラウラが呟いた通り、福音は先程までの戦闘が嘘だったかのように静かにそこに浮かんでいた。
「ちょっと、どういうことよ?」
「こいつには元々、こちらと戦う意志などなかったんだ……私達が襲い掛かったから、応戦しただけでこいつはずっと手加減をして戦っていた」
「待ちなさい。最初に突っ込んで行った。あんたが何をしたり顔で言ってんのよ?」
「それは……何と言うか、すまなかった。だが、お前達だって一番に着いてたら攻撃したはずだ」
箒が返した言葉に三人は在らぬ方向に視線を泳がせる。
「とにかく、いきなり襲い掛かってすまなかった」
箒の謝罪に福音は人間のような動作で首を横に振る。そして――
『Aunt,help my master』
機械の合成音で喋った。
「うそ……」
「ISが……しゃべった?」
「ありえない」
『Aunt,help my master』
驚く三人に対して福音は同じ言葉を繰り返す。
「分かった……私は何をすればいい?」
箒の言葉を受けて、福音は手を伸ばす。その手を箒は取り、腕が緑の結晶に貫かれた。
「っ……」
反射的に振り解こうと動く腕を箒は意志でそのままにする。
紅椿のわずかに残ったシールドエネルギーが福音に吸収されていく。
同時に、福音が見た光景が箒の脳裏に流れ込んできた。
フェンリルが起動した瞬間、コアと操縦者を飲み込んだ緑の結晶。
そして守るように展開された立方体の高密度障壁。
「そうか……お前を助けたのは……一夏だったんだな」
馬鹿な奴だと心の中で罵り、最後まで彼らしかったのだと箒は苦笑する。
そうして福音はフェンリルの焼かれ、それでも操縦者を守ろうと二次移行を果たした。
そして今、操縦者の生命を維持するためのエネルギーも先程の戦闘で尽きようとしていた。
「そういうことか……輸送機を落としたのはエネルギーを吸収して枯渇させてしまったからか」
「まあ、幸いなことに溝口さんを始め、乗組員は全員無事でしたからいいですけど」
「みんな……すまない……福音にエネルギーを分けてやってくれ」
ギリギリまで紅椿のエネルギーを渡した箒はラウラたちに呼びかける。
「一夏が救った命だ。無駄にさせるわけにはいかないな」
「あとでアメリカに抗議文を送らせてもらいますわよ」
ラウラとセシリアは福音の肩にそれぞれ置くと、箒の時のように緑の結晶が突き立つ。
「鈴……」
「ああ、もう分かったわよ」
一人だけふくれっ面をしていた鈴は箒に促されて、空いている手を取る。
その瞬間、福音の頭が銃撃を受けて大きく仰け反った。
「なっ!」
驚き思考が止まる。その間に第二射が今度は箒を狙って飛来した。
「ちっ……」
ラウラがその狙撃弾をAICで受け止める。
「福音をっ!」
その言葉に箒は我に返って落下していく福音を追い駆けて、捕まえた。
絶対防御が発動したのか、せっかく分け与えたエネルギーは今の一撃でほとんどなくなってしまった。
「誰だ……誰が撃ったっ!」
叫び、見上げればそこにはオレンジの機体があった。
ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ。それに乗っているのは当然、シャルロットだが、その様子に箒は息を飲んだ。
「みんな……」
ファング・クエイクの操縦者とは違って、全身が金の結晶に覆われてはいない。
だが、身体の至る所から金の結晶を生やし、苦しげにシャルロットは訴える。
「身体が……勝手に動く……逃げて……みんな、逃げてっ!」
そう言って、シャルロットは両手にアサルトライフルを装備してラウラたちに銃口を向ける。
そんな彼女の背後にファフナーに似た金のISがいた。
「ディアブロ型……生きていたのか」
束が置いていった資料にあった人を操る能力を持つミール。
ルガーランスの投擲で身体を貫かれ、倒されたと思ったが、そうではなかったようだ。
シャルロットとラウラたちの戦いを高みの見物をしているディアブロ型がまるでその様子を嗤っているように思えた。
「行けっ! シャルロットは私が抑える。お前達は奴を倒せっ!」
ラウラがシャルロットをAICで押さえ込み、セシリアと鈴がディアブロ型に向かっていく。
しかし、一夏にあっさりとやられていたディアブロ型は決して弱くはなかった。
むしろ一夏のファフナー並みの反応速度で二人の攻撃を捌いてく。
「ダメッ! ラウラ逃げてっ!」
「なっ!?」
シャルロットが手元にグレネードを展開、そのまま爆破させラウラを巻き込む。
そうしてAICを振り切ったシャルロットは爆煙に紛れて鈴に肉薄し、盾殺しを叩き込んだ。
「きゃあっ!」
「もうやめてっ! 誰か! 誰か僕を殺してっ!」
悲痛な叫びを上げるシャルロットに、セシリアが唇を噛み締め、シャルロットにスターライトmkⅢを向ける。
銃撃を交わす二人に箒は無力感に絶望していた。
『Help my master――Help my master――Help my――』
腕の中で福音が機械音声を途切らせる。
「私は……なんて無力だ……」
動かなくなった福音を抱き締めて箒は涙を流す。
「頼む……紅椿……私に力をくれ……どんな代償も背負う……だから……だから……」
セシリアが背後からディアブロ型の右腕の槍に貫かれた。
「私はもう誰かを失いたくないっ!」
箒の願いに紅椿が応えた。
胸部と大腿上部のパーツが開き、アクセラレータが金の光を伴って回り始める。
エネルギー切れで閉じていた展開装甲も開き、同じ色の光を溢れ出す。
――単一仕様能力『絢爛舞踏』、発動。展開装甲とのエネルギーバイパス構築、バトルフィールド形成……
溢れた金の光は粒子となって周囲に霧のように漂う。
自身のエネルギーゲージが見る間に回復し、さらには金の粒子に触れた鈴たちの機体のエネルギーも回復していく。
「…………ここは?」
箒の手の中で機械音声ではない確かな声が発せられた。
「目が覚めたのか?」
一筋の光が見える。
紅椿と福音の力があれば、あのディアブロ型を倒せるかもしれない。
そうすれば操られているシャルロットも解放されるはず。だから――
――六時方向より複数の機体接近、機体識別、打鉄が四。ラファール五……
IS学園からの応援に箒はさらなる希望を抱き、振り返った。
そして――絶句した。
「鷹月……相川……四十院……」
それに鈴と同室のティナの他に別のクラスの箒の知らない者たち。
ISに乗ってそこに現れた全員が金の結晶に蝕まれていた。
「あ……」
絢爛舞踏の光が消え失せる。
シールドエネルギーは満タンになったのに、戦う気力が湧いてこなかった。
ゆっくりと顔を上げるとディアブロ型と視線が交わった。
そして、その傍らに浮かぶ金の結晶に蝕まれたセシリアが箒にライフルを向けた。
それを合図に、新たな九機それにシャルロットを含めた十機がセシリアを中心に横隊を組んで銃口を箒と福音に向けた。
ディアブロ型は重なる悲鳴を無視して、嗤う気配をまとって手を挙げて、降ろした。
一斉に全ての銃口が火を吹く。
レーザーが、銃弾が、グレネードが雨のように箒に降り注ぐ。
――これまでか……
箒はそっと目を閉じる。
――今からそこにいくぞ一夏……
しかし、身体を撃ち抜かれる衝撃はいつまで経ってもこなかった。
箒はゆっくりと目を開く。
――そこに、『白』が、いた。