ISのファフナー Siegfried and Brunhild   作:アルカンシェル

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2 夏祭とあらしと

 

「あなたは――そこにいますか?」

 

 空から降り響き渡った澄んだ声。

 日本ではあるはずのないオーロラのカーテンが広がる空に誰もが言いようのない不気味さを感じる。

 その時間に上がるはずだった花火を中断され、代わりに金の光が夜の街を照らした。

 

「あれは……」

 

 空に現れた金色に輝く存在に一夏は思わず見惚れた。

 人体を思わせる体躯。まるで宝石が人の形になったかのような存在に一夏だけではなく箒も目を奪われていた。

 

「あれも……ファフナーなのか?」

 

「ファフナー?」

 

 箒が呟いた言葉を一夏は繰り返す。

 聞き覚えのない言葉なのに、すんなりと心に入ってくるその言葉に一夏は懐かしさを感じる。

 しかし、それを問いただすよりも先に一夏は箒に尋ねた。

 

「なあ、箒。あいつ、こっちを見てないか?」

 

「何……?」

 

 それと自分達の間にはかなりの距離があるのに、それの意識が自分達の方に向いている気がした。

 黄金色の輝きの背後で黒い何かが蠢く。

 

「一夏っ!」

 

 咄嗟に箒は一夏を地面に押し倒して覆い被さる。

 直後、黒い球体ワームスフィアが木々を抉った。

 

「なっ!?」

 

 わずか数秒で黒い球体は現れて、消えた。

 球体が発生した場所にあったものが破壊されたのではなく、消滅した。ただ一つを残して。

 

「しゅたっと!」

 

 消滅した木々の中心から落ちてきた束は見事な姿勢で着地を決める。

 

「…………姉さん、何でここにいるんですか?」

 

「それはもちろん箒ちゃんが大人の階段を――げふんげふん、いっくんの護衛だよ」

 

「いや、そもそも何であれの中心にいて無事なんですか?」

 

 あの黒い球体が何なのかは分からないが、木々を抉るように消滅させたものであることには変わりない。

 なのに、束は何事もなかったかのように無傷でそこにいた。

 

「ふふふ、束さんに一度見せた技は二度も通用しないのんだよいっくん」

 

 得意げに胸を張る束には言いようのない納得が心の奥から湧き上がる。

 

「きゃあああああっ」

 

 遠くから悲鳴が上がり、轟音が立て続けに響き渡る。

 

「なっ!? 無差別に攻撃しているのか!?」

 

 見れば眼下の町が無数の黒い球体に抉られていた。

 

「たぶん、さっきの問いに答えた人を狙っているんじゃないかな?」

 

「何を呑気なことを言っているんですか!?」

 

「大丈夫大丈夫。こんなこともあろうかと、街の各所にワームスフィアの避雷針みたいなのを設置しておいたからまだ人的被害は出てないはずだよ」

 

「そんなもの、いつの間に?」

 

「でも、時間稼ぎにしかならないから。さっさと倒しちゃおう」

 

「……そうですね」

 

 束の言葉に頷き箒は一夏に向き直る。

 

「一夏、お前は簪たちと合流しろ」

 

「箒さんはどうするんだよっ!?」

 

「私は聞いていた通り奴を倒す」

 

 そう言って、箒は高台の柵を飛び越えて、空中に身を投げる。

 

「行くぞっ! 紅椿っ!」

 

 真紅を纏った箒が止める間もなく飛び立つ。

 

「それじゃあ、いっくん。束さんは箒ちゃんのフォローに行くから。いっくんはここでいい子にしてくーちゃんたちが来るの待ってるんだよ」

 

「あ……くそっ……」

 

 止める間もなく二人は黄金の敵に向かって飛んで行く。言いようのない歯痒さを感じながら一夏はもと来た道を振り返り、それと対面した。

 そこにはスーツ姿の髪の長い女性がいた。

 秘密の場所と、箒は言っていたが別の誰かが知っていたとしてもおかしなことではない。

 

「織斑一夏さんですね?」

 

「え、はい……えっと……」

 

 突然、名前を呼ばれて一夏は思わず返事をした。

 少なくてもこの数日の間に会った中の一人ではない。ならば記憶を失う前の知り合いと判断する。

 

「篠ノ之箒さんは……ああ、エウロス型の迎撃に行ってしまいましたか……ちっ、一石二鳥で済ませると思ったのに」

 

 柔らかな物腰と口調が、一変して粗雑なものに変わる。

 

「お前は……誰だ……」

 

 勘で、目の前の女性が知り合いではなく、敵だと判断して一夏は身構える。

 

「悪の組織が一人、オータム様だ。死にたくなかったら大人しく言うことを聞きな、ガキ」

 

 そう言って、女は一夏に銃を向けた。

 直後、銃声が響き渡った。

 

 

 

 

 IS学園からの出撃よりも先に黄金のモンスターの元に辿り着いた箒は加速の勢いをそのままに死角から斬りかかる。

 

「っ……!?」

 

 刀を振り下ろす直前に、敵は背中にも目があったかのような動きでひらりと箒の避ける。

 形は人型。羽らしきものはあっても推進装置はない外見からは想像できないくらいに早い動きに箒は驚いた。

 次の瞬間、敵の背後から黒い光が蠢き、箒を中心にワームスフィアが発生する。

 

「っ……」

 

 凄まじい衝撃に身体が揺さぶられる。

 以前、これを受けた教員のISは一撃で絶対防御を発動させられて落とされた。

 しかし、数秒で黒に埋め尽くされた視界が開けると、紅椿は無傷のままそこにあった。

 

『未来情報から改良を重ねた第五世代の紅椿だよ。そう簡単にやられたりしないよ』

 

 プライーベート・チャネルで届いた束の言葉に箒は安堵の息を吐いて、二刀を構える。

 

「あなたは、そこにいますか?」

 

「私はここにいるぞ!」

 

 敵の気を引くように、箒は質問に答える。

 すると敵の指が鋭く尖り、伸び迫る。

 

「っ!?」

 

 機体そのものを変形させてくるその攻撃に驚きながらも、箒は慌てず、身を翻して十本の触手を斬り払う。

 そしてもう一度、肉薄して右の刀を振り下ろす。

 

「またっ!?」

 

 敵は紅椿よりも遅い。それなのに捕らえることができなかった。

 

『うーん……コア・ネットワークに干渉して心を読んでくるって知ってたけど本当だったんだ』

 

「心を読むっ!? そんなの聞いてませんよっ!」

 

 感心している束に箒は抗議の声を上げる。

 

『大丈夫だよ。読心っていってもレベル1か2くらいだから。レベル4じゃないから箒ちゃんでもきっと倒せるよ』

 

「レベルって……」

 

 元々、意味不明な言葉をよく言う人だったと箒は束の言葉を聞き流す。

 

 ――心が読まれることがなんだ。千冬さんだと思えば誰が敵だって怖くない……

 

 夏休みに入ってから毎日のように立ち合っている相手のことを考えればなんていうことはない。

 それに千冬はわずかな挙動で人の行動を察知する、いわば心眼の持ち主。

 ようはそのつもりで戦えば良いに過ぎない。

 

『ちなみに人間は乗ってないみたいだから、遠慮しないでぶった斬ってだいじょうーぶだよ』

 

「そういうことならっ!」

 

 黒い光の発生に反応して箒はワームスフィアを避け、間合いを詰めずに刀を振る。

 

「空裂っ!」

 

 赤いレーザーを帯状に放ち、それを回避した所を狙って打突を繰り出す。

 

「雨月っ!」

 

 一つの突きで五条のレーザーが撃ち出され、その内の一つの光線が敵を捕らえ、背面の羽を爆散させる。

 しかし、敵は怯まずに再び黒い光を光らせる。

 

「遅いっ!」

 

 そこで箒は『瞬時加速』を発動させ、一気に間合いを詰め、その胸に『雨月』を突き刺した。

 その手応えは奇妙なものだった。

 金属を貫いたでも、人体を貫いたものでもない。まるで粘土に剣を突き立てたような柔らかな感触。

 だが、その奇妙さのことを一旦脇に置いて、箒は刀を突き刺したまま急降下して、浜辺に敵を引きずり落とした。

 

「くっ……」

 

 胸に刀を突き刺されたというのに、敵は信じられない力でもがき足掻く。

 箒は地面に張り付けにするよう『雨月』でそれを押さえつけ、『空裂』を振り被り――

 

「何っ!?」

 

 突然、敵の体が崩れまるで粘土でこねくり回すように全身が蠢き姿を変えていく。

 黄金は透き通った赤に染まり、その体躯はより人間に近いものへと変化する。

 箒は思わず後ずさる。が、何かが首に巻きつき、逆に引き寄せられた。

 

「ぐっ!?」

 

 それが敵の尾であることを認識する間もなく、箒は蹴り飛ばされた。

 

 

 

 

 目の前で起きたことに一夏は理解できなかった。

 死にたくなかったら大人しくしていろ。

 そう言われた直後に銃声が響き渡り、一瞬自分が撃たれたかと錯覚した。

 が、撃たれたのは女性、オータムの方だった。

 何処から撃ったのか、誰が撃ったのか、一夏には分からないがオータムは横殴りにされたように仰け反って地面に倒れ――

 

「くそがぁっ!」

 

 激昂してオータムが叫び、倒れそうになっていた体が浮き上がる。

 そして、スーツの背中が破けそこから八つの脚が飛び出す。

 

「妖怪?」

 

「誰が蜘蛛女だっ!? ISに決まってるだろ!」

 

 一夏の呟きにオータムは律儀に突っ込みを入れながら、一夏に迫り腕を伸ばす。

 後ずさるが、ISの踏み込みに生身の動きなど意味はない。

 しかし、オータムの腕が届くよりも先に、天頂から落ちてきたランスが一夏とオータムの間に突き立つ。

 

「くっ……」

 

 反射的に急停止したオータムを水の蛇腹剣が横薙ぎに吹き飛ばす。

 

「何が……」

 

 目まぐるしく変わる状況に一夏は困惑するしかなかった。

 そうしていると、簪に良く似た誰から空から降りてきた。

 

「大丈夫一夏くん? 怪我はない?」

 

「えっと……あなたは?」

 

 一夏の言葉に初対面の誰かはわずかに表情を曇らせ、すぐにそれを繕って笑顔を作る。

 

「私は更識楯無。簪ちゃんのお姉ちゃんで、IS学園の生徒会長にして、一夏くんの恋人よ。簪ちゃんから話しくらい聞いてない?」

 

「いえ、聞いてないです……俺の恋人……?」

 

「ああ、それは今は気にしなくていいわよ。事情はちゃんと分かっているから。それよりも今はお姉さんから離れないでね」

 

「え……?」

 

「このくそガキ、よくもやってくれたなっ!」

 

 森の中に叩き込まれたオータムが怒声を上げて戻ってくるや否や、八つの装甲脚に内蔵されている銃口を一斉に向ける。

 

「更識さんっ!」

 

「大丈夫。それよりも楯無って呼んでね」

 

 嵐のような銃撃を前に楯無は余裕の表情でたたずむ。

 水のヴェールが盾となって銃弾を阻む。

 

「くそっ! 調子づくなぁ!」

 

 射撃を続けながら、オータムは両手に近接用の武器を展開する。

 

「あら、私にばかり気を取られていていいのかしら?」

 

「何だ――」

 

 オータムが言葉を紡ぐ間もなく、二度目の狙撃にオータムは大きく弾かれた。

 

「さすが溝口さん、この距離でヘッドショットを決めるなんて……やっぱりうちに欲しいわね」

 

「く……くそ……」

 

 ヘルメットに亀裂を走らせ満身創痍の様子で、オータムは立ち上がる。

 

「あら頑丈ね。普通なら絶対防御越しでも脳震盪を起こしていてもおかしくないのに」

 

「ふん……余裕ぶっていられるのもそこまでだ」

 

「あら、小物らしい負け惜――」

 

 楯無の言葉を遮って、遠くの灯台が爆発した。

 

「溝口さん!?」

 

 振り返って声を上げる楯無。

 そこに小型のビットが彼女を取り囲み、一斉にレーザーを撃つ。

 

「くっ……」

 

 水のヴェールが六条のレーザーを受け止める。

 

「形勢逆転だ。大人しく織斑一夏を渡してもらおうか」

 

 前にオータム。背後に蝶を模したISサイレント・ゼフィリスに挟まれ、降伏勧告を受ける。

 

「これは予想外ね。亡国機業にとって一夏くんはISを三機も投入するほどに重要度の高いとは思わなかったわ」

 

「はっ、あの化物は組織とは関係ねえぜ。実験場から逃げ出したのを焼き払ってやったのに、まだ生きていたのは私たちも驚いたがな」

 

「っ……」

 

 楯無の言葉を鼻で笑うオータムの言葉にサイレント・ゼフィリスの誰かは口元を歪める。

 バイザーで顔全体は分からないが、明らかにオータムの言葉に不快を感じているようだった。

 楯無の背後、丁度一夏は彼女と向き合っていてそれに気付いた。

 

「お前は……」

 

「大人しくしている。お前は甲洋を治すための貴重なモルモットだ」

 

 声をかけようとしたところで、彼女は長大なライフルを一夏に突きつける。

 

「へぇーそれはいい事を聞いたわ。でもね、いつから一夏くんの護衛が私一人だって錯覚していたのかしら?」

 

 楯無が言うと同時に上空から二機のラファールが現れ、それぞれに銃弾を浴びせる。

 

「なっ!? 弟の遊びにIS三機の護衛だと!? どれだけ過保護だ!?」

 

「あら、それが『世界最強』よ。覚えておきなさい」

 

「ちっ……」

 

 銃弾を浴びせられ、オータムはその場から離脱する。

 しかし、サイレント・ゼフィリスはむしろ一夏の方へと向かって行った。

 一夏に近付いたことでラファールからの銃撃が止まる。

 だが、その突進を楯無がランスを構えて迎え撃つ。

 直後、サイレント・ゼフィリスの操縦者は信じられないことをした。

 相対する敵の前でISを解除して、わずかに浮き上がっている楯無の足元をスライディングで掻い潜る。

 

「え……?」

 

 バイザーが消えてさらされた顔に一夏は驚く。

 

「千冬さん?」

 

 背丈は違う。見た目もだいぶ幼いが、彼女の顔は織斑千冬にそっくりだった。

 手を伸ばす彼女に、一夏は動揺していて反応し切れなかった。

 が、伸ばした手が届く寸前に水の鞭が彼女を弾き飛ばした。

 

「くっ……」

 

 苦し紛れに彼女はナイフを一夏に向かって投げ、ISを再展開する。

 

「何してやがるMっ! 撤退だっ!」

 

 同時にオータムが乱雑に弾丸をばら撒きながらグレネードを投げる。

 

「一夏くんっ!」

 

 水のヴェールで一夏を覆い、その上から抱き締めるようにして一夏を守る。

 直後、閃光と轟音が発生した。

 

「……大丈夫? 一夏くん」

 

「え、ええ。まぁ……あの子は?」

 

「……逃げられたわ。先生たちが追っているけど、捕まえるのは難しそうね」

 

「……あの子……千冬さんと同じ顔をしていた」

 

「そうね。織斑先生に……妹さんがいたなんて聞いたことないけど……何者なのかしら?」

 

「楯無さん?」

 

「ん……どうかしたかしら?」

 

 楯無は一夏を庇うようにして地面に押し倒していた。

 その顔は一夏の目の前に寄せられている。だからこそ、異常に気が付いた。

 額に脂汗を浮かせ、息が乱れている。

 

「それはこっちの――」

 

 彼女の腰に手を回し、とりあえず起き上がろうとした一夏はぬるりとした感触を手に感じた。

 

「え……?」

 

 見ると手が赤い血で染まっていた。

 

「何で……」

 

 楯無の装甲のない背中に千冬に似た少女が投げたナイフが突き刺さっていた。

 ISそのものはまだ展開されている。

 ならば絶対防御が発動して、そのナイフは弾かれているはずなのに、そんなものなかったように深々とナイフは刺さっていた。

 

「大丈夫。これくらい大丈夫だから……」

 

「でもっ!」

 

「それよりも一夏くん」

 

 叫ぶ一夏の口を楯無は人差し指で止めて、笑顔をつくる。そして――

 

「お帰りなさい」

 

 

 

 

 蹴り飛ばされた箒は海の家に背中から叩きつけられた。

 

「まさか……第二移行?」

 

 壊した家屋から起き上がった箒は赤く変化した敵に慄く。

 見ている間に敵は右腕を緑の結晶に覆わせて、腕そのものをライフルに変化させる。

 

「くっ……」

 

 敵の蹴りはシールドバリアーの上から身体を痺れさせるほどに重く鋭かった。

 咄嗟に飛ぶことができなかった箒は刃を持って、敵が撃った弾丸を迎え撃つ。

 ハイパーセンサーの恩恵により、見切った弾丸を箒は切り払う。しかし、その弾丸は刃に触れた瞬間、炎を撒き散らした。

 

「うあああああっ!」

 

 シールド越しに感じる熱に箒は悲鳴を上げる。

 撃ち出されたのは弾丸だったはずなのに、その効果はナパームやグレネードに近いものだった。

 

『これは……』

 

 炎を振り払い、箒は痺れの抜けた身体で空へと逃げる。

 

『第二形態じゃない……でも、第一形態でもない……』

 

「それじゃあ、第三、第四形態なんですか!?」

 

 炎の中から脱出しながら箒は尋ねる。 

 

『ううん、そうじゃないの。その機体は形態移行の途中でシステムが止まっているの』

 

「そんなことありえるんですか?」

 

 そんな半端な状態が存在するなど聞いたこともない。

 

『でも、そうじゃないと今の変形とか武器の説明ができないよ』

 

 束の指摘に箒は押し黙る。

 元より、ISのことで自分が束に意見することなどおこがましい。

 

『箒ちゃん』

 

 束の呼びかけに意識を切り替える。

 敵の肩から緑の結晶が生え、ミサイルに変化する。

 

「なっ速――」

 

 弾丸に匹敵する弾速に箒は驚く。

 意表を突かれた箒はそのミサイルもどきを避け切れず、直撃――する寸前、それは壁に阻まれて砕け散った。

 見れば、紅椿の周囲を四つの小型のニンジン型ロケットが取り囲みバリアを作っていた。

 

『防御は任せて、箒ちゃんはあいつを倒すことにだけ集中して』

 

「……はい」

 

 姉に背中を任せて共に戦う。

 少し前までは考えもしなかったことに箒は気恥ずかしさを覚える。

 バリアを解いたロケットはブルーティアーズのビットのように動き、レーザーを撃って敵を攻め立てる。

 箒は敵の死角から回り込む。

 箒の存在に敵が気付いて振り返るが、すでにそこは箒の間合いだった。

 

「くらえっ!」

 

 各部の展開装甲をスラスターに切り替えて、一瞬の速度をより速くして、雨月を敵に突き立てる。

 同時に刀身からレーザーを撃ち込む。

 損傷箇所にピンポイントに攻撃を受けて敵の体が大きく削れる。

 しかし、それでも敵は動きを止めなかった。

 露出する損傷箇所はただ抉れているだけ、機械部品なんてものはなく、結晶体が露出していた。

 

「無人機どころか、機械でもないのかっ!?」

 

 もはやそれをISと呼んでいいのか分からない。

 そのことに箒が驚いていると、敵は距離を取って、身体を変化させる。

 身体の至るところから目のような器官が開き、敵の眼前でワームスフィアが展開、充填される。

 

「雪片っ!」

 

 箒は雨月と空裂を格納し、代わりに雪片弐型を展開する。

 同時に零落白夜を発動させ、胸と大腿部の増幅器が作動する。

 シールドエネルギーのほとんどをつぎ込み、作り上げたエネルギーの刀身が天高く伸びる。

 

「はあああああっ!」

 

 敵がワームスフィアを撃ち出す。

 同時に箒は長大な零落白夜の刃を振り下ろす。

 白刃はワームスフィアごと敵を、そして海まで斬り裂いた。

 

 

 

 

「て、敵消滅……」

 

 管制室で戦況を見ていた千冬は箒が見ていたものと同じものを見ていた。

 

「織斑くんは無事に確保、更識さんが負傷したそうです。溝口さんとは通信が繋がりません」

 

 その報告に千冬は握っていた拳を解いた。

 

「医療班の準備を、それから街の被害状況の確認を急げ、篠ノ之援護に向かったISには周囲の哨戒に行かせろ。溝口はどうせ生きているから放っておけ」

 

 指示を出しながら、千冬は現れた敵の存在のことを考えていた。

 束は見てきた未来のことを多くは語らなかった。

 そもそも、福音事件の段階で未来は変わってしまっているため、聞き出したところであまり意味があるとは思えない。

 

「真耶、あれで一つのミールを倒せたと思うか?」

 

「それは……」

 

 千冬の言葉に真耶は口ごもる。

 確かに現在最高のISである紅椿と正面から戦える力は驚くものだった。

 だが、マークニヒト。ディアブロ。そしてマークザインと比べると、大した敵ではなかった。

 

「哨戒機から連絡……うそ……」

 

「どうした?」

 

 言葉を失っているオペレーターに千冬は尋ねる。

 

「え、映像。メインモニターに映します」

 

 そう言って映し出された映像に千冬もまた言葉を失った。

 

「なん……だと……」

 

 そこには黄金の怪物の大群がいた。

 十や二十ではない。パッと見では数え切れないほどの大群が緩やかな速度でIS学園に進行していた。

 

「どういうことだ束っ! ミールは全部で13体しかいないはずじゃないのか!?」

 

 思わず通信に向かって千冬は叫んでいた。束の返事はすぐに返って来る。

 

『そ、そのはずなんだけど……』

 

「だったらあれは何だっ!?」

 

『束さんにも分かんないよ。そもそもあんな赤いのは未来にはいなかったもん』

 

「くっ……真耶、ここは任せた」

 

「織斑先生っ!?」

 

「私が打鉄で出る。その間に――」

 

 部屋を出ようとして振り返っていた千冬は扉の前に立つ全裸の少年に思考を止めた。

 

「みんな帰って、俺に話す時間を与えて」

 

 虚空に向かって呟く少年の声が管制室に響いた。

 

「哨戒機から報告、敵の大群が反転しま――きゃあああっ!」

 

「え、何――ひゃあああっ!?」

 

 一つの悲鳴を皮切りに、振り返った女性スタッフたちが次々に悲鳴を上げる。

 しかし、周りの阿鼻叫喚な悲鳴を気にせず、全裸の少年はマイペースに千冬に向かって話しかけた。

 

「君たちは勝てない。降伏して千冬」

 

「私の名前……貴様、何者だ?」

 

 言葉を返しながら、千冬は警戒を研ぎ澄ませた。

 部屋にロックがかかっていたわけではない。しかし、物音を立てずに部屋に入ることは不可能であり、それに気付かないほどに腑抜けてもいない。

 IS学園の地下深部に全裸の不審者を見逃すほど学園の警備は甘くない。

 それに、人の気配も声が発せられると同時に現れた気がした。

 

「俺の名前は来主操。君たちと話をしに来た?」

 

「話だと?」

 

「でも、先に一つだけお願いしてもいいかな?」

 

「何だ、言ってみろ?」

 

 先程の言葉と態度。黄金の敵と無関係とは思えない。

 

 ――まさか、こいつが本体か……?

 

 わざわざ自陣の戦力を見せ付けて撤退したことから、相応の要求が出てくることを考えて千冬は身構える。

 

「服をちょうだい」

 

 気の抜けた言葉で来主操はそんなことをのたまった。

 

 

 

 




 箒が間違った雨月と零落白夜の使い方をする回。

 何だか感想の絶望色が強くなっていますが、この作品でのフェストゥムの読心はIS限定にさせています。



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