ISのファフナー Siegfried and Brunhild   作:アルカンシェル

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6 意志とめざめと

 

 

 第三格納庫。

 IS学園が保有するコアの中でも、研究用などとして別に保管されている区画の前でシャルロット・デュノアはISをまとって待機していた。

 

「…………来た」

 

 緊張を孕んだ声でシャルロットはセンサーが捉えた二つの人の反応に呟く。

 

「大丈夫……」

 

 手にした武器はいつものアサルトカノンだが、装填されているのは対人用の非殺傷弾。

 この弾丸なら例え人体に当たっても人は殺さないで済む。

 震える指を抑え込み、シャルロットは視界の隅に展開した地図の二つの紅点が目の前の通路に出てくるタイミングを計る。

 

 ――警告、未確認のIS反応の発生を確認……

 

「え……?」

 

 ハイパーセンサーが告げる突然の報告にシャルロットは固まる。

 現れた反応は目と鼻の先。

 センサーが捉えていた内の一人が、ISのものに変わる。

 

「そんなっ!?」

 

 方法は至って単純。ISをステルスモードにして隠し、ここまで温存させたに過ぎない。

 ISにはISで対抗しなければならない。

 最初からISで突入すれば、ISで迎撃される。

 それを避けるためにステルスモードにしてISを持ち込まれる。

 テロリストがよく使う方法だとシャルロットも知っていたが、完全に失念していた。

 

「くっ……」

 

 飛び出してきた全身装甲、ファフナー型のISにシャルロットは両手の銃を乱射する。

 

「はっ、効かないよそんな豆鉄砲っ!」

 

 対人を想定していたため、銃に装填されていたのは火薬の量を減らしたゴム弾。

 ISの、それも防御力の高い全身装甲型に対して脅威にはならない。

 かまわず突っ込んでくるファフナーにシャルロットは両手のアサルトカノンを格納、同時に別のライフルを展開し、引き金を――

 

「遅いんだよっ!」

 

 暗色のファフナーはそんなシャルロットを嘲笑って何かを発射した。

 アームを盾にしてそれを受け止めると、それは駆動音を響かせて六本の脚を開き、ラファールの腕に絡みついた。

 

「これは、まさかリムーバー!?」

 

 気付いた時には、それから電流に似たエネルギーを流された。

 

「うああああああっ!」

 

 電流が収まり、装置のロックが外れる。

 同時にISが消えたシャルロットは倒れ、その目の前に菱形立体のクリスタルが転がった。

 『リムーバー』。ISを強制解除できる非公式な装置。

 聞いたことはあっても、実物を見るのは初めてだった。

 

「フランスの代表候補生、シャルロット・デュノアか……

 確か、デュノア社が第三世代型を作り始めたって聞いたけど、ちょうどいい。こいつは私達がもらってやるよ」

 

 ファフナーがコアを拾い上げ、中の女が笑う。

 

「か……返せ……」

 

 痺れる身体でシャルロットは手を伸ばす。

 が、彼女に遅れて現れた男がシャルロットの髪を掴み、床に抑え込む。

 

「死にたくなかったら大人しくしているんだな」

 

 後頭部に押し付けられた銃口の感触にシャルロットは息を飲み、身体を震わせ抵抗することができなくなる。

 

「キース。さっさと仕事を済ませろ」

 

「はいはい」

 

 男に促され、ファフナーはシャルロットが背に守っていた扉にナイフを突き立てて抉じ開ける。

 

「あったよ……織斑一夏のファフナー」

 

「っ!? 上だ、キースッ!」

 

「なっ!?」

 

 男の叫びに女が咄嗟にその場を飛び退く。

 直後、女がいた場所に上から金色の化物が降ってきた。

 

「あれもフェストゥムなの?」

 

 落ちてきた化物、そして未だに天井に張り付いている同じ存在にシャルロットは声を上げる。

 

「ちっ……あのミールは何体人形を送り込んだんだかね」

 

 ぼとりと、もう一体が天井から落ち、二体のフェストゥムは揃って振り返る。

 その姿に生理的な恐怖を感じるが、押さえつけられているシャルロットは逃げることはできない。

 

「気をつけろキース。さっきの人型と様子が違う」

 

「何を言っているのさダスティン。こっちにはマスターコードがあるんだ。慌てる必要はないよ」

 

 女は気楽に男に答え、前に進み出る。

 

「マスターコード――――」

 

 並べられた数字の羅列と符丁。

 シャルロットに聞かれることを構わない素振りからすると、他にも何かしているのかもしれない。

 それを見極める間もなく、女が言い終り命令すると、二体のフェストゥムは動きを止めた。

 

「ほらな」

 

「……そのようだな」

 

 振り返って胸を張るファフナーに男は緊張に詰めていた息を吐き出す。

 

「さ、とっととお宝をいただいてづらかるよ」

 

 だが、そう言った瞬間、ファフナーは黒い球体に飲み込まれた。

 

「なっ!?」

 

 男が驚いて、押さえつけていたシャルロットから手を放して銃を構える。

 黒い球体が触れたものを捻り消滅させる。その中心にいたファフナーは――

 

「効かないんだよっ!」

 

 ワームスフィアーを振り払い、女は叫んでマシンガンを乱射する。

 ISの弾丸に受けた二体のフェストゥムは金の飛沫を撒き散らし、身体を抉られ倒れる。

 

「落ち着けキース」

 

「……ちっ」

 

 執拗に銃弾を浴びせる女を男が嗜め、ようやく銃撃が止まる。

 

「どういうことだ? まさか別のミールが来ているのか?」

 

「知らないよ、そんなことっ!」

 

 男の呟きに女は先程までの余裕を忘れて、苛立った声で叫ぶ。

 その声に重なって――

 

「あなたは、そこにいますか?」

 

 声が響き渡る。

 

「声……? どこから――」

 

「キースッ!」

 

 男の声にシャルロットも気が付く。

 ずたずたにされたはずの三足歩行のフェストゥムは四散した飛沫がそれぞれ小さい同型に姿を変えて、ファフナーに群がっていた。

 

「くっ……このっ!」

 

 ライフルとシャルロットから奪ったコアを投げ捨てて、ファフナーは身体中に取り付いた引き剥がし握り潰して投げ捨てる。

 

「離れろ! 離れろっ! 離れ――」

 

 だが、数が多すぎ、ファフナーは次第にフェストゥムの群れに飲み込まれ、そしてそれは緑の結晶に置き換わる。

 そして結晶が砕けると一体の三足歩行型のフェストゥムに置き換わるようにファフナーは消え去った。

 

「キースッ!」

 

 男がマシンガンを乱射する。

 が、フェストゥムにも備わっているシールドバリアーに通常火器の弾丸は弾かれる。

 悠然とフェストゥムは銃撃にさらされながらも男に向かって駆け出し、噛み付いた。

 

「ひっ!」

 

 目の前で吊り下げられた男は次の瞬間、緑の結晶に覆い尽くされて砕け散る。

 

「あ……あ……」

 

 リムーバーによる電撃のダメージから身体は動くようになったが、初めて目の当たりにした同化現象にシャルロットは腰を抜かして動けなかった。

 ガチガチと歯が鳴り、身体が震える。

 それに反応してか、男を同化したフェストゥムはゆっくりとシャルロットを向き、のっぺりした顔を割って問いかける。

 

「あなたは、そこにいますか?」

 

 床に転がっているラファールのコアに縋るように拾うが、ISを展開することを忘れシャルロットは恐怖で震えることしかできなかった。

 

「あなたは、そこにいますか?」

 

 質問を重ねながら近付いてくるフェストゥム。

 それはシャルロットの前までやってくると、その口を大きく開き――

 

「誰か助――」

 

「閉じろっ!」

 

 身体に衝撃を受けてシャルロットは誰かに抱きつかれた状態で転がり、フェストゥムの口から救われた。

 遅れて、彼の声に従うようにフェストゥムと自分達の間で隔壁が閉じる。

 

「大丈夫かっ!?」

 

 きつく抱き締められた感覚に名残惜しさを感じながら、身体を離し訊いてくる織斑一夏の顔にシャルロットは言葉を失った。

 答えないシャルロットに一夏は待ち切れず、横抱き――お姫様だっこでシャルロットを抱えた。

 

「い、一夏……!?」

 

 ようやく頭が再起動したシャルロットは自分が何をされているのか気付いて慌てる。

 

「俺の名前……? お前も――」

 

 向こう側から隔壁を叩く音に一夏は口をつぐんで目の前の扉をこじ開けられた部屋に入り込んだ。

 

「お前はここにいろ」

 

 部屋に入って一夏はシャルロットを降ろすと、部屋の奥に置かれた異様な存在に向き直った。

 拘束帯を何重にも撒きつけられ、床に繋ぎ止められたオブジェクト。

 だが、それは脚から腕、身体を縛り付けられた人型だった。

 その頭の部分だけが、外に露出していてそれが何であるか判断できた。

 

「マークザイン……」

 

「お前が……俺のミール……」

 

 シャルロットの呟きに一夏の呟きが重なり、一夏は封印された様相のマークザインに近付いていく。

 

「待って一夏っ!」

 

 慌てて、シャルロットは一夏の背中に体当たりするように抱き着き、その歩みを止めさせる。

 

「うおっ!? いきなり何を――」

 

「それはこっちのセリフだよ! 今、何をしようとしたの!?」

 

「何って……この子が俺を呼んでいたんだ」

 

 その答えにシャルロットは息を飲み、一層引き止める力に強くする。

 

「ダメだよ一夏。そいつは一夏の身体を蝕んだ化物なんだよ」

 

「え……?」

 

「一夏はそいつに身体をボロボロにされて、いついなくなるか分からないくらいに命を削られて……

 記憶喪失なのも全部っ! そいつのせいなんだよっ!」

 

 声を荒げてシャルロットは叫ぶ。

 絶対に一夏をマークザインに触れさせないようにきつく抱き締める。

 

「それでも……俺は――」

 

「またファフナーに乗ったら、今度こそ一夏はいなくなっちゃうかもしれないんだよ」

 

 何も知らない一夏に、自分のことを覚えていない彼ににシャルロットは捲くし立てるように言葉を重ねていた。

 

「どうしてみんなそんなに簡単に自分の命を粗末にできるの!? 命が惜しくないなんてそんなの嘘だっ!」

 

 支離滅裂な言葉を重ねてシャルロットは荒くなった呼気だけが部屋に響く。

 

「お前は……死ぬのが怖いのか?」

 

「…………え?」

 

 一夏の指摘にシャルロットは呆けて、ゆっくりと何を言われたのか理解した。

 

 ――そうか。僕は……

 

 ISの絶対防御。それが意味をなさない戦場がある。

 不可抗力とはいえ、初めて人を殺したことは辛かった。

 しかし、何よりも恐れていたのは自分もあんな風に死ぬかもしれないことだった。

 

「そう……だよ……僕は……戦うことが怖いよ」

 

 あの時も一夏が戻ってこなければ、ファング・クエイクの操縦者にシャルロットがした様に誰かに殺されていたはずだった。

 VTシステムの時と合わせれば、二度も死に直面している。

 だからこそ、そう思わずにはいられなかった。

 

「でも、それが悪いことなのっ!? ISはスポーツなんだよ! 僕は殺し合いをするために操縦者になったんじゃないっ!」

 

 胸に溜めていた気持ちを吐き出してもシャルロットの気持ちは晴れなかった。

 

「お前はそこにいろ」

 

「え……?」

 

 一夏はシャルロットの腕を解き、向き直る。

 赤い目の彼に正面から見据えられ、シャルロットは久しぶりに見る彼の顔に目を奪われた。

 

「お前は戦わなくていい。俺が全部、何とかしてやる」

 

「それで……一夏はいなくなってもいいって言うの?」

 

「俺だってここにいたい。だけど、今こいつに乗らないと沢山のものを失う気がするんだ。だから俺は選ぶよ」

 

「選ぶ……」

 

 その言葉にシャルロットはかつて彼に言われた言葉を思い出す。

 

「まあ、記憶がない俺が勝手に選んでいいのか分からないけど……

 このままみんなのことを助けなかったら、それこそ俺は俺じゃなくなると思うんだ」

 

「一夏……」

 

 そこにいたのは紛れもなく一夏だった。

 記憶がなく、自分のことをシャルと呼んでくれなくても彼は織斑一夏だった。

 

「大丈夫。みんなが守ってくれている命、簡単に捨てるつもりはない」

 

「あ……」

 

 背中を向け、マークザインに向かって歩き出した一夏にシャルロットは手を伸ばすが、足を動かすことはできなかった。

 

「一夏……」

 

 弱々しく彼の名を呼んでも、彼は振り返らない。

 シャルロットは剥き出しのラファールのコアを握り締め、俯く。

 かつては一夏のために同化現象の被検体になる決意をしたはずなのに、ファフナーに乗ろうとする一夏をシャルロットは止められなかった。

 

 

 

 

 銃剣と双天牙月が火花を散らす。

 

「何なのよあんたっ!?」

 

 思わず鈴は叫ぶ。

 サイレント・ゼフィルス。

 イギリスで亡国機業に強奪されたBT兵器搭載型の二号機と聞いているが、その運用の仕方は一号機のセシリアとはまるで違っていた。

 そして、その強さは数段セシリアよりも上だった。

 もっとも鈴もそれに負けてはいなかった。

 

「ちっ」

 

「はぁっ!」

 

 自分を取り囲む六基ビットに鈴は衝撃砲を叩き込みながら剣戟を重ねる。

 砲身の稼動限界角度がない武装故に、その気になれば真後ろにも撃つことができる。

 とにかくビットを射撃体勢に取らせないために鈴は衝撃砲の威力を抑えて連射し、ビットを封じる。

 

「この程度か、Aランク?」

 

「何ですって!?」

 

 嘲笑を浮かべるサイレント・ゼフィリスの操縦者に鈴は激昂する。

 一年で他の代表候補生たちを抜き、専用機を任されたことは鈴にとって吹聴はしないが自慢でもあった。

 だが、それを貶され気の短い鈴は一層攻撃を激しくする。

 サイレント・ゼフィルスの最大の特徴のビット兵装は衝撃砲で封殺した。

 だが、鈴が得意である近接戦では敵の方が上手。

 近接戦はおまけでしかない銃剣で重量武器の双天牙月をうまくいなされている事がその証左だった。

 

「っ……まずっ」

 

 突き出された銃剣の刃先を仰け反って避け、同時に失策を悟る。

 眼前に突き付けられた刃先の向こうでライフルの銃口が光を宿し、放たれた。

 仰け反った体制からそのまま、バク宙するようにライフルの光線を避け、そのまま勢いで顎を狙って蹴り上げる。

 それを驚異的な反応速度で甲龍の足を掴み、床に、壁に叩きつける。

 

「ははは……どうした、もう終わりか?」

 

 哄笑を上げる敵に対して鈴は身を小さくして生身を守ることしかできなかった。

 双天牙月は手から放り出され、振り回されていては衝撃砲の照準を合わせることもできない。

 

「ここっ!」

 

 振り上げられた瞬間、鈴はISを解除した。。

 解放された力を猫のように身体を縮めていなし。着地と同時にISを展開する間を惜しんでサイレント・ゼフィルスの懐に踏み込み、その腹に拳を当てた。

 

「捉えたわよ」

 

「それは何の冗談だ?」

 

 当てられた拳はISの力の恩恵を持たない生身のもの。

 機能が阻害されているとはいえISのシールドバリアーにそんな攻撃は無意味でしかない。

 

「一度、この技、試してみたかったのよね。ISに効くかどうか……」

 

「何……?」

 

 鈴の言葉の意味が理解できず、敵は困惑する。

 

「死ねええええっ!」

 

 寸剄。

 拳を密着した状態から衝撃のみを内部に叩き込む中国拳法の技の一つ。

 鈴は脇腹に当てた手からあばら骨を折った手応えを確かに感じた。

 

「っ……」

 

「なっ!?」

 

 だが、敵はその痛みに耐え、密着状態の鈴にアームを叩きつけて振り払う。

 鈴はそのまま、無防備な状態で壁に叩きつけられた。

 

「くそ……やってくれたな」

 

 口元に血を滲ませながら敵は倒れた鈴に銃剣を向ける。

 チャージされたエネルギーが銃口を光らせ――

 

「させるかっ!」

 

 天井を突き破って現れた箒が雪片弐型を振るう。

 

「っ!?」

 

 サイレント・ゼフィルスは咄嗟に身を逸らすが、逃げ遅れた銃剣が両断される。

 箒はすかさず返す刃を振り上げる。

 

「っ、浅い!」

 

 背後に飛んだサイレント・ゼフィルスにはわずかに届かず、白刃はバイザーを掠めるだけだった。

 刀を振った体勢をさらす箒に六機のビットが揃って銃口を向ける。

 

「邪魔をするなっ!」

 

 一斉に掃射されたレーザーを紅椿のアーマーで受け、吹き飛ばされながら箒は叫ぶ。

 

「鈴っ!」

 

「くらえっ!」

 

 甲龍を再展開した鈴が、二本の堰月刀を逆手に構え、サイレント・ゼフィリスの蝶を模したウイング・スラスターに突き立てる。

 

「くっ……この死に損ないがっ!」

 

 サイレント・ゼフィリスの操縦者はライフルの代わりに小型ガトリングを展開し、その銃身で鈴を横殴りにして吹き飛ばし、銃弾を浴びせる。

 

「きゃあああっ!」

 

 腕で生身を庇うが、アーマーとシールドエネルギーが見る間に削られていく。

 そして、一拍遅れて堰月刀を突き刺したウイング・スラスターが爆発、銃撃が途切れ、体勢が崩れる。

 

「もらった!」

 

 そこにすかさず箒が斬りかかる。

 零落白夜による白刃は盾にされた六機のシールド・ビットをまとめて切り裂く。

 

「なっ!?」

 

 だが、剣速が落ちた斬撃をサイレント・ゼフィルスは白刃取りで受け止めた。

 零落白夜のエネルギーに直接触れたアームに皹が走り崩壊していく。

 

「正気かっ!?」

 

 スパークする火花が操縦者の肌を焼く。

 だが、割れたバイザーから覗く目には少しの怯みもない。

 

「まだだ……まだ……私はここにいるっ!」

 

「っ!?」

 

 叫ぶ敵に気迫に押され、箒は刃にかける力を引いてしまった。

 

「ああああああああっ!」

 

 砕け散るアーム。

 拮抗する力を失って振り抜かれた刃を掻い潜り、サイレント・ゼフィルスの操縦者は両手にナイフを展開し、無防備をさらす紅椿の胸甲にナイフを突き立てた。

 そして突き刺さったナイフの刀身を折り、残った刀身が爆発、紅椿の胸甲を吹き飛ばす。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 静まり返った通路に荒い呼吸が響く。

 倒れ伏した鈴と箒を置いて、満身創痍のサイレント・ゼフィリスは歩き出した。

 

「私はまだ……」

 

 しかし、その進行上に肩膝を着いて射撃体勢を取っていた青い機体がサイレント・ゼフィリスを待ち構えていた。

 

「行かせませんわ」

 

 引き絞られるトリガー。

 正面に突きつけられた銃口の奥から光が溢れる。

 

「あああああああっ!」

 

 サイレント・ゼフィルスの操縦者は絶叫を上げ、駆ける。

 レーザー光線が割れたバイザーを掠め、吹き飛ばす。

 それでも織斑千冬にそっくりな素顔を晒した敵は、怯まず手に残ったナイフの柄を振り被り――

 背後から、急角度で屈折したレーザーに彼女は肩を撃ち抜かれ、倒れた。

 

 

 

 

「やったのか?」

 

 崩れ落ちたサイレント・ゼフィルスに箒は警戒しながら起き上がる。

 

「ああ、もうまた怒られる」

 

 鈴もまた機体の損傷を確認しながら立ち上がる。

 

「お疲れ様です、二人とも」

 

 そしてセシリアがそんな二人を労った。

 

「おいしいところ持ってかれたわね」

 

「何をおっしゃいますか、チームプレイの勝利ですわよ」

 

「そうだぞ鈴、千冬さんと同じ顔をしているだけあって化物だったぞ」

 

「分かってるわよ。軽口なんだから適当にスルーしなさいよ」

 

 真面目に言葉を返す二人に鈴はため息を吐く。

 それに苦笑して箒は改めてサイレント・ゼフィルスの操縦者を見下ろした。

 

「何者なんだこいつは?」

 

 織斑千冬と同じ顔。

 彼女に一夏以外の家族がいたなど聞いたこともなかった。

 だが、強さは千冬に迫るほどのものだった。

 中距離型ではなく、彼女の特性にあったISだったらもしかしたら三人で戦っても返り討ちにされていたかもしれない。

 そう思わせるほどの実力者だった。

 

「あ……う……」

 

 少女の呻きに三人は一斉に武器を構える。

 

「わた……し……こう……よう……たす……」

 

 うわ言を呟きながら、少女は這って進む。

 

「まだ……動くというのか……」

 

 ISはすでに強制解除され、その機能を生命維持に費やされて意識はなくなっているはず。

 なのに少女はそれでも進もうとしていた。

 

「ど……どうしますの?」

 

 その気迫に気押されたセシリアが声を震わせながら二人に尋ねる。

 

「どうするも、行かせるわけにはいかないだろ」

 

 例え行かせたとしても、数メートル進んだだけで力尽きるとしか思えない。

 

「とりあえず、ISをロックして手当てをしよう」

 

 千冬と同じ顔の存在をこのまま死なせるわけにはいかない。

 もっとも、そうでなかったとしても、もう戦う力のない敵の命を奪うことができるほど箒は非情になれなかった。

 

「……わたしは……ここに……」

 

「もういい。大人しくしろ。このままでは本当に――」

 

「あなたは、そこにいますか?」

 

 どこからともなく聞こえてきた綺麗な声に箒は背筋を凍らせ、その場から飛び退く。

 

「何あれっ!」

 

 鈴の声に箒は彼女が指した通路の先を見る。

 

「フェストゥムッ!? 何故ここに!?」

 

 突然現れた金の三足歩行の化物に箒は驚く。

 が、理由を説いても答えなど返って来るわけもなく、箒は二本の刀を再展開して構える。

 

「撃ちますわよ」

 

 同じようにライフルを向けたセシリアが一言断りを入れて引き金を――

 

「待てっ!」

 

 咄嗟に箒はセシリアを止める。

 フェストゥムは駆けて来た足を緩め、少女の前で止まった。

 何をするつもりか、三人は緊張に唾を飲み込みフェストゥムの動きに備える。

 そして、フェストゥムはのっぺりとした顔から口を開き――

 

「やめ――」

 

 少女に喰い付いた。

 

「この化物がっ!」

 

 直前まで命のやり取りをしていた敵とはいえ、そんな殺され方を目の当たりにした箒は激昂してフェストゥムに斬りかかる。

 少女の身体が緑の結晶に覆われ――その増殖は何故か喰い付いたフェストゥムにまで及んだ。

 

「なっ!?」

 

 振り下ろした刃が緑の結晶に受け止められる。

 その衝撃に砕けた結晶の中から現れたのは、ダークパープルのエネルギーを帯びた大型のバスターソード。

 試し切りとばかりに振るわれた大剣に箒は大きく弾かれる。

 

「何が起きたっ!?」

 

 大剣が生えた緑の結晶は浮き上がり、人の形を作る。

 

「これが……力……」

 

 結晶の中から少女の声が響く。

 

「これがっ!」

 

 その声を合図にして、残った緑の結晶が一斉に音を立てて砕け散った。

 

 そこに『黒』が現れた。

 

 

 

 

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