ISのファフナー Siegfried and Brunhild   作:アルカンシェル

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9 憎悪とみらいと

 

 

 

 学園の空気は暗く沈んでいた。

 夏休み、帰省する者も多く半数の生徒はいない状態であることを差し引いても、女子高特有の姦しさは鳴りを潜めていた。

 それほどまでにブリュンヒルデが行方不明となった事実はIS学園に重く圧し掛かっていた。

 

「うるさいわねっ! あたしは帰らないって言ってるでしょ! ああっ!? 候補生を降ろす? 勝手にしなさい!」

 

 携帯電話に向かって鈴は怒鳴って通話を切る。

 周囲を見渡せば、忙しなく動いていたみんなが手を止めて鈴のことを見ていた。

 

「鈴さん、今のは……」

 

 鈴と同じように他人の手を借りてブルー・ティアーズの修理と調整を進めていたセシリアが鈴に声をかける。

 

「中国政府からよ……すぐに帰って来いってさ」

 

 当然突っぱねてやったわよ、と付け加えるとがそこに重い沈黙が響く。

 

「鈴さん、貴女……代表候補生を降りるとはどういう意味ですか?」

 

「どうもこうも、言葉通りの意味よ。帰ってこないなら候補生の地位は剥奪だってさ。上等よ」

 

 ピットに繋がれている甲龍を鈴は見上げる。

 候補生としてこの機体を貰ってからずっと一緒にいた。

 それを失うことになるのは寂しく感じてしまうが、この選択に鈴は後悔はない。

 

「悪いわね甲龍……最後まで我侭な御主人様で……」

 

「鈴さんっ貴女はっ!」

 

「何よ、セシリア?」

 

「貴女は御自分が何を言っているのか分かっていらっしゃるのですか!?」

 

「分かってるわよ」

 

「いいえ、分かっておりませんわ! わたしくたち代表候補生はたくさんの人たちから選ばれたエリートですわ……

 貴女は他の候補生を蹴落として専用機を与えられ、この学園のみなさんが羨む専用機を持ちながら、それをいらないですって!?」

 

「あたしはね、政府にこう言われたのよ。『本国の戦力を整えるために、IS学園を見捨てろ』ってね」

 

「なっ!?」

 

 今、IS学園ではISを使った世界初の戦争が起きようとしている。

 ブリュンヒルデ、『世界最強』のいないIS学園。

 敵は未知のフェストゥムに、織斑千冬以上の化物であるマークニヒト。

 

「確かに勝ち目がないことくらい分かっているわよ……でも、一夏を奪われて、箒の仇も討たないで帰る訳にはいかないでしょ」

 

「鈴さん……箒さんはまだ亡くなっておりませんわ」

 

「死んだようなものじゃない!」

 

 特大のワームスフィア、それを箒が特攻して零落白夜で斬り捨てたから自分達は生きてここにいる。

 だが、その代償に箒は重症の傷を負った。

 ISの操縦者絶対防御、その致命領域対応によって箒は昏睡状態になっている。

 ISの補助を受けて命は繋いでいるものの、彼女の受けた傷は深く、目が覚めたとしても今後ISの操縦者、それどころか日常生活をまともに送れるか分からない。

 

「このまま泣き寝入りに真っ平ごめんよ」

 

「鈴さん……」

 

 鼻息を荒くする鈴に、セシリアは俯いて黙り込んでしまう。

 『世界最強』も『救世主』もいない。

 もうISは安全を保障してくれることはない。

 フェストゥムの存在はまだISで対応できる範囲だが、マークニヒトは次元が違う。

 戦術レベルでどうにかできる敵ではない。戦略レベルの兵器を使わなければおそらく倒せないだろう。

 そんな無謀な相手に挑む。死ぬ可能性の高い戦いに参加する。

 セシリアはそれを選ぶわけにはいかない。

 イギリスの代表候補生であることと、何よりオルコット家当主が命を粗末にする無責任な戦いをするわけにはいかないのだから。

 

「わたくしは……」

 

 もしも、鈴と同じように本国から帰還命令が出たとしたらセシリアはその命令を拒めない。

 

「逃げるの……?」

 

 無感情な言葉が割り込んできた。

 

「し……篠ノ之博士……」

 

 声の主に振り返り、セシリアは絶句した。

 虚ろな目に陰鬱なオーラ。

 自由でいつも楽しそうでバイタリティに溢れている篠ノ之束の姿はなく、まるで幽霊のように覇気のない雰囲気をかもしながら虚ろな目はセシリアを見下ろしている。

 

「逃げるの……? ねえ、逃げるの? 箒ちゃんがあんなになっているのに、お前は逃げる?」

 

「そんなことありえませんわ」

 

 無感情に繰り返される言葉にセシリアは即答していた。

 ここで答えを躊躇えば、戦って死ぬ以前に終わる。そんな確定した危機感に煽られてセシリアは捲くし立てる。

 

「わたくしはこれでもイギリスの貴族、国は違えど高貴な者は下の者を守る義務がありますわ。ここで逃げるのはオルコット家の名折れ……

 何より、わたくしは箒さんの親友。ええ、親友の、彼女の仇を撃たずに逃げ出すなんてありえませんわ」

 

「そ、そうよね。親友をあんなにされて尻尾巻いて逃げるわけにはいかないわよね。一夏だって取り戻さないといけないし」

 

 セシリアに鈴も同調して、戦意を示す。

 そんな二人をゆっくりとした動作で束は交互に視線を送り――

 

「ちっ……」

 

 舌打ちを残し、ゆらりゆらりと歩き出す。

 整備棟から出て行った束の背中を見送って、セシリアと鈴は大きく息を吐いてその場にへたり込んだ。

 

「篠ノ之博士っ!」

 

 響き渡る山田真耶の声に、二人はビクリと身体を震わせた。

 

「大変なんです! 篠ノ之さんが、箒さんが――」

 

 廊下から響き渡る真耶の焦った声。

 二人は顔を見合わせ、頷き合ってから走り出した。

 

 

 

 

「ここは……」

 

 気が付くと箒は浜辺にいた。

 見上げれば澄み渡った蒼穹の空。

 見渡せばどこまでも続く水平線。

 そして海には結晶でできた大樹が存在していた。

 

「あれは……何だ?」

 

 緑の幹に枝葉は赤い傘のように広がっている。

 剥離した結晶が落ち葉のように降り注ぐ様は幻想的で美しく感じる。

 

「私は死んだのか?」

 

 直前のことは明瞭に覚えている。

 一夏を奪った敵に捨て身で攻撃を仕掛けた。ワームに自分から突っ込み、絶対防御を超えて身体をズタズタにされた。

 もしここが天国だというのなら、想像していたものとは随分と違う。

 

「ここは存在と無の地平線だ」

 

「え……?」

 

 その声に箒は胸を高鳴らせて振り返った。

 

「……いち……か……」

 

 結晶の大樹を見上げるように、織斑一夏はそこにいた。

 

「久しぶりだな、箒」

 

「あ……」

 

 その一言に箒は涙を溢れさせた。

 

「一夏……なんだな。記憶が……」

 

 明瞭な言葉に箒は言葉を失う。

 そんな箒を見て一夏が苦笑する。

 その表情は、この数日見てきた彼のものとは違い確信する。

 

「一夏っ! …………え?」

 

 感極まって駆け寄った箒に一夏は手を突き出して彼女の抱擁を制した。

 

「一夏……? どうして……?」

 

「お前はまだこっちに来ちゃダメだ」

 

「こっち? 何を言っているんだ、お前はっ!?」

 

 一夏は悲しげな顔で笑い、首を横に振った。

 

「千冬姉に謝っておいてくれ、俺はもう戻れない。帰るための道標がなくなって、俺は完全に地平線を越えてしまった」

 

「地平線? 訳の分からないことを言うなっ! みんなお前が帰って来るのを待っているんだ!」

 

「それから、だいぶ遅くなっちまったけど誕生日、おめでとう」

 

 一夏が差し出してきた手に箒は反射的に受け取った。

 

「り、リボン……?」

 

 誕生日。一ヶ月前の七月七日。

 その日は一夏がマークザインに乗って戻ってきた日であり、彼が意識を失って昏睡状態となった始まりの日。

 

「何で……今更……?」

 

 箒の震えた言葉に一夏は寂しげな笑みを浮かべ、背中を向ける。

 

「一夏っ!」

 

 背を向けたまま、さよならだと言わんばかりに手を振る一夏に、箒は手を伸ばして――

 

「いくな一夏っ!」

 

「ひゃあっ!?」

 

 手を突き出して飛び起きた箒は何もない空を掴んだ。

 

「あ……」

 

 気が付けばそこは学園の保健室だった。

 蒼穹の空も、一面の水平線も、結晶の大樹も、一夏の姿も、そこにはなかった。

 

「篠ノ之さん……」

 

「山田先生、私は――」

 

 信じられないと涙を浮かべて言葉を失っている山田に箒は話しかける。

 

「篠ノ之さんっ! 起きて大丈夫なんですか!? 怪我は!? 何で、ううん。それよりも篠ノ之博士を呼ばないとっ!」

 

 箒が口を挟む間もなく、真耶は保健室から飛び出していった。

 

「…………夢」

 

 虚空に突き出した手を力なく下ろし、箒は自分の身体を見下ろす。

 傷一つない身体。

 マークニヒトの攻撃を受けた傷はない。

 しかし――

 

「夢じゃない」

 

 手に持っていたリボンを見下ろして、箒は頭に過ぎっていた可能性を打ち消す。

 

「夢じゃない…………一夏は……もう……」

 

 両手でリボンを抱くように握り締め、箒は声を殺して泣いた。

 

 

 

 

 千冬に自衛隊の船から緊急脱出させてもらって戻ったIS学園で束を迎えたのはいくつもの凶報だった。

 マークザインと一夏が敵に奪われたこと。

 そして、最愛の妹の瀕死の姿。

 束は盛大にキレタ。

 とはいえ、暴れたわけでも当り散らしたわけでもなく、静かに箍を外していた。

 衝動に任せて、学園のIS全てに自衛隊でも行った対同化処置を施し、VTシステムを組み込む。

 

「ちーちゃんがいないだけで怖気づいて、役目を果たさなかった奴らなんてどうなったっていいよね」

 

 敵に容赦をしないのはもちろん、味方にも容赦しないことを決めた。

 暗い笑みを浮かべて、作業を進めていたところに真耶が箒の回復の報を持って、駆け込んできた。

 

「箒ちゃん、箒ちゃん、箒ちゃんっ!」

 

「姉さん……落ち着いてください」

 

 ハグをしようと両手を広げて束はダイブする。

 しかし、箒は飛び込んできた束の顔面を掴んで、その勢いを止めてみせる。

 

「静かにしてください。怪我人は私だけではないんですから」

 

「ぐぬぬぬ……このアイアンクロー、ちーちゃんに匹敵する。腕を上げたね箒ちゃん」

 

 アイアンクローから抜け出して、佇まいを直して束は箒に向き直る。

 

「痛いところはない? 熱はない? おっぱい小さくなってない?」

 

「っ……! 殴りますよ」

 

「な、殴ってから言ったぁ……ひどい! 箒ちゃんひどい!」

 

 殴られた頭を押さえながら、束はえへへっと笑う。

 先程までの悲壮の表情は完全に消え失せ、普段の篠ノ之束に戻っていた。

 

「ふむ……」

 

 はしゃぐのもそこそこにして、束は箒を改めて見る。

 帰って来た直後の彼女の姿は包帯とギブスで全身を覆われた姿だった。

 それが今では何事もなかったように傷のない健康体となっていた。

 

 ――生体再生……

 

 箒を回復させた機能に束に心当たりはあった。

 しかし、かつてその機能を持っていた機体のコアを紅椿のコアの片割れに使っているとはいえ、そのコアは完全に初期化していたはず。

 何故、紅椿がその機能を使えたのか分からない。

 もっとも、分からなくても、妹が回復してくれたのだから何も問題はない。

 

「姉さん……」

 

「ん、なーに箒ちゃん?」

 

「夢の中で一夏と会った……」

 

「いっくんに? いっくんは何か言ってた?」

 

「一夏はもう戻れないって……地平線を超えたって……だから……一夏は……もう……」

 

「大丈夫だよ、箒ちゃん」

 

 束は硬く握り締めた箒の手に手を添えて、そのまま箒を抱き締める。

 

「まだ希望はあるよ」

 

「希望……そんなもの、どこに……」

 

「かんちゃんが見た未来……そこにはいっくんもちーちゃんもちゃんといるんだよ」

 

 箒が息を飲むのが身体を通して伝わってくる。

 

「でも、それは一夏じゃない……一夏の記憶はきっともう戻らない。あいつのせいで一夏は戻れなくなってしまった」

 

「そっか……なら、いっくんを殺したあいつらを消さないといけないね」

 

 

 

 

 

 

『対数スパイラル形成……ファフナー零式、起動成功しました』

 

 クロエの報告に簪は緊張していた息を吐き出した。

 複座型のパイロットシート。

 その前方に第一パイロットとなった簪は不謹慎だが興奮していた。

 世界初の十メートル級の巨大IS。

 元はニーベルング接続の試験用だったそうだが、篠ノ之束がこっそりと改造していたおかげで拠点制圧型のISに仕様は変更されていた。

 もちろん、一体化の拒絶反応が強い機体だがその部分にも色々な工夫がなされており、そのパイロットに簪が指名された。

 

「お姉ちゃん、大丈夫?」

 

 起動の際、パイロットを二人にしてさらにそれぞれのISコアを間に入れることで同化現象の負荷はかなり軽減される。

 しかし、接続に伴う電気ショックのような痛みが全て消えたわけではない。

 簪はファフナーで何度か体験したが、楯無は始めての体験のはず。

 もしかしたら痛みに涙目になっている姉の顔が見れるのではないかと、淡い期待を抱いて簪は第二パイロットの座席に振り返った。

 

「お姉ちゃんっ!?」

 

 しかし、そこには簪の期待に反して血塗れの顔の楯無の顔があった。

 

「クロエちゃんっ! 異常発生っ! システムを止めて!」

 

『異常ですか? 心拍数は高いですが、他の数値は安定しています。問題はないはずですが』

 

「でも、お姉ちゃんが――」

 

「だ……大丈夫よ。簪ちゃん」

 

 楯無は操縦桿であるニーベルングの指輪に手を固定したまま、肩で口元の血を拭う。

 

「ちょっと驚いただけよ。何の問題もないわ。テストを続けましょ」

 

「でも……お姉ちゃんは適性が高いわけじゃないんだから……やっぱり本音に」

 

「ダメよっ!」

 

 簪の提案を楯無は声を上げて拒絶する。

 

「こんな楽園を誰かに譲るなんてっ!」

 

「楽園……?」

 

「っ……コホン……これは私の我侭なの。簪ちゃんの負担を一緒に背負いたい、一緒に戦いたいの……ダメ?」

 

「ダメじゃ……ない」

 

 正直に告げれば簪にも恐怖がないわけではない。

 いくら安全処置が施されているとはいえ、零式の起動は簪のファフナーをメインに行っている。

 この起動実験も失敗すれば簪は同化結晶の塊になって消えてしまう。

 気丈に振舞ってもやはり存在が消滅するかもしれない恐怖は消せない。

 簪は顔を前に戻して、楯無に話しかける。

 

「……お姉ちゃんが後ろにいてくれて心強いよ」

 

「簪ちゃん……」

 

「お姉ちゃん、一体化のコツは違う自分を拒まないこと……

 私がファフナーで、ファフナーは私。そして今、私たちはファフナーを通して繋がっている」

 

「私と簪ちゃんが、繋がっているっ!!?」

 

「っ!?」

 

 楯無の動揺に一体化が揺らぐ。

 

「お姉ちゃん、集中してっ!」

 

「は、はい」

 

 簪の叱咤に萎縮した返事が返って来る。

 しかし、どこか集中し切れていない思考を共有してしまう。

 あの優秀な姉がどうしてここまで心を乱すのか、簪には理解できなかった。

 それでもあたふたとしている楯無の姿は新鮮で、簪はつい苛めたくなる。

 

「は……いけないいけない」

 

 変性意識に流されそうな思考を簪は頭を振って追い出す。

 敵が目の前にいないおかげで衝動は薄いが、油断すると歪んだ思考をするようになる。

 簪は四苦八苦する楯無の様子を窺い、口元に笑みを浮かべる。

 もしかすると、この弱気な状態が楯無の変性意識なのかもしれない。

 

「ご、ごめんね……簪ちゃん」

 

「気にしなくていいよ、お姉ちゃん」

 

 不思議なものだ。

 わずか数ヶ月前までは姉の存在に怯えていたのは自分だったはずなのに、今は逆に余裕を持って姉を見守っている。

 

「お姉ちゃん……」

 

「な、何かしら簪ちゃん?」

 

「大丈夫……私がお姉ちゃんを守るから……」

 

 そう言えるのは一夏のおかげ。

 簪は操縦桿である指輪に固定された手を見る。

 かつてそこに感じていた繋がりを今は感じない。

 そのことに一抹の不安を思うが、自分が能力で見た景色を思い出して不安をかき消す。

 蒼穹の空の下にたたずむ彼の姿。

 

「私が一夏を取り戻す」

 

 後ろには頼れる姉がいて、一緒に戦ってくれる。

 それが何よりも心強い。

 敵は強大かもしれないが、少しも怖くない。

 

「勝とうね、お姉ちゃん」

 

「ええ、もちろん」

 

 決意を言葉にすると、楯無は強く頷いてくれた。

 

 

 

 

「お前も帰るのか?」

 

 寮の玄関を鞄を片手に出てきたシャルロットにラウラが声をかけた。

 

「うん、本国から帰還命令が出されたから……それに僕がいても足手まといにしかならないから」

 

「そうか……」

 

 深い追求をラウラはしなかった。

 シャルロットに限らず、帰省せずに残っていた生徒たちは次々に学園から避難と言う名目で出て行っている。

 残っているのは自ら志願して戦うことを決めた者たちばかり。

 そのことについてラウラは特に何も感じなかった。

 元々、学園の生徒達はISをファッションと勘違いし、危機感も意識も低い。

 目前に迫った戦闘に怖気づいて逃げ出すことなど、ラウラの予想の範囲内だった。

 しかし、シャルロットがそちら側になるとは思っていなかった。

 

「一夏を止められなかったことを悔いているのか?」

 

「それもあるけど……」

 

 押し黙るシャルロットにラウラは静かに彼女の言葉を待つ。

 

「向いてないんだって思ったんだ」

 

 シャルロットが言い出したことの意味が分からずラウラは首を傾げた。

 彼女はラウラの目から見ても優秀な操縦者だった。

 生身での戦闘力もあり、背中を任せても良いと思えるくらいの実力者と認識していた。

 しかし、本人の口からそれは否定される。

 

「……僕は…………怖いんだよ」

 

 長い沈黙の末、多くの葛藤をして口を開いたシャルロットが言葉にしたのは恐れだった。

 

「人が死ぬのも、自分が死ぬのも嫌だよ……怖いんだよ」

 

「……それが、あの日から溜め込んでいたお前の気持ちか?」

 

 シャルロットの弱音でようやくラウラは彼女がそれまで何に苦しんでいたのか理解する。

 自分は軍人だから、仲間が死ぬこと自分が死ぬことはいつかありえることだと納得と覚悟はしていた。

 

「軽蔑した?」

 

 その点で見れば、シャルロットもラウラが軽蔑する意識の低い学園の生徒の一人だったのかもしれない。

 

「いや……」

 

 シャルロットの言葉をラウラは首を振って否定する。

 覚悟があったとしても、PTSDになる者は軍人でもいる。

 むしろ、それを抱えていた友人と同室で共に過ごしていて気付かなかった自分の鈍感さをラウラは恥じた。

 

「お前が戦いたくないと言うなら、それでいい」

 

「ラウラ……」

 

「今回のことでISの認識は大きく変わるだろう。避難した生徒達も新学期に何人戻ってくるかは分からない」

 

 意識の低い者が戦うことを恐れて学園からいなくなる。

 それはラウラが望んでいたことだが、実際にそうなると寂しさを感じてしまう。

 

「ラウラ……僕は……」

 

 しきりに申し訳なさそうにしているシャルロットにラウラは苦笑を返す。

 ふと、副官から聞いたこういう時の作法をラウラは思い出した。

 

「シャルロット、一つ頼みがある」

 

「え……何かな?」

 

「この戦いが終わったらパインサラダというもの作ってほしい」

 

「パインサラダ……? どうして?」

 

「うむ、日本では戦闘の前に食べ物についての約束をするのが一般的だと聞いた……

 それもパインサラダと言うのは最高のゲン担ぎらしい」

 

「そうなんだ……でも、僕は――」

 

「ダメか?」

 

 戻ってくるか分からない。そう言い出しそうなシャルロットの言葉を遮ってラウラは懇願する。

 

「う……分かったよ……とりあえずパインサラダを作りに戻るから、だからラウラ、死なないでね」

 

 困った顔をしながらもかすかに笑ったシャルロットにラウラは安堵して約束を交わす。

 

「ああ、死なないとも……パインサラダ、楽しみにしているぞ」

 

「うん……それじゃあ……またね、ラウラ」

 

「ああ、また会おうシャルロット」

 

 

 

 

 





 ファフナー零式
 束がこっそりと改造していたIS。
 簪は本接続しているが、第二パイロットの方はISコアを経由しての仮ニーベルングシステムのため、操作性は第一パイロットに対して劣るが同化症状はほぼ現れない。
 また、接続したコアによっては単一仕様能力を機体の規模に合わせて使用することも可能。



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