ISのファフナー Siegfried and Brunhild   作:アルカンシェル

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5 決闘ーちからー

 

 

 

 

 

 翌週の月曜日、オルコットとの対決の日。

 第三アリーナAビットで、一夏は待ち惚けを食っていた。

 

「来ないな」

 

「来ないね」

 

 傍らで同じようにたたずむ箒と簪が一夏と同じ心情を呟く。

 

「ところで、私。ここにいていいのかな? 私、四組なのに」

 

「いいんじゃないか、別に。放課後なんだし、観客席には他のクラスも先輩もいるんだから」

 

 むしろ何故箒が我が者顔で堂々としているのかが一夏には分からない。

 

「それにしても来ないな」

 

「来ないね……本当に倉持技研って最低……」

 

 何故か、待たされている本人よりも簪の方が毒を吐いているが、一夏は怖いので追及はやめといた。

 一夏からすれば、このまま武装は届かず、不戦敗になってくれてかまわない。

 姉の命令でなければ、逃げたいくらいだった。

 しかし、やはり一夏の願いは届かない。

 

「お、織斑くん織斑くん織斑くん」

 

 慌しくピットに駆け足で入って来た副担任の山田先生に、一夏は諦めのため息を吐いた。

 

「来ましたよ! 織斑くんの専用ISの武装が」

 

 その言葉を合図にするようにピットの搬入口が鈍い音を立てて開く。

 そこに、『剣』があった。

 飾り気のない。無骨で真っ直ぐな剣。見上げるほどの長剣はISの全長に匹敵するほどに大きかった。

 

「これが……」

 

「はい! 織斑くんのISに合わせて作られた専用武装『マジカルルガーランス』です!」

 

「…………すいません、山田先生。よく聞こえなかったんで、もう一度言ってもらえませんか?」

 

 スキル『突発的な難聴』が発動した一夏は聞き返す。

 山田は若干、顔を赤く染めて繰り返した。

 

「ま、マジカルルガーランスです」

 

 聞き間違いではなかったようだ。

 

「ランス? 確かに突き刺せるからそっちはいいけど、っていうかマジカルって何っ!?

 この武装のどこにマジカルな要素があるんだよっ!?」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 一夏の叫びに山田は謝罪を繰り返す。

 

「そんなことより体を動かせ織斑。すぐに武装の認証を行え」

 

「千冬姉!」

 

「織斑先生だ。早くISを展開しろ」

 

「っ……来い」

 

 声に出してISを展開する。

 腕輪から全身に向かって緑の結晶が生まれ、身体全体を覆い尽くす。

 全身が結晶に覆われると、身体の感覚が曖昧になり、結晶が砕けると一夏はISに乗っていた。

 いや、なったという言い方が正しいような気がした。

 

「一夏、気分は悪くないか?」

 

「大丈夫、まだ問題ないよ千冬姉」

 

「そうか……なら武器を取れ」

 

 促されるままに一夏は鋼の腕でマジカルルガーランスを掴み上げる。

 

「認証はシステムが勝手にやる。仕様書に五秒で目を通せ」

 

「そんな無茶な」

 

 言いながら、一夏は武装の説明を読む。

 

『マジカルルガーランス』

 

 その単語をたっぷり五秒使って読むが名前は変わらない。

 

「千冬姉……これって相手からも武装情報は見れるんだよな?」

 

「ネットワークに開示されている情報か、自分で見聞きしたものならな」

 

「……向こうにもこの名前は筒抜けなんだ」

 

「いいから早くしろ」

 

 一夏の呟きに千冬は目を逸らして、追い払うように急かす。

 ハイパーセンサー越しに見ても、千冬の心情は読み取れない。

 

「……行ってくる」

 

 今でも戦うことは気が進まない。

 

 ――それでも千冬姉がやれと言うのなら、やるしかない……

 

「一夏……勝って来い」

 

「箒……」

 

 激励の言葉をかけられるが一夏は何と返していいか困る。

 

「あの……一夏」

 

「簪……」

 

「その……見てるから、ここで私は待ってるから」

 

 言葉少なく伝えてくる簪の言葉に一夏は息を吐いた。

 

「行ってくる」

 

 もう一度、千冬に向けた言葉を二人に言って一夏はピットから飛び出した。。

 

 

 

 

 

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

 セシリアが鼻をならして、一夏を出迎えた。

 初めて入る広いアリーナの広さと、観客席を埋め尽くす観衆に圧倒される。

 

「遅くなって悪かった……これが今着いたばっかりだったんだよ」

 

 ルガーランスを見せるように持ち上げて一夏は謝る。

 

「中距離射撃型のわたくしに、近距離格闘装備で挑もうだなんて……何ですの、そのふざけた名前は!?」

 

「そんなこと、俺に言われても困る」

 

「おっしゃりたいことがあるなら、わたくしを見てはっきり話しなさい」

 

 責任転嫁する一夏にセシリアは苛立ちの声を上げる。

 

「まあこれで、わたしくが一方的な勝利を得るのは確定しましたわね。

 ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、ジャパニーズの土下座を披露していただければすぐにこの試合を終わらせて上げますわよ」

 

「お気遣いどうも、だけどそんなみっともない姿をさらしたら千冬姉にギタギタのズタズタにボロボロにされちまうからな、謹んで遠慮させてもらうぜ」

 

「そうですか、せっかくの慈悲だというのに――」

 

 セシリアが動くと同時に一夏は動いていた。

 ファフナーと一夏は文字通り一身同体。その反応は他のISの比ではない。

 

「それでしたら、このセシリア・オルコット自らの手で、貴方の立場を思い知らさせてあげますわ」

 

 ライフルを構えると同時に撃ち出され、走る閃光がファフナーをかすめる。

 すかさず二射、三射。雨のごとく降り注ぐ攻撃。

 ハイパーセンサーと自分の感覚にダイレクトに動いてくれる機体でなければ開始早々直撃を受け、もう落とされていただろう。

 

「っ……」

 

 もっとも、かすめたレーザーに焼かれた装甲の痛覚まで感じてしまう機体なのでありがたみは半減だった。

 

「このっ!」

 

 逃げ回ってばかりでは削られていくばかり。

 一夏は旋回して、セシリアを正面にする。そのまま、ルガーランスを前に構えて突撃する。

 

「そんなこれ見よがしの特攻、通ると思ったら大間違いですわよ」

 

 一夏の特攻をセシリアは嘲笑い、ライフルを構えトリガーを引く。

 

「っ……ここっ!」

 

 ハイパーセンサーが捕らえたセシリアの指の動きに対して一夏は突進の速度を緩めずに身体を捻る。

 太いレーザーが目の前を擦過してファフナーの肌を焼く。

 それに構わず一夏は加速の勢いを乗せてルガーランスを突き出した。

 

「っ、甘いですわ!」

 

 セシリアは身を翻して難なくルガーランスの一突きを避ける。

 

「素人にしてはなかなかいい動きをしますわね」

 

「それはどうも」

 

 ぞんざいな返事をすると、セシリアの目が釣り上がる。

 

「ISに乗った途端気が大きくなったのかしら? わたくしに攻撃ができたからといって同等になったつもりですか?」

 

「何だよ、いきなり?」

 

「気に入りませんわね。いいでしょう、わたくしと貴方の格の違い、思い知らせて上げますわ」

 

 セシリアが言うと、ブルー・ティアーズから四枚の羽が分離する。

 

 ――あれがブルー・ティアーズのビットか……

 

 セシリアの機体については簪から予め教授を受けている。

 何故か、簪はセシリアと戦うことを想定して情報収集していたらしい。

 イギリスの第三世代型IS。

 そのコンセプトは遠隔誘導式の武器による全方位からのオールレンジ攻撃。

 その恐ろしさは簪にやらせてもらったロボットゲームですでに思い知らされている。

 

「踊りなさい、ブルー・ティアーズ」

 

 四つのビットがそれぞれ独自の軌道で飛び、ファフナーを包囲する。

 

 ――落ち着け、簪とやったゲームを、アドバイスを思い出せ……

 

 ビット攻撃であらゆる行動を封殺されたことを思い出して、ちょっとくじけそうになる。

 

「男なんて地に這っているのが御似合いですわ」

 

 ビットに意識を割きつつも、意識のほとんどはセシリアに集中する。

 

 ――いい、一夏。セシリアはニュータイプじゃないから、ビットの操作は視覚を使ったイメージに頼っているはず……

 

 ハイパーセンサーで彼女の視線や挙動を観察すれば、どのビットに意識を集中しているかは読み取る。

 

「無茶言ってくれるな」

 

 動く物体が増えただけで、敵はあくまでセシリア唯一人。

 理屈は分かるが、言われて簡単にできることではない。

 上下にビットが回り、先端が発光してレーザーを放つ。

 反射的に身体を動かして二条のレーザーを避けるが、回避した隙をセシリアがライフルで突いてくる。

 

「ちっ」

 

 直撃だけは防げても、レーザーは確実にファフナーの装甲を焼いて痛みを伝えてくる。

 

「初見でわたくしのブルー・ティアーズを避けるなんて、褒めて差し上げますわ」

 

「こっちはこれでも必死なんだよ」

 

 軽快な軽口を叩く。そうやって痛みを誤魔化しながらとにかくセシリアを観察する。

 

「このっ!」

 

 精度が荒くなった射撃。

 あえて、ビットを無視してセシリアに突撃する。

 

「一つ覚えの突撃、もう通しませんわよ」

 

 しかし、四つのビットがセシリアへの道を塞ぐようにレーザーを密集させる。

 

「そこっ!」

 

 目先を掠めるレーザーに怯む一夏にセシリアはすかさずライフルを命中させる。

 

「ぐうっ……」

 

 肩を穿たれ、焼きごてを押し付けられた痛みが走る。

 歯を食いしばって、その痛みを我慢し、追撃を避けるのに集中する。

 

 ――ビットが追い駆けている。なら、今は本体からの攻撃はない……

 

 簪のアドバイスを正しいと信じ、セシリアが視線を動かして注目した空間に向かって一夏はランスを投げた。

 

「なっ!?」

 

「一つっ!」

 

 思惑通り、ランスはそこで止まったビットに命中して爆発する。

 すかさず一夏はファフナーを飛ばしてランスを回収、驚きで軌道が単調になっていたビットの一つを縦に斬り裂く。

 

「二つっ!」

 

 ゲームと違ってビットは破壊できる。それがせめてもの救いだった。

 これで五つの動体が三つになった。

 

「これでだいぶ楽になったぜ」

 

「男のくせに、生意気ですわ!」

 

 安堵の言葉を挑発と受け取ったのか、セシリアの攻撃が激しさを増した。

 

 

 

 

 

 

 

「織斑くん、動きが悪いですね」

 

 リアルタイムモニターで戦況を見ていた山田真耶は真剣な面持ちで呟く。

 

「動きが悪い? あれで?」

 

 箒の目では順調にビットを落としているように見えた。

 最初の奇襲も避けられはしたが、もう少しで当てられていたはず。

 自分なら一夏ほどの動きはできないと認め、だからこそ逆に一夏はよく動いていると思えた。

 

「あれは怖がっているんだ」

 

「最初に一撃もオルコット本人を狙えば多少ダメージを与えられたはずだ。

 避けられたのはあいつがライフルを狙ったからだ」

 

「何で一夏はライフルを狙ったんですか、織斑先生?」

 

 当然感じた疑問を簪が投げかける。

 その質問に千冬は一度目を閉じてから、別の話題を出した。

 

「お前達、一夏の噂は知っているな?」

 

「一夏が試験の時に教官を殺したという話ですか? そんなこと一夏がするはずない」

 

 箒の主張に簪がコクコクと頷いて同意する。

 

「ああ、それは正しい。が、殺してはいないが二人にトラウマを植え付け、二度とISに乗れない身体にしたのは事実だ」

 

 知らされた真実に二人が絶句するが、千冬はかまわず説明を続ける。

 

「織斑のISは従来のISとは操作法が異なる。

 イメージで動かすISに対して、織斑のISファフナーは神経が直接繋がっている。

 織斑にとってISは乗るものではなく、なるものだ。

 手足のように使えるのではなく、手足としてその身体を扱える」

 

「なるほど、だから一夏のISはあんなに反応速度がいいんだ」

 

「もっとも、良い事ばかりではないがな。

 織斑のISは反応速度が高い反面、痛覚まで身体にフィードバックされている」

 

「っ……それじゃあ一夏は!」

 

 思わずモニターの中のファフナーを見る。

 全身装甲型のISは防御力が特徴だ。しかし、それが生身にフィードバックされるなら意味はない。

 痛いのは誰だって嫌だ。だから、戦い方が臆病になることは理解できる。

 

「でも、それとライフルを狙ったのは別の理由ですよね?」

 

「簪?」

 

「痛みが怖いから武器が怖いっていうのは分かります。でも、試合を終わらせればそんなことは関係ないはず」

 

「ふむ……さすがは更識の妹か」

 

「っ……」

 

 千冬の言葉に簪が唇を噛むが、モニターに視線を固定している千冬はそれに気付かない。

 

「そうだ。この神経接続のシステムはそれ以上の問題がある」

 

 そう前置きをして千冬は説明を続ける。

 

「接続の影響で織斑の脳に特殊な作用が起こっている。

 愛や同情といった思考を司る領域が抑制され、代わりに原始的な本能を司る部分が刺激され活性化されている。

 要約すれば、理性を抑え込まされ、攻撃的な本能を引き出されてそれを快感と強制的に認識させている、というわけだ。

 本来の自分とは違う自分になることから、変性意識と呼ぶことになった現象だ」

 

「それは大丈夫なんですか?」

 

「殺し合いの場なら有用な変化だが、試合では余計な作用でしかない……

 一応、遠隔で織斑のISを停止できるように細工はしてあるし、鎮圧装備で武装させた教員も待機している。問題はない」

 

「そうじゃなくて! 一夏がそんなことになっていると分かっているのにISに乗せるんですか!?」

 

「この現象がISに男が乗れる理由だとも考えられている。

 異常があるにしても、ないにしても。それを研究するためには織斑にISに乗ってもらう他ない」

 

「それでいいんですか千冬さん」

 

「政府の決定だ。篠ノ之」

 

 眉一つ動かさない千冬に箒は憤りを感じずにはいられなかった。

 

「一夏……」

 

 薄情な千冬から視線を剥がして箒はモニターの中のファフナーを見る。

 隣で、簪が両手を合わせて無事を祈るようにモニターを注視している。

 彼女のようなことはしないが、唇を噛む。

 何故、一夏がこの決闘に乗り気でなかったかようやく箒は理解した。

 

 ――お前は今、どんな顔をしているんだ、一夏……

 

 ヘルメットがあるため、彼の表情は分からない。

 それでも感情に任せて振るう剣の苦さを箒は誰よりもよく知っている。

 

「一夏……」

 

 もう一度、彼の名前を呟くと、そこで彼は四つ目のビットを破壊した。

 

 

 

 

 

 

「四つっ!」

 

 最後のビットを両断して、邪魔物を排除した一夏はセシリアに迫る。

 

「――かかりましたわね」

 

「っ……」

 

 にやりと笑うセシリアに、本能的な危険を感じる。

 セシリアの腰部からスカート状のアーマー。その突起が外れて動く。

 

「おあいにく様、ブルー・ティアーズは六機あってよ!」

 

 発射されたのは先程までレーザー射撃を行っていたビットではない。それはミサイルだった。

 そんな武装は簪の情報の中にはなかった。

 

「うおおおおっ!」

 

「なっ!?」

 

 だが、一夏は攻撃的な雄叫びを上げて、ミサイルを避けようとせずにさらに加速する。

 ミサイルの直撃を受けたファフナーは閃光と爆発に包まれた。

 想定外の距離での爆発の衝撃に、セシリアは煽られながらも距離を取る。

 しかし、爆煙からファフナーが飛び出してきた。

 

「そんな!?」

 

 不安定な体勢で強引に回避行動を取る。

 ルガーランスの穂先はセシリアの肩をかすめ、カスタム・ウイングの肩翼に突き刺さり、もぎ取るようにして破壊する。

 

「きゃあああっ!」

 

 飛行ユニットの半分を壊されて、ブルー・ティアーズが墜ちる。

 悲鳴を上げながらもセシリアは体勢を立て直し、何とか着地する。

 

「信じられませんわ。これだから男は!」

 

 優雅さの欠片もない野蛮な攻撃にセシリアは憤慨する。

 一夏のファフナーも、ミサイルのダメージとウイングの爆発の衝撃から体勢を戻せずに無様に墜落した。

 そのことが一層、セシリアを不快にさせる。

 

「こんな無様な男に、このわたくしが地面に落とされたですって」

 

 怒りに任せてセシリアはライフルをファフナーに向ける。

 

「シールドエネルギー残り23……生き汚いにもほどがありますわ」

 

 見ればファフナーはボロボロだった。

 装甲はところどころひび割れ、溶解している部分もある。

 それに加えて左手首はなく、右足も人間で言う脛の部分から欠けていた。

 

「俺は……」

 

 しかし、満身創痍にも関わらず、強い声がファフナーから響く。

 その声にセシリアは思わずトリガーにかけた指を固めてしまう。

 

「俺はまだっ」

 

 奇妙な現象が起きる。

 ファフナーがルガーランスを強く握り締めるとそこに緑の結晶が生まれ、腕とルガーランス繋げる。

 

「戦えるっ!」

 

 ファフナーが立ち上がり、その場でルガーランスを突き出す。

 ルガーランスの刀身が真ん中から二股に開く。

 その根元から溢れる荷電粒子の光。

 

「っ……!」

 

 射撃武器がないと思っていたセシリアは慌ててスターライトmkⅢのトリガーを引き絞る。

 同時に発射されたレーザーとプラズマ弾が二人の中間で衝突。

 高出力のプラズマ弾は容易くレーザーを飲み込み、セシリアに迫る。

 

「きゃあっ!」

 

 咄嗟にライフルを盾にして身体を逃がす。

 プラズマ弾は目の前でライフルを容易く貫通し、アリーナのシールドバリアーに穴を穿つ。

 その威力に戦慄して気を取られている隙に、ファフナーが片足で跳んでセシリアに襲い掛かる。

 

「くっ……」

 

 咄嗟に近接武器を呼び出そうとするが、その間にファフナーは二股に開いたままのルガーランスを突き出し、スラスターで加速した。

 突撃の勢いでルガーランスはセシリアの身体を挟むようにして捕らえる。

 

「――インターセプターッ!」

 

 武器の名前を叫んで呼び出し、最後の一撃に突き出そうとする。

 

「うおおおおっ!」

 

 ルガーランスでセシリアを捕らえたファフナーはスラスターを全開にして壁に突っ込む。

 加速の勢いでインターセプターは空を切り、壁に叩きつけられた衝撃で手から零れ落ちる。

 

「くっ……つ……」

 

 そして壁に叩きつけられ、絶対防御が発動しセシリアの目の前でシールドエネルギーが目に見えて減少する。

 だが、それよりも自分を挟み込むルガーランスの根元に集束する光に意識が奪われる。

 

「ひっ」

 

 先程のプラズマ砲の威力を思い出してセシリアは恐怖する。

 しかも先程とは違い、零距離から、つまりは絶対防御の上に直接食らうことになる。

 あの威力を直接絶対防御に受ければどうなるか、想像してセシリアの顔から血の気が引く。

 

「やめ――」

 

 プラズマの光が臨界に達し、今まさに撃ち出されるその瞬間――

 

「え……?」

 

 ファフナーが手首のない左腕で自分を殴り、仰け反って倒れた。

 壁から抜けたルガーランスは溜めた光を不発させ、ファフナーと繋がっていた結晶が砕け地面に落ちる。

 

『試合終了。勝者――セシリア・オルコット』

 

 ブザーと共に上げられた宣言の意味に、セシリアは訳が分からず呆けた表情をさらす。

 もっとも、それはギャラリーたちも同じだった。

 しかし、ピットにいた四人は試合の結果ではなく、一夏の行動に胸を撫で下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

「無様だな」

 

 試合が終わって、ピットに戻った一夏を迎えたのは千冬の厳しい言葉だった。

 

「敵の攻撃に自分から突っ込む貴様は猪か? 私の弟はいつから野生動物になった?」

 

「すいません」

 

 変性意識から通常意識に戻った一夏はうな垂れて謝った。

 

「過剰攻撃をせずに自分で自分を殴って試合を終わらせたことには評価してやる。

 だが、そもそも戦い方の全てが拙い。更識に予め相手の情報た弱点を教わっていたとしても鵜呑みにし過ぎだ。

 常に相手が未知の攻撃をしてくるという可能性を忘れるな」

 

 一言褒めたかと思えば、それ以上のダメ出しが出てきていっそう一夏はうな垂れる。

 そんな弟を見かねてか、千冬は大きく息を吐いて説教を切り上げた。

 

「反省会は明日、オルコットを交えて行う。今日はこれでおしまいだ。帰って休め」

 

 辛辣な言葉を受け一夏は、それと彼の付き添いだった箒と簪はビットから追い出される。

 歩き出しても二人は声をかけてくることはしない。

 

 ――見られたんだよな……

 

 最初こそ、冷静に戦えていたと思うが一機目のビットを破壊した時から破壊衝動に悦楽を感じ始めていた。

 一夏も神経接続システムの副作用は聞かされているが、どうしても壊すことに暗い悦楽を感じている自分は受け入れ難い。

 アリーナから出ると、すでに日は暮れていた。

 

 ――急がないと夕食に間に合わないな……

 

 食欲はないがそんなことを考えていると、そこで二人がようやく声をかけた。

 

「一夏……何だよな?」

 

「一夏……?」

 

 不安げに恐る恐る自分を伺う箒と簪。

 二人の視線に恐怖が混じっていることを一夏は敏感に感じ取る。

 呼ぶ声に振り返らず、気持ち歩く速度を上げる。

 

「待て! 一夏」

 

 すかさず箒が一夏の肩を無理矢理掴んで止める。

 

「…………何だよ?」

 

 強引に振り向かされるが、一夏は箒の顔を見ず、俯いたまま言葉を返す。

 箒もその反応に戸惑い、口ごもりながら言葉を続ける。

 

「その、なんだ……負けて悔しいか?」

 

「……別に……」

 

 素気なく答えるが、予想していた箒からの厳しい叱責はなかった。

 

「……そうか」

 

 それだけ言って箒は一夏の肩から手を放す。

 そのまま一夏は前に向き直って歩き出す。

 

「一夏っ!」

 

 簪がその背に声を上げるが、一夏は振り返ることはしなかった。

 それでも簪はもう一度叫ぶ。

 

「一夏っ、また明日っ!」

 

 その言葉に一夏は足を止めて振り返っていた。

 追う素振りもなく、その場で手を振る簪に、一夏は苦笑して返事をした。

 

「ああ、また明日」

 

 

 

 

 

 

 

 ――今日の試合……

 

 熱いシャワーを頭から浴びながら、セシリアは直前の一夏との試合を思い出す。

 何故、最後に彼が自分を殴ったのかは分からない。

 そのおかげでお零れの様に自分が勝った。

 誇れるような勝ち方ではないが、むしろ男なんかに勝利を譲ってもらったという印象に憤慨した。

 

 ――わたくしが勝ったのに……

 

 しかし、その憤慨よりも戸惑いの方がセシリアの胸中を大きく占めていた。

 

 ――織斑、一夏……

 

 姉である織斑先生に目を合わせようとせず、卑屈で覇気のない、主体性のない言われるがままに動く情けない男。

 二人の関係は、セシリアの両親によく似ていた。

 だからこそ、余計に亡き父親を思い出させる一夏を余計に嫌悪した。

 

 ――でも……

 

 しかし、決闘中の彼は真逆の存在感を溢れさせていた。

 ヘルメット越しでも伝わってくる雄々しい気迫。

 猛獣のような激しさ。それは、セシリアの父親を逆連想させた。

 

 ――どちらが本当の貴方なんですか……

 

「織斑……一夏……」

 

 二つの表情を持つ一夏。

 一方は軽蔑の対象、もう一方はセシリアが理想とする、強い意志を持った男。

 

「あなたは……そこにいるの……?」

 

 問いかけは、水の流れる音に消え、セシリアの中にだけ残った。

 

 

 

 

 

 

 

 一度部屋に戻って鞄を置いた一夏は食堂に急ぐ。

 

「あ……」

 

 試合が終わってすぐに解散した観客と違い、後始末と織斑先生の説教を食らったため利用時間がギリギリだった。

 しかし、それは自分に付き合って最後までいた箒と簪も同じだった。

 

「え……一夏……?」

 

 また明日と、別れを告げた二人はわずか十数分で再会した。

 気まずい空気が二人の間に流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 マジカルルガーランス

 和名『魔法の電撃槍』

 刀身が二股に開閉し、柄に内蔵されたプラズマ砲を撃つことができる。遠近両用武器。

 突き刺して刀身を展開することでシールドを抉じ開け、撃つ事で絶対防御の発動を狙える。

 

 





 今回の話でストックは尽きました。
 次回からは間が開いての更新となります。
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。


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