ISのファフナー Siegfried and Brunhild   作:アルカンシェル

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7 勝負ーたいわー

 

 

「――――から、合鍵ちょうだい」

 

「ふ、ふざけるなっ! なぜいきなり出てきた奴にそんなことを言われなければならない!?」

 

「一夏、起きて」

 

 まどろむ意識の中で言い合う声が二つと身体を揺らす声が一つ。

 

「う……ああ……起きた」

 

 簪の声に返事をしながら一夏は覚醒する。

 

「今日も起きられなかったか……」

 

 今まで目覚めが悪い方ではなかった。

 一応、目覚ましだってかけているのに身体を揺さ振られるまで起きることはできなかった。

 

「気にすることないよ。養護の先生はちゃんと休めてる証拠だって言ってたよ」

 

 しかし、千冬や箒には弛んでいる証拠だと非難されている。

 自分でも後者の方が正しいと思い、簪の手を煩わせてる現状はやはり後ろめたさを感じてしまう。

 

「…………簪ちゃんに起こされるなんて、なんて羨ましいことを……」

 

「ん……? 今、何か言った?」

 

 頭がまだ覚醒しきっていないのか何かが聞こえたような気がした。

 

「え? 私は何も言ってないけど」

 

 一夏の疑問に簪は首を傾げる。

 空耳だったのだろうか、未だに眠気が払い切れず頭が回らない。

 

「はい、一夏」

 

「あ……ありがと、簪」

 

 差し出された束印のドリンクを受け取って、一夏は一気に飲み干す。

 

「ふう……」

 

 それを飲んでようやく眠気が晴れて意識がはっきりしてくる。

 

「で、鈴。お前、何してるんだ?」

 

 そこでようやく一夏は箒と言い合っている鈴に意識を向ける。

 箒は何故か、いつも簪についてくるので疑問には思わない。

 

「あ、おはよう一夏。ねえ、一夏は誰に起こしてもらいたい?」

 

「…………ああ、お前もか」

 

 切っ掛けは単純な寝坊からだった。

 その日、授業の時間が過ぎても現れない。連絡さえつかない一夏にマスターキーで部屋に入って来た千冬を一夏は寝惚けた状態で迎えてしまった。

 その時の折檻を思い出すと今でも身体に震えが走る。

 それが一日で済まず、毎日ではないが週に二度三度と繰り返すと、千冬は呆れてしまい一夏を起こす係りを作ることにした。

 

「ってことは千冬さん公認なの?」

 

「元々、相部屋っていうのはそういうのを防いだり、病欠のフォローとかするために処置なんだよ。

 でも、俺は一人部屋だったから、それが無理で……

 今は女子でもいいから相部屋にするべきじゃないかって意見も出てる。合鍵はそれが決まるまでの繋ぎなんだよ」

 

 入学してから約一ヶ月。ISが引き起こす結晶化現象も破壊などに及ばなければ接触しても危険がないことが分かった。

 もちろん、一夏が今まで通り一人で寝起きできていれば何の問題もなかったのが、今日も起きれなかったのでは反論のしようもない。

 

「それで、その時に立候補者を募ったらえらい数になってさ……」

 

「別にどうやって決めたとか興味ないわよ。っていうか、あたしがいない時にそんな大事なこと決めないでよ」

 

「無茶言うなよ。それに鈴がいたとしてもたぶん選ばなかったと思うぞ」

 

「はあっ!? 何でよ、ってまさかアンタ、眼鏡属性だったの?」

 

「なんだよ属性って? そうじゃなくて、鈴は起こす時ボディプレスとかしてきそうだろ?」

 

「よし、その喧嘩買った。表に出なさい」

 

「朝っぱらから勘弁してくれ。ほら、着替えるから出て行け。簪は今日も起こしてくれて、ありがとうな」

 

「うん、それじゃあ先に食堂に行ってるから」

 

「一夏、何故私には礼を言わない」

 

「いや、お前は簪について来てるだけだろ?」

 

 言い返すと箒はむっと頬を膨らませる。

 

「お前なんて寝坊して千冬さんに怒られればいいんだ!」

 

 捨てセリフを残して部屋を出て行く箒。

 いつものことだが、何がしたいのだろう彼女は。

 

「うん、今のは箒に同情するわ」

 

 何故か箒に同情する鈴。彼女は何故か部屋に留まったままだった。

 

「で、お前はいつまでそこにいるんだ?」

 

「あたしのことなんて気にしないで着替えればいいじゃない。中一くらいまでは一緒の教室で着替えてたんだしアンタの裸なんて今更よ」

 

「それもそうか」

 

 鈴の言うことに納得する。

 何も全裸になるわけではない。シャツとズボンを変えるだけ、ましてや相手は鈴なのだから気にする必要もない。

 

「それにしても一夏が寝坊って珍しいわね、あたしが知ってる限りだと皆勤賞だったのに」

 

「養護の先生は、女子校の生活に強いストレスを感じているからその反動じゃないかって言われたよ」

 

「ふーん……ねえ、ところでさ、約束って覚えてる?」

 

「勝負に勝ったら言うこと一つ訊けって奴か? あれは弾や数馬が勝手に言い出したことだろ」

 

「それもあるけど……」

 

 言いよどむ鈴に首を傾げて、一夏は記憶を掘り起こす。

 

「それじゃあ……もしかして、料理が上手くなったら毎日酢豚を食べてくれっていうやつか?」

 

「そ、そうよ、それよ」

 

「で、俺よりもうまくなったのか?」

 

「うぐっ」

 

 喜悦が一転、鈴は胸を押さえて蹲る。

 

「だいたい鈴はうまく行かないとすぐに道具や食材のせいにするんだから、ダメだぞ料理屋の娘がそんなんじゃ」

 

「ぐはっ」

 

「それに毎日酢豚だと栄養が偏るし、すぐに飽きると……って、どうした鈴?」

 

 着替えを終えて振り向くと、真っ白に放心した鈴が横たわっていた。

 

「おい鈴……今寝たら遅刻するぞ」

 

「い……一夏……勝負よ」

 

 息も絶え絶えにして鈴がそんなことを言い出した。

 

「勝負って……お前なぁ」

 

「あたしがアンタに勝ったら……つき――アンタの相部屋になる権利、あたしによこしなさい」

 

「いや、だから相部屋の話はまだ決定じゃないから」

 

「いいから! 約束よっ!」

 

 まくし立てて鈴は強引に約束を取り付ける。

 

「それは……できない」

 

 しかし、一夏はその約束を拒絶した。

 

「は……? 何でよ?」

 

「何でって……それは……」

 

「そんなに……簪って子が良いわけ?」

 

 言いよどむ一夏に鈴が勝手に答えを想像する。

 

「簪は関係ないだろ」

 

「じゃあ、やっぱり眼鏡? 眼鏡なのね!?」

 

 涙混じりに掴みかかってくる鈴。

 ここまで取り乱した彼女を見るのは一夏も初めてだった。

 

「落ち着け鈴……とにかく勝負でそういうことを決めるつもりはない」

 

 はっきりと拒絶をすると、鈴はよろけて後ずさる。

 

「っていうか勝負ももうやめないか?」

 

「なんで……?」

 

「もう俺達は高校生だし、お互いに立場っていうものも背負うようになった。それにISを持つように――」

 

「ふざけるなっ!」

 

 説得の言葉は鈴の咆哮にかき消された。

 

「勝ち逃げなんて絶対に許さないんだからね」

 

「鈴……」

 

「だいたい、アンタがそんなこと言ったってクラス代表戦であたしたちが戦いことは決まってるのよ」

 

「それは俺達の勝負とは関係ないだろ」

 

「うるさいうるさいうるさい」

 

 もはや聞く耳など無い。

 

「この一年、あたしがどれだけ強くなったか思い知らせてあげるわ。首を洗って待ってなさい」

 

 一方的に言うだけ言って鈴は部屋から出て行く。

 残された一夏はため息を吐いた。

 

 その日、登校した一夏に知らされたクラス代表戦の最初の相手は凰鈴音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 織斑一夏は凰鈴音にとって初めは気に入らない男だった。

 当時の鈴は自分でもかなり荒れていたと今なら思う。

 国を跨ぐ転校、激変した生活環境。

 名前や人種でからかってくる馬鹿な同級生たち。

 それを止めようとした一夏を仲間と誤解して叩きのめそうとしたのが始まりだった。

 『りんりん』と呼んだ馬鹿四人はすぐにのした。

 しかし、一夏には体力が尽きるまで追い掛け回しても殴りかかっても、かすらせることができなかった。

 その時、すぐに誤解だったと気付いて謝ったが、その日から鈴は一夏に勝負を挑むようになった。

 

 ――今まで勝ち星は一つもない。でも、今日は絶対に勝つ……

 

 過去に思いを馳せながら、気を落ち着かせて鈴は相対している一夏を、一夏が中にいるはずのファフナーを見据える。

 クラス代表戦、それも第一試合。

 最後の勝負にはこれ以上ない絶好の場だった。

 

「あれが一夏のISか……」

 

 そういえば、まじかで見るのは初めてだと思い、鈴はスペックデータを思い出す。

 最も注目すべきなのはその操縦性。

 今までのISにはない、神経接合操作システムによる反応速度は既存のISを遥かに上回る。

 人間で言えば、反射神経の差とも言い換えられる。

 こちらの行動を見てから、動いて間に合う反応速度は脅威でしかない。

 

「それから第一形態で異例の単一仕様能力」

 

 まだ詳細は究明されていないが、ファフナーが作り出す結晶体にはエネルギーを増幅させる力がある。

 その『増幅現象』はルガーランスに内蔵された射撃武器が砲撃武器にクラスチェンジするほど。

 直撃を食らえば、ましてやシールドバリアーを抉じ開けれて撃ち込まれれば、その瞬間にシールドエネルギーが満タンだったとしても試合を終わらせる威力がある。

 

『それでは両者、規定の位置まで移動してください』

 

 アナウンスに促されて、一夏と鈴は空中で向き合う。

 

「一夏、今日こそ勝たせてもらうわよ」

 

「今日は手加減なんてしてやらないぞ、鈴」

 

 口調だけでも変化が分かる。

 こんな好戦的な一夏は鈴も見たことはない。

 いつも勝負を挑み殴りかかっても、一夏は寸止めや、転ばせるだけでまともに相手をしてもらえなかった。

 だが、彼は敵として自分を見ている。

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

 ブザーの音と共に鈴が前へと飛び出した。

 

「いくわよ、い――」

 

 鈴は気合を入れて声を発した瞬間、想定外のことに思考を止めてしまった。

 前に飛び出したのは鈴だけではなく、一夏も同じだった。

 今まで、何度も一夏に挑んでていた鈴は転ばされても、直接殴られたりしたことは一度もない。

 流石に勝敗がある試合までそうするとは思っていなかったが、先攻は自分だと勝手に決め付けていた。

 

「っ……」

 

 思考停止は致命的な遅れだった。

 

「はあっ!」

 

 普段の彼からは想像できない気合の入った声を響かせてルガーランスが唐竹に振り下ろされる。

 咄嗟に腕を交差させて斬撃を受け止めるものの、その衝撃は空中にいた鈴を地面に叩きつけるほどだった。

 

「くっ……」

 

 背中を打った衝撃に息が詰まり、身体が痺れる。しかし、ハイパーセンサーが知らせる警告に鈴は転がるようにその場から逃げ出した。

 一瞬遅れて、鈴が倒れていた位置にルガーランスが突き立つ。

 

「やばっ」

 

 急降下して地面にランスを突き立てたファフナーの無機質なカメラアイと視線を合わせた鈴はすぐさま空中に飛び立つ。

 それを追って、二股に刀身を展開したルガーランスがプラズマ弾を連射する。

 

「これが一夏の変性意識……」

 

 口調だけではない、本当にまるで別人を相手にしているようだった。

 ヘルメット越しでも十分に分かる威圧感。

 内向的で争い事を好まない本来の性格とは正反対、むしろその覇気は姉の千冬を彷彿させる。

 

「あはっ」

 

 しかし、向けられる威圧感に鈴はむしろ笑みを浮かべた。

 先制で二割のシールドエネルギーを削られた。しかしそこに危機感を感じない。

 それは一夏が攻撃してくれたという証明に他ならない。

 いつも適当にあしらわれていたが今は違う。一夏は己を敵としてみてくれている。それがたまらなく鈴は嬉しかった。

 

「いくわよ一夏っ!」

 

 仕切り直すように鈴は叫ぶ。

 ファフナーは距離が離れたことで射撃をやめ、急上昇してくる。

 それに対して鈴は青龍刀を展開させ、急降下。

 互いの武器を激突させ、すれ違う。

 

「っ……」

 

 剣戟の衝撃にパワー型の甲龍だというにも関わらず腕が痺れる。

 

「出し惜しみはしないわよっ!」

 

 上空を旋回するファフナーに鈴は叫び、両肩の武装『龍咆』を起動する。

 衝撃砲が不可視の弾丸を撃ち出し、突進してきたファフナーを撃ち落す。

 が、すぐにファフナーは体勢を立て直して、鈴を中心に旋回する。

 

「まだまだっ!」

 

 畳み掛けるように衝撃砲を連射する。

 だが、一夏もすぐにそれに対応したのか、かすめはするが直撃だけはきっちり避けている。

 

「驚かないわよ。アンタは千冬さんの弟なんだから」

 

 初見にも関わらず衝撃砲を見切られ始めている。

 それをブリュンヒルデの不思議パワーというもので納得させ、衝撃砲を撃ちながら鈴はファフナーに接近戦を挑む。

 

「せいっ!」

 

 青龍刀で切り結び、至近距離から衝撃砲を浴びせる。

 

「っ……」

 

 余波は少なからず甲龍のシールドエネルギーまで削るが、鈴は構わず果敢に攻める。

 だが、一夏の方もされるがままではなかった。

 振り抜かれる青龍刀。

 その瞬間を狙い済ましてファフナーが甲龍の手を蹴りつけ、青龍刀を弾き飛ばす。

 

「ちっ」

 

 舌打ちをして鈴は衝撃砲を撃つ。

 しかし呼吸を読まれたのか、不可視の弾丸を潜り抜けファフナーは無手となった鈴に肉薄する。

 

「しまった――なんて言うと思った?」

 

 突き出されるルガーランスに鈴はむしろ前に出る。

 

「そんな見え見えの攻撃」

 

 刀身に手を伸ばす。

 滑らせた手に平から火花が散る。が、鈴はそれに構わずファフナーの力と加速した力を利用してルガーランスを彼の手からもぎ取った。

 

「なっ!?」

 

 ヘルメット越しの彼の驚いた声に鈴は気分を良くする。

 だが、鈴の攻めはここで終わらない。

 奪ったランスを投げ捨て、無手となったファフナーの懐に入り込み、背中を彼の腹部に触れさせる。

 

「破っ!」

 

 渾身の剄を込め、鈴は背中を起点に力をファフナーに叩き込んだ。

 本来なら踏ん張りの利く地面で行う技だが、それをIS用にアレンジされた鈴の鉄山靠はファフナーを吹き飛ばす。

 その距離はアリーナの半分以上を超え、ファフナーはシールドバリアーに衝突した。

 

「どうよ一夏。これがあたしの一年の功夫よ」

 

 バリアにへばりつくように地面にずり落ちたファフナーは人間のような仕草で頭を振る。

 

「お前その技、弾とかで練習してたやつだろ! あれほど人に使うなって言ったのに!」

 

「ちゃんと使う相手は選んでるわよ。アンタや弾なら死にはしないでしょ?」

 

「ISが無かったら即死してるわっ!」

 

 普段の彼ならしない罵倒。

 こんな風に会話を交わせるなら変性意識も悪くはない。

 

「さて――」

 

 鈴はもう一本の青龍刀を展開する。

 そして弾かれた方の青龍刀も呼び戻す。

 

「……遠隔操作武器?」

 

「そんな大層なものじゃないわよ。ただ、磁石みたいにあたしのところに戻ってくる機能よ」

 

 言いながら、鈴は二つの青龍刀、双天牙月を連結させて構える。

 

「無手になったからって容赦はしないわよ、覚悟しなさい一夏っ!」

 

 中心の柄をバトンのように回し、斬り込む。

 重量と遠心力を合わせた一目で破壊力が高いと分かる攻撃に一夏は地面を転がって回避し、その勢いを利用して駆け出す。

 

「――甘いっ!」

 

 ルガーランスに向かって走るファフナーを衝撃砲を使って牽制、邪魔をする。

 それを避けるために大きく移動したところに鈴は追い縋り、双天牙月を上から叩き込む。

 

「っ!」

 

「白刃取り!?」

 

 振り下ろされる肉厚な刃をファフナーは両手で挟んで受け止めた。

 衝撃で足が地面にめり込むが、完全に止められた。しかし――

 

「だから甘いってのっ!」

 

 すかさず鈴は双天牙月を分離して、固定されてない刃を逆手から順手に持ち替えて振り下ろす。

 咄嗟にファフナーは止めた刃を放して後ろに跳ぶ。

 しかし、逃げ遅れた右手を青龍刀の刃は斬り飛ばす。

 赤い液体が断面から零れるのを見て、鈴は思わず固まる。

 手足の末端は拡大されたロボットツール。装甲を破壊するのと変わりないのだから気にする必要はないのだが、全身装甲だと紛らわしい。

 もっとも、硬直は一瞬。鈴は青龍刀を再連結させ、追い討ちをかける。

 

「これで! 終わりよっ!」

 

 甲龍が誇る、シールドエネルギーを突破し本体にダメージを貫通させ、絶対防御を発動させられる渾身の一撃。

 体勢を崩しているファフナーに避ける術は無い。

 

「は……?」

 

 しかし、その一撃は鋼の剣に受け止められた。

 

「ルガーランス!? まさかもう一本あったの!?」

 

 絶好の勝機を外されて、鈴は思わず叫ぶ。

 左手に握られたルガーランスが双天牙月を弾く。それに合わせて鈴の体が流れ、ルガーランスで胴体を薙ぎ払われる。

 吹き飛ばされた鈴は大幅に減ったシールドエネルギーに舌打ちをする。

 

「ずるいわよ一夏! そのランスは一本しかなかったんじゃないの!?」

 

 思わず叫んで抗議するが、一夏の返答は無い。

 むしろ彼自身、自分の手の中にルガーランスがあることが不思議で戸惑っているようだった。

 

「無視すんじゃないわよ!?」

 

 返事をしない一夏に鈴は怒って斬りかかる。

 利き手ではない、ましてや両手で取り回せない剣で、鈴の双天牙月の連撃を捌き切れるはずも無く、数合目の打ち合いでルガーランスが弾かれる。

 

「もらったっ!」

 

 今度こそ、勝ったと思って双天牙月を振り切る。

 しかし、勝機で気を緩ませた斬撃をファフナーはかいくぐり、鈴に肉薄した。

 

「――っ」

 

 失策を悟ったが、今のファフナーは素手。こちらのシールドエネルギーを一撃でゼロにするだけの攻撃力は無い。

 

 ――なら、受けてカウンターで落と――っ!?

 

 大丈夫だと安心していた鈴の目の前で、奇妙な現象が起きた。

 ファフナーの手の中で緑の結晶が溢れたかと思うと、それがルガーランスとしてそこにあった。

 

 ――三本目……て、弾いたやつがないっ!?

 

 スローモーションになる景色の中で、ハイパーセンサーが示す表示に目を疑った。

 弾き飛ばしたはずのルガーランスは二本ともアリーナの何処にも落ちてない。

 ならば、ファフナーが持っているルガーランスは初めから一本だったのか。

 

 ――まさか単一仕様能力っ!

 

 思って、同時にありえないと否定する。

 ファフナーの単一仕様能力は結晶を武器にまとわせたエネルギーの『増幅現象』。

 遠くのものを引き寄せる単一仕様能力は存在しているが、二つの能力が第一形態で両立するはずがない。

 

 ――それよりも……

 

 答えの出ない思考をすぐに放棄して、鈴は改めて考える。

 ファフナーはすでに『増幅現象』の単一仕様能力を発動させ、ルガーランスと自分の腕を繋げている。

 これでは先程のように化剄で無刀取りもできない。

 そして、この至近距離から威力を増幅したプラズマ砲を食らえばシールドエネルギーはゼロになる。

 

「ま、仕方ないよね」

 

 重量武器を振り抜いて流れた身体にそれを避ける余裕は無い。だから、

 

「我慢しなさいよ、甲龍!」

 

 両肩の衝撃砲から常にチャージしてあった二つの空気弾を撃ち出され、二人の一メートルにも満たない隙間で衝突し合って破裂した。

 凄まじい衝撃がファフナーと甲龍を弾き飛ばす。

 鈴は地面をバウンドしながら空中で制動をかけて、状況を確認する。

 

「こっちのシールドエネルギーはあと三割……一夏の方が少し有利か……」

 

 奇しくも試合開始の時と同じくらいの距離で対峙することになった。

 

「すぅ……はぁ……」

 

 乱れた呼気を一息で戻し、鈴は甲龍に命令を下す。

 

「両肩の非固定浮遊部位をパージ」

 

 肩部に浮遊している龍砲が内蔵されたスパイク・アーマーが鈴の命令に従って地面に落ちる。

 鈴もまた、地面に降り立ち、しっかりと地面を踏み締め、双天牙月を構える。

 対するファフナーは、『増幅現象』を示す緑の結晶を砕き、左腕でルガーランスを突き出すように構えた。

 言葉を交わすことなく、意を汲み取ってくれた一夏に鈴は思わず口元に笑みを作る。

 

「行くわよ一夏……これが最後の一撃よ」

 

「ああ、来い鈴。お前の全部、俺が受け止めやる」

 

 先程まで歓声に溢れていたアリーナが嘘のように静まり返る。

 誰もが剣を構える固まる二人を固唾を飲んで見守る中。

 二人が、同時に、動き――

 その瞬間、アリーナ全体を揺るがす衝撃が走った。

 

「何!?」

 

 動きかけた身体を止めて、遮断バリアーを貫通して降ってきた何かはステージに激突して土煙を巻き上げる。

 

 ――所属不明のISを確認、ロックされてます。

 

 ハイパーセンサーが告げる警告に鈴は瞬時に反応していた。

 

「逃げなさい、一夏!」

 

 叫ぶと同時に上空へ飛ぶ。

 煙の中から赤い光線が放たれ、甲龍の足先をかすめる。

 

「なっ!? ホーミングレーザー!?」

 

 しかし、かすめて飛んで行ったはずのレーザーが鋭角に曲がって鈴に追い縋る。

 咄嗟に双天牙月を楯にして受け止めるが、分厚い刃が穴だらけにされて使い物にならなくなる。

 

「あんな武装、聞いたことないわよ」

 

 空中から徐々に晴れていく土煙の中に鈴は注目する。

 そこには『黒』がいた。

 

「…………黒いIS……? でもあれって……」

 

 思わず鈴は自分と同じように上空に逃げてレーザーを避け切ったファフナーを見た。

 一夏のファフナーと、その黒いISはよく似ていた。

 全身装甲。

 一夏のそれと比べると、一回り大きな体躯をしている。

 他の差異は両肩の非固定浮遊部位。ホーミングレーザーの発振器に三対六枚の羽。

 武装はまだ手にしていないが、ISにとっての無手など意味は無い。

 

「何……?」

 

 ハイパーセンサーが所属不明機の機体コードを伝えてくる。

 その名を聞いて鈴は不吉な悪寒を感じずにはいられなかった。

 

 ――機体コード、マークニヒト――

 

 それが乱入してきたISの名前だった。

 

 

 

 

 

 





絶望一つ投下。

書いてから思った。
原作よりもSEが瀕死な二人にマークニヒト(初期)。
詰んでるかもしれない。


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