ISのファフナー Siegfried and Brunhild   作:アルカンシェル

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8 人形ーひていー

 

 

 

 土煙が晴れたその先に、『黒』がいた。

 

「黒いIS……ファフナー?」

 

 全身装甲。しかもその造りは一夏のものとよく似ていた。

 しかし、一夏のファフナーと違って、それは一回り大きくたくましい身体つきをしており、力強さを感じさせる。

 そして両肩には非固定浮遊部位が設置されている。

 円筒状の推進器。そこに付随された三組六枚の羽。

 ずんぐりとした体型なのに、禍々しさを感じさせる。

 

「機体コード、マークニヒト……」

 

 ハイパーセンサーから送られてくる名前に不吉を感じる。

 

「お前、何者だ?」

 

 乱入者の返答は無い。

 

『織斑くん、凰さん、今すぐアリーナから――』

「っ……!」

 

 山田先生の通信の途中でマークニヒトが動く。

 非固定浮遊部位の翼の一枚が外れ、ワイヤーに繋がれた鏃がセシリアのビットのように飛んでくる。

 瞬く間に目の前に迫ったケーブルアンカーをルガーランスを盾にして受け止める。

 激しい火花が目の前で散る。

 

『織斑くん! 早く――』

「うるさいっ!」

 

 悠長に方針を決める暇をマークニヒトは与えてくれなかった。

 ケーブルアンカーに気を取られた隙に、マークニヒトに肉薄される。

 ファフナーよりも太い腕で、突き出されるストレート。

 身体を大きく傾けて避け、そのままスラスターを開放して離脱する。

 それを追ってホーミングレーザーが撃たれる。

 急上昇と急旋回を繰り返して、誘導が切れたところで一夏はルガーランスを前に突き出す。

 

「くらえっ!」

 

 緑の結晶が腕とランスを繋ぎ、刀身を二股に展開してプラズマ砲を撃つ。

 通常のISなら一発でシールドエネルギーを大幅に削る攻撃に、マークニヒトは手をかざして――

 

「受け止めた!?」

 

 信じられないことに、渾身の力を込めた砲撃は容易く片手で止められた。

 お返しと言わんばかりに今度は六基全てのケーブルアンカーが放たれる。

 

「くそっ」

 

 縦横無尽に迫る六基のケーブルアンカー。

 レーザーのように途切れることは無く、それでいて長く伸びたケーブルは複雑な軌道で飛んでも絡まることは無い。

 目の前のアンカーをランスで弾く。が、それを狙い済まして別のアンカーがファフナーを――

 

「せいっ!」

 

 貫く寸前、鈴が双天牙月を叩き付け、弾き飛ばした。

 先にレーザーを受け止めていた双天牙月はその衝撃に砕け散る。

 

「鈴!? お前、何で逃げてないんだよ!」

「逃げられるわけないでしょうが! あたしは代表候補生なのよ!」

 

 一夏の叫びに鈴が叫びを返す。

 

「だからって遠距離攻撃できないお前が何の役に立つっ!? さっさと逃げろ!」

「はぁ!? 龍砲がなくたってあたしにはこの拳が――」

 

 飛んでくるアンカーを鈴は殴り飛ばす。

 

「あるのよっ!」

 

 無茶苦茶だが、そういう用途も考慮されているのか、繊細なはずのロボットアームは壊れていない。

 

「っ……」

 

 しかし、シールドエネルギーの残量は当然少ない。

 

「下がってろ、こいつは俺が倒す」

「はあ!? あんたこそ下がってなさいよ!」

 

 示し合わせたわけでもなく、一夏と鈴は我先にと別方向に飛ぶ。

 一夏はレーザーとアンカーを背中に追従させ、大きく旋回する。

 

「――ここだっ!」

 

 円軌道から直線軌道に急転換。

 新たに撃ち出されたレーザーをルガーランスのプラズマ砲でまとめて撃ち落す。

 

「いっけぇ!」

 

 瞬時加速。

 ISの加速機動技術のひとつ。スラスターから放出したエネルギーを再び取り込み、二回分のエネルギーで加速する。

 離れた距離をそれこそ、瞬時に詰めて一夏はルガーランスを突き出した。

 

「な……?」

 

 手応えは予想していたシールドに突き刺さるものでもなければ、絶対防御が発動して突き飛ばしたものでもない。

 ルガーランスは深々とマークニヒトとの胴体に突き刺さっていた。

 予想もしなかった結果に一夏は言葉を失った。

 

「ちょ……一夏、あんた……?」

 

 逆側から接近してきた鈴が急ブレーキをかけて、背中まで貫通したルガーランスに絶句する。

 

「……違う……命を感じない……まさか人が乗ってないのか?」

「無人機なんてあり得ないわよ。ISは人が乗らない絶対に動かない。そういうものなのよ」

「でも……」

 

 手応えは硬い金属を貫いたものだけで、人体を貫いたとは思えない。

 

「それにしても、ただの見掛け倒しか……一夏、勝負の続きを――」

 

 せっかく意気込んだのに、一撃も入れられなかったと不満をだと言わんばかりに鈴は軽くマークニヒトの頭を叩く。

 

「っ!? 鈴、逃げろ!」

 

 ルガーランスを通して感じる駆動に一夏は声を上げる。

 

「え……?」

 

 一瞬遅れて、マークニヒトを中心に黒い球体が現れ、一気に膨張する。

 逃げようにもルガーランスは腕と繋がっていてすぐには動けず、ファフナーはその黒い球体に飲み込まれた。

 一夏の視界は一面の黒に覆われる。

 

「ぐうっ」

 

 全身にかかる、まるで捻じ切られそうな負荷に一夏は歯を食いしばる。

 しかし、耐えられないほどではない。

 わずか数秒で、黒い何かはすぐに消えた。

 

「っ……」

 

 視界が晴れると、一瞬前とは変わらないマークニヒトが目の前にたたずんでいた。

 胸にはルガーランスが突き刺さったままだというのに、そいつはまだ動いていた。

 

「くそっ……うわ?」

 

 背筋を寒くして一夏は咄嗟に後ろに飛ぶ。

 ルガーランスと繋がる結晶はいつの間にか砕けていて、距離を取ることはできたが背後の段差に足を取られてしまう。

 

「何だこれ?」

 

 アリーナの地面がマークニヒトを中心にくり抜かれたように消失していた。

 ファフナーは背中から転ぶが、そこにマークニヒトの追い討ちは無かった。

 

「何だったんだ今の攻撃は?」

 

 今度は注意深く、マークニヒトの動きに気をつけながら、後ずさる。

 

 ――ワーム・スフィアー。ゼロ次元方向への歪曲回転攻撃。

 

 一夏の呟きにハイパーセンサーが答えを持ってくる。

 

「よく分からないが、ブラックホールみたいなものか? そんなものどうしろって言うんだよ!?」

 

 思わず悪態を吐く。

 距離を取ればホーミングレーザーとケーブルアンカーの波状攻撃。

 近付けば、空間歪曲場による攻撃。

 しかも、強固な防壁まで持っている。

 打つ手が思いつかないでいると、マークニヒトが動き出す。

 

「……おい、ちょっと待て」

 

 身構えたところに攻撃はなかった。

 マークニヒトはその足元に倒れていた鈴を片手で掴み上げた。

 

「待て……やめろ……それ以上動いたらぶっ殺すぞ」

 

 何故、鈴が倒れているのか。

 考えるまでも無い、ワーム・スフィアーから逃げ遅れたからだ。

 自分は大丈夫だったが、彼女は絶対防御が発動してしまったのか、甲龍はもうその身体から消えていた。

 マークニヒトは一夏の声を無視して鈴の首を掴んで、片手で持ち上げる。

 そして、もう一方の手で鈴の腰を掴み――

 

「やめろって言ってんだよ!」

 

 今、ファフナーには武器は無い。

 それでも一夏はマークニヒトの凶行を止めるために飛びかかっていた。

 何処からとも無く飛来した光線が、マークニヒトの頭を撃ち抜いた。

 

「はあっ!」

 

 その衝撃に大きく仰け反ったマークニヒトに、誰かが斬りかかる。

 

「織斑、凰を連れて離脱しろ!」

「え……あ……」

 

 突然の乱入者はマークニヒトの腕を斬り、強引に鈴を奪うとファフナーの首根っこを掴んでその場から離脱した。

 打鉄に乗った見知らぬ誰かに一夏は混乱してまともに受け答えをすることはできなかった。

 

『織斑、彼女の指示に従え』

 

 そんな一夏の耳に千冬の声が響く。

 

『彼女達は学園の戦闘教官だ。そいつの制圧は任せてお前は離脱しろ』

 

 見れば自分を運んだ人だけではない。

 ラファールが三機。マークニヒトを囲んで銃弾を浴びせている。

 アリーナの観客席も避難が終わっているようで誰もいない。

 

「でも、千冬姉……」

『学園を騒がせる狼藉者を排除するのは私たち大人の役目だ』

「でもっ!」

『身の程を弁えろ、織斑』

 

 辛辣な言葉に一夏は押し黙り、頷いた。

 

「……了解しました」

 

 気を失った鈴を抱えて、一夏は近い方のピットへ飛ぶ。

 

「大丈夫か? 一夏……?」

 

 防護服に身を包んだ溝口が一夏を出迎える。

 どうやら千冬たちがいるピットとは逆の方に来てしまったようだった。

 

「溝口さん、鈴を」

「ああ、担架は用意してある。そのまま、乗せてやってくれ」

 

 指示されるままに一夏は鈴を担架に乗せる。

 すぐに鈴を乗せた担架は運び出されるが、一夏はそれを追い駆ける気にはなれなかった。

 

「ほれ、お前もISを解除しろ」

 

 促され、一夏は躊躇いを感じながらファフナーを収納する。

 

「納得いかないって顔だな? お前さんもそういう顔ができたんだな」

「友達をやられて黙っていられるほど薄情じゃないですよ」

 

 その言葉に溝口は苦笑する。

 

「さて、お前さんもできればすぐに避難してもらいたいんだが」

「ここにいさせてください」

 

 一夏はアリーナを映すモニターを見つめながら頼む。

 戦うことは許されなかった。ならばせめて結末だけでも自分の目で見届けたい。

 

「ま、男の子だもんな。千冬ちゃんへの言い訳は考えておけよ」

「ありがとうございます。溝口さん」

 

 モニターから見る先生達は見事な連携を組んでマークニヒトと戦っていた。

 ラファールに乗った三人が、一定の距離を保ち銃弾を浴びせる。

 レーザーを余裕を持って避け、アンカーは追われていない者が撃ち落す。

 そして生じた隙に打鉄に乗った二人が一撃離脱を繰り返す。

 そうすることで確実にマークニヒトの損傷を増やしていく。

 

「どうやら本当に無人機みたいだな」

「……ですね」

 

 モニターの映像を見ながら溝口がそんなことを呟く。その言葉に一夏は同意する。

 すでにマークニヒトはボロボロだった。

 切り落とされた左腕に未だに刺さったままのルガーランス。

 これが手足の末端ならまだ分かるが、その言い訳では二つの損傷は構造上人体に届いている。

 しかし、マークニヒトは何の痛痒も感じさせずに動き続けた。

 もっとも、無人機だったとしても、それだけの損傷を抱えて動ける理由が分からない。

 

「このまま終わってくれるといいんだがな」

「…………」

 

 今度の呟きに一夏は応えなかった。

 機体の損傷に加え、アンカーケーブルは全て撃ち落され、レーザー発振体も片方は半壊している。

 攻撃力は半分以下、見るからにマークニヒトは満身創痍のはずなのに、一夏の胸中の不安は拭い切れなかった。

 

「なんだ……?」

 

 マークニヒトが新たな動きを見せる。

 残った右腕を天にかざすと、そこから稲妻がほとばしり、無数のワームスフィアーがアリーナを覆い尽くした。

 

「なっ!?」

 

 溝口がそれを見て絶句する。

 一瞬で形勢は逆転する。

 ワームスフィアーに飲み込まれた先生達は機体を捻り壊され墜落する。

 

「っ……」

「待て行くな、一夏!」

 

 それを見た一夏はアリーナへと駆け出していた。溝口の制止を背に走りながらファフナーを展開して飛び立つ。

 マークニヒトは自分の胸に刺さるルガーランスを引き抜き、振り被って投げた。

 

「どこに……っ、逃げろセシリア!」

 

 あらぬ方向に投げたルガーランスをハイパーセンサーで追い駆けて見て、一夏は叫ぶ。

 しかし、撃ち落す気なのかセシリアは狙撃体勢のまま一射。

 投擲されたルガーランスに命中するが、その勢いは衰えない。

 それでもセシリアは落ち着いて二射目を撃つ。

 が、それさえもルガーランスの勢いを止めることはできなかった。

 驚きにスコープから顔を上げるセシリア。

 その肩ににルガーランスが命中し、次の瞬間そこを起点にワームスフィアーが発生してセシリアを飲み込んだ。

 

「このっ……化物がっ!」

 

 攻撃の結果など興味がないと言わんばかりにマークニヒトは周囲に倒れている先生達を一瞥し、残ったレーザー発振体の砲門を開く。

 

「やらせるかっ!」

 

 最大加速で一夏はファフナーを身体ごとマークニヒトにぶつけ、アリーナの内壁に叩きつけるように激突させた。

 壁に衝突。それでもスラスターは全開のまま緩めない。

 マークニヒトを押さえ込む腕に亀裂が走り、その痛みが激痛となって一夏を襲うが、力を緩めず押さえつける。

 

「動ける奴は早く逃げろ!」

 

 一夏の叫びに、先生達は悔しそうに顔を歪めるが、一夏の言うことを聞いてピットに向かって動き出す。

 動けそうにない人には溝口が駆け寄っていた。

 そのことに一夏は安堵して口元を緩める。

 次の瞬間、マークニヒトを中心としたワームスフィアーがファフナーを飲み込んだ。

 

「ぐうっ」

 

 歯を食いしばって一夏は全身にかかる負荷に耐える。

 どういう原理かは分からないが、一撃でISを無力化、絶対防御を発動させるこの攻撃にファフナーは耐性があるようだった。

 ワームスフィアーが消え、それでも一夏はマークニヒトを壁に押さえつけた体勢を維持し続けた。

 すかさず、もう一度。

 

「ぐ……あああああっ!」

 

 今度の負荷は前の二回に比べものにならないくらいの威力があった。

 全身を捻じ切られるかの様な痛みに耐え切れず、一夏は悲鳴を上げる。

 ワームスフィアーが消えると、ファフナーはマークニヒトを押さえていた腕を垂らせて、膝を着いて崩れ落ちた。

 シールドエネルギーは一桁。

 ファフナーは身体の至る所から煙を立ち上らせ、一夏の耳に警報の絶え間なく響かせる。

 マークニヒトはファフナーを邪魔だといわんばかりに払い除けて、ピットに足を向ける。

 

「ま……て……よ」

 

 払った右腕を一夏は縋り付くように両手で抱え込み、マークニヒトの歩みを妨害する。

 

「行かせない…………そっちには……鈴が……みんなが――」

 

 マークニヒトは腕を振り回し、ファフナーを壁に叩きつける。

 

「ぐうっ!」

 

 背中から全身に響く衝撃に一夏は息を飲み、ファフナーはマークニヒトの腕を放してしまう。

 それでも壁を支えにして、一夏は倒れるのだけは拒んだ。

 痛みに喘ぐ一夏が顔を上げると、そこに拳を振り上げたマークニヒトが。

 しかし、もうまともに動くことができないファフナーは、抵抗することもできずにその拳に頭を叩き潰された。

 

「一夏っ!?」

 

 悲鳴を最後に一夏の意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 更識楯無はIS学園二年生の生徒会長だ。

 クラス対抗戦に突如として乱入してきた正体不明のIS。

 それに対して楯無がやったことは来賓の安全確保とそして避難誘導。

 システムがハッキングされ、扉が全てロックされるような事態はなかったため、IS学園の戦闘教官はすぐに駆け付け、重要人物の一夏もピットに退いた。

 だから、楯無は後の事を先生方に任せて、避難指示を出すことに集中した。

 

「これでよしっと」

 

 開いた扇に『避難完了』の文字。

 あとは警戒宣言が撤回されるまで待てばいい。

 

「それにしても、天下のIS学園を襲うなんていったい何処の馬鹿なのかしら?」

 

 おかげでクラス対抗戦は中止。

 この数週間に渡る仕事を無駄にさせられたのだから、恨み言の代わりに黒いISの制圧に乱入しようかしらと冗談交じりに考える。

 

「お姉ちゃんっ!」

 

 その声に楯無はキリッと意識を切り替える。

 

「あら簪ちゃん、どうかしたの?」

 

 内心で久しぶりに妹が声をかけてくれたことに喝采を上げながら、表情には一切出さずに駆け寄ってくる簪に余裕のある笑みで応える。

 

「中はどうなったの? 一夏は無事なの? あのISは何なの!?」

 

 内気な彼女には珍しく、まくし立てて質問を重ねる。

 

「落ち着きなさい簪ちゃん。仮にも日本の代表候補生である貴女がそんな風に取り乱しちゃいけないわよ」

 

 簪に心配される男にちょっと嫉妬してながら、楯無はひとまず簪を落ち着かせる。

 

「もう先生達が出てきたから、一夏君なら撤退したわ。あのISもすぐに制圧されるから安心していいわよ」

 

 IS学園の防衛力を兼任する先生達。その一人ひとりが国家代表に相当する実力の持ち主だ。

 テロ鎮圧を目的とするため、より実践的かつ高度な連携は学園最強を自負する楯無も一対多では分の悪い相手だ。

 しかし、楯無の言葉に簪は引き下がらず。

 

「それに箒もいないの」

「箒……それって……」

 

 簪の交友関係を理解している、この学園で新しくできた簪の友達。

 元々篠ノ之箒は重要人物の一人なので楯無はそれ以上に箒の性格なども把握している。

 直情型の彼女なら、何もできないと分かっていても、何かしたいと行動してもおかしくない。

 

「分かったわ。箒ちゃんは私が探してくるから簪ちゃんは避難していて」

「それなら私も……」

 

 踵を返し、アリーナへ戻ろうとした楯無を簪は手を握って引き止める。

 

「っ……専用機を持っていない貴女が行って何になるの?」

 

 緩みそうになる顔を簪に見せないように、背中を向けたまま話す。

 

「それは……」

 

 震えた手を慰めるように一度、強く握り返し、顔に笑みを浮かべて楯無は振り返る。

 

「あなたはそこにいなさい。私が一夏くんも箒ちゃんも連れて来てあげるから」

 

 簪の手を、名残惜しんで解き、楯無は未だに戦闘音が鳴り響くアリーナに向かって駆け出した。

 そして、観客席の入り口から出た楯無はそこで未だに暴れ続けている黒いISとそれを壁に押し付けるファフナーの姿を見た。

 

「そんな……先生達はどうしたの?」

 

 見れば、ISを強制停止させられた状態で救助されている先生達。

 捩れ曲がって放置されたISパーツや銃。

 いったい自分が見ていない間に何があり、何をされたのか。

 その答えは目の前で起こった。

 

「一夏くんっ!」

 

 黒いISを中心に発生した黒い球体が現れて、消える。

 そこで作り出された光景に楯無は絶句した。

 黒い球体に触れた壁や地面がくり抜かれたように消滅していた。

 原型を保っているのは発生させた黒いISと、それに向き合っているファフナーだけ。

 しかし、そのファフナーも所々が捻じ曲がり、全身から煙を立ち上らせていた。

 

「ミステリアス・レイディ」

 

 一目でISの稼動限界だと分かる有様に楯無はすぐに自分の専用機を展開した。

 飛翔する。

 ファフナーがボロボロになりながらも黒いISの腕を掴んで放さない。

 スラスターを全開にして飛ぶ。

 黒いISは腕に抱きつくファフナーを軽々振り回して壁に叩きつける。

 観客席の中を同じ方向に走っている箒を見つける。が、無視する。

 黒いISはファフナーよりも太い腕を振り上げる。

 目前で、観客席側から出てきていた楯無は遮断シールドによって行く手を遮られた。

 目前で、ファフナーの頭が黒いISに叩き潰された。

 

「一夏っ!」

 

 楯無に遅れて遮断バリアに辿り着いた箒が何度も彼の名前を呼びながらバリアを力任せに叩く。

 

 ――ファフナー大破、操縦者生死不明……

 

 ハイパーセンサーが知らせる無感情な報告に楯無は呆然と聞き流す。

 人の死を見るのが初めてというわけではない。

 自分の行動に落ち度は無かったと、言える。

 それでも、壁によりかかったままゆっくりと横に倒れているファフナーから目を離すことができなかった。

 ひしゃげた頭。捻られた亀裂からオイル混じりににじみ出る赤い血。

 ハイパーセンサーが集積する情報から目を逸らして楯無は妹を思う。

 

 ――簪ちゃんに何て言えばいいのよ……

 

 簪の友達となり、彼女の笑顔を増やした一夏に楯無は嫉妬した。

 だが、決して彼のこんな結末を望んだわけじゃない。

 一夏を殺した黒いISはバリアー越しの楯無を無視してピットに足を向け歩き出す。

 

「っ……蒼流旋っ!」

 

 目の前の遮断バリアーに楯無はランスを突き立てて、爆破して抉じ開ける。

 ステージに侵入した楯無は黒いISの前に立ち塞がり言葉を投げかける。

 

「何処に行こうとしてるのかしら?」

 

 しかし、楯無の呼びかけを無視して黒いIS、マークニヒトは歩き続ける。

 

「このっ……」

 

 まるで歯牙にもかけないそんな様子に苛立ちを感じた。

 余裕の仮面を取り繕う気の余裕などない楯無はランスを突き出して四門のガトリングガンで射撃した。

 降り注ぐ弾丸の雨を鬱陶しそうに身動ぎをして、マークニヒトは目に見えて残った唯一の武装、ホーミングレーザーを撃ち出す。

 飛翔して、ホーミングレーザーの隙間を縫うように掻い潜り、お返しと言わんばかりに水流の蛇腹剣、ラスティー・ネイルを振って最後の武装を破壊する。

 

「さあ、これで――」

 

 目に見えた武装は全て破壊したこれで、あとはあの黒い球体だけ気をつければいい。

 そう思った矢先にマークニヒトの腕に黒い光が迸り、楯無は自分を中心に発生した黒い球体に飲み込まれた。

 

「くっ……これは……」

 

 全方向から捻じ壊そうとする力に先生達が何故倒されたのか理解する。

 そして同時に自分と相性がいいと悟る。

 全身にかかる負荷を液体であるアクア・ナノマシンに肩代わりさせてやり過ごす。

 黒い球体が消えて視界が開ける。

 

「相手が悪かったわね。私はこの学園の生徒会長、つまりはこの学園で最強なのよっ!」

 

 相手は信じられないがおそらくは無人機。

 しかも、その構造がどうなっているのか、刺されても斬られても動きそのものに不具合は生じていない。

 

「それなら大技で一気に仕留める」

 

 幸い、黒い球体を放つ時の予備動作は分かりやすい。

 おそらく先生達は初見だったからあの攻撃に落とされたのだろう。

 楯無は防御用のアクア・ナノマシン右手に集め、巨大な水のランスを作り出す。

 

「ミステリアス・レイディの奥の手、ミストルテインの槍。アクア・ナノマシンによる超振動破砕の一撃はどんなものでも突き破ることができる」

 

 おまけに内部でアクア・ナノマシンがエネルギーを転換、解放することで大爆発を起こせる。

 

「さあ学園最強の力、思う存分味わいなさい!」

 

 楯無がミストルテインの槍を放とうとした瞬間、それは起こった。

 ステージと観客席を隔てる不可視のはずの遮断シールドが緑の結晶に侵食され全天を覆い尽くした。

 

「何……何なの?」

 

 日光を遮り、暗くなったステージ。

 思わず手を止めて、楯無はマークニヒトの新たな攻撃を警戒するが、そこに動きは無い。

 結晶は一斉に音を立てて砕け散り、空気に溶けるようにして降り注ぐ幻想的な光景だった。

 

 ――ファフナー、機動を再開……

 

「え……?」

 

 ハイパーセンサーからの報告に楯無は耳を疑った。

 だから、ハイパーセンサーからの情報ではなく、振り返って自分の目で楯無はそれを見た。

 そこに無傷でたたずむファフナーがいた。

 

「…………何で……俺……生きてんだ?」

 

 息を荒くして、起こった現象に一番困惑した声をハイパーセンサーが捕らえる。

 

「一夏! 本当に一夏なんだな!?」

 

 楯無が開けた穴からステージに降りた箒が彼に縋り付き嗚咽交じりに彼の名を何度も呼んでいる。

 何が起きたか分からない。

 それでも妹の友人の無事に楯無は安堵して、妹を悲しませようとした元凶を睨み付ける。ミストルテインの槍を振り被る。

 

「いく――」

「悪い、箒……終わらせてくる」

「一夏……ああ、勝って来い!」

「え……?」

 

 ハイパーセンサー越しに二人の会話が聞こえてくる。

 楯無が水槍を放つより早く、ファフナーが動いた。

 地面を蹴ってスラスターを全開にした加速は瞬時加速以上の速度を出していた。 

 

「まさか……遮断シールドのエネルギーを取り込んだの?」

 

 大幅に減衰したバリアーの出力とファフナーのそれを関連付けて楯無は驚く。

 マークニヒトにとっても想定外の速度だったのか、回避運動を起こす暇を与えずファフナーが迫る。

 しかしその手は無手。

 だが次の瞬間、凰鈴音と戦っていた時の現象が起き、ファフナーの手の中にルガーランスが現れる。

 

「おおおおおおっ!」

 

 雄々しい雄叫びを上げてのファフナーがルガーランスを突き出す。

 マークニヒトは右腕に黒い光をまとわせ、黒い球体をファフナーに向かって撃ち出した。

 ルガーランスの一閃がそれを二つに切り裂き、無効化する。

 そのまま、一夏はルガーランスを最初の時のようにマークニヒトの胸に突き刺した。

 

「俺が……守る……みんなを……守るっ!」

 

 ルガーランスの刀身が展開され、傷が抉じ開けられる。

 しかし、そこからプラズマ弾を撃ち出す気配は無く、代わりにその開いた傷を起点にして緑の結晶が生まれ一気に増殖してマークニヒトを包み込んだ。

 直後、最後の抵抗と言わんばかりに黒い球体がマークニヒトを中心に広がり、ファフナーを飲み込んだ。

 ハイパーセンサーが読み取る黒い球体の中にかかる力は今までの比ではない。

 

「一夏くんっ!」

 

 楯無が叫ぶ内に、黒い球体は消え去り、残ったのはルガーランスを虚空に突き出すファフナーだけだった。

 ハイパーセンサーを用いて索敵してみても、マークニヒトの痕跡はどこにもない。

 

「…………終わったの?」

 

 唐突に起きた襲撃にしてはやけに呆気ない終わり方だった。

 しかし、いくら探してもマークニヒトの存在はなく、ISコアの反応さえも何処にもなかった。

 

「一夏っ! やったな!」

 

 下で篠ノ之箒がファフナーに向かって駆け出していく。

 ファフナーはその場でルガーランスを落とし、疲れ果てたように膝を着き、ISを除装しながら倒れていく。

 涙を浮かべながら倒れる一夏の身体を抱き止める箒。

 まるでアクション映画のワンシーンのような光景を楯無は見下ろした。

 そして学園最強の称号の証である生徒会長、更識楯無は振り上げたままの水が渦巻く槍を見上げた。

 

「……せいとかいちょうはがくえんさいきょう……みすとるていんのやり……くすん……」

 

 中空にいて一夏に気付いてもらえなかった楯無は誰にも気付かれないままいじけた。

 

 

 

 

 

 

 

「う…………?」

 

 全身の痛みに呼び起こされ、一夏は目を覚ました。

 カーテンで仕切られたベッド。それに見覚えのある一夏はそこが保健室だと理解する。

 

「俺は……あいつを倒した後、すぐに気を失ったんだっけ?」

 

 思い起こすのは意識を失う直前の戦闘。

 潰されたはずの頭があるかどうか気になって、触ってみても傷らしいものはどこにもない。

 そのことに安堵の息をもらす。

 

「気がついたか」

 

 カーテンが引かれ、厳しい顔の姉が現れた。

 

「身体に致命的な損傷は無い。自分で何か違和感を感じるか?」

「……いえ、特にありません」

「そうか……何もないのなら一先ずは安心か。念のため、明日の朝一で検査を受けろ」

「分かりました」

 

 頷いてから、一夏は気になっていることを尋ねる。

 

「千冬姉、鈴やセシリア……それと先生たちはどうなった?」

「安心しろ。全員命に別状は無い」

「そっか……」

 

 それを聞いて一夏は安堵する。

 そんな一夏に千冬は顔をしかめ、一夏を名字で呼んだ。

 

「さて、織斑……私は退けと言ったはずだな?」

「千冬姉、それは――」

「織斑先生だ」

 

 有無を言わせない迫力で一夏の言葉を千冬は遮る。

 

「だが、大口を叩いて返り討ちにされ、お前に助けられた私達が責めるわけにもいかんわけだ」

「それじゃあ、今回のことは?」

「お前があのISを倒したことで不問とする」

 

 その言葉に一夏は緊張で強張らせた肩を弛緩させる。

 

「だが、今後同じことがあった場合。お前はすぐに離脱しろ。その時、周りの犠牲を考慮する必要はない」

「千冬姉……? 何を言ってるんだよ?」

 

 姉の口から信じられない言葉を聞かされて耳を疑った。

 

「お前は自分の価値を自覚しろ。お前は世界で唯一の男性IS操縦者だ。

 あの場合、凰や私の同僚を見捨てたところでお前は責められることはない」

「本気で言ってるのかよ、千冬姉っ!」

「ああ、私は本気だ。女のIS操縦者は私を含めて換えは効く。だが、お前は効かない。それだけの話だ」

「ふざけるなっ!」

 

 思わず声を上げて反発していた。

 もしかしたら、初めてかもしれない行動を一夏はしていた。

 

「千冬姉は……それでいいのかよ? そんな人の影にコソコソ隠れているような奴が弟でいいのかよ!?」

「良いか悪いかの話ではない。これは政府も容認していることであり、他の国もそれでお前に恩を売れるならと――」

「出てってくれ……」

「一夏……?」

「そんな話聞きたくないっ! 出て行ってくれっ!」

 

 気が付けば、一夏は枕を投げつけていた。

 枕は千冬の身体にぶつかり、床に落ちる。

 一夏の荒げた息が静まり返った保健室に大きく響く。

 初めて千冬の言葉に背き、拒絶した。

 それほどに千冬の言葉は一夏にとって受け入れがたいものだった。

 

「…………ふう」

 

 俯き目を合わせようとしない一夏に千冬はため息を吐き、床に落ちた枕を拾う。

 

「しっかりと休むんだぞ、一夏」

 

 軽く埃を叩いて落とし、枕をベッドの隅に置き千冬はそれ以上何も言わずに保健室を出て行った。

 

「くそっ……」

 

 思わず一夏は悪態を吐く。

 きっと千冬の言葉は正しいのだろう。

 しかし、それでも他の誰かを犠牲にしてもお前は生き残れという彼女の言葉は受け入れることはできなかった。

 

「……一夏?」

 

 千冬と入れ違うように鈴が保健室に入ってくる。

 彼女を犠牲にしてでも生き残れと言われたばかりなだけに鈴の顔を見て一夏は息を飲む。

 

「何かあったの? 今千冬さんが信じられないくらいに――」

「何もない」

「え、でも――」

「何でもない」

 

 素気なく一夏は鈴の言葉を遮って答える。そして有無を言わせずに話を変える。

 

「それより身体は大丈夫なのか?」

 

 鈴は絶対防御を発動させられ、生身に攻撃を受けた。そのことを一夏は思い出す。

 

「あたしは問題ないわよ。それより試合は無効だって」

「そうか……」

 

 一夏からすれば勝ち負けなどどうでもいい。

 しかし、負けず嫌いな鈴は不満そうだった。

 

「再試合は?」

「六月には個人のトーナメントがあるからやらないでしょ……それにあたしは何も出来なかったんだからあたしの負けでいいわよ」

 

 そう言うものの鈴の顔は優れない。

 しかし、今回の負けて悔しいと言ったものとは少し違う気がした。

 

「……そんなに俺に勝ちたかったのか?」

「だから、もう良いって」

「悪かった。まさかそこまで気にしてるとは思ってなかった」

「……一夏が勝負をやめようって言ったのは変性意識のせい?」

 

 鈴の質問に一夏は頷いた。

 

「ああ、ISに乗らなければ大丈夫かもしれないけど、こいつはここにあるんだ……いつ俺が俺じゃなくなる保証なんてないんだ」

 

 未だに外れない腕に視線を落とし、一夏はそれに気付く。

 

 ――あれ、指輪の痕? こんなにはっきりと?

 

 以前に指摘されたのは左手の薬指だけだったのに、今でははっきり分かる痕が全ての指にあった。

 動かしてみても、動きに違和感は感じられない。

 

「でも、あたしは楽しかったわよ」

 

 鈴の言葉に一夏は指から意識を戻す。

 

「え……?」

 

「生身だと相手をしてくれるだけ。でもISでなら一夏は戦ってくれた。ちゃんとあたしのことを見て、負かそうとしてくれた。

 あたしはあっちの一夏も嫌いじゃないわよ」

「でも、あれは……」

「難しく考える必要なんてないわよ。あたしだって戦うことが面白くなかったらIS操縦者になんてなってないわよ」

「…………危ない奴だな」

「IS操縦者なんて大なり小なり、そんなものよ。別にアンタが特別ってわけじゃないわ」

「そう……か……」

 

 鈴の言葉に一夏は胸に刺さっていた何かが抜けた気がした。

 

「ありがとう、鈴」

「何でお礼を言うのよ?」

「なんとなく言いたくなった」

「そう……」

「鈴、また勝負しよう」

「いいわよ。今度こそ勝たせてもらうからね」

 

 晴れやかな笑顔になる鈴に一夏は苦笑する。

 

「ところで一夏。アンタ、誰のことが好きになったの?」

「はぁ?」

 

 いきなり突拍子も無いことを聞いてくる幼なじみに一夏は間の抜けた声を返した。

 

「いや、アンタのことだから彼女作るのは不可能だと思ってたけど。ほら、人に諦めさせたんだから白状しなさい」

「諦めるって何の話だよ?」

「じゃあ、何であたしと同室になるのを嫌がったのよ?」

「嫌がったわけじゃない。そういうことを勝負で決めたくなかっただけだ」

「だからどういう意味よ? 分かり易く言いなさい」

「つまりだな」

 

 何だか説明するのが気恥ずかしくなって一夏はそっぽを向く。

 

「お前と同室になるのが嫌だから本気で戦う、みたいになるから嫌だったんだよ」

「…………」

「おい、何か言えよ」

「う、うるさいっ! この女ったらし!」

「人に言わせておいてなんて言い草だ」

「どうせ、女子校なのを良いことに誰彼構わずそう歯の浮くようなこと言いまくってフラグ立ててるんでしょ!?」

「立ててねえし、誰にもこんなこと言えるか。だいたい相手も嫌がるだろうけど俺だって誰彼構わず同室になりたいなんて思わねえよ」

「それって例えば?」

「一夏さん、具合は――」

「例えばセシリアとは一緒の部屋にはなりたくない……って、もしかしてセシリアが来たか?」

 

 セシリアの声が聞こえたような気がしたが、一夏からベッドを仕切るカーテンで扉の方を見ることはできない。

 見える位置にいる鈴は振り返って、ドアを開けて硬直するセシリアを一瞥する。

 

「ううん、来てないけど。何でセシリアとは嫌なの?」

 

「あいつ、家具のほとんどを持ち込んだ挙げ句、壁紙に照明まで変えてたんだよ。

 本人がいないから言うけど、正直引いたし、スペースのほとんどを占領されてた同室の子がすげぇかわいそうだった」

「へえー、そうなんだあ」

「何でお前楽しそうに笑ってるんだ?」

「べっつにー」

 

 そう言うが、あれは何かをたくらんでいる顔だとすぐに一夏には分かった。

 

「本人に言うなよ。陰口のつもりはないし、学校側が決めたらそれに従うつもりなんだから」

「言わないわよ。うん、絶対に言わないわよ」

「本当かよ…………あ……」

「どうかしたの?」

「悪い鈴……何かすごく……ねむく……」

 

 抗いようの無い眠気にまぶたが重くなっていく。

 

「ああ、ごめん。話し過ぎたわね。いいわよそのまま寝ちゃって」

 

 沈んでいく意識の中で一夏は最後に鈴に向かって言葉を返す。

 

「りん……お前も……無理しないで……ちゃんと……身体を……やす……やす…………」

 

 最後まで言い切れずに一夏は夢の世界に落ちていった。

 

「――たく、―――最後に不意打―――――怯よ、―――変木……おや――夏。助け―――てあり――――」

 

 

 

 

 

 

 

「こんなにも私は弱かったのだな」

 

 保健室から離れた千冬は周囲に誰もいないことを認めて弱音をもらした。

 自分でもらしくないことを一夏に言ったのは分かっている。

 聞き分けに良い一夏が反発するのはもっともだと納得する。

 しかし、一夏の起きている姿を見て、あの時の瞬間を思い出すと、どうしても気が弱くなってしまう。

 

『織斑くん! 織斑くんっ! 返事をして織斑くんっ!』

 

 生命反応の異常を知らせるアラートが鳴り響く中、半狂乱になって一夏を呼び続ける真耶。

 彼女が取り乱していたから平静を保つことができたが、平静を保っていただけで碌な指示を出せていなかった。

 そして、呆然としている間にファフナーを自己修復をして、蘇り、黒いISを消滅させた。

 

「生体再生か……」

 

 ファフナーが起こした現象に千冬は心当たりはある。

 あるのだが、それはファフナーとは別の機体。

 その間には何の関係性も見られない。

 

「むしろ関係が深いのはあの黒いISの方か」

 

 消滅した本体は回収できなかったが、破壊した武装や腕パーツなどから出来る限りの情報を吸い出した。

 結果はせいぜい未登録のコアが使われていたことだけしか分からなかった。

 無人機とは言え、胴体を貫通されたというのに動き続けることができた理由は分かるはずもなかった。

 

「ちっ……」

 

 忌々しい黒いISの姿を思い出して千冬は固く握り締めた手を解く。

 

「次は私自らが出る」

 

 誓うように千冬は言葉にして自分に言い聞かせる。

 

「例え、一夏に嫌われることになったとしても……なったとしても…………はぁ」

 

 自分で口に出した言葉に千冬は肩を落とした。

 

 




不器用な姉ズ曰く『あなたが心配だから安全な場所にいて』
弟『弱い奴は大人しく守られていろ』
妹『専用機をまだ作れていない役立たず』と受け取る。


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