魔法科高校の劣等生〜四葉の娘〜   作:終末剣焉姫

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入学編
入学編1


「0」

 

魔法。

 

それが伝説や御伽噺の産物ではなく、現代の技術となってから一世紀が経とうとしていた。

そして、春。今年も新入生の季節が訪れた。

 

〜二十一世紀末〜

西暦ニ〇九五年を迎えても未だ統一される気配すら見せず世界の各国は、

魔法師の育成に競って取り組んでいる。

 

国立魔法大学付属第一高校。

毎年、国立魔法大学へ最も多くの卒業生を送り込んでいる高等魔法教育機関として知られている。

それは同時に、優秀な魔法師を最も多く輩出しているエリート校でもある。

魔法教育に、教育機会の均等などという建前は存在しない。

この島国にそんな余裕は無い。

それ以上に、使える者と使えない者に存在する歴然とした差が、甘ったれた理想論の介在を許さない。

徹底した才能主義。

残酷なまでの実力主義。

それが、魔法の世界。

この学校に入学を許されたこと自体がエリートということであり、

入学の時点から既に優等生とと劣等生が存在する。

同じ新入生であっても、平等ではない。

例え、血を分けた兄姉妹であっても。

 

「1」

 

深雪「納得できません」

 

達也「まだ言っているのか……?」

 

桐乃「まだ言っているの……?」

 

第一高校入学式の日、だが、まだ開会二時間前の早朝。

その入学式の会場となる講堂を前にして、三人の男女が何やら言い争っていた。

同じ新入生、でもその制服は微妙に、しかし明確に異なる。

スカートとスラックスの違い、男女の違い、ではない。

女子生徒達の胸には八枚の花弁をデザインした第一高校のエンブレム。

男子生徒のブレザーには、それが無い。

 

深雪「何故お兄様が補欠なのですか?本来なら私ではなく、入試の成績はトップだったじゃありませんか!

本来ならばわたしではなく、お兄様が新入生総代を務めるべきですのに!」

 

達也「お前がどこから試験結果を手に入れたかは置いておくとして……魔法科高校なんだから、

ペーパーテストより実技が優先されるのは当然だろ。

俺の実技能力は深雪もよく知っているだろう?むしろ二科生徒とはいえよくここに

受かったものだと驚いているんだけどね」

 

達也が淡々と答えているのに対し、深雪は不甲斐ないと言わんばかりな表情になっていた。

 

桐乃「深雪、それくらいにしたら?」

 

激しい口調で食って掛かる女子生徒を、女子生徒と男子生徒が何とか宥めようとしている構図だった。

 

深雪「関係ないお姉様は黙ってて下さい」

 

桐乃(深雪、私を恋敵としてみている。なぜだろう?)

 

深雪「そんな覇気の無いことでどうしますか!勉学も体術も

お兄様に敵う者などいないというのに!魔法だって本当なら」

 

女子生徒が「お兄様」、「お姉様」と呼んでいるところから察するに三人は兄姉妹なのだろう。

兄の弱気な発言を妹が激しく叱咤する、が

 

桐乃・達也「深雪!」

 

それ以上に強い口調で名前を呼ばれて、深雪はハッとした顔で口を閉ざした。

 

桐乃「分かっているでしょう?深雪!それは口にしても仕方のないことなの」

 

深雪「……申し訳ございません」

 

達也「深雪……」

 

項垂れた頭に手を置き、艶やかな癖の無い無い黒髪を撫でながら、さて、

どう機嫌をとろうか、と、兄であろう少年は少しばかり情けないことを考えていた。

 

達也「……お前の気持ちは嬉しいよ。俺の代わりにお前が怒ってくれるから、俺はいつも救われている」

 

深雪「嘘です」

 

達也「嘘じゃない」

 

深雪「嘘です。お兄様はいつも、わたしのことを叱ってばかり……」

 

達也「嘘じゃないって。

でも、お前が俺のことを考えてくれているように、俺もお前のことを思っているんだ」

 

深雪「お兄様……そんな、『想っている』だなんて……」

 

桐乃「お姉ちゃん少し妬けちゃうな〜」

 

達也(……あれっ?)

 

何故か、頬を赤らめる少女。

無視できない齟齬が生じているような気がしたが、少年は差し迫った問題解決の為に、疑念を棚上げすることにした。

 

桐乃(達也は本当に節操無いわね)

 

桐乃「深雪が答辞を辞退しても、達也が代わりに選ばれることは絶対に無いわ。

この土壇場で辞退したりすれば、深雪の評価が損なわれることは避けらないわ。」

 

達也「本当は、分かっているんだろ?深雪は賢い娘だから」

 

深雪「それは……」

 

達也「それにな、深雪。俺と桐乃は楽しみにしているだよ。

お前は俺の自慢の妹だ。

可愛い妹の晴れ姿を、俺と桐乃に見せてくれよ」

 

桐乃「深雪。貴方の晴れ姿、見せてちょうだい」

 

深雪「お兄様、お姉様……分かりました。我儘を言って、申し訳ありませんでした」

 

達也「謝ることでもないし、俺も桐乃も我儘だなんて思ってないさ」

 

深雪「それでは、行って参ります。

……見ていてくださいね、お兄様、お姉様」

 

達也「ああ、行っておいで。本番を楽しみにしているから」

 

桐乃「頑張って深雪。楽しみにしているわ」

 

妹の姿が講堂へと消えたのを確認して、兄はやれやれとため息をついた。

 

桐乃「達也。これからどうするの?」

 

達也「あと二時間あるからな……ベンチに座って休憩でもしよう」

 

入場が始まるまでの待ち時間、姉弟は腰を落ち着ける場所を探して、

煉瓦を模したソフトコート舗装の道を、左右を見ながら歩いていた。

携帯端末に表示した構内図を見ながら歩くこと五分、並木の向こう側に、ベンチの置かれた中庭を発見した。

三人掛けのベンチに腰を落ち着け、少し雑談したあとそれぞれ携帯端末を開いて

桐乃は勉強を達也は読書をしてそれぞれ時間を潰していた。

この中庭は準備棟から講堂へ通じる近道みたいだ。

式の運営に駆り出されているのだろうか。

在校生が姉弟の前を横切って行く。通り過ぎて行くその背中から、無邪気な悪意が零れ落ちる。

 

女子A「ねぇ、あのブルームといる子、ウィードじゃない?」

 

女子B「こんなに早くから?補欠なのに張り切っちゃって。」

 

女子B「所詮、スペアなのにね。」

 

聞きたくもない会話が、姉弟の耳に流れ着く。

 

桐乃(達也を侮辱するとはいい度胸ね……やっちゃえ、バーサーカー!)

 

ウィードとは、二科生を指す言葉。

一科生の制服の胸と肩には八枚花弁のエンブレムがあるが、二科生の制服は無地であるため、一科生は自らを花の形から「ブルーム」と呼び、二科生を花の開かない雑草と揶揄して「ウィード」と呼ぶ。

この学校の定員は一学年二百名。

その内百名が、二科生として入学する。

国立魔法大学付属である第一高校は、国から予算が交付されている国策学校であり、一定の成果を求められている。しかし魔法の才能は心理的な理由によって容易に失われてしまい、思春期では特にその傾向が顕著である。毎年それが原因で少なくない魔法科高校の生徒が魔法力を失い退学してゆく。そのための彼らの補欠要員が二科生であるとされている。二科生は一科生とは違い、教師から魔法実技の個別指導を受けられない。

独力で学び、自力で結果を出す。

できなければ、普通科高卒資格しか得られない。

魔法科高卒資格は与えられず、魔法科大学には進学できない。

魔法を教えられる者が不足している現状では、才能あるも者を優先せざる得ないのだ。

二科生は最初から、教えられないことを前提に入学を許されているのだ。

「ウィード」と呼ぶことは、建前としては禁止されている。

半ば公然たる蔑称として、二科生自身の中にも定着している。

二科生自身が、自分たちをスペアでしかないと認識している。

達也も同じだった。

だから、思い知らせてくれる必要は無い。

そんなこと百も承知で、この学校に入ったのだ。

 

達也(余計なお世話だ。)

 

達也は書籍データへと意識を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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