東方おとぎ草子   作:朧月夜(二次)/漆間鰯太郎(一次)

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春の訪れ

 

 

 幻想郷の長かった冬が明けた。

 人里の人間たちは口々に春の訪れを歓迎し、鬱屈していた気分を幾分かは高揚させた。

 それほどに幻想郷の冬は厳しいと言える。

 

 外の世界のように安価な暖房設備など皆無であるから、雪が降る前に蓄えた薪だけでしか暖を取ることが出来ないのだ。

 まして炊事などにも使うから、四六時中薪を燃やすわけにもいかない。

 人々は細々と身を寄せ合って冬をしのぎ、そうして春になると喜びを分かち合う。

 幻想郷では当たり前の、古来から変わらぬ人の営みの姿がそこにはあった。

 

「お、春告精がやってきたぞ!」

 

 雪解け水でぬかるむ大通りをゆく誰かが空を指さす。

 つられて往来の人々が次々と空を見上げる。

 そこには白い衣に身を包んだ少女の姿の妖精が笑顔で飛んでいた。

 

 彼女はリリー・ホワイトという妖精だ。

 春になるとどこからかやってきて、雪を割って力強く咲き乱れる福寿草のような笑顔を振りまいていく。人々はそれを見ると、今年もまた無事に春が訪れたのだと心から安堵をするのだ。

 物言わぬ妖精ではあるが、魔法の森に住むいたずら妖精とは違い、彼女は春告精という春を指す季語として扱われるほどに人々に浸透している。

 

 そうして今年も春告精はやってきた。

 鼻をくすぐる桃の花の香りと共に。

 そしてこの春は、人里はずれでアヤカシ者相手に屋台を営む男に、新たな出会いと面倒が降りかかるきっかけとなったのだった。

 

 それではこの奇妙な御伽草子を開いていこうと思ふ。

 

 

 ◇◆東方御伽草子◆◇

 

 

「ねえ永琳、退屈ね」

「そうね。でもそれは今に始まったことじゃないわ」

 

 春のぽかぽか陽気に当てられて、竹林の姫、蓬莱山輝夜はあくびを噛み殺しながら従者を見た。

 

「たしかにそうかもしれません。けれども姫様、それは少しばかり考え方の向きを変えてみればそうでは無いのかもしれないわ」

 

 従者の女、八意永琳はまたいつものことかと苦笑しながらそう答える。

 この主従にとって、こういった会話は日常茶飯事である。

 そもそも彼女たちにとって、他愛もない会話に費やす時間は、それこそ無限にあるのだから。

 そしてそんなことは百も承知である輝夜は、日当りのいい縁側にぱたりと仰向けになると、それでも優雅さは隠しきれないままに瞳を閉じた。

 どうやら昼寝を決め込んだようだ。

 

「ふふっ、お行儀が悪いわよ輝夜……」

 

 そしてその横で何やら薬草の束を選定していた永琳は、言葉とは裏腹に優しい笑顔で主人の寝顔を横目で眺めるのだった。

 彼女の呟きはもうすでに輝夜には届いてはいない。

 

「……たまには、外に出てみるのも悪くないかしらね」

 

 作業の手を止めながら、永琳はそう呟き空を見た。

 物憂げな表情の彼女の瞳は、日差しの強い青空の向こうに、青白く輝く故郷が映っていた。

 その横で竹林の姫は、あどけない表情で寝顔を見せている。

 そんな姫を柔らかな表情で一瞥すると、彼女はまた薬草の選別へと没頭するのだった。

 

 

 ◇◆◆◇

 

 

 人里の南門付近、とはいえ大通りからはかなり外れたところに次郎の住む家はあった。

 ここは元々は人里の名家である稗田家の持ち物であったが、分家の主が他界してからは空き家のままで残されていた。それを次郎が借り受けて住んでいる。

 

 資産家の稗田家であるから、分家とはいえここもまたそれなりに大きな家屋である。

 それが空き家のまま置いておくと、どうしても劣化が激しくなり、管理しているだけの稗田家にとってその維持費は決して好ましい出費ではない。

 ゆえに次郎の希望である畑と作業用の大きな厨房を兼ね備えるこの家は、まさに彼の求める条件にぴったりであったし、住む予定もなく管理に手を焼いていた稗田家にとっても渡りに船だった。

 そのため、次郎が稗田家に支払う賃料は、この規模の家というより屋敷と言ってもいいこの家と考えれば相当に格安の賃料が設定されている。

 

 人里の人間にとって、次郎という男はアヤカシ者に組する底の知れないなんとも胡散臭い男という評であるが、稗田家にとって、いや当主である稗田阿求にしてみればなんら問題はなかった。

 というのも九代目の阿礼乙女である稗田阿求のライフワークともいえる仕事は、この幻想郷に住まう魑魅魍魎、アヤカシの類をまとめた書物である「幻想郷縁起」を編纂することである。

 当然彼女はこの幻想郷のある種の黒幕ともいえる妖怪の賢者とは、ある一定の距離は保ちつつも付き合いがある。

 その妖怪の賢者の推薦があった次郎という男は、彼女の好奇心を大いに刺激した。

 

 さまざまなアヤカシが跋扈するこの幻想郷において、その立ち位置は形成されるピラミッドのおよそ頂点に近い場所にいる妖怪の賢者。

 そんな存在がまったくの普通の人間を推薦するなど、幻想郷に海があるというくらいおかしな話だ。

 という事は、賢者にはなにがしかの思惑があるか、あるいは言葉通りその存在を認めているという裏返しになる。稗田阿求にとって、それは非常に興味深いのだ。

 

 さらに言えば、次郎という男の生業は屋台を営むことであるが、その中で彼は元々幻想郷では存在しなかった料理をいくつも店で出している。

 稗田阿求は彼の家の大家として、彼の作り出す料理の恩恵を受けることが出来るのだ。

 それは娯楽のない彼女の暮らしに随分と嬉しい誤算だったと言えよう。

 実際彼女は、アヤカシ者が客の多くを占める彼の屋台の少ない人間の常連の一人だったりするのだ。

 

 そんな旧稗田家分家に住む次郎は、今日も夜明けとともに動き出していた。

 

「うーん……すっかり暖かくなったなぁ」

 

 寝間着の浴衣が着崩れたまま、彼は雨戸を開けた縁側で伸びをしていた。

 辺りはまだ明るいとはいえないが、東の空をみれば随分と白んでいる。

 次郎は眠気を振り切るように煙草盆を手繰り寄せ、器用に葉を詰めていく。

 そして火種に煙管を寄せると、何度か吸い込み火を点した。

 

「……ふぅ。やはり起き抜けの一服はやめられんな」

 

 吐き出す煙が暖かくなったとはいえ早朝の低温で普段より白く立ち昇る。

 それを何となく眺めていた次郎は、煙管をカンっと縁側の淵に叩き付け火種を飛ばした。

 

「さて、始めるかね」

 

 そうして彼は大あくびをしながら服を着るために部屋へと入っていった。

 こうして彼の変わらぬ日常は始まるのだった。

 

 

 ◇◆◆◇

 

 

 次郎の料理屋である喰いもの屋で振舞われる料理は、その多くが季節の素材を生かした和風のものが多い。しかしそれとは別に裏メニューと呼べる、彼がきまぐれで作るメニューがいくつかある。

 それは懇意にしている常連客の誰かが、たまたま次郎の思い付きに因ってその相伴に預かる事が出来る。

 しかし彼がそれらを通常のメニューにしない理由はいくつかあり、それはまず材料が毎日揃うものでは無いというのが一番大きな理由だろう。

 

 そもそも閉ざされた楽園である幻想郷は、元々は東方の島国のとある地域であったが、俗世と隔絶するために結界で切り取られたせいで特殊な土地となっている。

 その結果、海を持たない山々に囲まれた場所となり、当然一般の流通などはいるわけがない。

 そんな場所で自由に食材を扱う事は難しいのだ。

 

 次に次郎自身が面倒くさいというのがある。

 料理屋で数々のメニューを扱うという事は、その数だけ下拵えが必要である。

 それはいちいち注文のたびに調理をしていたら、時間がいくらあっても足りなくなる。

 その為、ある程度の工程は事前に下拵えを行う事で、実際の調理時間を大幅に削る事が可能になる。

 しかしそれはそれなりに細やかで面倒な作業となるため、メニューが多ければ多いほど、それに割く時間が多くなってしまうのだ。

 

 実際この喰いもの屋は、主人である次郎と、その手伝いである氷精チルノの二人で店を回している。

 チルノは次郎の手伝いを始めた当初は全く使いものにならなかったが、今では次郎も安心して手伝わせる程度には成長をしていると言えるだろう。

 とはいえ、ある程度の感覚的なセンスを要求される料理の一から十までを任せるにはちと心許ない。

 そうすると、料理の肝心な部分は次郎が一人で賄うしかないのだ。

 そうなれば下拵えの数が増える程に次郎の時間は削られていく。

 基本的に店は休まない彼であるから、ある程度の個人の時間は無理やり作らねばいけないのだ。

 

 それらの理由で裏メニューは裏メニューのままであったのだが、昨今はそうはいかない事情ができてしまった。

 それは最初に裏メニューの中の「オムライス」を振舞われた風見幽香が、それはそれは自慢気に他の常連客に話した事がきっかけとなった。

 理性的ではあるが、自尊心がやたらと高い彼の常連客であるアヤカシ者たち。

 それはともすると、子供染みた意地の張り合いに発展することがある。

 

 その日は件の風見幽香と、とあるきっかけで常連となった紅魔館の主人のレミリア・スカーレット。そして博麗の巫女である博麗霊夢が居合わせていた。

 元々仲が良いとは言えない三人が、不味いことにそれぞれ深酒をしていたのだ。

 

 始まりは風見幽香の一言だった。

 

「あーら、紅魔館のお嬢様は相変わらず舌がお子様の様ね。卵焼きにご満悦なんて可愛らしいわ」

 

 それぞれ静かに呑んでいたのだが、じーっとレミリアを眺めていた風見幽香は唐突にそんな挑発沁みた言葉を発したのだ。

 その時の次郎は、一瞬で屋台の中の気温が一気に下がったと後に話している。

 そして突然の槍玉に挙がった当のレミリアであるが、こちらも負けじと言い返した。

 

「ふん、これだからホームレス妖怪は困る。この卵焼きを見なさい? これはしっかりとした出汁を、気泡が立たないように丁寧に撹拌した朝取りの新鮮な卵に混ぜ、その上で下品にならない程度に砂糖が加えてある。そういった見た目以上に上品な作品なのよ。それをそこらの卵焼きと一緒にするなんて……はぁ、育ちが知れるという物だわ」

 

 すっかりと次郎の料理に魅了されているレミリアが、無い胸を精いっぱい張って、見事な薀蓄で風見幽香に返した。見下すような視線と、言葉の合間合間に鼻で笑う事を添えて。

 次郎は思わずチルノをみた。――ふむ、どうやら冷気を発したのはお前じゃないんだな。失礼ね、そんな訳ないじゃない――と、この師弟は現実逃避に勤しんだ。巻き込まれたら面倒だからだ。

 

「言うじゃない。横で飲んだくれてる貧乏巫女と同じで、いつも同じ物ばかり食べてるんだから子供と一緒でしょうに」

「……なんですって?」

 

 あれ、もうすぐ冬は終わるというのにどうしてこんなに寒いんだ? 次郎はきょろきょろとわざとらしく辺りを見回した。

 万が一乱闘に発展し、店を壊されでもしたら大変であると、捨て身で雰囲気を和らげようとしたようだ。

 しかし彼の健闘むなしく、それはあっさりと無視され、今まで蚊帳の外にいたはずの霊夢が妙に座った目で顔を上げた。

 

「ただでさえアンタら妖怪と飲んでるだけで気分が悪いってのに、なんで私の名前を出しているのかしら? 私はね、後は〆に茶漬けでも貰って、その余韻のまま布団に飛び込もうなんて考えてたのよ。なのに何なのアンタたち。いっそこの場で退治してやろうか? そもそも貧乏巫女ってどういう了見よ? そうね、私は確かに貧乏かもしれない。でもね? 金なんてあるやつが払えばそれでいいのよ!」

 

 霊夢は優雅な晩酌を邪魔されたのが気に入らないと、怒りをにじませる。

 しかし風見幽香とレミリアは密かにほくそ笑んだ。それは怒り心頭の霊夢には気付かれない程に小さなものだ。

 幻想郷のアヤカシ者は総じて暇を持て余している。結局のところレミリアをからかった風見幽香の動機などその程度の事だったのだ。

 そしてレミリアとてそれは同じ。だから風見幽香に乗った。ただそれだけの事でしかない。

 その矛先が流れのまま霊夢に向いた。そうなればこそ、風見幽香とレミリアは阿吽の呼吸で結託したのだ。「こんどはこいつをからかってやろう」という共通の娯楽のために。

 と、そのはずだったのだが、何やら霊夢がおかしなことを言いだしたため、弄ぶつもりの二人は思わず呆けてしまい、そして引いた。

 

「うわぁ……なんかすごい事言いだしたわ……。金はある物が払えばいい! ですって……」

「レミリアごめんなさい。なんか当たっちゃったみたいで迷惑かけたわね。このダメ人間を見ていたら、なんかどうでもよくなったわ……」

「そうね、馬鹿がうつったら大変だから、奥で呑みなおしましょう?」

「そうね……」

 

 そして二人はそれぞれ自分の銚子を持つと、ちらちらと霊夢を見ながら奥へと引っ込んだのだった。

 屋台の中はこうして平和を取り戻したのだった。

 ほっと胸をなでおろす次郎。遊びが高じて屋台が半壊しては割に合わない。

 いくら普段からこの店で喧嘩はご法度と言っているとしても、それを素直に聞くなら彼女達はアヤカシ者などやっはいないだろう。

 

「……ふむ、これで落ち着いたな。なあチルノ、気付け代わりに俺たちも一杯呑もうじゃないか。という事でお前さんの冷酒を頼む」

「ったく、一体どうなるかと冷や冷やしたよ。いくらあたいが氷精だと言っても、他人様に冷気をひっかけられるのはごめんだね。さ、ほら次郎、冷酒」

「やぁ、ありがとうチルノ。さ、お前も一献」

「仕事中にいいのかい? じゃああたいも一杯だけ貰おうかな」

 

 危機が去った喰いもの屋。このままじゃ験が悪いと次郎師弟は酒を酌み交わし始めた。

 元々風見幽香とレミリアに霊夢の三人しか客は居なかったのだ。その内二人は奥で勝手にやっている。

 ならばと次郎たちはこうして酒を酌み交わすのだったが……。

 

「……ねぇ、次郎さん」

 

 底冷えするような巫女の言葉が彼を襲う。

 この中で一人、カウンターの前で立って居る巫女、博麗霊夢。

 彼女は今、勝手に槍玉にされたあげく、放置されるという怒りの矛先のやり場を失くし、また別の怒りで震えていたのだ。

 

「なんでただ酒を呑んでいただけの私が、こうして気分が悪くなってるのかしらね?」

「や、それはちょっと俺には分からないなぁ……な、チルノ」

「う、うん、次郎ってあたいに話を振るのはやめてほしいかな」

 

 どうやら巫女の怒りは、白々しく酒に逃げた店主に向かったようだ。

 次郎はチルノを引き合いに出そうとしたが、残念ながら彼女はさりげなく帰り支度を始めている。

 いくら能天気な妖精だとて、博麗の巫女は怖いのだ。以前、赤い霧が人里を覆った異変の際、霧の湖で夜遊びに興じていた彼女が、異変解決に乗り出した巫女に喧嘩を売ったら酷い目にあったのだ。

 チルノにとっては風見幽香よりも八雲紫よりも、よっぽど霊夢の方が怖いのである。

 援軍を失くした次郎はおずおずと巫女に言った。

 

「れ、霊夢よ、今日はロハでいいからもう帰んな。な? そうしろそうしろ」

「ロハねぇ……、それは私が貧乏だから恵んでやろうっていう憐れみなのかしら?」

「違う違う。酒の味が悪くなったんだ、今日は出直しなって事だよ」

「あらそう。次郎さんの行為でどうしてもっていうなら帰るわ?」

「お、おう! 俺の行為にきまってらぁな」

 

 引き攣った笑みの次郎と、それを真顔で見つめる霊夢。

 そしてその奥で「まるで破落戸の所業ね」「人里のヤクザ者みたいだわね」などと、この元凶のはずの二人がしきりに茶々を入れる声がする。

 そして、その不思議な緊張感が最高潮に達したその時であった。

 

「おっ、良かったまだやってたか! いやあキノコ採りに夢中になってたら夕食をすっかり忘れてたんだ。おやっさん、適当に酒と肴、頼むぜ! ってなんだ霊夢、いたのか。相変わらず貧乏臭い顔してんだな。どうせおやっさんにたかろうとしてたんだろう! はっはっは」

 

 金髪に白黒の魔法着の普通の魔法使い、霧雨魔理沙が暖簾をくぐって現れたのだ。

 次郎は普段から彼女に対して思うことが一つある。それは根はいいやつではあるのだが、無邪気にいらない言葉を一つ、会話に持ち込む事なのだ。

 これを気を付けたなら、霧雨魔理沙の他人からの印象は随分と良くなるだろう――次郎は常々そう思っている。

 しかしこの時だけはその性格で良かった。いやむしろありがとうと次郎は心の中で喝采した。

 何とも間の悪い事に、霧雨魔理沙は軽口の中で、地雷を思いっきり踏み抜いてくれたのだから。

 

「あら、いいところに来たじゃない魔理沙。……丁度酔い覚ましに弾幕ごっこでもしたかったのよね」

「んん? 私は腹が減ってるんだぜ? 今度にしてくれ――――ヒッ?!」

 

 博麗霊夢は笑顔だった。それは横で見ていた次郎にも見えていた。

 しかし次郎は後に語った。あんな殺気の籠った笑顔は初めて見たと。

 そして笑顔の霊夢は、有無を言わさぬ雰囲気をまき散らしながら、闇夜の中へと魔理沙をひきづって行ったのだった。

 どこか空の方から魔理沙の悲鳴が聞こえた気がした次郎だったが、その日はそのまま無言で店仕舞いを始めた。考えてはいけないのだと自分に言い聞かせながら。

 そして憐れな魔法使いが次に店に来たら、裏メニューを振舞ってやろうと。――勿論ロハで。

 

 こんな日の出来事もまた、この幻想郷じゃ珍しい事ではないのだ。

 そして世は更けていくのだった。

 

 因みに次郎の裏メニューであるのだが、この日の騒ぎの原因の一端を担ってしまった為、そのいくつかは裏メニューから通常のメニューとしてお披露目される事となった。

 結局のところ、風見幽香が自慢げにレミリアに話したことが原因なのだ。

 そのため最初に通常メニューとなったのはオムライスであった。

 

 風見幽香は自分だけが食べれたという優越感を失ったが、好きな時にオムライスを食べられるという事で溜飲を下げた。

 そしてレミリアは風見幽香に自慢されることは無くなったが、その代わりに毎回オムライスを注文し、ケチャップで口の周りを汚すため、結局お前はお子様なのだと風見幽香にからかわれるのだった。

 諍いをなくすためとの企みで裏メニュー解禁した次郎であったが、それはどうやら上手く行かなかったようだ。

 

 

 ◇◆◆◇

 

 騒がしかった屋台は、今は完全なる静寂に包まれていた。

 それは客が皆引き揚げ、次郎が店を閉めたからだ。

 従業員であるチルノはとっくに帰っている。

 妖精である彼女は夜更かしに向かないため、次郎が早々に帰しているのだ。

 

「……ふぅ、今日も一日終ったな。何とも騒がしい物だったが、まあいつもの事だな……」

 

 全ての卓を固く絞った布巾で拭き終えた次郎は、前屈みの姿勢で縮こまった己の背中を反りながらボヤく様に呟いた。

 今日は博麗の巫女が悪酔いしてひどい目にあったなと彼は回顧しつつ、どこかそれを嬉しそうに微笑んだ。

 

 客商売をやってれば、様々な人間模様に出くわす。

 そして常連となれば、ある程度の人となりを理解するに至る。

 そんな中で次郎は、常々霊夢の事を気にかけてきた。

 はじめはただのガラの悪い少女という印象でしかなかったが、付き合いが長くなれば彼女の色々な部分が見えてくる。

 

 いつも好んで孤独でいる霊夢という少女。

 彼女が背負う役割上、それは確かに仕様がないのかもしれない。

 けれどもと次郎は考える。

 それならせめて、この店でくらい肩の力を抜かせてやりたいと。

 霊夢がどういった役割なのか、次郎はそれを細かくとあるアヤカシ者から聞いている。

 それもあってか次郎は、どこか彼女に父親の様な気分を抱いているのかもしれない。

 

 そんな次郎が一通り店を片付けた時だった。

 闇夜の中からか細くも凛とした声が次郎の耳に届いたのだ。

 

「もし、次郎様。もう店仕舞いしてしまった様ですね」

 

 何となく声の方向に目を向けた次郎の視界に、鮮やかな赤と青の装いの銀色の長い髪を一本に編んだ美麗な少女が写ったのだった。

 どこかでちゅちゅんと、メジロの鳴き声が聞こえた。

 

 

 つづく。

 

 

 登場人物

 

 屋台の店主 次郎

 その弟子  チルノ

 

 暇を持て余した花の妖怪 風見幽香

 すっかり常連 レミリア・スカーレット

 

 鬼より怖い 博麗霊夢

 憐れな魔法使い 霧雨魔理沙

 

 竹林の姫 蓬莱山輝夜

 その従者 八意永琳




この回では終わらず、何話かに渡るのですが、投稿ペースは二週に一話くらいを予定しています。

後、私事なのですが、読者の方で軍事系の知識がある方がいましたら、私の活動報告を読んでいただけたら幸いです。
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