サードラインへショートカットしたみさき。
ここで一点取れずに、さっきと同じようなことになれば、二度前になる。
それは避けないとまずい。
『みさき、止めて弾いたら、すぐに背中を狙いに行くんだ』
「りょーかい」
みさきは俄然やる気で答えた。
さっきの事はやっぱり謎なままだけど、気にしても仕方ない、あれはミスだ。
きっとそうだ。
「行きます!」
市ノ瀬がみさきに接近している。
「うにゃあああ!!」
みさきは手を伸ばしてそれを阻止する。
当然市ノ瀬は、海面方向へ弾かれる。
「行くよ!」
そしてみさきは市ノ瀬の背中に回る。
そしてみさきは、市ノ瀬の背中に触れようと手を伸ばす。
「もらいます!」
「え?」
瞬間、市ノ瀬は体を捻り、自分が上に行くように体制を変えた。
そしてもう止めることのできないみさきの腕は、しっかりと市ノ瀬の体をタッチし、市ノ瀬はサードラインのラインの上まで弾いてしまう。
「そういうことか!」
俺は思わず声を上げてしまった。
「なにがわかったんですか? 晶也さん」
「市ノ瀬のトリックだよ!」
「トリック・・・ですか?」
真白も聞きに、俺の方へ来る。
「答えは簡単、市ノ瀬は体をうまく動かして、みさきのタッチを利用していた」
「・・・・・・え、それだけですか?」
「ああ、それだけだ。・・・・・・聞いてただろみさき、そういうことだ」
『つなりタッチにフェイントをかければいいわけ?』
「そういうことだ。そうとわかれば、フォースラインへショートカット!」
『うん!』
みさきは今度こそ! と言った面持ちで、次のラインへショートカットした。
「今度も行きます!」
ブイタッチ三対二になり、リードした市ノ瀬が、さらに得点を重ねようと、みさきに突っ込んでくる。
『みさき、普通に叩くんだ』
「わかった!」
そしてみさきは、接近した市ノ瀬を、見事に真下に弾いた。
ここまではさっきと似ている。
問題はここからだ。
もう時間は少ない、これ以上取られたら、みさきは負けてしまう。
「うにゃあああ!!」
みさきは市ノ瀬に突っ込んでいく、恐らく背中に回る―――。
でもそれだとまた同じ手をくらう。
「きゃっ!!」
しかしみさきは背中に回ることなく、そのままの勢いで市ノ瀬に突っ込んだ。
スイシーダだ。
「ふんにゃあああああ!!」
そこから水しぶきで見えなかった市ノ瀬が見えると、みさきは怯んだ市ノ瀬に向かって、エアキックターン、ソニックブースト、そしてファイターの初速の速さを武器に、突っ込んでいく。
「背中・・・・・・いただき!!」
そしてみさきは見事市ノ瀬の対応が入る前に、背中をタッチし、同点に並ぶ。
「もう・・・・・・一回っ!!」
そしてみさきはもう残り少ない体力を使って、もう一度同じコンボ技で、今度は斜め上方向に勢いよく弾かれた市ノ瀬に向かって飛んでいく。
市ノ瀬は、こちらに・・・・・・みさきのいる方へ背中を向けている。
そしてあの勢いだと恐らく思うように体が動かせないだろう。
「――――――負けない!」
そして試合終了のホーンと共に、みさきは市ノ瀬に触っていた。
「得点表は!?」
俺は慌てて掲示板を見る・・・・・・。
「やっ・・・・・・」
「やったああああ!! アッハハハハ、やったよ晶也!」
そういってみさきは、砂浜に降り立って、俺に飛びついた。
普段のみさきなら、あまり想像できない状態だ。
自然と俺の頬も赤くなる。
「ありがとう晶也」
「最後の方は、俺は何もしてない、全部みさきとみさきのFC脳の勝利だよ」
素直にそういった。
だってそうでしか思えない。
「あ、ごめん。今離れるね」
みさきは我に返り、俺から名残惜しそうに、ゆっくりと離れる。
「でもまだ明日香との試合が残ってるからな? 気を抜くなよ?」
「うん、大丈夫」
みさきは笑顔でそう答えた。
その夜。
俺は前のように、みさきと同じ場所で待ち合わせして、会うことにした。
「・・・・・・みさき、ダメじゃないか、しっかりと休んでないと。明日は明日香との試合なんだぞ?」
俺が待ち合わせ場所に着くと、また同じように、みさきは空から降りてきて、ベンチに座る。
普通ならここで恋人らしい会話に入るのだが、そうわいかない。
みさきは明日の練習の為に、体をめいっぱい休ませないといけない。
なのにみさきは飛んでいた、それもかなりスピードを出してだ・・・・・・。
だから俺はみさきを叱った。
「・・・・・ごめん。でもあたし、今飛ばないと、おかしくなりそうで・・・・・・明日香が怖い」
みさきはバツの悪そうな、それでいて、不安で怯えているような、複雑な表情で言った。
だけど、ここで引き下がった、コーチとしてダメだ。
「そうかもしれない。・・・・・・だけど、俺に気持ちをぶつけて欲しかった、もう一人で抱え込まないって、約束しただろ?」
「わかってるよ、わかってるし、晶也のこと信用してないわけじゃないけど・・・・・・飛びたかった、それだけ」
みさき、今度はまるで、隠していたおやつが、親にバレた子供のような感じに言った。
「じゃあせめて、俺がいるときに飛んでくれ、じゃないと何かあった時に困るだろ」
「・・・・・・うん、次からはそうするね」
俺はつくづく、コーチとしてまだまだだなと思った。
でもみさきもいつもの表情に戻ってくれたみたいだから、安心した。
「明日の試合、みさきなら勝てるから・・・・・・って、これはコーチがいうわけにはいかないか」
俺は苦笑い混じりに言う。
こんなこと、本当ならコーチがするもんじゃない。
一人の選手に肩入れしすぎたら、他の選手と差別化して見てしまう。
それは去年、葵さんに言われたことだ。
「でも、いいんじゃないかな? 今の晶也は、私の彼氏でしょ? 恋人なら、私の勝利を応援してほしいな」
「・・・・・・そうだな、今ならいいな」
「そうそう。誰も聞いてないし、大丈夫! っということでっ!」
そう言ってみさきは、俺の肩に、そっと寄りかかった。
「みさにゃんは。晶也に少しだけ甘えさせてもらうにゃ~」
そしてみさきは、目を閉じる。
「五分だけな」
五分だけ、許すことにした。
それ以上は、門限もあるし、夏だからと言って湯冷めしないとは限らないので、薄着でいつまでも外で眠るわけにはいかない。
「・・・・・・」
俺はゆっくりと顔を動かし、幸せそうに眠るみさきの顔をみた。
そして思う。
できれば二人には試合して欲しくないけど、なってしまったものは仕方がない。
みさきならきっと勝ってくれる。
コーチとしても、たぶん本心はみさきに勝って欲しいと思っている。
だけど、コーチとしての感情は、俺の心の奥にしまっておこうと、そう思った。
「・・・・・・みさき、そろそろもどるぞ」
本格的にみさきが熟睡しだす前に、少し早いけど、起こして、お互い自分の部屋に帰った。
次回更新は来週を予定しております。
次回は明日香対みさきの大市場!
気合いれて、書かせてもらいます!
また、ご感想など、どしどし送ってやってください!