スモーを奪われたみさきに、もう成す術はなかった。
スモーはみさきが唯一明日香でさえ持っていない特別な飛行方法兼戦術だ。
俺はてっきりスモーを対策とした飛行方法や技を使ってくると思ってたけど、そんなことなかった。
明日香はその技自体をコピーしてきたんだ。
いつもならさすが明日香だなって言って、それで終わり。
でも今は、みさきに勝ってほしい。
だからそれだけで終わらない・・・・・・終われない。
俺は必死にスモーの弱点を探す。
まさか自分たちで覚えた技の弱点を、自分で見つける結果となるとは、思わなかった。
『みさき、明日香を止めるぞ。今度はこっちがスモーをする版だ! ・・・・・・得意だろ?』
「うん、絶対に止める!」
みさきはフォースラインの四分の二あたりで旋回する。
今度はこっちが抑える側。
さっきの明日香の立ち位置だ。
そしてみさきの得意とする状況。
「行きますよ! みさきちゃん!」
みさきが旋回して少し経った頃、やっと明日香はフォースブイに触れ、その反動を利用して加速する。
『来るぞみさき!』
「行くにゃああああ!!」
みさきの頭上を高速で飛んでくる明日香。
みさきは明日香に仕掛けていく。
「その手はくらいません!」
しかし明日香は、みさきが仕掛けるよりも早く、みさきに触れる。
でもみさきは、その攻撃を、自慢の反射神経で、腕を振って防ぐ。
疑いの腕と腕が触れ、弾かれる。
二人の弾かれた方向はフォースライン場に並行してだ。
明日香が来た方へ、みさきはファースとブイ方向へ。
この状況ならすでに触れていて、ブイを触れることができるが、みさきはそれをしない。
みさきの、明日香とドッグファイトをしたいという心の表れだと思う。
「行きます!」
「こっちもいくよー!」
弾かれた明日香が、その身を翻し、回転するのを見て、みさきも同じように身を翻し、一回転する。
――――――エアキックターンだ。
そして次の瞬間、二人はエアキックターンで突っ込んでいく。
「っ!」
「うくっ! まだまだ!!」
今度はみさきから仕掛け出す。
全力でソニックブーストを使用し、明日香に近づく。
運良く、明日香は今の反動でついてこれない、一瞬間ができる。
「いっけえ!」
みさきは明日香に触れる。
「―――っ!」
明日香は斜め下に弾かれる。
でもただはじかれただけ、得点は入らない。
「次!」
みさきは全速力で明日香に近づく。
そして明日香をもう一度弾くと、明日香は海面ぎりぎりまで追いやられる。
「これで・・・・・・同点!!」
明日香はブイで二点、みさきは最初のブイタッチと、このタッチで二点。
やっと並んだ。
「やりましたね! お返しです!」
明日香は元気に、そして無邪気にそう言う声が聞こえる。
それと同時に、みさきが弾かれる。
しかしそれは背中じゃない。
ちょっとホッとした。
「明日香!」
「みさきちゃん!」
二人はお互いの名前を呼び合い、海面ギリギリで、激しいドッグファイトが始まる。
逃げたら負け、そんな雰囲気が、見ているこっちにもはっきり感じられるようなドッグファイト。
飛行技は使用せずに、明日香とみさきの、二人の技量だけで行っている。
みさきのドッグファイトに、明日香は完璧についてきている。
これには流石に驚いた。
「明日香に。絶対に負けたくない!!」
「私だって、絶対に負けたくないです!!」
二人の思い強い。
その強さが、試合に大きく動くこともなる。
去年の試合に比じゃない。
二人のドッグファイトに観客も、見てる選手や俺たちも、すごく気持ちが高ぶらされる。
「うにゃあああ!!」
みさきの動きがさらに細かく、無駄がなくなる。
そして試合は大きく動く。
「っ!?」
明日香の腕に、みさきの手が微かに掠った。
弾け飛ぶまではいかなかったが、明日香の動きを封じ、攻撃を開始するには十分な時間だった。
「後ろ―――もら・・・・・・」
しかし、明日香の背中に回ったところで、試合終了のホーンが鳴った。
同点という事で、十分の休憩の後に、試合は延長戦に入る。
明日香は佐藤院さんの方で、みさきは久奈浜のテントで休憩を取る。
「大丈夫かみさき」
「うん大丈夫。そより、明日香は、やっぱり安全装置を切ってくるかな?」
みさきは俺に聞いてくるが、恐らくそうだろう。
佐藤院のことだ、明日香が嫌だと言っても、いっきに試合を決めにくるずだ。
そしてこの話の流れだと、だいたい予想はつく、乾さんとの試合の時の明日香も、同じ顔をしてた。
絶対に負けたくない、だから無理だとしても、それに可能性があるなら、それに賭ける、もっと飛びたい。
そんな、やる気と自信が滲み出てこないかと思うほどの表情だ。
「晶也、私も安全装置を切る!」
「そう言うと思ってた。だけど進められない。練習の時ですら、完全に解除した飛行はできなかっただろ?」
「それでも、明日香は飛んだ。だから私もできる!」
こうなった選手には、その選手にしかわからない何かがあるんだと思う。
これもまた、コーチとしてダメな決断かもしれない、でも俺は・・・・・・。
『さあいよいよ始まろうとしています! 倉科選手対鳶沢選手の延長試合を行います』
実況席から実況が入る。
すでに少し前に選手はアナウンスで、スタートラインについている。
「セット!」
ホーンの合図と共に、勢いよくスタート。
明日香は安全装置の解除を、やっぱりしてきた。
メンブレンの羽は普段より大きく、スピードはファーストラインのはずなのに、もうみさきと随分距離ができている。
みさきはセカンドラインへショートカット、明日香を迎え撃つ。
そして明日香のスピードはブイタッチでさらに速さを増す。
もうセカンドライン上を飛んでいる。
『来るぞ!』
「う、うん!」
明日香は超光速のシザーズで、みさきを翻弄する。
「う、うわっ! ととっ。・・・ど、どっち?! ・・・・・・こっち!」
もうへとへとのみさきは、明日香の移動についていけるようにスタンバイしている時でさえ、不安定になるほど、体力を消耗している。
そしてみさきは、直前で明日香の動きが分かり、頭上を通り過ぎようとした明日香に向かって手を伸ばす。
「見え見えです!」
しかし明日香に交わされてしまい、さらにカウンターを受けてしまう。
「行きます!」
さらに明日香は、みさきを中心に五芒星の軌跡を描き、短距離切り替えしを繰り返し、単騎で包囲する技ペンタグラム・フォースを行う。
『みさき、よく見て交わすんだ!』
「うん。わかった」
みさきは明日香の動き目で追っていく。
ペンタグラム・フォースは、同じ場所を回ることから、どうしても隙が生まれる。
そこを見極めて動けば、問題ない。
「えいっ!」
「えっ・・・・・・?!」
しかし明日香は早めに切り上げ、みさきの背中に触れる。
こうして早めに切り上げることで、相手にパターンを読む隙を与えないという方法だろう。
実際、みさきが読む前に動いたことで、見事得点を入れられた。
そして得点は明日香のリードへ。
「負けたくない・・・・・・私は勝って、晶也と飛ぶんだから!!」
海面方向へ弾かれたみさきのグラシュの羽が、みさきの感情に影響されたかのように、大きくなる。
「あれは!!」
隣から、佐藤院さんが驚いた声を上げる。
それもそうだろう、みさきができることは、誰も知らない。
まさにこの間の明日香対乾さん戦を彷彿とさせる試合展開だ。
――――――この土壇場で、みさきも安全装置の解除を成功させたんだ。
それはまさに、絶望の中に見えた一筋の光だった。
条件は同じ、それでドッグファイトとなれば、みさきが有利のはずだ。
「みさきちゃんもできるようになったんですね・・・・・・でも、私だって晶也さんと試合したいです!!」
明日香がみさきに仕掛けに行く。
「負けない!」
明日香のタッチを弾いて止め、まだ慣れないのか、少し大きめに半円を描いて明日香の背中めがけて手を伸ばす。
「えいっ!」
しかし明日香は、それを背面飛びのような感じで避け、逆にみさきの背中に回る。
「貰います!」
同時に明日香はみさきんお背中に向かって手を伸ばす。
「渡さない!」
みさきは体を半回転させ、背中とお腹を逆にし、同時に腕を振って明日香と弾きあう。
・・・・・・息をする暇もないほどの、攻防戦が繰り広げられる。
『っ?! みさき! もう時間がない! 一点でも取るんだ!!』
このまま明日香がリードしたまま時間を迎えれば、当然負ける。
でも一点でも取れば同点になり、その場合は時間経過後、そこから先に一点取った方の勝ちになる。
「わかった!!」
みさきは明日香の攻撃を避けながら、攻撃を繰り出すが、なかなか触れることができない。
「負けたくない!」
明日香に追いかけられていたみさきは、上空に上がる。
当然明日香もそれについていくが、みさきは次の瞬間、エアキックターンで真下に向かって飛んでいく。
その行動に後れを取った、明日香は、一瞬動きが止まる。
「ふにゃあああああ!!!」
明日香の周りを、四方八方に飛び周り、その速さにコントレイルの球体ができる。
それは明日香と乾さんが試合でみせた、綺麗な球体ほどの大きさはないが、しっかりと球体になっている。
しかも明日香はその中から下手に動けない。
俺はそんな技を出したみさきに、すごく興奮した。
みさきはいつあんな技を思いついたのか、いつの間にあんなに強くなってしまったのか。
選手とそても、コーチとしても、最高に興奮する。
自分の育ててきた選手がここまで育つなんて・・・・・・そんな嬉しい気持ちでいっぱいだ。
「いっけえええ!!」
みさきは球体を作る動きを止め、その早さをキープしたまま、瞬時に明日香の背中に飛び込む。
「あっ!」
明日香の声が、みさきのしているマイクから聞こえたと同時に、試合の時間は終わっていた。
しかし、審判はみさきの得点を口にする。
それはつまり、みさきは時間ギリギリで、得点できたんだ。
「すごいです! みさきちゃん!」
「まだまだ行くよ!!」
みさきは弾かれた明日香に急接近していく。
その行動に、明日香も突進していく。
「うっ!」
「っ!」
お互いに頭からぶつかり合い、弾かれる。
そしてみさきは上に向かって飛んでいく。
それに明日香も共に飛んでいく。
明日香が右に行けばみさきが、そして弾かれ、みさきが左に行けば明日香が、それのくりかえしだった。
「明日香すごい。私についてきてる」
「みさきちゃんこそ、初めての解除なのに、こんなにうまく飛べるなんてすごいです」
本当なら会話する余裕なんてないはずなのに、二人にしかわからない間で、会話をしている。
「でも!」
「はい!」
「負けない!」
「負けないです!」
二人の言葉が重なり、再び激しく激突する。
「ふんにゃあああああああ!!」
しかしみさきはその反動を最小限に和らげ、明日香より先に明日香に向かって飛んでいく。
「まだまだ終わりません!」
しかしみさきの攻撃を交わし、みさきの頭上に移動した。
「こっちだって!」
しかしみさきも終わらない。
みさきの頭上にいる明日香の方へ体を翻し、解除状態からの背面飛行をする。
解除状態の背面飛行なんて、本来なら恐怖でまともに飛ぶこともできないはずなのに、みさきは見事やり遂げた・
「しまった!」
その思わぬ行動に、明日香は対処できず、みさきの攻撃を受ける。
「取る!!」
みさきは弾いた明日香に、ソニックブーストを使ってさらに勢いをつけて飛ばす。
「っ!!」
そして垂直エアキックターンを使って急加速――――――。
『いけー!! みさき!!』
気づけば俺は、叫んでいた。
そしてみさきは・・・・・・。
もう最終話はすぐそこですね。
本当に、ここまでたくさんの人達に見ていただき、嬉しい限りです!
あと少しの間も、よろしくお願いします!