決勝試合、今のところ二対二で同点だ。
このままだとみさきに負ける。
もちろん全力を尽くしているわけで、それでみさきが俺に勝ってくれるなら嬉しいことだけど、選手として考えると、やっぱり勝ちたい。
俺がセカンドラインに移動し終えると、みさきがブイに触れ、向かってくる。
これでみさきが一点リードだ。
しかしこのまま行くと点がとれないこともあり得なくない。
今のみさきは無敵だ。
できるかわからないけど、あれをやるか・・・・・・。
みさきは俺の頭上を飛行する。
みさきはきっと俺が、あれをできないと思っている。
「うあああ!!」
俺はがむしゃらに、頭上を飛行するみさきに向かって逆さで飛ぶ。
「晶也も!?」
その飛行方法に、みさきが驚く。
「でも、かなり辛いけどね」
俺も即興ながら、背面飛行ができた。
でもついて行くのでやっとだ。
みさきは嫌そうに俺から逃げる。
でもそれを手に取るように分かるため、俺もなんとかついて行く。
そして次第に・・・・・・。
「でも、少しづつなれてきたぞ・・・ほら!」
俺はみさきに向かって手を伸ばす。
「見え見え!」
やっぱりドッグファイトが得意なみさきに向かって背面からの攻撃は、少し無理があったみたいだ。
あっさりと交わされる。
「やっぱキツい」
「背面飛行は・・・こうするんだよ――――――」
そして俺はみさきに弾かれる。
背面飛行中だけあって、かなり大きく崩した。
これはダメだったかもしれない。
「――――――晶也!」
そして弾かれ、体制を立直す頃には・・・・・・。
そこにはもうみさきがいる。
それも、背面飛行で、俺の背中を取っていた。
「いただき!」
そして後ろから弾かれ、海面方向に弾かれていた体は、今度は綺麗な青空に向かって弾かれる。
しかしみさきはここで、大きなミスをした。
「もう一回!!」
さらにみさき、そこから繋げようと、俺に急接近するが、そう何度も取らせるわけにはいかない。
「取らせない!」
俺は垂直方向に弾かれた体を、力任せに右方向に捻り、みさきのタッチを交わす。
「っ!」
そしてさっき弾かれた反動を利用し、俺はセカンドブイとサードブイの間を繋ぐライン。
・・・・・・セカンドラインへ戻っていた。
そして弾かれた反動を利用し、サードブイに向かって飛ぶ。
「しまった!!」
みさきのそんな声が聞こえる。
さっきみさきの犯した大きなミス。
それは海面側から俺に触れたことだ。
海面側から俺を弾いたことで、俺は自然と元のラインに戻っていいて、次のブイに向かってみさきより先に飛ぶことができる。
これはみさきに何度も教えたんだけど、熱くなりすぎて気付かなかったのかもしれない。
でも、それに真藤が気づかないのはおかしい・・・・・・どうしたんだろうか。
『晶也、今の動きはよかったな。でも、油断してられないぞ?』
「はい!」
葵さんに褒められ、無意識に体が喜んでしまう。
セコンドとして葵さんに褒められたのは、いつぶりだろう。
――――――俺はサードブイにタッチし、サードラインへやってきた。
しかしそこで止まる。
本当は、ここで抜くか不意を突いて点を重ねないと、負けてしまう。
でもみさき相手に、どんなことをすればいいんだ?
今まで散々練習して、弱点もわかってるはずだけど、どうしたら勝てるんだ?
その弱点が本当にあってるのか?
確かみさきの弱点はFC脳がまだまだ育ちきってないって事だ。
でもそれだけなのか?
そこを突けば、みさきに勝てるのか?
でもそれで、俺はいいのか?
「・・・・・・またバチバチするぞ! みさき」
俺はサードブイで止まっていた体を、動かす。
みさきに向かって、また突っ込んでいく。
それはみさきへの宣戦布告みたいなものだ。
みさき去年の明日香との試合のとき、勝ち方にこだわってはだめだと、そんな感じのことを言った事を思い出す。
だけど今の俺は、いい意味でそれを守れてない。
みさきとの、ドッグファイトを選んだ。
もしもこれで負けたとしても、もちろん悔しいけど、悔いはない。
「うん!」
みさきの俺の言葉に一言返事で返し、俺に突っ込みを弾く。
「いくよ!」
みさきは、もう完全に慣れてしまった、垂直エアキックターンを使って突っ込んでくる。
「こっちも!」
俺もエアキックターンを使って突っ込む。
「っ!」
「くっ!」
お互いの体が弾かれて一瞬、間ができる。
その二秒のみたない間を破ったのは俺だ。
俺はソニックブーストで頭上に向かって、勢いよく飛ぶ。
当然みさきは、俺を追ってくる。
「負けないからね! 晶也!」
背面飛行に変えたみさきが、そう言ってくる。
「俺も負けるつもりなんてないさ!」
そして俺とみさきの距離が、メンブレンで弾かれるかどうかって言うギリギリの距離までの急接近する。
そして本来なら起こりえない、コントレイル同士がが混ざり合う現象が起きてるのがわかった。
でも今は、それは気にしてられる状況じゃない。
なんとして、みさきから二点取らないと・・・・・・負ける!
俺はみさきを振り切るため、その場で、俺が編み出したペンタグラム・フォースを使う。
その複雑なメンブレンの移動に、みさきはついてこれないはずだ。
「ふにゃあああああ! 曲がってー!!」
「なっ!!」
しかし、みさきはついてきた、さっき程の距離ではなくとも、背面飛行でなくても、みさきは俺の複雑なペンタグラム・フォースに、ついて来た。
昨日までのみさきならありえない事だ。
この技は、予想だと明日香もすぐには真似できない技のはずだ。
なのに・・・・・・なのにみさきは!!
「すごいぞみさき! この技の動きについてくるなんて!」
試合をしている相手なのに、嬉しくてたまらない。
そして同時に、燃える。
そんな選手に勝てば、どれだけ嬉しいだろうか。
「っ・・・・・・!」
さっきまで無我夢中でついて来たみさきだが、何度も周回しているうちに、だんだん体力を奪われ、失速してきている。
その差はどんどん開くばかりだ。
そろそろ頃合かもしれない。
俺は急に体を反転させて、エアキックターンでみさきとは逆の方向に行く。
その急な行動に、みさきはついてこれない。
「あっ!」
みさきの「しまった」と言わんばかりの声が聞こえる。
しかしまだ終わらない。
逆に行ったとこから、今度は戻るように、エアキックターンをする。
そう、みさきに向かって行くんだ。
「うああああ!!」
行け! 当たれ、みさきを弾け!
そうすれば、そこから得点が重ねられる!
『晶也、試合時間が一分切ったぞ』
普段なら選手を焦らせないために、時間を言わない葵さんが、時間を告げてくれる。
でも、今の俺にとってはありがたい言葉だった。
「うっ!!」
見事に、この奇襲戦法は、みさきに直撃した。
これで、みさきの体制はすぐには戻らない。
「いっけえ!!」
今度は弾かれたみさきに向かって、ソニックブーストを使って急接近する。
「一点!」
そしてみさきの背中に触れる。
これで同点、でもまだだ!
「もう一回!」
その場でエアキックターンを行い、みさきの背中目掛けて飛んでいく。
「・・・・・・っ!」
これで二点目。
一点リード。
「もう一回!」
「これ以上は!!」
さっきと同じ要領で、もう一度点を入れようとしたときだ。
みさきは腕を動かし、俺の攻撃を弾き、俺の攻撃を凌いだ。
「今度は! 私が!」
そしてみさきが俺をさらに弾く、このあと、タッチされるのを覚悟した。
ここで点を入れられたら終わりだ。
同点になり、延長でもしもみさきが安全装置を解除したら、今の俺だと負ける。
なんとしても体を動かさないと。
でも、弾かれた衝撃で動かない。
ここで、終わるのか・・・・・・?
「これで、同て・・・・・・!!」
しかし、みさきが俺に触れることはなかった。
みさきが触れるよりも数秒早く、試合終了のホーンが鳴り響いた。
その瞬間、観客も、実況も、一瞬静まり返った。
恐らく、俺とみさきの、息を呑み暇すらないドッグファイトに、みんな言葉を失っていたんだと思う。
俺だって、この試合のような最高のドッグファイトを見ていたら、同じ気持ちになる。
そして審判の勝者の名前をあげる声がして―――。
『か・・・勝ったのは久奈浜学院、日向晶也選手だー!』
―――そして保坂の実況が入ったとたん、会場が物凄い歓声で満たされる。
「あーあ、負けちゃった」
みさきは残念そうで、気の抜けたような声で言って。
「・・・・・・おめでとう、晶也!」
そう、俺を祝福してくれる。
「ああ、ありがとう」
当然俺も返す。
俺とみさきは、歓声を浴びながら、テントに戻る。
「おめでとうございます、日向センパイ」
「おめでとうございます、晶也さん!」
明日香と真白が、いち早く駆けつけ、俺の祝福してくれる。
「みさきセンパイも、すごいドッグファイトでした! 私もファイターになれば、みさき先輩とあんな試合を~!」
「まあ真白はまず、筋肉つけてムッキムキにしないとね~」
真白の言葉を、軽く流す感じで、みさきが言う。
「ひどいですよ~、みさきセンパイ!」
その会話にみんなが笑う。
「おめでと、晶也、それともチャンピオン?」
窓果がふざけ半分で言ってくる。
でもからかってるわけじゃないのは分かる。
「窓果も、ありがとう。あと、晶也でいいから」
「おめでとう、日向くん」
真藤さんも、俺にお祝いの言葉をいいに来てくれた。
「ありがとうございます、あ、一つ質問していいですか?」
「ん? なんだい?」
俺はあの時、なぜみさきに海面側から俺を弾くことに、みさきに注意を入れなかったのか、気になっていたことを聞いた。
「・・・・・・真藤さんなら、気づいていたんですよね?」
「あれは、僕も気づいていなかったんだよ。日向くんと鳶沢くんの試合に見とれてしまってね。僕もセコンドとして、まだまだかな」
本当に、そうなんだろうか。
でも真藤さんが嘘をつくとは考えにくい。
きっと本当なんだろう。
「おめでとう晶也、上出来だったぞ」
「ありがとうございます、葵さん」
葵さんも、いつも通りの祝福だった。
「終わったね、私たちの、高校生活最後の夏」
真白たちと話していたみさきが、俺の隣に来て呟いた。
「ああ、そうだな。終わったな」
これで、俺たちの高校での試合は、終わったんだ。
最高の幕引きで、終わった。
少なくとも、久奈浜学院の中に、誰ひとり最悪の結果となった人なんていない。
みんな、それまでの練習の成果を出し切ったはずだ。
・・・・・・来年の今頃は、俺たちは何をしてるんだろう。
次回で 蒼の彼方のフォーリズム~天才の二人のその後~ は完結となります。
次回更新は明日を予定しております。
あと一話となりましたが、最後までよろしくお願いします。