最後の晶也の
その日俺は、明日の大会のことを考えながら家に帰った。
↓
その日俺は、今後の大会のことを考えながら家に帰った。
明日を今後に修正しました。
これは大事な言葉のミスなので、修正させて頂きました。
まだ次の話では大会編ではないです。
失礼しました。
次の日。
俺は九時にみさきの家の前に行くと約束した為、前夜、なかなか眠れない身体を無理やり寝かせ、朝早くから家を出た。
しかし、結果的にみさきの家にたどり着いたのは、約束の時間よりも後だった。
俺はインターホンを鳴らした。
「え! もう来たの? 今行くから!」
インターホンからは、少し遠くの方から叫んでいる、慌てた様子のみさきの声が聞こえた。
これ、もしも俺意外の人だったら、かなり恥ずかしい事になるんじゃないか?
まあ、それもみさきのいいところの一つか。
「やほやほー! まーさやー!」
大慌てで、浴衣を着たみさきが玄関から駆けてきた。
「今行くと言ってから、もしも晶也じゃなかったらって考えて、大急ぎで着替えようとしたら、なかなか帯が結べなくて~」
「慌ててる時はうまくいかないもんだからな。でもその急ぎも、無駄になったわけだ」
「無駄じゃないよ、急ぎながらも、昌也に会いたい気持ちを溜め込んでたから!」
それはなんとも器用な事を。
「それで・・・・・どお? 今年も似合ってるかな?」
みさきは腕を上下させ、腰を軽く左右に振る。
着ている浴衣は去年、みさきが夏が終わるから夏っぽいことをしたいと言った時に着た、黒色の浴衣に、白と紫の花がデザインされていて、帯も同じ赤色だ。
「去年より似合ってるぞ。 去年よりも可愛い、それにやっぱり浴衣は新鮮でなお良い」
「あははは~。やっぱり面と向かってはっきり言われるとこそばゆいにゃ~」
みさきは、本当にこそばゆいのか、もじもじ身体を動かしている。
「じゃ、行くか。あんまりここでイチャイチャしてて・・・その、誰かに見られると恥ずかしいしな」
「そうだね、誰かに見られる前にいこっか!」
そう言うと、みさきはその場でグラシュを起動させ―――
「飛ぶにゃん」
ピコンッとみさきのグラシュは黄色の羽を生やし、飛ぶ。
「おいみさき、決められたとこ以外で飛ぶのは禁止だって、いつも言ってるだろ?」
「私の決められた場所の中には、晶也の隣って言う、私専用の場所があるの! ほら晶也も、私の隣だから飛びなよ」
みさきは少し頬を赤くしながら、俺に手を差し出す。
その雰囲気は、去年俺がみさきに、再び飛ぶことを、蒼(そら)に戻ると約束した時のようだ。
当然お互いに飛んで行くから、手を繋ぐことはできない。
でも俺は、その手を握り、引っ張られるようにして、蒼(そら)へ羽ばたく。
「ああ行こう、今日はみさきとデートだ」
たまには、停留所からじゃなくても良いだろう。
きっと誰も見てないだろうし。
「・・・うん!」
―――ほどなくして、福瑠島の停留所に下りた。
まだお昼だというのに、辺りは人で混雑していた。
「みさき、手、繋ぐか・・・」
俺は隣にいるみさきの手を素早く握る。
躊躇したり、返事を待ってると、恥ずかしくて止めてしまいそうだからだ。
「あっ・・・うん、そうだね、はぐれると困るしね、繋ご」
俺が握ると、そっとみさきも握り返す。
昨日の帰りも感じたみさきの手の温もり、それなのに、なんだか久しぶりな気がした。
「さて、どうしよっか!」
「そうだな、まずはお祭りを開催している神社に行かないとだな」
「りょうかーい!」
みさきは無邪気に返し、手を繋いで神社へ向かう。
「晶也はさ、今日のこと、いつから決めてたの?」
「先週くらいかな、窓果からこのお祭りの事を教えてもらってさ、それで今日の予定を組んだんだ」
「そっか。・・・その、ありがとうね、私のために、部活を休みにしてまで連れてきてくれて」
みさきは、そう、はにかみながら言った。
「当然だろ。俺達付き合ってるんだから」
「うん」
そんなこんなで会話をしていると、時間の進みというものは早いものだ。
もう目的の神社の目の前に来ていた。
「ここの鳥居は大きいにゃー」
「四島列島の中で、二番目に大きいところだしな」
「ん? じゃあ一番は?」
「久奈浜にある神社だよ」
「へえー、そうなんだ」
みさきは興味深そうに鳥居を見ている。
「・・・・・・鳥居に興味あるのか?」
「ううん、別に。ただこんなに大きくてどうするのかなって」
「それ、俺も気になって前に調べたんだけど、ネットだと出てこなかったんだよな」
気になって日曜の休みを潰してまで調べたが、結果答えはなかった。
「だから俺はこう考えた。鳥居は、その向こうは神域とされているため、神がその門を潜り、神域に戻った。・・・こんな感じかな」
「晶也って、本当は頭いい?」
「みさきほどじゃないけどな」
みさきの頭の良さは、本当にすごいと思う。
きっと、これを天才と言うんだろう。
「ねえねえ、鳥居の話はもういいからさ、早く行こうよ!」
「そうだな・・・じゃあまずは何から行く?」
「お祭りといったら、これでしょ!」
そう言ってみさきが俺を連れていったのは―――
「カキ氷!」
「まあ、普通だな」
「・・・・・・晶也、なんかつまんなそう」
みさきがムッとして、明らかに不機嫌になった。
「つまんなくないって、ただありきたりだなって思っただけだって」
「・・・じゃあ晶也がおごって!」
「・・・・・・わかった、おごるよ」
財布にそこまでの余裕がないわけじゃないが、あまり贅沢できるほど多くもない。
みさきに一個分のカキ氷の小銭を渡し、俺は列から少し離れたところにあるベンチに腰掛けて待つ。
カキ氷の列は長いが、遅くても五分あれば帰る程度だった。
「つまらなそう、か・・・」
確かに、今年は自分も大会に出るだけあって、知らない間に気分が乗れてなかったり、浮かない顔をしていたかもしれにない。
まだ大会に参加する勇気が、百パーセントあるわけじゃない。
でも、だからと言って今、みさきとのデート中に浮かない顔をしていたら、みさきが傷つく、お互いの絆に溝が生まれるかもしれない。
「しっかりしないとな!」
俺は自身の頬を両手でパンパンッと叩き、気持ちを入れ替える。
今はせっかくのデートだ、楽しまないと。
「珍しいな、一人でお祭りか?」
隣に聞き覚えのある人が腰掛ける。
「あお・・・各務先生」
いつもの通りの格好の、いや、学校での白衣を着ていない、それ以外はいつも通りの各務先生が隣に腰掛けたのだ。
「ここは学校じゃないんだ、先生はいい」
「はい。それで、葵さんはここで何を?」
「ん? まあ、教師として、何かしでかす奴がいないか見回り中だ。そしたら晶也が浮かない顔でベンチにいたもんだから、担任として話しかけたわけだ。・・・鳶沢にでもフラれたか?」
「フラれてません! からかわないでください!」
と言うかなんでこの人は付き合っていること知ってるんだ。
先生にバレルといろいろとめんどくさいから隠してたのに・・・。
「そうか、晶也が強引過ぎて鳶沢がついていけなくなったのかと思ったんだが、違ったか」
「それで、結局何が言いたかったんですか?」
「ん? 晶也、お前今日停留所から飛ばなかっただろ」
「なっ!」
まさか、あれを見られていたのか?
いったいどこから?
俺が飛ぶとこから?
それともみさきと会話しているところすべて?
「コーチとして、FCを教える人として、あんまりいただけない行為だな」
「・・・はい、反省してます」
こればかりは、俺が悪い。
言い逃れはできないだろう。
「晶也ー! 買って・・・って、各務先生?」
「よう鳶沢、仲良くしてるか?」
「は、はい、いつも通りです」
葵さんはみさきが来ると、笑いながらみさきに呼びかける。
みさきもいきなり居た葵さんにどんな反応して言いかわからないのか、返しがぎこちない。
「まあ、話すことはそれだけだ。・・・あんまり浮かれすぎて、取り返しのつかないことをするなよ?」
「わ、わかってます!」
意地悪な笑みを浮かべて、俺をからかい、そう言い残して葵さんは去っていった。
「・・・なに話してたの?」
「たいしたことないよ」
俺はため息交じりにそう伝えた。
今日は誤算が多い。
葵さんもここに来ていたこと、停留所以外から飛ぶところを葵さんに見られていたこと、葵さんに付き合っていたことがバレていたこと。
・・・どれも葵さんが絡んでいる・・・・・・。
「さ、ほら、晶也口開けて」
「え、俺はいいって」
いつの間にか隣に座っていたみさきに、プラスチック製のスプーンを近づけられる。
まさか、こんな人の多い場所で「あーん」なんてやるつもりだろうか。
「いいから早く、私も恥ずかしいの!」
「ならそんな無理しなくてもいいだろ!」
どんな罰ゲームだよ!
あ、いや、正直嫌じゃないけど・・・。
「ほら、あーん、ん!」
これは逃げられそうにない・・・。
「あ、あーん・・・」
閑念して目を閉じて口を開ける。
すぐに口に甘いイチゴの味が広がる。
「あははは! 晶也顔赤いー!」
「・・・みさきもだろ」
やることを終えると、みさきが俺の顔を見ながら、大笑いしている。
しかし当のみさきも、顔が真っ赤になっている辺り、照れ隠しだろう。
「ね、ねえ晶也。もう一回・・・してみる?」
もじもじしながら、落ち着かない様子で、横目で俺に聞いてくる。
「誤解されそうな言い方するな。そしてやらない!」
「ええー! 晶也は私の体よりも、他の人の体を望むの!?」
「違う!! そんなこと大声で言うな!」
俺が慌てて反論すると、目を細め、してやったりと言った表情で俺を見る。
――小悪魔だ、ここに小悪魔がいる!
「―――っと、それいいとして、次はどうしようか?」
みさきは残ったシロップを飲み干し、近くにあったゴミ箱にカップを捨てると、俺に問いかける。
「みさきに任せるよ」
「ダメ。晶也にも楽しんでほしいから、だから次の場所は、私は選ばない」
これは、きっとみさきなりの気遣いなのだろう。
自分ばかり楽しんではいけない。
デートは二人で楽しむもの。
だから俺にも選択してほしいんだと、俺は思う。
・・・奥まで憶測だが。
「じゃあ、射的でもどうだ?」
「いいよ、晶也がそこに行きたいなら、私は着いて行くよ」
俺とみさきは再び、今度は自然な動作で手を握り、人混みの中を進んでいく。
―――射的の場所に着いてすぐ、俺はみさきに取って欲しい物を聞いた。
みさきは一通り見ている途中、何かが目に入ったのか、ソレに喰いついて、指をさした。
「アレがいい! アレ! シトーくん!」
「なっ、あいつ、こんなところにも・・・」
あの日、シトーくんぬいぐるみを明日香とみさきに取ってあげた以来、俺の行くとこには、シトーくんがかなりの確率でいる。
ま、まあ、四島列島のマスコットキャラだから仕方ないけど・・・。
「じゃあ晶也、頑張って!」
「ああ、まかせろ!」
俺は、一発百円、五百円一括払いで一発おまけコースを選び、銃を構える。
「あ、晶也違う違う、そうじゃなくて、こう構えて・・・・・・そうそう」
後ろで見ていたみさきが、後ろから俺にもたれかかるようにして、腕の位置など構えを修正する。
こういうのは、普通逆だと思うのだが、それ以上に、なぜみさきが銃の構えについて詳しいのかの方が気になる。
去年の落下訓練のあとに行っていた水鉄砲合戦(今俺命名)の時も、持ってきていた銃の名前を言いながら渡していた。
―――と、今はそんなこと考えている場合じゃなかった。
気づいたらお店の人が急かしているし、いつの間にかみさきも離れていた。
「ここを・・・こうだな」
俺は照準をキーホルダーサイズのシトーくんに合わせ―――撃つ。
「よし! 当たった!」
俺の渾身の一発は、見事シトーくんのおでこに命中した。
「っえ、あ、あれ?」
しかし、落ちるまではいかなかった。
俺は意地になり、もう一発、完全とはいかないが、ほぼ同じ場所に当てたが―――随分後ろに下がっただけで、まだ落ちない。
「・・・・・・どうなってんだよ」
「ほらほら頑張って~、私の為に頑張るにゃ~」
後ろで、気の抜けた声で声援を送るみさきがいる。
―――なんとも、力が逆に抜ける声援だ。
「あと一回、あと一回で落ちるはず!」
俺は同じ手順で撃つ。
―――そしてまだ落ちない。
また撃つ
―――まだ落ちない。
あと二発。
絶対にそれで終わらす。
―――俺は構え、絶対に落とすと心から強く想い、放った。
するとシトーくんは今までとは違う、グラグラを揺れはじめ――――――。
―――落ちろ!!
俺は願う、いや、念じた。
「あっ!」
俺よりも先にみさきが反応した。
俺は途中から伏せていた顔を上げ、あげ、そこを見た。
「落ち・・・た」
「やったね晶也! 落ちたよ!」
みさきはシトーくんを屋台のおじさんから受け取り、小さなシトーくんを胸に抱いている。
その表情はとても嬉しそうだ。
「ねえ晶也、晶也は何か取って欲しいものある?」
みれきは、俺から後一発込められた銃を受け取り、訪ねてくる。
「一発で取れるのか?」
「大丈夫。それで、晶也は何が欲しい?」
「そうだな・・・みさきが欲しい物が欲しい」
「私の?」
みさきは疑問を浮かべているのか、難しい表情をしていたが、すぐに「わかった」と言って、銃を片手で構える。
「じゃあ、あれでいいよね」
みさきは、片手、横向きで片目を閉じ、よく狙って撃つ。
そして、狙ったそれは、見事に命中し、落ちた。
「え? そんな簡単に?」
俺は訳が分からなかった。
「はい、晶也、シトーくん」
「あ、ああ、ありがとう」
元々何をやっても上手いみさきだ、まさかとは思ったが、まさかとは・・・。
俺もそれなりに自身ああったのだが。
これには屋台のおじさんも驚いているようだった。
「次はどこを見て回る?」
そんな俺を知ってか知らずか、みさきは陽気にそんなことを言いだす。
「そうだな、次は・・・」
「みさきちゃん凄いです!」
「みさき先輩は何をやっても天才なんです! これくらい楽勝ですよ!」
後ろから聞きなれた声が聞こえた。
「明日香と真白!」
後ろには、浴衣を着た二人が立っている。
二人とも、自分自身にぴったりな色の可愛い浴衣を着ていて、とても似合っている。
「ちょっと晶也。二人をみてあんまり鼻の下伸ばさないでよね?」
内心、みさきには失礼だと思いながら、二人の浴衣を可愛いと思ってしまったのはやはりいけなかったみたいだ。
みさきに心を読まれた、いや、顔に出ていた・・・のか?
「私は別に、晶也先輩にどう思われても嬉しくないです。それよりみさきせんぱーい! 私の浴衣どう思いますー?」
「あー、うん可愛いと思うようんうん」
みさきは顔を反らせて、いつも通りに軽く受け流す。
「もっとしっかりと~!」
「特にその柄とかね~」
みさきは尚も顔をそむけて言い続ける。
絶対に真白を相手にしていない。
顔を反らしてどこを見ているのかと思えば、俺の方だった。
「なあ真白、みさきは今・・・」
「晶也先輩、今は黙っていていください。数少ないみさき先輩の浴衣を堪能してるんですから!」
たちの悪い野良犬でも追い払うかの如く、手でシッシッと払う動作で、追い払われた。
「あ、あの、晶也さん、射的のやり方、教えてもらってもいいですか?」
「それならみさきの方・・・・・・そうだな、わかった」
みさきに頼もうとしたが、完全に真白にホールドされていて、動きそうにない。
「悪いみさき、ちょっと明日香の見てくる」
「あ、うん、わかった!」
後ろから、みさきが必死に真白を引き剥がそうとする声は聞こえるが、俺にはどうすることもできないため、み先に任せるしかない。
「―――それじゃ、ここをこうして」
さっきのみさきとは逆立場。
俺が明日香を後ろから教えている形だ。
「それでは、行きます!」
そう言って初弾を撃つ。
それは見事に目的の景品に辺り、景品を揺らす。
今明日香が狙っているのは、トビ子さんと言う、トビウオをモチーフに―――というかトビウオのまんまだけど―――作られたマスコットキャラだ。
シトーくんどどっちが可愛いかと聞かれたら、こっちと答えるが、もしも歩くシトーくんが目の前にいたら・・・きっとシトーくんを選ぶだろう。
選ばなかったら、呪われるかもしれない。
「うまいうまい! その調子でもう一回!」
「はい! ――――それ!」
その後も、みさきは快調に景品に当てていき、最後の一発で、見事ゲットした。
「ありがとうございます!」
「いや。それは明日香が自分の力で取ったものだよ」
「・・・はい!」
用が済んで、俺と明日香は二人の元へ戻ったのだが。
「あれ、窓果?」
「あ、晶也。やっと帰ってきたね」
もういいのか、みさきから離れた真白と、三人で会話していた。
「いつからいたんだ?」
「最初からいたよ?」
・・・・・え?
「晶也気づかなかったの?」
「晶也さん、それはさすがにひどいです!」
「最低です!」
三人も罵倒された。
気づかなかったというか、存在自体がそこにいたことに気づかなかった・・・いや、それを気づかないというのか。
「私ってそこまで影薄かった!? 泣くぞ? すっげえめんどくさい泣き方すっぞ!?」
あまりの扱いに、取り乱した窓果。
とりあえずここは宥めないとまずい。
「わ、悪かった!」
「本当にそう思ってる?」
「ああ、本当にそう思ってる!」
「じゃあトウモロコシおごってくれたら許してあげる!」
そう言うわけで、俺のお財布からまたお金出ていってしまった。
「ここのお祭りの焼きトウモロコシはおいしいんだよ!」
屋台の前で、窓果が機嫌よさげにそう言っている。
「じゃあ晶也、私も食べる! 買って」
「しょうがない、いいぞ」
さすがにみさきにお願いされたら断れない。
「みんな、良いって!」
「え?」
「本当に私もいいですか?」
「まあ、どうしてもっていうなら、みさき先輩に免じて、ここは奢られてあげますよ」
「じゃあ真白はいらないな」
「え、え!? ちょ、ちょっと、冗談ですよ! いります! いりますからー!」
真白が俺の袖を引っ張って止める。
「わかったわかったから、だから袖をつかまないでくれ」
全員分の焼きトウモロコシを買う羽目になったが、みんなおいしそうに食べている。
よく考えたら、俺は何も食べていない。
「晶也、残りあげる」
「いいのか?」
みさきが、綺麗に半分ほど食べ終えたものを差し出してくる。
俺はそれを受け取り、確認する。
「いいよ。だって晶也なにもたべてないじゃない?」
「ありがとう」
みさきの気遣いが、なんだかこそばゆい。
「・・・・・・うん! うまいな! この焼き加減とか絶妙だな」
「お! 晶也わかってるね!」
感想を述べると、窓果がそれに乗っかってくる。
「晶也にもこのトウモロコシのおいしさが分かるんだね」
「失礼だな、俺は人並みの味覚は持ち合わせてるぞ」
窓果は俺の事をいったいなんだと思っているのだろうか。
「じゃあ次はあれ食べにいきましょう!!」
真白が仕切り、みんなを引っ張っていく。
「・・・ええ!?」
そんな驚きの声を出したのは俺だけじゃない。
真白意外の全員が、そんな声を上げた。
「ましろうどん、出店バージョンです!」
なんというか、とりあえず驚いた。
まさかましろうどんが出店を出してるとは。
「あらみんな、いらっしゃい」
「あご出汁うどん下さい!」
みさきが手を上げ、ハイテンションで答える。
相変わらず、うどんのことになると動きが早くなる。
「はいはーい。みんなはどうする?」
牡丹さんが気を利かせて、俺達にも聞いてきてくれた
聞かれると、みんな同じものを注文し、しばらく待つことにした。
「出店とかだと、味落ちたりしない?」
窓果が申し訳程度に真白に聞いた。
「フフン。ましろうどんを甘く見ないでくださいよ! こんなことで味が落ちたりなんてしません!」
「真白っちが威張っても・・・」
そのあとも会話が続き、ちょうど会話のキリがいいところで、うどんが届く。
ましろうどんは神社の大きな空き地に設けられている、食べ物系の出店が密集する、いうところのフードコートのような場所にある。
辺りを出店に囲まれ、真ん中には丸いテーブルがいくつも設置されていて、俺達はそこに座って会話している。
「それじゃあ、いただきまーす!」
みさきはいつものようにうどんを食べ始め、おいしそうにしている。
「いつも通りの味だね」
「言った通りでしたでしょ? ましろうどんはこんなことでは味は落としません!」
真白は胸を張ってまた自信満々に言う。
「うう~、トビウオさん、ごめんなさい。でもやっぱり、おいしいです~」
そういいながら、明日香もいつものように泣きながらうどんを食べている。
「ってあれ、晶也のうどん油揚げがトッピングされてる!」
隣で食べていたみさきが、俺のうどんをみて反応した。
「今日限りの限定油揚げ乗せのあご出汁うどんだ」
さっき注文するとき、俺だけ最後になり、女性陣は先席を取りに行ってしまったため、俺はゆっくりきめてこれにした。
油揚げの油がうどんの汁と絡まり、とてもいい具合になっている。
「ま、晶也、食べかけでいいから、その油揚げ頂戴!」
みさきは俺の方に割り箸を向け、魚を狙う猫のように構える。
「そんな狙わなくてもやるよ、ほら」
俺は割り箸で半分食べた油揚げを掴み、みさきのどんぶりに移す。
「わーい、ありがとう!」
「ありがちな喜びをありがとう」
みさきはさっそく食べ、満足そうに食べている。
そんなにおいしいなら、あげた買いもあったもんだ。
―――あのあとも、周りにある屋台を周り、片っ端から食べていった。
途中、白瀬さんと一緒にいる部長に会い、少し立ち話などもした。
「ごちそうさまです、晶也さん」
「お粗末さまでした」
最後に明日香が出店なのにパフェ屋があり、そこで俺は明日香に奢ってあげることなった。
みんなはさすがに食べすぎたのか、さすがに便乗して頼もうとはしなかった。
「それじゃ、みんな食べ終わったところで、そろそろ私たちは別行動するね」
窓果が立ち上がると、明日香や真白も続いて立ち上がる。
「もういいのか?」
そういうと、窓果が俺に地近寄り、耳元で小声で話す。
「みさきっち、少し前から元気ないよ」
「え?」
気づかなかった。
俺からはいつも通りに見えていた。
「せっかくのデートでしょ? 一緒に楽しんであげないと、選手の心のケアは、コーチとして、恋人として大事だよ」
「ありがとう窓果、助かったよ」
「じゃあこの情報の見返りは~」
窓果は俺に向かってしてやったりと言った表情をすると。
「と思ったけど、今回はなし。今日は楽しかったから、ごちそうさま~」
そういって窓果は俺か離れ、真白と明日香を引き連れて歩いていった。
気づくともう日は沈み、暗くなっている。
「・・・ん? まってよ、みさき、今何時だ!?」
「え、ちょっとまってね・・・・・・七時五十分だ・・・にゃ!?」
俺はみさきが時間を言い終わるのと同時に、その手を掴んで走り出す。
当然浴衣を着ているからそんな早くは走れないが、それでもみさきにペースを合わせながら、その手を引く。
「私はこれからどこにさらわれちゃうのかにゃー?」
後ろでそんな緊張感のないことを言っているが、俺は目的地とは正反対にある最寄りの停留所に走った。
「よし、みさき、ここからは飛ぼう!」
「え、うんわかった」
俺が焦っているのがみさきにも伝わったのか、少し戸惑いつつも、慌てている感じだ。
「FLY!」
俺はみさきの手を握ったまま、ペアリングで飛んだ。
あの人にどうしてもとお願いしてやってもらうんだ。
絶対に見ないといけない。
そして神社の上通り過ぎ、その先の目的の場所、砂浜に下りた。
「ここって砂浜? うわ、靴に砂が入ったにゃ~」
みさきは下りると、靴を脱ぎ、裸足で歩く。
「ちょうどいい、あそこに座ろう」
「うん、そうだね」
俺とみさきは、近くにあった大木に腰を下ろし、俺は海を眺める。
「ねえ晶也~なにするの? ねえってば~・・・・・・晶也?」
隣ではみさきが俺に話しかけていたが、しばらくすると俺と同じように海を眺め始めた。
「いったい何が・・・ひゃっなに!」
みさきがなにか言おうとしたとき、夜空に突如と一筋の光が浮かび上がり、弾け、光の花が咲く。
―――花火だ。
「びっくりした。でもなんで? ここの花火大会って花火打ち上げないんじゃなかったけ?」
「俺が佐藤院さんにお願いして打ち上げてもらった」
「晶也そんなことできたの!?」
みさきが大げさと言うほどの驚きを見せる。
でも実際これは、佐藤院さんからのプレゼント。
なぜこうなったのか、事の発端は先週だ。
「晶也の嘘つきー!」
本気ではない、本当はそう思ってない、でもそう言いざるを得ない。
そんな感情のこもった声が、通話中のスマホから聞こえる。
「・・・・・・ごめん」
どうしてこうなったのか。
それは今日、俺はみさきに花火大会に行くと言って、忘れていて他の高校との合同練習を入れてしまった。
場所は福瑠島、当然普通なら練習終わり次第行けばよかったのだが、合同練習の後に、葵さんが俺を呼び、他の高校の部長たちと話し合っていたら遅くなり、間に合わなくなってしまった。
みさきは俺との初めての花火大会を心から楽しみにしていたみたいで、その声は少しずつ弱々しくなり、もしかしたら少し泣いているのかもしれない。
みんなの前では強がっているが、二人っきりの時は、時間が立つごとに、よく感情を表に出すようになった。
「泣いてるのか?」
「泣いてない! ・・・こんなことで、泣くわけない・・・」
「ごめん」
俺はただ謝るしかなかった。
「いいよ。仕方ない事だし・・・」
さすがにこれはあり得ないが、もしもこれで別れることになっても、覚悟していた。
「心配しなくても、こんなことで別れたりいないよ」
その言葉は、いつもの元気なみさきの声だった。
「その変わり、今度うどんをおごってもらう!」
「俺の財布が耐えられる限りならな」
「わーい! うどん食べ放題だー! おやすみ晶也ー」
その日はそれで電話を切った。
その後日だった、どこから聞いたのか、窓果が俺に、みさきとのことを話、今度行われる二回目の福瑠島のお祭りについて教えてくれた。
しかしそのお祭りでは、みさきの楽しみにしていた花火大会は行われることはない。
あくまで出店のみ。
しかし、一日考えた俺は、ある可能を思いついた。
次の日、俺は佐藤院さんとイロンモールで待ち合わせ、そこから砂浜である提案をした。
「お願いします!!」
聞いたところ、奇跡的な確率で、佐藤院の企業は、花火を扱っていた。
「いいですわ」
「いいんですか!?」
答えはすぐに帰ってきて、俺は驚きの声を上げる。
「ええ、実は佐藤グループでは、キャンセルされた花火があり、それの処分に困っていたところですわ。ちょうどいいので、昨年秋の大会で優勝なされた鳶沢みさきさんと、そのセコンドのあなたへの大きな花束として打ち上げてあげますわ」
「ありがとうございます!」
ますます佐藤院さんについての謎が深まったが、それよりも今は、感謝でいっぱいだった。
―――今のこの状況は、佐藤院さんのおかげだ。
『これより、佐藤グループによる、花火大会を開始します』
アナウンスが入り、俺はみさきと海を見続ける。
そしてすぐに、夜空には、大量の花火が打ち上げられる。
崖の上からは、出店の方にいた人歓声が聞こえた。
「・・・・・・綺麗だね」
「そうだな、きれいだ」
そんな他愛もない会話が続いた。
みさきは目をキラキラさせながら花火を見ている。
「私一人っ子だから、四島列島の、ここのお祭りきても、いつも一人で花火見てた。・・・でもなんでだろう、今は晶也と一緒だからかな、すっごく楽しい!」
「俺も、みさきといっしょですごく楽しいよ」
「・・・、晶也!」
みさきは俺の体を押し、俺はみさきに押し倒される。
「晶也、私・・・」
今の動きで、着崩れたみさきの浴衣が、なんとも色っぽい。
「みさき!」
俺はみさきの肩を掴み、クルリと周って立場逆転の、俺が押し倒す形となった。
「晶也、私明日香と射的に行く昌也を見て、すごく胸が苦しかった。・・・そんなちっぽけなことなのに、自分の大切な晶也が取られたみたいな、そんな気持ちでいっぱいだった」
蕩けた、それでいて不安な瞳で、俺を見つめる。
次第にさっきまで聞こえていた歓声、それどころか花火の音も耳に入ってこなくなる。
俺は鼓動が早くなるのを感じた。
「みさき・・・!」
俺はそんなみさきを愛おしく感じ―――
「・・・んっ!」
「っ・・・・・・」
―――ゆっくりと顔を近づけ、キスをした。
「ん、はあっ、んん!」
俺達はお互を求めあった。
幸い、ここは上からは見れない場所だ。
「・・・はあ、はあ、はあ、晶也、ストップもう無理、限界!」
お互いに息をきらせ、みさきの制止でキスをやめた。
次第に花火の音と歓声が耳に入ってくる。
「そうだな、これ以上は、まずいな」
お互いにこれが限界だ、これ以上は、理性では抑えられない。
俺は完全に体に力の入らない、腰の抜けたみさきを抱き起し、大木を背もたれにして、座る。
「今日の晶也、激しかったね」
「言わないでくれ、自分でも恥ずかしくて死にそうだ」
「ハハハハハ、死ぬがい」
「善処します」
みさきがお決まりのセリフを言ったため、つい反射で答えてしまった。
「・・・ありがとう」
「え?」
「こんなめんどくさい私と、今まで付き合ってくれて、それとこれからもよろしく」
そうか、もうすぐ俺達は、付き合い始めて一年になるのか。
すっかり忘れてた。
「ねえ晶也、少し、寝てもいい?」
「ああ、いいぞ」
そう言うと、みさきは俺の肩に体を預け、スースーと寝息を立てて幸せそうに寝むった。
「送ってくれてありがとう」
「夜道は危ないからな」
あのあと途中で俺も寝てしまい、花火が終わる頃に目が覚めた俺は、みさきを起こし、今に至る。
「明日は練習だから、遅れるなよ?」
「じゃあ晶也が真白より早く来ればいいだけのことだよ」
みさきが眠そうにそう言う。
「それもそうだな、じゃあ明日は六時に来るかな」
「え、ちょ、ちょっと待って!冗談だよ! 冗談! そんな時間に起きたら私死んじゃうよ、寝不足死するよ!」
「そんな死に方はないからな。・・・おやすみ」
俺はそれだけ言って行こうとすると。
「待って、忘れてる」
はっきり言うと、後ろからキスをせがまれた。
「まだ足りないのか・・・」
さすがにさっきやりつくしたはずなんだが・・・少なくとも俺は。
「私をこんなエッチな女に調教したのは晶也だよ」
「そんなこと言うな! あと調教なんてしてないからな!?」
「いいから、ね?」
俺は一回、そっとキスをした。
「おやすみ!」
「ああ、おやすみ」
この言葉を最後に、お互いに帰宅した。
明日からは本格的に練習が入る。
きっとみさきもこれまで以上のやる気でやるだろう。
俺も負けるわけにはいかないからな。
その日俺は、今後の大会のことを考えながら家に帰った。
次回投稿は二話よりも遅くなります。
もうしわけないです。
あおかなのアニメ、熱い展開ですね。
まさかあの人のFCが見れるなんて・・・夏大会の小説シーンの助けになります。