蒼の彼方のフォーリズム 天才の二人のその後   作:蒼空

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「私、がんばってきたのに・・・」

夏の日の出が始まってすぐの朝五時過ぎ。

なぜ今日こんなにも早く集まったかというと、ある人からの申し出があったからだ。

 

「よし、全員集まったな。今日はは海凌学園から練習に協力したいと連絡があって、二人の助っ人に来てもらってる」

 

最後に、みさきが遅刻ギリギリで到着したことを確認して、全員に話し出す。

 

「海凌ってことは、二人が帰ってきているの?」

 

今だ眠い目を擦りながら、みさきが最初に話した。

みさきの指す海凌の二人は、きっと乾さんとイリーナさんだろう。

 

「そう。そして今年は出場しない代わりに、俺達久奈浜に力を貸してくれるそうなんだ」

 

一体何が狙いなのか分からないが、二人が協力しれてくれるんだ。

この機会をコーチとして逃すわけには行かない。

 

「でもさ、ファイターの私には、あんまり得しないんじゃない? 明日香や真白なら為になるかもしれないけど」

「それはどうだろう。ファイターだって、ある程度スピードを持ってないと、スピーダーのスピードに追いつけずにうまくドックファイトに持ち込めないぞ?」

「ああ。それもそうだんね!」

 

みさきは納得した様子だ。

 

「そろそろ来る頃だが・・・」

 

俺がそう言うと、なんとタイミングがいいのだろう。

ヘリの音が聞こえ、すぐ近くに着陸した。

 

「ご機嫌よう。久奈浜の皆さん」

 

ヘリから、いつものようにイリーナさんが、そのあとを乾さんが続いて下りてくる。

 

「お久しぶりです。今日はよろしくお願いします」

「それではさっそく、練習を始めましょう」

 

そう言って、イリーナさんはみさきたちに目線を送るが、俺たちはまだ準備運動を何もしていない。

 

「すみません。まだ準備運動していなくて、よろしければ乾さんも一緒にどうですか?」

「わかりました。沙希、一緒に準備運動をして欲しいそうよ」

「了解。イリーナ」

 

失礼かもしれないが、いままでのイリーナさんなら、うちの沙希はいつでも準備はできれています。なんて言って断られるのかと思った。

 

「それじゃあみんな、いつも通り十分間軽く柔軟したら、二十分間一定の速度でフィールドフライだ」

 

俺が声を出すと、みんなその場で柔軟を始める。

 

窓果はみんなの様子を見ている。

俺はイリーナさんと少し離れたところで見守る。

 

「今回はなぜうちに協力を?」

「今年の夏の地区大会には出場しません。そこで、一つ、今私たちが行っている秘策を、久奈浜の人たちにだけ教えようと思ったんデス」

「秘策?」

「グラシュのバランサーをカットする。これが秘策です」

「バランサーを?!」

 

グラシュのバランサー、つまりは制御装置をオフに。

それは通常、いや、今まで絶対に誰も試さなかった方法。

いや、試さなかったというより、試すこと自体が危険に繋がる行為だからこそできなかったこと。

 

「でも、どうしてそれをうちに? 秘策なら言わないのが普通では?」

「どうして。それを聞かれると返答に困りマス。・・・デスが、沙希が言ったんデス。鳶沢みさきともっと飛んでみたい、と」

「みさきと?」

 

乾さんには去年、秋の地区大会で勝った。

その時は、覆面選手や白瀬さん、部中や俺でみさきを強化して、そしてみさきはスモーという背面飛行技を覚えた。

その時、試合の後にインカム越しに聞こえたふたりの会話。

―――次は・・・・・・私の展開に付き合ってほしいな。

 

「ええ、それで私は皆さんに秘策を教えようと思ったんです。沙希とは全力で、お互い対等で試合をしてもらいたい。・・・そうすることで、沙希はさらに上に行けるのだと思いマシタ」

「対等に、ですか」

「はい、対等にデス。・・・・・・それと、空に戻った日向さんのFCも、見てみたいデスね」

「ぜ、善処します」

 

俺はイリーナさんに見つめられ、つい覆面選手との会話の癖が出てしまった。

 

「晶也ー! フィールドフライ終わったよー!」

 

そういわれ、空を見上げると、みんなファーストブイに集まっていた。

 

「じゃあ次は、イリーナさん、指示をお願いします」

「それではまず、この映像を見てもらいマス」

 

そう言って、一枚のディスクとノートパソコンをバックから取り出した。

 

 

 

 

唖然。その言葉が一番今の状況にぴったりだろう。

ディスクの中の映像は、バランサーをカットした乾さんの模擬試合の様子が入っていた。

 

「す、すごいです! グラシュの羽があんなに大きくなって! ぶわーってなって、どわーって!」

「明日香落ち着きなよ・・・」

 

映像を見て興奮状態の明日香を、窓果が指摘する。

 

「でもこれ、普通の選手がして危なくないの?」

 

と、そこで、みさきが一番重要なところを指摘した。

映像の乾さんも、かなり披露していたし、今からこれを行う限り、当然選手の安全を保証しないといけない。

 

「ですから、まずは七十五パーセントほどで行きましょう」

「それでも危なそうな人は、もう少し落としてからですね」

 

俺とイリーナさんの意見が一致したところで、念のためもしもの時の保護者として白瀬さんと各務先生に来てもらうことにした。

 

「それじゃみんな、先生が来るまで時間があるから五分の休憩を入れて、そのあとは走り込み。水分補給を挟んでブイからブイへのタイムを計る。それじゃあ練習開始!」

「おー!」

 

乾さんと、いつも通り気の抜けた声を出したみれきを除いて、みんなが声を出し練習に映る準備を開始する。

 

 

 

 

「やってるな晶也。練習の方はどうだ?」

 

後ろから、各務先生がやってくる。

 

「おはようございます各務先生。こんな時間からありがとうございます」

「なに。これも顧問としての努め、だよ」

 

各務先生は、いつものように涼しげな笑顔で答えると、次後ろから白瀬さんがやってきた。

 

「やあ日向くん。今日は呼んでくれてありがとね。お礼にたまたま居合わせた子を連れてきたよ」

「あ、あの。私もついて来てしまったんですが、良かったんでしょうか?」

 

白瀬さんと一緒に、予想外にも市ノ瀬もやってきた。

こっちとしては問題ないけど、市ノ瀬は大丈夫なのだろうか。

 

「こっちは問題ないよ。それより市ノ瀬の方こそ大丈夫のか? 敵同士と練習しちゃっても。後でやりにくくならないか?」

「大丈夫ですよ。佐藤院さんにも連絡をとったら、せっかくの機会だから、言ってこいとまで言われてしまいました」

 

市ノ瀬は照れながらも、笑いながらそう口にした。

佐藤院さんの許可が出ているなら問題はないだろうし、本人も大丈夫そうだ。

 

「それじゃあ一緒に練習しよう。ちょうど今、グラシュのバランサーをカットして飛ぶ練習をしようとしていたところなんだ」

「グラシュのバランサーを? それって大丈夫なんですか・・・?」

 

そう言っている市ノ瀬は、かなり不安そうだ。

 

「危険に関しては大丈夫。各務先生や白瀬さんもいるから、もしもの時はすぐに対応できるし、無理ならやらなくてもいいよ?」

「いえ、せっかくのお誘いですし、少しくらいはやってみようと思います。それじゃあ私着替えてきますね」

 

市ノ瀬は張り切った様子で着替えに行った。

 

「きゃああああ!!」

 

後ろから真白のものと思われる悲鳴が聞こえたので、慌てて振り向いた。

 

「腕と足を広げて! 大の字をとって!」

「は、はあいい!」

 

真白は俺の言ったとおりに、回転に逆らって大の字の姿勢をとった。

 

「そのままゆっくりと腰を地面に着けて、そしたらすぐに電源を切って」

「・・・はあ、なんとか止まった・・・・・・」

「いったいどれくらい切ったんだ?」

「えっと・・・は、半分・・・です」

 

そう言って真白はグラシュのバランサーの調整を白瀬さんに聞きながら、調整し始めた。

あとは白瀬さんに任せ、俺はみさきと明日香の様子を見に、グラシュを起動してブイの方を見に行った。

 

「こ、これはなかなか・・・この子を初めて使った時の事を思い出すにゃ・・・うわっ! ・・・と」

 

みさきは少し危なげな様子で飛行している。

だがそれでも、一応普通に飛行できている。

どれくらいカットしたのだろうか。

 

「ま、晶也さん、見てください! どうです・・・か!」

 

明日香はみさきよりも慣れているような様子だった。

みさきよりも少なくカットしたのか、ほとんどいつも通りだった。

みさきのことだから、負けじと明日香よりも多くカットしたんだろう。

 

「二人共どのくらいカットしたんだ?」

 

「私は十三パーセントかな」

「私は半分です!」

「は、半分?!」

 

驚いた。

みさきよりも明日香のほうが多くカットしていた。

てっきりみさきの方が多いとばかり思ってた。

 

「じゃあ私だって! 次は半分までカットする!」

 

そう言ってみさきは一度地面に降り、グラシュを調整しだす。

 

「明日香、本当に大丈夫なのか?」

「はい! 少しぎこちないですけど・・・問題はないです・・・・・・たぶん」

 

「ま、晶也!!」

 

下からやたらと歯を食いしばっているみさきの声が聞こえ、俺は見下ろした。

 

「これ、これなら! どう!」

「わかった! わかったから止めるんだ!」

 

みさきの足はガクガク震えていて、今にも制御を失い、暴走しそうだった。

 

「ふぐうううう!」

 

みきは少しずつ上昇して俺のいるところまで来る。

 

「明日香、これで試合しよう!」

「無理だ」

「いや!」

 

みさきはきっと、負けたくないのだろう。

やっと同じ場所に、近い場所まできたのに、ここで引き離されるわけには行かない。

自分だって散々努力してここまで来た。

そんな思いを、俺も以前感じたことがあるからわかる。

今のみさきの目は、そんな目をしている。

 

「わかった・・・」

「やっ―――」

「ただし、三十パーセントまで落としてだ」

「・・・・・・わかった」

 

 

 

 

「それでは、これから倉科明日香対鳶沢みさきの試合を始める」

 

白瀬さんが審判のもと、二人はファーストブイに並んだ。

 

「よろしくお願いします! みさきちゃん!」

「よ、よろしく明日香。絶対に勝つからね」

「私だって、負けません!」

 

今回のセコンドは、みさきが俺、明日香は各務先生だ。

 

「―――セット!」

 

ホイッスルを合図に、二人は飛び込んでいく。

 

「うにゃああああああああ!!」

 

当然だが、みさきは最初から全身全霊で飛び出した。

 

「行きます!」

 

明日香も、オールラウンダーとは思えない初速で飛び出し、みさきを追い抜く。

 

『みさき、ショートカット!』

「っ、うん!」

 

みさきは少し辛そうに体をセカンドラインに向け、飛んでいく。

 

「ポイント明日香ちゃん。1対0」

 

通常通り、明日香はポイントを取り、その反動でセカンドラインに飛び出した。

 

『来るぞみさき!』

「行かせない!」

 

みさきは全神経を集中させて、明日香の動きを見る。

一方明日香は、まだ技を出すのは危険なのか、一直線でみさきに向かう。

 

「・・・えい!」

「え?」

 

瞬間だった。

明日香が消えた―――ように見えた。

だが実際は、みさきにぶつかる瞬間、降下体制に入った瞬間に二連続ソニックブーストをして、急加速した

 

「もう一回!」

 

さらに上昇の時もソニックブーストを使い、みさきをいとも簡単に抜いた。

みさきも俺も、そんな事態に呆気にとられ、遅れを出した。

 

『・・・っ! みさき、今すぐサードラインにショートカット! このままじゃ明日香の独走で終わるぞ!』

「わ、分かってる!」

 

みさきも全力で次のラインに移動した。

しかしまだ慣れきっていないみさきは、通常飛行で向かう。

さっきの明日香の動き、まさに超光速のローヨーヨーと言ったところだろうか。

 

「ポイント明日香ちゃん。2対0」

 

「各務先生。私、このまま勝ってもいいんでしょうか?」

『何だそんなことか。いいんだ倉科、手加減はいいそのまま続けろ』

「は、はい!」

 

そしてその後も、明日香の独走は続いた。

 

 

 

 

「ありがとうございました!」

 

全員がイリーナさん達二人に挨拶し、解散となった。

 

「さすが莉佳だね。私なんてまだ十パーセントしか無理なのに」

「そんなことないよ。真白だって同じ位の経験者だったら、きっと私よりもすごいよ!」

「乾さん、まあ見てくださいね!」

「うん。またくる」

 

みんな思い思い、今日の練習を思い返し、話している。

だがそんな中―――

 

「・・・みさき?」

 

一人で停留所で待つみさきを見かけた。

待っていたのは俺だと思うが、その表情は浮かない顔だ。

俺は停留所に着くと、みさきに飛びながら話を聞くと言って、帰路にたった。

 

「・・・どうした? また逃げたくなったか?」

 

こんな事をいきなり面と向かって言えるのも、俺とみさきの今の関係があってこそだ。

 

「・・・少し、そう思ったかも・・・」

 

またみさきも、俺には本当に、正直に言ってくれる。

 

「そうか・・・逃げたい・・・か」

 

その気持ちはわからなくはない。

俺も同じ状況なら、きっとそう思う。

今日の明日香との試合は、あの後みさきが無理にソニックブーストを使おうとした結果、制御に失敗し、中止になった。

さらに得点は15対0という悲痛な結果となった。

 

「私、がんばったきたのに・・・また離された。せっかく近づいたと思ったのに・・・・・・」

「ならその倍練習すればいいだけだ」

「晶也は、私を、また届けてくれる?」

 

みさきは珍しく、不安な様子で俺を見て言った。

 

「どうしてそんな不安そうなんだ?」

「だって今年は晶也も大会に出るわけだし。でるなら当然優勝狙うでしょ? だから敵になる相手をとことん強くするなんてことするのかなって・・・それに晶也だって練習しないといけないでしょ?」

「忘れてないか? 俺はコーチだぞ? それにみんなが強くなってくれた方が、試合も楽しいだろ?」

 

みさきはしばしの沈黙のあとに―――

 

「それじゃあ晶也。今年も私を、届けてくれる? ううん、届けて、昌也!」

「ああ、まかせとけ。今年もしっかり届けるから」

 

今年は去年とは違う。

俺はみさきの力になれる。

去年は指をくわえて覆面選手や部長との特訓を見てたけど、今年は俺が、みさきの本当の意味で力になるときだ。

 

「そうとなったら、明日から練習だ!」

「うん!」

 

練習と言っても、みんなも一緒だから、去年のようにはいかないけど、それでもみさきとは全力で向き合うつもりだ。

 




お久しぶりです!
いつも楽しんで読んでくださっている皆様、誠にありがとうございます!
みさきルートだけで、ほかのルートはまだプレイのため、「ここはこんなんじゃない」「え?なんで?」となるようなことあるかもしれませんが、ご了承ください。
また、「そんな動き無理だろ」「おいおい・・・」といった飛行などをする場合があるかもしれません。
その時は優しく指摘してくださると、とても為になります!
今後とも、よろしくお願いします。


※大事なお知らせ。
今週からリアルで学校が始まり、就職の年となるため、大幅に投稿がおくれ、手付かずの月があるかもしれません。
読者の皆様には、私事でご迷惑をおかけしますが、ご理解の元、何卒よろしくお願いします。

みなさんのコメント、すごく嬉しく、やる気が満ち溢れてきます!




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