せっかくのGWなので、この時間を有効に使って、「一話でも!」と思い、なんとか仕上げることができました。
波乱の朝を迎えた俺とみさきは、あのあとはなんとも言い難い空気の中、部室に向かった。
「早いな明日香。もう来てたんだな」
「はい! 早く乾さんみたいに飛べるようになりたいです!」
俺達が来た時間も、そこそこ集合時間よりも早いが、明日香はすでに着替えていて、一人でフィールドフライを始めていた。
「晶也! 私もすぐ飛ぶ!」
明日香の張り切りようを見て、隣にいるみさきは負けたくないと目で訴えかけながら俺と視線を合わせたあとに着替えに行った。
―――それから過ぐに真白や窓果も集合し、今日の練習が始まった。
「真白と明日香はもっと力を抜いて。みさきはもっと考えるんだ」
部活中はバランサーのカットは控えめにして、みんなの練習に集中している。
みんな相変わらずといったところだ。
「みさきの負けず嫌いは相変わらずだね」
「そうだな。でもだからみさきはもっと強くなると思う」
部室から出てきた窓果が、みさきと明日香を見て言った。
窓果の手にはみんなの今の状態などを記したものを持っている。
「真白は今どのくらいだ?」
正直、真白の進行状態はあまりよくない。
さらに言うと、このバランサーの練習を、無理をしてやる必要もない。
大会にでる選手全員がそれをするわけでもないし、並の選手では到底できない。
だから今からでも遅くないから、いつも通り基礎をみっちりやっていった方が、上達するのかもしれない。
「・・・・・・真白、ちょっといいか?」
「え? あ、はい。わかりました」
みさきと明日香のはるか後方を飛んでいた真白が、俺のいるところに降りてきた。
「この練習、やめるか?」
本来、選手に向かってここまではっきり言っていいものかと考えたが、この言葉が一番だと、そう思った。
「なんでですか? 私の上達が遅いからですか?」
案の定、真白は不満たっぷりの表情で、俺に訴えかけてきた。
「そうじゃないんだ・・・・・・いいや、それもそうなんだけど、別に大会に出る選手全員が同じことをしてくるわけじゃないし、真白にはまだ来年がある。ここで焦って、このままこの練習を続けて結果を出せなかったら悔しいだろ?」
「・・・・・・はい、それは、確かに悔しいです。経験豊富で腕はよくても、それに見合った装備をしていないで結果的にボスを倒せないって感じでしょうか」
真白は得意のゲームに例えて、状況を理解した様子だ。
「わかりました。晶也先輩がそこまで言うなら従います」
「・・・悪いな」
「いえ。これが現実なんですから、仕方ないですよ」
俺は真白に逆に励まされた。
「でも、今慣れてるとこまでだったら試合でも使えるから、真白の強みになるな」
「はい! 私の新しい必殺技です!」
真白はガッツポーズをして喜んでいた。
「よし!午後からは新しく真白ようにメニューを考えてあるから、頼むぞ!」
「任せてください!」
俺は飛んでいる二人にもマイクで連絡を取り、昼食にしようと言った。
昼食は真白の持ってきた真白うどんのあご出汁漬けうどんだった。
「うへ~お腹がいっぱいにゃ~」
みさきは敷いてあるブルーシートの上に寝ころび、満足している様子だ。
「あんなに食べて大丈夫か? まだ練習するんだぞ」
「ええーまだ練習するの? 私そろそろ他の方法を試したい」
最近真面目に練習していたみさきが、久しぶりに駄々をこねた。
俺はそんなみさきの隣に座り、声をかける。
「あと四日なんだぞ。大会前の三日間は休みにするから、今追い込んでかないとまずいぞ?」
「ええー、もうそんな? 私はまだまだ大丈夫かと思ったのにな」
みさきは寝ころんで、空を見ながら少し残念そうな顔をしながら言う。
今みさきの見上げている空には、明日香と真白が飛んでいる。
真白をさらに強化するため、オールラウンダーの明日香を使ってでの、対スピーダー戦を想定した試合をしている。
「明日香・・・またうまくなってる」
「怖いな・・・」
「え・・・・・・うん、怖い」
明日香はきっと決勝に行く。
もしも俺かみさきが決勝かそれまでにあたったら、勝てる気はしない。
負けるのが怖い。
あの時のような感情にならないか、たまに自分が怖くなる。
まだあのドロドロとした感情はある。でも飛べる。
「俺とみさき。戦ったらどっちが勝つと思う?」
「それはとうぜん私だよ~」
みさきは即答で気の抜けた声で答える。
とそこで、窓果の「ぷおおぉぉおおん!」という口真似の声が聞こえ、二人の試合は終わったようだ。
「・・・終わったみたいだな。みさき、次を頼む。ブイは二つで対ファイター戦を想定した練習をするから」
「はーい~」
みさきはゆらゆらと立ち上がり、フラフラと飛んでいく。
その後ろ姿を見ていると、ついつい心配になってしまう。
俺も指示を出すため、立ち上がって真下に向かう。
すると窓果のやたらノリノリの掛け声と主に先ほどと同じ口真似をし試合が開始した。
「行きますよ、みさきセンパイ!」
真白はすでに真ん中で待機していたみさきの元に全力で飛んでいく。
『みさき、ローヨーヨーの対処、覚えてるよな?』
最近はバランサーの練習ばかりでなかなか模擬試合ができていなかったため、冗談も交えてみさきに聞く。
「言われなくても・・・大丈夫っ!」
みさきは真白の頭を抑え、下に弾く。
「さあさあ真白。私から一点でも取ったらご褒美あげる~!」
「にゃーーー!! ほんとですか!」
真白はみさきの誘いにまんまと乗り、ドッグファイトが始まる。
まあ、これがしたかったからいいのだけど、やる気の原因は・・・まあいつも通りかな。
「いただきます!」
「・・・・・・え?」
みさきは油断していたんか、真白に後ろを取られた。
しかし流石みさきが、体を咄嗟に翻し真白の手の照準を背中から前に変えた。
「もう少しだったのに!」
真白はかなりくやしそそうだ。
「・・・やるわね真白!」
みさきはそれまで本気でやってなかったのか、そのあとは一歩的にポイントを取って試合は終わった。
「ダメです! 勝てません!」
真白は地面に四つん這いになり、ガクリと項垂れている。
あのあとなんども試合を繰り返したが、みさきの圧勝だった。
「私、ダメでしょうか」
「いや真白、それは違う。みさきや明日香が普通より強いんだ、真白は十分なほどに強いぞ。たぶん並大抵の選手なら普通に勝てるんじゃないか?」
「ちょっと晶也! それってまるで私と明日香が普通じゃないみたいじゃない!」
「そうです! みさきセンパイは普通の人間です!」
真白にフォローを入れたつもりだったが、本人までそっちに加勢されてしまった。
「違うよ真白。私は人類犬科だよ」
「あれ、みさきセンパイは人類猫科じゃないですか?」
「そうなの。私去年気づいたんだ、自分は人類猫科じゃなくて、人類犬科なんだって」
みさきと真白の会話に軽くツッコミをいれて、話をもどす。
「さっきも言ったけど、みさきと明日香は並大抵の選手じゃない。もちろん乾や真藤さんもそれに入る。・・・ある意味では部長だってそうだ」
「それ言われても、あんまり自信わかないです」
「だよねー。晶也の気遣いとかフォローって、なんかたまに逆効果になるんだよねー」
真白の言葉にみさきがさらに付け加える。
真白には自信を持って欲しかったが、ダメだったみたいだ。
俺のアドバイスは、そんなにいけないのだろうか。
「まあつまり、真白も十分すぎるほど強い選手だってことだ。・・・・・・明日香、今日の練習は終わりにするから、降りてきてくれ今後の連絡をするから」
『はい! わかりました』
みさきと真白が試合をしているあいだ、一人隅っこでひたすら飛んでいた明日香に連絡を入れた。
「・・・・・・よし、みんな集まったな―――」
俺はみんなが集合したのを確認して、今後の予定を伝える。
「―――明日から大会の日までは練習は休み。みんな心身共に万全の状態にしておくように。特に明日香は飛ばないように」
以前飛ぶのを控えるように部員全員に言ったが、みさきは俺に止められ、明日香は飛んでいるところを目撃されてしまった。
「それじゃあ解散」
俺は一言そう告げて、みさきと停留所にやってきた。
今となっては、みさきを家まで送っていくのは日課になりつつある。
「フライ」
「飛ぶにゃん」
グラシュの機動キーを言って夕焼け空に飛んだ。
そしていつもならこのままみさきを家まで送り届け、別れるのだが今日は違う。
「み、みさき? 今日なんだけどさ。うちの家の人みんな出かけて五日くらい帰ってこないんだよ。来るか?」
「え・・・・・・うえぇぇえぇええ!?」
隣を飛んでいるみさきが、顔を真っ赤にして絶叫した。
「ま、まま晶也からの家に・・・晶也に誘われて、晶也の家の人がいなくて、夜は二人っきり・・・イチャイチャする・・・そして・・・・・・」
「待ってくれ! それ以上は言うな!」
「だ、だだだってつまりは大人の階段を遥か上の方まで登っちゃうんでしょ!? 上り詰めるんでしょ?」
みさきは半ば吹っ切れたやけくそな感じで、恥ずかしさを押し殺して大声で言った。
幸い周りには誰もいない。
「しないから! そんなことしない!」
「しないはしないで、女子としては嫌だにゃ~」
みさきはいつも通りの茶化すような口調で俺に言う。
どっちなんだ。
「と、とりあえずどうするんだ?」
「・・・・・・行こうかな」
少し考えたのか、それとも言うのが恥ずかしかったのか。
みさきは一瞬間を空けてから、俺に答えを出した。
それから着替えなどを取りに、みさきの家に一度立ち寄り、俺に家に招いた。
「ここが晶也の家。なんだか今年で三年も一緒にいるのに、一回も家に中に入ったことなかったな~」
玄関に入ると、みさきは立ち止まり、家を見渡す。
「とりあえず夕飯にしよう。ほら入ってくれ」
玄関で止まっているみさきを、リビングに招いて、途中買ってきた食材をテーブルに置いた。
「じゃあ私が作るから、晶也はゆっくりしてて」
みさきは持ってきたエプロンの腰の紐をキュッと結ぶ。
「髪、結ぶんだな」
「あれ、見たことなかったかっけ?」
みさきは腰まである長い髪を後ろでまとめ、髪留めで一つにまとめた。
ポニーテールと言うやつだ。
「ないよ。珍しいと思って」
「じゃあ。どお? 似合う?」
「十分すぎるほどにな」
俺に褒められると、みさきは嬉しそうに夕飯を作りに行った。
夕飯を待っている間、本当に暇になり、俺はしばらくテレビを見たあとに、みさきの荷物などを自分の部屋に運ぶことにした。
「・・・・・・よし、これでいいな」
俺は階段を上りきり、机の横にみさきの荷物を置いた。
「さて、風呂でも入るか」
やることがなくなり、練習で流した汗を落とすために、風呂に行こうとした時だった。
「うおぉっと・・・・・・!」
みさきの荷物の取っ手に足が引っかかり、コケそうになった。
「やっちゃったか」
荷物は無事かと後ろを見ると、案の定カバンがひっくり返っていた。
「・・・・・・ん・・・これは・・・・・・」
カバンを元に戻し、こぼれた荷物を戻していると、靴下サイズの薄い布地を手にとった。
―――人はなぜだろう。わざわざ広げなくてもいいのに、こういう時に限って、余計なものに余計なことをしてしまう。
俺はその布を広げ、見た。
しっかりと。
ピンクのそれを・・・。
「なっ・・・・・・!!」
俺は何もなかったかのように、それをかばんにしまった。
そしてまた、何もなかったかのようにみさきに一言言って、風呂に入った。
「晶也、夕飯でいたよ」
みさきがお風呂のドア越しに伝えてくる。
俺は一言返事を返して、すぐに風呂を出て着替えてからリビングへと向かった。
「・・・うどん?」
「そう!うどん!」
みさきが元気に返してくれた。
「でもでも。一工夫してあるから、おいしいよ!」
「そうなのか? じゃあとりあえず夕飯を食べるか」
俺とみさきは席に着き、いただきますと一言言ってから、まずは一口。
ちなみにうどんはざるうどんだ。
「この味、あご出汁?」
「さっすが晶也だね! そうだよ、あご出汁を使ってるのあとはそこにエビの出汁を取って、混ぜてる」
みさきに作った料理を食べたのは、今回が初めてだが、これはなんとも、商品化してもいいレベルだ。
―――そのあとは他愛もない会話を続けて、夕食は終わった。
場所は俺の部屋になる。
夕飯のあとは、みさきも入浴を済ませ、今は部屋で会話しているところだ。
「―――でね、真白が~」
話題は今日の練習で、真白との試合についてだった。
「みさきはほんとに真白のことがすきなんだな」
「なに~、もしかして昌也妬いてるの?」
「そんなに仲がいいと少しな」
同性であっても、彼女があまりにも仲がいいと、嫉妬、とまではいかないけど、少しくらい妬く。
でもそれをはっきり言うのが気恥ずかしくて、少し声が小さくなってしまった。
「へえー、晶也も妬いたりするんだね」
「当たり前だろ?」
みさきは意外そうな顔で言ってきたので、半眼で言い返した。
「じゃあ私が他の男子といたら、すごいことになるわけだ」
「じゃあ逆に、普段のみさきを見る限り、俺が他の女子といたらものすごいことになるわけだ」
「なる! 絶対なる! その子にもの凄いことして、晶也に二度と近寄りたくなくなるようなことをする自分が想像できた!」
みさきは少し慌てたように言う。
「二度と近寄りたくなくなって、何するんだよ」
「そりゃ・・・口では言えないことだよ~」
口で言えないことって、何をする気なんだよ。
―――俺がみさきとそんな会話をしていると、窓がコンコンッと数回叩かれた。
叩かれた意味と人物は分かっているので、カーテンを開け、窓を開ける。
「市ノ瀬か、こんばんわ。どうかしたのか?」
窓を開けると、予想通りそこには市ノ瀬がいた。
「いえ、そんな急で話すような話ではないのですが、眠ろうとしたらなかなか眠れなくて、そうしたら日向さんの部屋の電気がまだついていて、もしかしたらまだ起きていて、話し相手になってるくれるかなって思ったので・・・・・・もしかしてもう寝るところでしたか?」
「いや、まだ大丈夫だよ」
市ノ瀬とは家が隣だったり、一時期一緒に練習したりとした時期もあったため、たまにこうして眠れない時はお互いに他愛もない会話をして気を紛らしていた。
「あれ、市ノ瀬ちゃん! こんばんわ、ほんとに隣同士なんだね―」
後ろから、ベットに座っていたみさきが、ひょこっと顔を出す。
「えっ。鳶沢さん!?」
それをみた市ノ瀬は、見てはいけない場面を見てしまったかのような顔をする。
「あ、今日はみさきが泊りに来てるんだ」
「そうなの。私とうとう、今夜晶也においしく頂かれちゃうの」
そんな市ノ瀬に、みさきが意味ありげな表情と、モジモジした仕草と共に、頬を赤く染める。
「え・・・あ。えっ・・・おひしふ・・・」
市ノ瀬は顔を真っ赤にして、動揺している。
「違うんだ! 別にそんな変な意味じゃ・・・」
「ええ? だって晶也いったじゃない。今日は俺に家に来ないか? って!」
「言った。行ったけどそんな風には言ってない!」
さらに誤解の生まれそうな言い回しをするみさきに、俺は突っ込んだが、さらに市ノ瀬の顔が赤くなる。
「わ、私! お二人の大事な時間を邪魔してしまい・・・その、すみません!!」
そういって市ノ瀬は窓を勢いよく閉め、同時にすごい速さでカーテンを閉めて電気を消した。
「・・・あ・・・・・・」
完全に誤解されてしまった俺は、なんて口にしたらいいのかわからず、少しの間その場で固まった。
「晶也ー、大丈夫?」
「大丈夫じゃない! なんであんな誤解の生まれるような言い方をしたんだよ」
「だって、晶也はよく市ノ瀬ちゃんとああして話してるんでしょ?」
つまりこの反応は、妬いているということだろうか。
「そうだけど、別に普通のことじゃないのか?」
「よくない! もしも私の知らないところで、市ノ瀬ちゃんに晶也を口説かれたら、私きっと病む! ヤンデレになってまで晶也を手に入れる!」
みさきの言葉は、少し本気っぽかった。
「わかった。だから落ち着いてくれ」
「じゃあ・・・いいけど」
そういって、俺の方に乗り出してうた身を戻す。
「俺達もそろそろ寝よう。明日に支障をきたすしな」
「明日って練習無いんだよね? じゃあイチャイチャしようよー」
「それはどうかな。・・・まあ明日になってからのお楽しみだ」
そう言って布団に入った。
俺がベットで、みさきは敷布団だ。
―――もう少しで熟睡できそうなところで、隣に何かが入ってくる感じがする。
この部屋に二人しかいないから、予想は過ぎについた。
「みさき、何してるんだ?」
「だって、、寂しいんだもん」
みさきは誤魔化すようにそういう。
「でも熱いだろ」
「んー・・・じゃあこうしよう」
みさきは布団から手を出すと、机の上にあったエアコンの電源をつけた。
「これならいいでしょ?」
「・・・・・・今日だけな。あんまりエアコンの聞いた部屋で寝ると、体壊すからな」
「了解にゃー・・・んっ」
みさきは俺に方に身体を向けると、目を閉じて、ソレをされるのを待った。
「眠れなくなるなよ?」
「・・・大丈夫」
俺はみさきに、一瞬だけ触れるキスをした。
「っ・・・ありがと。おやすみ、晶也」
「おやすみ」
こうして、波乱のみさきとのちょっとした同居生活の一夜目は終わった。
次回も投稿日は不明ですが、頑張ります!