今週中になんとか仕上げられました。
「ふにゃあああああああ!!」
「もっと背筋伸ばして!」
「やってる!」
今日の練習も朝からを予定していたが、昨日あの後に夜更かししてしまったことで、起きたのは俺もみさきも昼過ぎだった。
今日は予定よりも早いが、飛行練習に移ることにした。
隣では俺も一緒に飛び、一応ヘッドセットをつけ、隣にいながら直接アドバイスをすることにした。
「あーもー! 明日香も真白も今頃遊んでるのにー!」
「少なくとも明日香は飛んでるだろうな。絶対」
今までの行動から察するに、きっと家の近くとかで飛んでいるだろう。
あまり勧めたくはないが、探し出して無理に止めるのは、逆効果だと思うから、止めるのはやめておこう。
「―――もっと安定して飛ぶんだ」
「やってるって!」
そういってみさきは、スピードを上げたり、何度も姿勢を直そうとするが、なかなか上手くいかず、かえってバランスを崩してしまう。
昨日の練習がかなり効いたらしく、バランサーを七十近くまでカットしても、飛んでいられる程度にはなった。
「昨日の練習がだいぶ役に立ったみたいだな」
「晶也のおかげだよ!」
しかしそんな不安も、
この調子でいけば、大会で誰とぶつかっても大丈夫なはずだ。
「よし、みさき。ハイヨーヨーいってみよう」
「うん!」
みさきは楽しそうに、言われたとおりに練習をこなしていく。
そんなみさきを見ていると、こっちもつい頬の力を緩めてしまう。
まるで自分のことのように思える。
こお感情はコーチとしてはだめだと思う。
だけど???
みさきが強くなることが、何よりもうれしい。
「次、エアキックターン!」
「はい!」
ハイヨーヨーを繰り返していたみさきが、俺に言われると同時、体をくるりと回し、両足をきれいに合わせて踏み込み文字通り空を蹴る。
そして勢いよく真上に、頭上に飛んだ。
みさきの通ったあとには、まるで流れ星のような、綺麗なきりもみ上のコントレイルが残っている。
「うにゃあああ!!」
みさきの頑張る声が聞こえる。
「みさきは、いいのか?」
「・・・・・・なにが?」
疲れたのか、少し間をあけてから返事が返ってきた。
「いや、あとで話すよ。一回降りてきてくれ」
一度練習はここまでにして、休憩を入れる。
このあとは助っ人に来てもらって、練習試合を一回するつもりだ。
―――みさきは地面に降りると、グラシュの電源を切る。
「それで。さっきの話の続きは?」
俺はみさきにドリンクを手渡し、近くの防波堤に座る。
―――俺が座ると、飲み物を飲みながら、みさきも隣に腰を下ろした。
「俺が大会にでるってことは、決勝、もしくはそれ以外、へたしたら一回戦で当たることになるかもしれないんだ。みさきはそれでも・・・・・・」
あとに続く言葉は言えなかった。
言ってしまうと、みさきのやる気を削いでしまいそうで、言えなかった。
「私はそんなこと気にされなくても、全力でバチバチしに行くよ! それが晶也でも・・・というか晶也だと俄然やる気出して試合する」
「俺は怖い。これだけ練習して、もしも簡単に他の選手に負けしまったら、また挫折しそうで。またあのドロドロとした感情に飲まれてしまいそうで・・・・・・」
「大丈夫! そんなことにならないように、こうして一緒に練習してるんだから」
みさきは俺の言葉を理解したうえで、今の言葉を全て否定するような表情と口調で強くそういった。
「どちらかと言うと、一方的に練習捨てるけどな。・・・・・・でもありがとな」
「まかせといて! 晶也にやられた倍の連練習を考えておくから! 私の練習量に死ぬがよい!」
「ぜ、善処します」
俺は苦笑いしながら返した。
―――休憩も一段落ついて、助っ人を待っている間に、俺とみさきは軽くフィールドフライをしてた時だった。
「あの! 遅れてしまい、申し訳ありません」
飛んでいる俺とみさきの隣に、市ノ瀬が飛んできた。
「別にいいよ。無理行って来てもらったのはこっちだし」
「あ、いえ、そんなことないですよ。いい勉強になりますし、こちらこそ!」
今日の練習試合の助っ人は、市ノ瀬だ。
誤解は一応、昨日の夜にメールで説明して、納得してもらった。
「ではこれより、練習試合を始めます。実際と違うのは、セコンドが俺一人で二人分やること、伝えるのは見失った時とアドバイスのみ。・・・・・・ではセット―――!」
俺の笛を合図に、二人はファーストラインを飛んでいく。
スピーダーの市ノ瀬はローヨーヨーでブイへ、みさきはセカンドラインへショートカットした。
・・・っとここまでは完ぺきにいつも通りの試合。
問題はここからだ。
みさきは今回、バランサーを六十パーセントまでしかカットしていない。
安全と確実性、それとスモー使用時の状態を見ておきたいからだ。
―――そうこうしているうちに、市ノ瀬がみさきと接触した。
みさきが市ノ瀬を抑えたのだ。
『二人とも、手加減はしなくていいからな。特にみさき、いいな?』
「そんなこと言われなくても、私はいつでも本気だよ!」
みさきは、向かってくる市ノ瀬に一直線に飛んでいく。
いつものみさきなら、絶対にやらない事だ。
きっとみさきの中で、何か考えがあるのだろう。
「―――行きます!」
向かってくるみさきを、市ノ瀬はシザーズでうまくかわす。
「まだ終わらない!」
みさきは体をクルリと回し、去年の秋大会以降に、明日香に教えてもらったエアキックターンを、さっそく使う。
しかしそれでは加速は足らない―――。
「ここを・・・こう・・・えいっ!」
みさきはまだまだ明日香ほどのスピードは出せないが、ソニックブーストでさらに加速する。
去年の秋から、今まで、みさきは幾多の技を覚え、苦手だったメンブレンの扱いも得意になりつつあった。
「っ!!」
だがみさきは、二つのメンブレンを使う技を上手く繋げたが、あと少しのところで追いつけず、途中でショートカット。
市ノ瀬はブイタッチで二点目を取る。
―――そしてその刹那、驚きの行動に出た。
「私だって。強くなってるんです!」
市ノ瀬はブイの反動を利用し、頭上に飛んだ。
明日香や乾さんと同じようなことをしてくるとは、思わなった。
「すごいね。まさかそれをやってくるなんて思わなかったよ。・・・でも市ノ瀬ちゃんなら。そんなにガードは甘くないはず!」
ヘッドセットから小さなみさきの声が聞こえ、みさきは上昇する。
「うりゃああ!」
みさきは右や左に小刻みに動きながら、フェイントをかけながら接近する。
「―――そこですっ!!」
「えっ!?」
見ていた俺に、みさきも驚きの声をあげる。
みさきの速さと寸前でのフェイントは、そう簡単に読めないはず。
市ノ瀬は、俺とみさきの知らないうちに、ここまで強くなっていたのか。
「じゃあこれ!」
弾かれ、海を背中にして降下していたみさきは、体勢を立て直し、コブラを使って急加速をする。
「きゃっ!」
まさかみさきがコブラを使ってくるとは思わなかった市ノ瀬は、みさきを止めきれず、後ろからタッチされ、今度は市ノ瀬が斜め下方向に強く弾かれた。
「いくにゃあああっ!」
みさきはそこからさらに、落ちていく市ノ瀬が体勢を立て直す前に、急降下してスイシーダをした。
「っ!!」
これでみさきが二点、市ノ瀬も二点、同点だ。
―――俺はヘッドセットで二人に今のみさきの得点が入ったのを試合さながらに言った。
そしてその後の展開は一歩的だった。
みさきは今までとは違い、スモーとメンブレンを使用した技を使い、特典を重ねて行った。
そして―――。
『そこまで!』
俺が笛を鳴らすと、二人は疲れ、ヘトヘトで降りてきた。
「鳶沢さん。やっぱり強すぎです・・・」
「そんなことない。市ノ瀬ちゃんだって、私を止めたじゃない! すごいことだよ!」
みさきは試合に負けた市ノ瀬を労っている。
「そうだ。市ノ瀬が一度みさきを止めたのは、そう簡単にできないことだ。去年に比べて市ノ瀬はすごい進化してると思う」
みさきに続き、俺はお世辞でも労いでもない、本当に感じたありのままを、コーチとして言った。
「市ノ瀬のいいとこは、個性がないところだし、逆にそれが弱い理由でもある。でもそれは、まだたくさんの可能性を秘めているわけでもある。だからもっといろんな技を練習して、ゆっくり自分の個性をつかめばいいさ」
「・・・はい!!」
市ノ瀬は元気に返事をし、ぺこりと一礼した。
「それと、今日は本当にありがとうございました! おかげさまで、また強くなれた気がします!」
もう一回ぺこりと頭を下げ、ささっと足って帰ってしまった。
日は沈みかけた夕暮れどき、俺の家からみさきが家から出てくるのを待っていた。
実はまだ日にちはあるんだが、みさきがこれ以上いたらイチャイチャしちゃって寝不足になりそうといったから、泊まり込みは今日までになった。
「おまたせ」
「本当に送らなくていいんだな?」
「もう。晶也は心配性だにゃ~。大丈夫だって、それじゃあ、大会の日に会おうね」
本来ならあと二日か一日は練習できたのだが、みさきの体力や練習成果をみたら、オーバーワークにならないのはここらへんだと思い、明日からはなしにした。
そして、お互いに会うのは大会の日にしようと約束した。
「そうだな。・・・・・・寝坊するなよ」
「はいはい。わかってるってば・・・・・・とぶにゃんっ」
みさきはその場でグラシュを起動して飛んだ。
「まったく、周りに誰もいないからいいけど・・・・・・」
「前にも言ったでしょ、私の停留所は晶也の隣。バイバイ」
そういって飛んでいってしまった。
その後部屋に戻ったが、なんだかいつも通りの部屋なのに、少し寂しく感じた。
最近は暑い日が続いていますね。
こんな時こそグラシュで空を飛んで生暖かい風を浴びてみたいですね!
次回は秋の大会に入ります。