嘘吐きというのは、どうにも悪人として認知されている。いや、確かに嘘は悪だ。悪でしかない。正義に対する悪。悪はつまりは悪いことで、悪い人間のことだ。誰かを騙すことをよしとしてはいけないのだろう。
少なくとも今、この世界――正義と正しさと善意と善行と信頼と信用の蔓延る、こんなクソ食らえな世界では、僕のような嘘吐きは当然のように排除される。
人間の全うなレールから弾き出されてしまう。つまみ出されてしまう。排除、排斥、消去、抹消。例えば、虐められ、両親から虐待を受け、挙句の果てに冤罪をでっち上げられ、テレビやネットなどで晒しあげられてしまったこんな僕は、邪魔者でしかないのだろう。
だけど、と思う。思想の自由くらいは、どうやらこの国も保証してくれているらしい。今のところ。その内、ディストピアのようになっているのかもしれない。その兆候は今も確実に、教育やら情報媒体やら世界そのものの動きから感じ取ることが出来る。だから、とりあえず僕は願う。全ての自由を甘受できる内に死んでしまいたいと。しかし、僕には残念ながら自殺する勇気なんて持ち合わせていない。だから、僕は僕を殺す為に罪を犯すことにしたのだ。元より僕は犯罪者として社会に認識され警察からもマークされているのだ。ならば一度罪を犯せば普通よりも更に重い罪を擦り付けられるのだろう。正義の名の下に死刑宣告を受けるのだおる。自らが作り上げた犯罪者を裁く気分はどうなのだろうと、判決の時には聞いてやりたいな。まぁ、叶わないのだろうけど。
「――この辺りで、連続殺人、ですか? ……そうなんですか、僕はあまり外と関われないので知らなかったです。……もう四人も殺されているんですか? ……ええ、怖いです。でも、僕はその時間ずっと眠っていましたし、アリバイもありますよ。はい」
罪を犯してとは死刑を目指すとはいえ、簡単に捕まってしまっては死刑にならない可能性もある。だから僕は多くの人間を殺すことにした。
人殺し。同種殺しという、理性と知性を持つ人間という生物においては禁忌らしい、ごく普通の自然の摂理を僕は全うすることにした。
目標は六人。つまり、残り二人。今日が最後。殺して自首して裁判を受けて死刑判決を受けて、そうして死ぬ。国を社会を全てを巻き込んだ盛大な自殺だ。電車に潰されて死ぬよりももっともっと、僕を邪魔者扱いしたこの世界に迷惑を掛けて死んでやる。快楽目的で殺したとなれば、まぁ、とりあえず死刑はなるのだろう。あんまりよく分かんないけど、サイコパスみたいな扱いで死刑判決を受けるのだろう。ヤワな僕のことだから、獄中で病気になって死ぬ確率の方が高いのだろうけど、それはそれで僕らしい惨めさ極まる死に方でいいと思うし。
とはいえ、やはり手当たり次第、目についた相手を殺すという訳には行かない。考えて殺さなければ僕はすぐに捕まってしまう。
これまでもそうだ。
一人目は昔、最後まで僕を信じてくれていたあの女の子。そっと静かに誰にもバレない方法で呼び出して、最後まで「嘘だよね」と抵抗を見せなかった彼女。「嘘だよ」と邪悪に笑って殺してしまえば彼女は「そっか」と笑って死んでいった。ああ、とてもとても大好きだった。
二人目は、虐められていた僕を守ってくれたあの男の子。「冗談だろ?」と必死に抵抗を見せたけれど、ナイフを一刺しすれば諦めて殺されてくれた。僕は何も言わなかったけれど伝わったのかもしれない。そういえば鉄は熱伝導率が高いのだったっけ、ならば熱意でも伝わったのだろうか。まぁ、いいか、僕は勉強なんて虐められて出来なかったし、彼も理科は苦手だった。代わりに国語は得意だったな、特に登場人部の心を読み解くのが。ああ、僕は彼のその頭の良さが本当に大好きだった。
三人目は僕の無実を晴らそうとしてくれたあの記者さんかな。久しぶりに電話して、ちょっとバレにくいお薬を使えば簡単に死んでくれた。もがき苦しみながら僕は「あの犯罪ね、実は僕がやったんだ」って嘘を吐くと、「嘘を吐かないで」って言ってくれたっけ。最後まで僕のことを理解しようとしてくれたのは彼女だけだった。綺麗で正義感に溢れる人で、僕はその正義感に惹かれてしまったのかもしれない。僕は彼女のことが大好きだった。
四人目は、僕がいなくなってから虐められ虐待を受けるようになった僕の妹。彼女も僕と同じ気持ちだったみたいで、何も抵抗せずに死んでくれた。あの死体は、とても綺麗だったなぁ。今でも思い出せば、心の底から震えてしまうくらいに美しかった。実の妹とはいえ、本当に僕は彼女が大好きだった。
この世界のほとんどは嘘で、僕はその嘘に騙され、僕自身も嘘によって嘘の世界に殺されることを願ったような、嘘塗れの僕だけれども。
――彼ら四人へ向けた愛だけは、本物だった。
だから僕はちゃんとノートにみんなへの思いを書いてある。捕まればそんなものも証拠となって、罪は重くなるのかな。
そして最後、僕は最愛の人を殺す為に向かう。
「……久しぶり、お父さんにお母さん」
目隠しに後ろ手に手錠。ガムテープで口を塞ぎ、足もガムテープでぐるぐる巻きにして身動きを取れなくしておいた。
「お父さん、お母さん。二人は、僕を虐待したよね。痛かったんだよ。血も出た。痣も出来た。そのせいで苛められるようになった。お風呂にも入れてくれないから、「臭い」、「汚い」、「近寄るな」なんて言われたよ。家で殴られて蹴られて、学校じゃ何されたっけ。裸にされて写真取られて、自慰もさせられて、ゴミを食わされて、犬の真似なんてさせられて、その上で気持ち悪いって蹴りまくられたんだっけな。あはははは、むちゃくちゃだよ、何してもダメだなんて、僕にはどうしようもないよ。でもね、それでもね、僕はお父さんとお母さんが大好きなんだ。大好きなんだ。だからね、お父さんにお母さん。僕の為に死んでよ。僕に殺されてよ。妹もそう言っていたよ。見えないだろうけどね、ここに妹の髪の毛があるんだ。んぅ……、ああいい匂いだ。大好きな妹の匂いで、大好きなお父さんとお母さんの子供の匂いだ。ああ、あははは、あはははは、はははははははははっ!!!」
刺す。刺す。刺す、刺す、刺す、刺す、刺す。血が飛ぶ、血飛沫が顔に掛かる。ああ、大好きなお父さんとお母さんの血。涙が出るくらいに嬉しい。お父さんが、お母さんが、僕の為に死んでくれるなんて!
「はぁ、はぁ、ははははっ! あははははっ! やった、これで僕も、僕の大好きなみんなの下へ行くことが出来る」
さぁ、これで死刑だ。僕は死ねるんだ。
「……あれ? あはは、なんだ、そうだ、そうだった。別に死刑になんてならなくたっていいんだ。だってここに死ぬ為の道具があるんだもの」
怖いなんて感情はもうどこにもなかった。人を殺せば人は人でなく鳴るというけれど、人扱いされていない僕は初めから人ではなかった。人であると見えを張っていただけらしい。
一刺し。
「ああ、痛いよぉ。痛い、痛いよぉ……」
痛い。痛くて痛くてたまらない。転がり回る。嫌な箇所に当たって血が更に滲む。ああ、意識が掠れる。
「お父さん、お母さん。大好きなんだ。大好きなのに、どうして僕をイジメたの……? どう、し、て、なの……?」
その亡骸は、肉塊となった男女の間で、幸せそうに眠っていた。
これまで、一度も見せなかったとても幸せそうな表情でいた。
少年の言葉は全て自我崩壊を防ぐ為に吐いた「嘘」で、ただただ少年は友達に家族に愛を求めていた。しかし、誰も、誰一人としてそんなことを言う人間はいない。少年を庇う人間はもう既にこの世にはいない。
少年はただの殺人者として、狂った人間として、サイコパスとして、時折語られるだけである。
深夜テンションと悪ノリが過ぎました。反省はしてません。