この爆裂娘に親友を!   作:刃こぼれした日本刀

15 / 17
 誤字報告をしてくれた方、本当にありがとうございます。前話だけでなく、昔の話まで修正して下さり、本当に助かりました。
 前半と後半はカズマさん視点、その間がルミカ視点です。


この勇ましい女神と出陣を!

■■■カズマ視点■■■

 

「知ってるか? 噂じゃ魔王軍の幹部の一人が、この街から少し上った丘にある、古城を乗っ取ったらしいぜ」

 

 ギルドに併設された酒場の一角で、俺は別のパーティのやつから話を聞いていた。酒場に入り浸る冒険者たちからは、いろいろと役立つ話が聞けるのだ。

 

 転生してから生活費を稼ぐのに精一杯で、情報収集をする暇もなかった。酒場での情報収集とか、いかにもゲームっぽくて心が踊る。

 

「魔王の幹部がこんなところに何しに来たんだか」

 

「物騒な話だな、まあ俺らには関わりのない話だろうよ」

 

 俺たちは二人で笑い合う。

 

 ひとしきり笑い終えた冒険者は、真剣な顔で言った。

 

「まあ、あれだ。とにかく街の北の外れにある廃城には近づかない方がいい。どんなやつだか知らないが、魔王の幹部なんざ俺らが出会えば瞬殺の化物だ。興味本位で廃城近くに行かないように、お前のところの紅魔族をしっかり見といた方がいい。特にルミカのやつは……危うい部分があるからな」

 

 ルミカをパーティに入れてから、いろんな人に心配される機会が増えた。

 

 ギルドのやつらに愛されているのか、やらかしを心配されているのか……とにかくルミカの動向には気をつけておくとしよう。

 

 男に礼を言って席を立ち、俺が自分たちのパーティのテーブルへと向かうと……。

 

「けっこう重要な情報が手に入ったぞって……どうした? 俺の顔なんかじっと見て」

 

 パーティメンバーたちがテーブルに置いた、コップに刺した野菜スティックをつまみながら、俺を見つめてくる。

 

「別にー? カズマが、別のパーティに入ったらどうしようなんて、思ってないし」

 

 そう言いながらも、アクアは少し不安そうな目でちらちら見てくる。

 

(見捨てないでお兄ちゃんっ! アクアとダクネスは無理、私の力ではめぐみんを養うのが限界なの)

 

 俺にしか分からない角度で、ルミカがそんなメモを見せてきた……こいつ、めぐみんのことが好きすぎるだろ。

 

「情報収集は基本だろ?」

 

 アクアの発言を適当に流しつつテーブル席に座り、俺も食べようと野菜スティックに手を伸ばす。

 

 クイッ。

 

 俺の伸ばした手から逃げるように、野菜スティックが動いた……この野郎。

 

「何遊んでるのよカズマ。野菜ってのはこう食べるのよ」

 

 アクアがテーブルを叩くと、野菜スティックが驚いたかのように跳ねた。

 

 一瞬硬直した野菜スティックを、アクアが一本つまんでかじり出す。

 

 ……おい、ちょっと待て。

 

「……むう。何ですかカズマ。何なのですかカズマ。楽しそうに他のパーティの人と盛り上がったりして」

 

 めぐみんもテーブルをドンと叩き、怯ませた野菜スティックをぽりぽりとやり始める。

 

 やっぱあれなのか? 野菜スティックの食べ方って、ビビらせるのが常識なのか?

 

「胸がもやもやする……何だこの新感覚は? まさか、これが噂の寝取られ?」

 

 コップのフチを指で弾き、そのまま野菜スティックを指でつまむ変態騎士。

 

(ダクネスのことだから、野菜を驚かせるのにテーブルに頭突きでもするのかと思った)

 

 俺に向けてルミカがまたメモを見せてくる。

 

 うん、実は俺も同じこと考えてた。ダクネスならやりかねない。

 

 適度な痛みと恥辱で野菜スティックがより美味しい的な?

 

「ふっ、貴様の動きはすでに見切った。血の海に沈むがいい」

 

 ルミカは素早い箸捌きで野菜スティックをつまむと、ローブから赤い液体が入った瓶を取り出した。

 

 こいつの食い方が一番まともなはずなのに、なんか微妙な気持ちになる。

 

 最近俺の常識が、異世界に毒されて来ている気がする……疲れてるのかな。

 

「みんなも使う? うちの里の名産物、無垢なる乙女の生き血」

 

「「「………………!?」」」

 

 ドン引きする俺とアクアとダクネスに、ルミカがにこにこしながら謎の液体をすすめてくる。

 

 どんな名産物だよっ!

 

 困惑する俺たち3人に向けて、

 

(ルーちゃんの大好物、無垢なる乙女の生き血……紅魔族の言葉でケチャップのことです)

 

 めぐみんがそんなメモを見せてきた。……びっくりして損したぜ。

 

 つーか、メモ使った会話って流行ってるの?

 

「……紛らわしい物を出すんじゃない。寿命が縮むかと思ったぞ、こういうのは私のほしい悪戯とはちが……美味いなこれ」

 

「確かに、濃厚でありながらもどこかさっぱりとした味わいは癖になりそうだけど、名産物としては致命的よね」

 

 ……美味いのかよ。

 

「なんで!? ダクネスもアクアも、無垢なる乙女の生き血美味しそうにつけてるじゃない。無垢なる乙女の生き血はコク深い味わいと爽やかな風味もさることながら、何よりもスタイリッシュな商品名が購買意欲と食欲の両方を掻き立てる。どんな状況、どんな場所でも対応できる万能調味料! 私もいざという時のために、常に何本か持ち歩いているくらいだし。そんな無垢なる乙女の生き血のどこが問題なの?」

 

 ……どこが問題と言われれば、その名前が何よりも問題だ。

 

 ルミカが商品名を連呼するので、周りにいた冒険者たちが怪訝そうにこっちを見ている。

 

「よーしっ! それじゃ俺もそのケチャップを使わせてもらおうじゃないか」

 

 俺は微妙な空気を断ち切るべく、バンとテーブルを叩き、そのまま野菜スティックに手を……。

 

 ヒョイッ。

 

「死に腐れやあああああ!」

 

 俺は野菜スティックを掴み損ねた怒りを胸に、スティックが入ったコップを握り締め、壁に叩きつけようとした。

 

「ダメよカズマ! 罪のない野菜スティックを傷つけるのはやめて! 唯でさえカズマは引きニートなんてろくでもない男だったのよ、これ以上罪を重ねないで! ていうか、私の野菜スティックなんだから返して!」

 

 アクアが俺の腕を掴んでくる。後俺は高校生だからニートじゃない。

 

「止めてくれるなアクア! 男には例えバカだと笑われようと、やらなきゃいけない時がある。野菜ふぜいが人間様にたてつくとどうなるか思い知らせてやる! 食えぬなら殺してしまえ、生野菜だ」

 

「バカ言わないでよ。あんた今、全世界のベジタリアンを敵にしたわよ。活け造りって知らないの? 食べ物ってのは、なんだって新鮮な方が美味しいのよ基本」

 

 どんな活け造りだよ。逃げる野菜とか、日本なら軽くホラーだぞ。

 

「さあ、来い、カズマ。私に向かってその熱い激情をぶつけるがいい! 私がクルセイダーになったのは、今ここで野菜スティックを顔面に投げつけられるためだったんだ」

 

 頬を上気させ、俺の前に躍り出るダクネス。

 

「ダクネス、恥ずかしいからやめて下さい。あっ、何デコイのスキルまで使ってるんですか!」

 

 めぐみんの言う通り、ダクネスは何かスキルを使ったらしい。よく分からないが無性にこの残念美人に対して、敵意が湧いてくる。

 

 俺はもうどうでもいいやと、まさに投げやりな気分でコップを投擲しようと……。

 

「こら、だめだよカズマ、食べ物を粗末にしたら。仕方ないから私が手伝ってあげるね」

 

 ルミカはそう言って、自分が食べようとしていた野菜スティックを俺の口元に差し出した。

 

「………………」

 

 え、何この突然な甘酸っぱい感じのシチュエーション。どうしよう、どうすれば良いんだこの空気。

 

 ダクネスもアクアもポカンと口をあけているし、めぐみんはため息をつきながら俺に野菜スティックを食べて下さいと目で催促している。

 

「はい、どうぞ」

 

 く、食いづらい……すごくむず痒い。俺はロリコンじゃないはずなのに……。

 

「………………」

 

 湧き上がる羞恥心に耐え、ルミカから差し出された野菜スティックの味は……全く分からなかった。

 

「はい、もう1本。あーん」

 

 ただでさえ恥ずかしいのに、さらにあーんだと!

 

 こいつ、いたいけな青少年を羞恥心で悶絶死させる気か。

 

「あ~ん、うん、やっぱり無垢なる乙女の生き血は美味しいですね」

 

「うわっ、ちょっとめぐみん!? いきなりかじりついたらびっくりするでしょ。ローブのすそにケチャップついたら、なかなか落ちないんだからね、まったくもう」

 

 俺があたふたしている間に、めぐみんがルミカの手から野菜スティックを奪い去っていた。

 

 めぐみんのおかげで助かったような、悔しいような……なんとも表現しがたい気分である。

 

「俺、しばらく野菜は食べなくていいや」

 

 これ以上野菜スティックを食うのを諦めた俺は、皆に相談したかった話題を切り出すことにした。

 

「聞きたいことがあるんだけど、俺は次にどんなスキルを覚えればいいと思う? うちのパーティはバランスが悪すぎるから、スキルの選択肢が多い俺がカバーしていく必要が、あれ? いまさらだけど、お前らのスキル構成ってどうなってんだ?」

 

 クエストを効率的にこなしていくなら、パーティメンバーと相性の良いスキルを覚えていくべきだ。ということで、話をしようと思ったんだが。

 

「私は各種状態異常耐性をはじめ、あらゆる防御スキルを片っ端から覚えている。その他だとデコイという、さっきカズマにも使った囮になるスキルぐらいだ」

 

「……攻撃系のスキルを覚えて、武器の命中率を上げる気は……」

 

「全くない。私は体力と筋力にはけっこう自信があるのだ。これでもしホイホイ剣が当たるようになったら、無傷でモンスターに勝利してしまうではないか」

 

 いや、普通はそれでいいんだよ。

 

「圧倒的な勝利など、虐殺と変わらない……空しいだけだ。冒険者たる者、やはりモンスターと命がけの死闘を演じてこそだろう。私が憧れたのは、そんな……御伽噺に描かれているような騎士なのだから」

 

「で、本音は?」

 

「必死に剣を振るうが当たらず、力及ばず敵に圧倒されてしまうのがたまらない」

 

「よし、次! めぐみん」

 

「くっ、こんな扱い……だがそこがまた」

 

 俺の素っ気ない対応に興奮し、自分の世界にトリップし始めた変態は放置し、めぐみんを見る。

 

「私はもちろん爆裂魔法です。最高の一撃を放つために、爆発系魔法威力上昇や高速詠唱なども覚えています」

 

「上級魔法……いや、中級魔法で良いから覚え……」

 

「断固拒否です」

 

 悲しいけど、予想はできてた。

 

「えっと、回復魔法でしょ、それから……」

 

「アクアは いいや」

 

「そんなっ!」

 

「私は爆裂魔h……」

 

「そのネタは、もうめぐみんがやったからパス」

 

「最後まで言わせてよー! めぐみんだけずるい!」

 

 自分のスキルを伝えようとする、アクアとルミカをスルーする。

 

 どうせ、宴会芸スキルかなんかだろ。はぁ……どいつもこいつも個性が強すぎる。

 

「……別のパーティに入りたい……」

 

「「「「!?」」」」

 

 ふと口からもれた俺の本音に、4人は肩を震わせた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ジャイアントトード以上に俺の異世界観を粉々に打ち砕いた、あのキャベツ狩りから数日が経過し、収穫したキャベツは全て売りに出され、冒険者たちにはその報酬が支払われた。

 

 ギルド内では報酬をもらった冒険者たちがお祭り騒ぎで、大いに盛り上がっている。

 

 財布が潤って俺も幸せだ。

 

「見てくれ、カズマ。私の生まれ変わったこの鎧を。予想以上に稼げたから、修理に出した鎧をついでに強化したんだが……似合うだろうか?」

 

 何と言うことでしょう。見事キャベツたちの猛攻から主人を守り抜き、見るも無残な姿に変わり果てた鎧が……。

 

「お前には似合わないぞ、それ。成金趣味の貴族が好きそうなデザインみたいで」

 

 巧みの技により装いを新たにした鎧は、女騎士を成金貴族へと生まれ変わらせたのです。

 

「……カズマはいつだって容赦ないな。私だって素直に褒めてほしい時があるのだ。ルミカなんて『聖鎧もちょてん』とかふざけた名前をつけようとしてくるし……はぁ」

 

 ダクネスが、珍しくへこんだ顔をする。

 

 ダクネスは言葉通りに受け取っちまったみたいだが、これでも褒めてるんだぞ、俺。

 

 俺は鎧を着ているよりも、ダクネスはスタイルがはっきり分かるタンクトップとか着てる方がエロくて似合ってると思う。

 

 スキルのおかげで生身でもけっこう防御力があるらしいので、俺的には常に鎧なしでいてほしいくらいだ。

 

 まあ、そんなことより。

 

「今は普段のお前以上にとんでもないやつがいるから、かまってやれる気力がない。いつもみんなに迷惑をかけてるんだから、たまには年上らしくそこのド変態(年下)をなんとかしてくれよ」

 

「ハア……ハア……。ふふふ、いい、実にいいです! この握り心地、素晴らしい触り心地。た、たまりません、たまらないのです! 魔力溢れるマナタイト製のこの杖……。解放したい、この溢れる思いを魔力と共に。ハア……ハア……」

 

 めぐみんは朝からずっとこんな調子で、新調した杖を抱きかかえて頬ずりしている。

 

 高額な報酬で強化された杖を使えば、爆裂魔法の威力が何割か上がるとか、めぐみんは満面の笑みで恐ろしいことを教えてくれた。

 

「まったく、めぐみんさんったらだらしがないですよ。女の子がそんなはしたない顔をしては、ダメでしてよ?」

 

 優雅に紅茶を飲みながら、そんなめぐみんをお嬢様口調でルミカがたしなめる。

 

「そうだルミカ。私が鎧を取りに行ったついでに、鍛冶屋からお前に渡してほしいと預かった荷物を持ってきた。うむ、確かに届けたぞ」

 

 そんな幼馴染の変態行動を冷静に観察していたルミカだったが……。

 

「やっほーい!ありがとうダクネス! ふふふ、冥府より蘇りし我が半身の力……馴染む、馴染むわ。我が前に立ち塞がる全てを切刻み、蹂躙し……この身とあなたを鮮血で染め上げろと、私の魂が叫んでいるのよ」

 

 ダクネスから修理中だった大鎌を受け取った途端、中2病(自分の世界)に旅立ってしまった。

 

 言いたいことはいろいろあるが、今の紅魔族(こいつら)には関わりあいたくないので黙っておく。

 

 キャベツ狩りで得た報酬は、アクアの提案で均等に分けるのではなく、各自が自分で捕獲したものをそのまま報酬にしようという話になった。

 

 そして、ダクネスやめぐみんよりも収穫量が多く、自分の取り分を増やそうと画策したアクアの換金結果だが……。

 

「どうしてよおおおお! ぐす、……あんなにがんばったのに、50000エリスなんて、ひどいと思うの。可哀想な私、なんでこんなに不幸なの? 神は死んだ……あっ、私が神じゃない」

 

 受付嬢に詰め寄り、クエストの報酬について口論していたアクアが、しょんぼりした様子でもどってきた。

 

 どうやらアクアが捕まえたのはキャベツではなく、ほとんどが換金率の低いレタスだったらしい。……何だそりゃ。

 

「カズマさんカズマさん! 今回のクエスト報酬はおいくらかしら? 50万くらい?」

 

「100万ちょい」

 

 落ち込み状態から復帰した、アクアからの質問に答える。

 

「ひゃっ!?」

 

 アクアとダクネス、めぐみんが絶句する。

 

「……バカな、あんなにひどい手段を取った私ですら80万がやっとだったのに。何故私よりも収穫量が少なかった、カズマの方が稼いでるの? ……まさか、私が葬り去ったキャベツたちの呪いだと言うのっ! ……呪い怖い」

 

 俺の報酬額を聞き、項垂れるルミカ。

 

 どうして俺がルミカよりも少ない収穫量で、小金持ちになれたのか。その理由は俺が収穫したキャベツの多くが、経験値がたっぷりつまった質の良いものだったから。

 

 運も実力のうちってやつか、冒険者にはあまり必要ないステータスだと言われた幸運値も、意外とバカにできない。

 

「カズマ様っ!! 超絶ニートでカリスマ引き篭もリストのカズマ様!」

 

 いや、本当に。幸運値が低いせいでキャベツ狩りに失敗して、俺に金をたかろうとするアクアを眺めていたら。

 

 運って大切だと思う。

 

「……お前、煽てるのが下手すぎるだろ。ニートとか引き篭もりは褒め言葉じゃないからな。無理して褒めなくていいよ、むしろ俺にはそこしか褒める部分がないのかと傷ついた。逆にこっちが慰謝料を請求したいくらいだぞ堕女神。お前にくれてやる金はない、諦めろ」

 

 無慈悲な俺の宣告に、アクアの笑顔が凍りつく。

 

「カズマさああああん! 見捨てないでよ仲間でしょっ! 私、キャベツの報酬がかなりあると思って、この数日で、財布の中身がすっからかんなの。ていうか、大金入ってくると見込んで、ギルドの酒場に10万近いツケがあるのよ! 今回の報酬じゃ、足りないんですけど! うぐ、お願いよ、今度のクエストでちゃんと返済するから、お金貸して」

 

 半泣きで俺に縋りつくアクアを引き剥がし、どうしてこんな後先考えられないやつが、神様やれてたんだと天界の神々に思いを馳せる。

 

「今回の報酬配分を考えたのはアクアだろ。俺はそろそろ馬小屋じゃない、ちゃんとした拠点がほしいんだよ。今回の報酬はその軍資金にする」

 

 その日暮らしで安定した金を持たず、各地を旅する冒険者たちは、基本的に家を持たない。

 

 だが俺は違う。安定した暮らしを好み、日常のちょっとした刺激として時々クエストをこなせれば満足だ。

 

 正直に言おう、俺はポンコツ揃いの仲間たちを率いて、魔王を倒すなんて不可能に近いと思っている。

 

 おまけに俺は日々体を鍛えていた訳でもない、チートもなければステータス(才能)もない、貧弱にして軟弱にして最弱の初期職(冒険者)である。

 

 魔王軍と戦う使命は、俺より先にこの世界に転生したチート持ちの先輩たちに任せた。

 

 なので、俺は何らかの物件を手に入れたいと思ったのだ。

 

「……私には可愛い妹たちがいるの。あの子達を、路頭に迷わせる訳にはいかないわ!」

 

「お前のその可愛い妹たちなら、大金稼いで朝からずっといやらしい顔してたぞ」

 

 俺の返答を受け、アクアはちらりとめぐみんとルミカの方を見て、名残惜しそうに視線を外した。さすがにこのバカ(こいつ)も、子供からたかるのはよくないことだと理解しているらしい。

 

 アクアが大声で泣きながらすがりついてくる。

 

「お願いよ、カズマさん、お金貸して! ツケ払う分だけでいいの! 10万とは言わないから、5万でいいから! そりゃあカズマも健康な男の子だし、馬小屋で時々夜中にもぞもぞしてる理由も分かる、プライベートな空間がほしくなる気持ちも当然だけど……」

 

「了解だぜ相棒、俺たちは仲間だからな。金くらいいくらでも貸してやるから、お願いします黙ってて!」

 

 

■■■ルミカ視点■■■

 

「さあ、ルーちゃん! モンスター討伐に行きましょう! 大量のザコモンスター相手に、新たな杖での爆裂魔法を試すのです」

 

「行く行く! 私も鍛冶屋さんに改造してもらった、デスメテオ零式(ぜろしき)の試し切りがしたかったんだ」

 

 ふふん、夢とロマンとへそくりをふんだんに盛り込んだ、私の零式のかっこよさをめぐみんに教えてあげる。

 

「俺はゾンビメーカー討伐で使えなかったスキルの験し撃ちがしたい。だから安全で無難なクエストにしとこうぜ」

 

「いいえ、稼げるクエストにしましょう! ツケを払ったら財布が真冬で、今手持ちが500エリスしかないの!」

 

 アクア、それ……子供のお小遣いレベルだよ。私だってその100倍は持ってるのに。

 

「なるほど、つまり強敵を狙えばいいのだろう? いくらスキルや武器の験し撃ちをしても死なない頑丈さ、一撃が重くて気持ちいい、すごく強くて高額な討伐報酬が出る、そんな賞金首モンスターを……機動要塞みたいな」

 

 ダクネスがみんなの意見をまとめてくれたのはうれしいけど。

 

「「「「却下!」」」」

 

 全員一致で拒否である。

 

「にゅ! 何故だ!」

 

 そんなおっかないモンスター相手とか、ダクネス以外は死んじゃうから!

 

「こうしていても仕方がないし、掲示板の依頼を見てから決めようぜ」

 

 カズマの意見に、みんなでぞろぞろと掲示板に移動すると。

 

「……何これ?」

 

 いつもは大量に貼られているはずの依頼が、現在は数枚しか貼られていなかった。

 

 しかも残りの依頼は、高難易度なものばかりで……困ったな、私たちにやれそうなのがない。

 

「すいません、みなさん。実は……街外れの廃城に、魔王の幹部が住みついたらしく……。幹部の存在を恐れたのか、アクセル周辺の弱いモンスターは隠れてしまって。現在依頼は掲示板にある高難易度のものだけなんです」

 

「どうして、どうしてこのお金のない時に魔王軍が……このままだと、ルミカに借金するしか……」

 

 私たちの様子を見て、説明に来てくれた受付嬢のリーナちゃんの解説を聞き、床に座り込むアクア。

 

「……よし」

 

 しばらく俯いていたアクアが、ゆらりと立ち上がる。

 

「おい、待てアクア。鬼気迫る表情でどこに行くつもりだ」

 

「心配しないでカズマ。ちょっと迷惑なご近所さんに挨拶してくるだけだから。幹部の根城とやらを神聖な結界で囲んで、嫌がらせしてやるわ」

 

 カズマに対するアクアの不穏な返答を聞いて、真っ青な顔になるリーナちゃん。

 

「や、やめて下さいアクアさん! 来月には国の首都から討伐隊が派遣されるので、それまでは魔王の幹部を刺激するような行動は控えて下さい。本気でやめて下さい……お金は貸せませんが、ご飯なら私が奢りますから」

 

 リーナちゃんの必死の説得(ご飯おごる発言)に、パァッと目を輝かせるアクア。

 

「本当? 本当にご飯奢ってくれるの」

 

「もちろんですアクアさん」

 

「仕方ないわね。私に対するあなたの真摯な態度に免じて、毎日魔王の幹部に悪戯するのはやめてあげる……今日だけにしとくわ」

 

 リーナちゃんと一緒に頭を抱える私たち。……なにこの人、止めなかったら毎日嫌がらせするつもりだったの?

 

 一発は一発だとチンピラみたいなことを言って、さっそく廃城に向かおうとするアクア。

 

「だめだよアクア、そんな勝手なことをしたら」

 

「そうですよアクア、そんな危険なこと、一人じゃ無理に決まってるじゃないですか」

 

 このパーティで2人しかいない常識人として、私とめぐみんがアクアを引き止める。

 

「止めないで2人とも。私は女神として、1人の冒険者として、魔王軍の蛮行を黙って見過ごすなんて、我慢できないの」

 

 ……まったく、私たちのような駆け出し冒険者が、1人で魔王の幹部に挑もうだなんて……。

 

「私も一緒に行くに決まってるじゃん。アクア(姉さん)を、1人で行かせたりなんかしない」

 

「ルーちゃんの言う通りです、アクア。そんな面白……、危険な敵地に、仲間を1人で行かせるなんて、紅魔族にはできません! 幹部の実力は未知数……何が起こるか分かりません、戦力は1人でも多い方がいいはず。私も、私たちもつれて行って下さい」

 

 そう、めぐみんの言った通り。魔王の幹部が待ち構える居城に攻め込むなんて、一生に一度あるかないかの燃える展開……こんなわくわくする状況、参加しないなんてありえない。

 

 今度家に帰ったら、里のみんなに自慢しなくちゃ。

 

「我が爆裂魔法の威力に、恐れおののくがいい」

 

 めぐみんが不敵に笑い、

 

「魔王軍幹部の討伐、ルシフェリオン・ミッドナイト・カタストロフィとデスメテオの不敗伝説がまた1つ、世界に語り継がれるのね」

 

 私は野望を胸に抱き、

 

「2人とも、覚悟はできてるようね。なら私が言うことはもう何もないわ、さっそく幹部の根城に出撃よ」

 

 最後にアクアが気合を入れ直し、さらに言葉を続ける。

 

「待っていなさい魔王軍! 私たちの戦いはこれからよ!」

 

 あっ、まずい……今アクア、絶対だめなフラグ立てた。

 

「「「その話、ちょっと待った!」」」

 

 突っ込みの声が響き渡る。

 

「……私たちの冒険は……これまでか……」

 

 そんな私の独り言は、ギルドの喧騒にかき消されていくのでした。

 

 

■■■カズマ視点■■■

 

「……本当に、危ないところでした。私、今までその場のノリで生きていたんですが、今後はもう少し自重したいと思います」

 

「うちのパーティメンバーがすいません」

 

 アクアたちへの説教を終え、疲れ果てた受付嬢さんと俺の会話である。

 

 話を聞くと、ルミカとめぐみんはアクアがやばいことをしないよう、保護者として一緒に行くつもりだったらしい。城が見える位置まで近づいたら、アクアを街までつれて帰る予定だったとか。

 

 妹が保護者代わりな姉って、それでいいのか自称エリート女神様。

 

「まったく、自分たちが何をしようとしたか分かってるのか。下手したらアクセルが滅びる可能性もあったんだからな。アクアはもっと大人としての自覚を……」

 

「はいはい、分かったわよダクネス! 自立した立派な大人である私は、求人探しで忙しいんだから。遊んでほしいなら後にしてちょうだい」

 

 ダクネスは真剣に、アクアへ大人とは何かを伝えようとしているが、当の本人は求人雑誌に夢中である。

 

「……はあ、アクアはまったく。めぐみんもルミカも悪戯がしたいなら、私にすればいいのに。だいたい、そんな楽しそう……危険な場所に行くなら、真っ先に仲間を守る騎士である、この私を誘うべきだろう」

 

「神速のフラグ回収、アクアが余計なこと言うからだし」

 

「私とルーちゃんは悪くありません、きちんとアクア1人で行くのは危ないと心配していたのです……紅魔族的に、抗えぬ本能だったのも事実ですが」

 

 だめだ、ルミカもめぐみんも、全く反省してねえ。こいつらはアクアを出しにして、幹部の城を観光しようとしただけだ。

 

 ……つーか、説教してるダクネスも本当は一緒に行きたかったっぽいし。

 

「……とても楽しそうなパーティですね……」

 

 俺の仲間たちが本当にすいません。

 

 受付のお姉さんの苦笑いが、俺の心を抉る。

 

「カズマさん、本当にお願いしますね? アクセルの命運は、あなたの肩にかかっているんですから。なんちゃって」

 

 最後に受付嬢さんは冗談っぽく笑って、受付カウンターへと帰って行ったのだが……俺にはそれが、何かのフラグにしか思えなかった。

 

 マジで笑えねえ。

 




 紅魔族ならこんな感じの名産物くらい、きっと売ってるはず。次話はみんな大好きデュラハンさんが、可愛そうな目にあったり、ルミカが百合サイドに落ちかける予定です。
 プロットはできてるんですが、文字数が多くなりそうなので、次回の投稿は3月になると思います。キマシタワーを建てなきゃ。

 それとなく誤字報告をしていただけると、喜びのあまり作者がアクシズ教徒になるかもしれません。……今回は前回より誤字がないといいな。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。