毎度誤字報告をして下さるみなさんに感謝。本当にありがとうございます。誤字報告をしてもらえると、喜びのあまり作者が女子高生みたいなノリでエリス教徒になります。
今回は17500字と、かなり多いです。分割しようと思ったんですが、うまい切りどころが見つかりませんでした。前半と後半がルミカ視点、真ん中がカズマ視点です。
■■■ルミカ視点■■■
「国の首都から腕利きの冒険者や騎士達による討伐隊が来る日までは、仕事ができないってことか」
「そういうことです。……となると、クエストのない間はしばらく私に付きあってもらっていいですか?」
カズマとめぐみんがそんな爆裂デートの約束をしていた。
今現在、アクセル周辺には魔王の幹部にびびって、モンスターたちは出てこない。
私たちがこなせる低レベルなクエストはないけれど、その代わり気軽に街の外に出られる状況のため、暇になっためぐみんは外に爆裂魔法を撃ちに行きたいようだ。
「ルーちゃんも一緒にどうですか?」
と、めぐみんに誘われたけれど。
私は以前約束したダクネスとのカエル虐殺デートを理由に断った。
めぐみんの爆裂魔法をじっくり見たい気持ちはあるけれど、私も早くレベルを上げて爆裂魔法を打ちたいのだ。
「なあルミカ。今街の近くにいるモンスターは身を隠しているらしいが、どうやってカエルを探すんだ?」
「とりあえず、適当な場所でダクネスにデコイのスキルを使ってもらえば、隠れたモンスターでも誘き出せると思ったんだけど、……それでなんとかならない?」
私の行き当たりばったりな作戦を聞いて、腕を組んで唸るダクネス。
そのポーズはとても似合ってるけど、本日の彼女は鎧を着ておらず、薄着の服ごしに豊かな胸が腕を組むことで強調され、何というかエロかった。
「むー、地面に潜っているカエルに通用するかは分からないが、やってみる。……これもルミカと私のヌルヌルプレイのためだ」
「やめてっ! カエルに食べられることを、恰も私たち共通の目的であるかのように言わないで!」
カエルよりも先に、その経験値がたくさんつまってそうな巨乳を討伐したい私です。
どうして私服を着てきたのか聞いたら、せっかく鎧を修理に出してきれいな状態なのだから、もう少しこの新品感を楽しみたいとか言ってたくせに。
この人……やっぱり金属製の装備をしていたらカエルに襲ってもらえないから、わざと鎧を置いてきたんじゃ……。
私がダクネスをジト目で見つめると。
「くっ、……少女からの冷たい視線というのも中々」
ダクネスは頬を赤く染め、びくりと震えた。
エリス様、アクア様。どうか私を助けて下さい。仲間が怪しい目をしています。
ダメだ、このままだときっと私はとんでもない目に遭う気がする。やっぱり次回からは、クリスちゃんも誘おうそうしよう。
「じゃあダクネス、この辺でスキルをお願い。デコイが通用しなかったら、私が持ってきた秘密兵器を使ってみるよ」
街からしばらく歩いた荒地で、私たちは立ち止まった。ここは前回アクアやめぐみんと一緒に、カエルに食われた場所である。
「よしルミカ、ではやるぞ! 『デコイ』っ!」
そうして、私たちの熾烈な戦いが始まった。
それはある意味平和で、ある意味地獄のようだったカエルデート初日。
「秘密兵器を忘れちゃってごめんね……ダクネス、もう帰ろう。デコイじゃ土の中にいるカエルは出てこないみたいだし」
「待ってくれルミカ。後少し、後少しで何かが掴めそうなんだ。土の中に引き篭もるカエルに、何時間も無視されるなんて……これが本当の放置プレイか」
ダクネスの性癖を舐めていた私が、彼女をつれて街に帰ったのは夜中だった。
それは切り札を使い、ついにカエルを誘き出した2日目。
「さすが私! あんなに多くのジャイアントトードが! カエルが1匹、カエルが10匹、カエルガ……よ、40匹!? 死ぬ、この数相手に2人は絶対死ぬ!」
「う、狼狽えるなルミカ! お前は私の後ろに隠れていろ! 大丈夫だ、あれだけ敵がまとまっているなら……私の剣でも当たる!」
キリッとした顔で全く安心できないことを言うお姉さんと、カエルの群れの中を突き進んだ2日目。
それは私たちを心配したクリスちゃんが、一緒に戦ってくれた静かな朝。
「これが、めぐみんの言っていたヌルヌルプレイ。お父様……天国とはここにあったのですね」
「うわあーん! クリスちゃんクリスちゃんクリスちゃんっ! ダクネスが、ダクネスがカエルに群がられて見えなくなっちゃったよー!」
「落ちついてルミカ。掘るよ、あたしとあんたで、ダクネスをカエルの山から掘り起こすの! ちょっと死ぬ気でいってみよう」
それは涙が止まらなかったギルドの酒場で。
「ぐす、……ねえクリスちゃん……どうしてダクネスをこんなになるまで放置したの?」
半泣きで尋ねる私の頭を撫でながら、クリスちゃんは遠い目をして。
「いいかいルミカ、よく覚えておいてね。世界には、……例え神様にだって、どうにもならないことがあるの……ルミカも、あんまり友達に迷惑かけちゃダメだからね」
色っぽい溜息をつきながら、彼女は私に何度も同じ言葉を繰り返し言い聞かせた。
時には勝利し、時には泣き、死にかけて殺して合体して殺戮して傷つけて傷ついて。
時々クリスちゃんを巻き添いにしながら、私とダクネスはカエルと戦い続けた。
そして、幾多の戦場を伴に戦い抜いた私たちは……。
「お疲れ様ダクネス! 今日も敵の攻撃に興奮しつつも、鉄壁の防御をありがとう。ナイス残念!」
「うむ、気にするな。ルミカこそ、次から次へとトラブルに巻き込まれて……お前ほど守りがいがある者は中々いない、騎士冥利に尽きる。ナイス残念」
いつの間にかお互いの欠点に慣れてしまった。むしろ、その欠点が愛おしい。
心の底から互いの
「怖い意味で、あんたたち2人はベストパートナーかもしれないね。私以外にも、ちゃんと友達ができてよかったねダクネス、……少し妬いちゃう、かな」
「あー、もう、なんだクリス、……可愛いやつめ」
普段とは違うクリスちゃんの可愛らしい姿に、頬を赤くするダクネス。防御力的にも、百合属性的にも頼もしい仲間ができて、もう何も怖くない。
待っててねめぐみん、私たちが編み出した合体奥義を見せてあげるから。
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カズマとめぐみんの爆裂デートに対抗して、私とダクネスがカエルさん虐殺デートを初めて1週間。ダクネスの変態発言や行動が、ほぼ気にならなくなってしまった。
よく考えたら、今の私の状態はかなりダメなのでは? 乙女として、人として何か大切な物を失った気がする。
大人になるってこんなにも悲しいことだったのかと、溜息をついたそんな朝。
『緊急! 緊急! モンスター出現! 全冒険者のみなさんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まって下さいっ!』
街中に響き渡る緊急警報。そのアナウンスを聞いて、私は冷や汗が止まらなかった。
昨日の夕方に正門の辺りで、カエルに使った秘密兵器。
ウィズさんの店で買った、モンスター寄せのポーションを落っことしちゃったんだけど……あれのせいじゃない、よね?
「何、あれ?」
街の正門前についた私たちが見たのは、街へ進入しようとするモンスターたちを次々と斬り捨てる、デュラハンの後ろ姿だった。モンスターの仲間割れかな?
集まった冒険者たちが呆然とする中、最後のモンスターを斬り捨てたデュラハンがこっちを向いた。
「……俺は先日、この近くの城に越してきた魔王軍幹部の者だが……」
「あっ、あのデュラハン。私が落とした魔物寄せポーションの効果で、集まってきたモンスターを倒してくれるなんて……魔王軍って意外と良い人たちなのかな?」
「……おい、今こいつサラッととんでもないこと言ったぞ。魔王軍より被害出しそうなんだが」
「……最初に言ったじゃないですか。ルーちゃんは誰かが見てないと危険だって」
聞こえない、私にはカズマとめぐみんの内緒話なんて聞こえない。でもごめんなさい。
きっとあのデュラハンは、昔なじみのアンデッド友達であるウィズさんにこっそり会いにきた途中、アクセルを襲おうとするモンスターを倒してくれた、心優しい魔王軍のなんちゃって幹部に違いない。きっとそう、そうだといいな。
いや、なんちゃって幹部ってなんだ! 心優しい魔王軍なんてありえないし!
私が現実逃避に妄想1人突っ込みをしていると、首を小刻みに震わせ、デュラハンが絶叫する。
「ままままま、毎日毎日毎日毎日っっ!! おお、俺の城に、毎日欠かさず爆裂魔法撃ち込んでく大馬鹿は、誰だあああああああーっ!!」
デュラハンさんは、マジ切れした。よく分からないけど、さっきの緊急放送は私のせいじゃなかったっぽい。
爆裂魔法とか言ってたよね。まったく、めぐみんってば何をやっているのかしら。
「お、おまけに! 魔王軍幹部であるこの俺相手に、雑魚モンスターの群れを差し向けやがって! 舐めてるのか貴様らああ!」
どうやらデュラハンの怒りの原因は、私にもあったようです。
「……どうして俺の仲間は次から次へと、やっかいごとを持ってくるんだ」
カズマが怒り狂うデュラハンを見て、遠い目をしている。うーん、最近人に迷惑をかけてばかりいる気がする。
まずデュラハンさんに謝罪して、その後はカズマに土下座した方がいいのかもしれない。
「……爆裂魔法?」
「爆裂魔法を使えるヤツって言ったら……」
「爆裂魔法って言ったら……」
私がデュラハンとカズマへの謝罪と言い訳に悩んでいる間に、爆裂魔法しか使えないことで有名なめぐみんへ、自然と周りの視線が集中する。
……冒険者たちから視線を寄せられためぐみんは。フイッと自分のそばにいた魔法使いの女の子の方を見る。それに釣られて、周りのみんなも同じくその娘に視線を……。
「ええっ!? あ、あたしっ!? なんであたしが見られてんのっ!? 爆裂魔法なんて使えないよっ! あの、私……まだ駆け出しで。あの、本当違うんです信じて下さい。私まだ死にたくない、……小さい弟たちもいるのに」
突然濡れ衣を着せられ、慌てふためく魔法使いの女の子。ひどいいじめである。
そんな彼女を見て、滝のように冷や汗を流すめぐみん。……やれやれ、ここは天才美少女魔法使いルミカ様の出番らしい。
「……ごめんね、私の仲間のせいで怖い思いをさせて。大丈夫、あなたは私が守るから」
みんなに注目され、慌てふためく女の子を安心させるように抱きしめる。
「え、ちょっと、何これ顔近っ! あっ、待って」
恐怖心で涙目の女の子の敵を討つため、私とめぐみんの失敗の責任を取るために。勝負だデュラハン。
「落ち着きなさいデュラさんっ!」
周囲の注目を集めるべく声を出し、私は数歩前に出る。
「誰がデュラさんだ、誰がっ!」
私のおちゃめな呼びかけに怒るデュラハン。そんなアンデッドに向かって歩き出す私に、冒険者たちが道を開けてくれた。
まるで自分が権力者になったようで、ちょっと嬉しい。こんな状況でなければ、平伏せ愚民とか叫んでいたと思う。
「魔王の幹部ともあろう者が、小粋なジョークも返せないの? 興ざめね……」
「貴様……」
こちらを憎憎しげに睨みつけるデュラハンに、私は冷笑を浮かべて見せる。人を騙すのに大切なのは、相手を挑発し判断力を鈍らせること。
行くぞ魔王軍! 我が交渉力に恐れおののきなさい。
■■■カズマ視点■■■
まずいことになった。俺とめぐみんが毎日かかさず爆裂魔法を打ち込んでいたのは、ギルドで聞いた魔王軍幹部のアジトだったらしい。
街の正門の前に仁王立ちするデュラハンから、10メートルほど離れた場所にルミカが対峙した。俺たちはそんな彼女の後ろに付き従う。
「魔王の幹部ともあろう者が、小粋なジョークも返せないの? 興ざめね……」
そう言って、ルミカは魔王の幹部をあざ笑った。どうしてこいつは格上相手に、恐れず挑発できるんだろう。
「お前……! お前が、毎日毎日バカスカバカスカと! 俺の城にネタ魔法ぶち込んで行く大バカ者か!」
「私からの引越し祝いの花火、気に入ってくれたようで何よりです」
「お、おま、お前えええっ!」
ルミカの返答に、デュラハンは怒りを抑えるように、小刻みに肩を震わせた。
すいません! うちの子が爆裂魔法のことを、花火だと言い張る子ですいません!
「俺が魔王軍幹部だと知った上で喧嘩を売っているなら、小ざかしいまねなどせずに正面から城に攻めてくるがいい! その気がないのなら、街で震えているがいい! 何故こんな陰湿な嫌がらせをする! ここには駆け出しの冒険者しかいないことは知っている! 取るに足らない街だと見逃してやっていれば、調子に乗って毎日毎日ポンポンポンポン魔法打ち込みにくるとか……!! 頭おかしいんじゃないのか、貴様っ!」
絶叫するデュラハンに対し、ルミカは鎌を振り上げて名乗りを上げる。
「我が名はルミカ。アークウィザードにして、爆裂魔法を極める者……!」
「……ん?」
ルミカに紅魔族特有の名乗りをされたデュラハンは、大きく首を傾げている。
「我は紅魔族随一の魔法の使い手にして、アクセル最強の冒険者。このルミカ様が爆裂魔法を放ち続けていたのは、魔王軍幹部のあなたに精神的ダメージを与え、我が前に誘き出すための作戦! ……こうしてノコノコと1人で出てきたのが運の尽きよ! この場に集まった冒険者全員で、……じわじわとなぶり殺しにしてあげる。ふふん、尻尾を巻いて逃げるなら今のうちだよ?」
ノリノリでデュラハンに鎌を向けるルミカを見守りながら、俺はパーティメンバーにひそひそと囁いた。
「……おい、お前の妹がすごい嘘言ってるぞ。毎日爆裂魔法を打たなきゃ死ぬとか、めぐみんが駄々をこねたせいで、ただの散歩が街を挙げての魔王軍討伐作戦になってんだけど」
「……うむ、しかもさらっと、この街最強の冒険者だと言い張っているな。それに、悪役みたいなセリフを言っているように見えて、……ルミカは本気であのデュラハンに帰ってもらいたいだけだ。ほら、後ろから見ると首筋の冷や汗がよく見える」
「ダメでしょダクネス! そこは黙っといてあげるのが、年上のお姉さんってもんよ。めぐみんのことを必死に庇おうとがんばってるんだから。後ろにたくさんの冒険者が控えているからこそ、あの子は強気でいられるの。今はルミカのがんばりを黙って見守りましょう! 大丈夫、敵がアンデッドなら私が最悪なんとかするわ」
「わ、私のせいで、ルーちゃんが危険な目に……いや、でも紅魔族的にはむしろ美味しい展開、むむむ」
俺たちの話を聞いていためぐみんは、いろんな感情がごちゃ混ぜになっているようで、肩を小刻みに震わせていた。
「あー、もう! 待つのですデュラさん! あなたの根城に爆裂魔法を打ち込んでいたのは、この娘ではありません、……この私です。そう、我こそが紅魔族随一の天才にして、この街最強の魔法使い、めぐみんっ!」
「え、めぐみん、え?」
色々吹っ切れたのか、めぐみんは困惑するルミカを抱き寄せ、幼馴染を庇うようにデュラハンと対峙する。
一方魔王の幹部は幹部で、めぐみんの姿を見て何度も頷き、勝手に納得した様子で言う。
「……やはりな。おかしいと思ったのだ。紅魔族といえば黒髪に赤い瞳、イカれた名前が特徴だからな。そこの小娘のように白髪の上、平凡な名前であるはずがない!」
「私の名に文句があるなら好きなだけ聞こうじゃないか。お礼に爆裂魔法の餌食にしてあげます」
デュラハンの言葉にヒートアップするめぐみんだったが……。
「待って、待ちやがれ、待って下さい。私の本名はルシフェリオン・ミッドナイト・カタストロフィ、略してルミカ。確かに髪は白いけど、……でも見て欲しい、この赤い瞳を! そう、私だってちゃんとした紅魔族なんだから!」
めぐみん以上に、ルミカはヒートアップしていた。
そんな少女の叫びを受け、デュラハンは感心したように頷くと。
「もういい、やめろ。ごく普通の駆け出し冒険者にしては、この俺を相手によくやった。お前が必死で仲間を庇おうとしたこと、勇敢な娘だということは分かった。だからもう、恥ずかしいセリフばかり言う、頭のおかしなネタ種族の真似などする必要はないぞ」
……デュラハンのその声には、どことなく優しさや哀れみが含まれていて。
「……う、ぐす、うわああああ! ……ひっく、私を、ふ、普通って、言うなああああっ!」
人類の敵から送られた、予想外の同情的な視線に、突然ルミカは泣き出してしまった。
……こいつ、泣くほど名前に嫌な思い出でもあるのか?
「よしよしルーちゃん……なんてエグい仕打ちを。ルーちゃんにとって、紅魔族っぽくない名前は最大のコンプレックス。それを、こんな大勢の人間の前で、悪びれもせずに指摘するなんて。……さすがは魔王軍、その名に恥じぬゲスですね」
自分の胸に顔を埋め、声を出し泣き続ける幼馴染の背中を撫でながら、めぐみんはデュラハンを睨みつける。
周囲の冒険者たちも、ひそひそとささやき合い始めた。
「……いくら魔王の幹部だからって、……さすがにあれはな」
「……なんつーか、年頃の女の子にコンプレックスの指摘は……」
「……あたしがあの子だったら、うん、やっぱり泣くかも」
そして。街中から集まった冒険者の群れを前にしても、気にする素振りすら見せなかった魔王の大幹部様は。
「あ、あれえー!?」
周りから注がれるいたたまれない視線に、素っ頓狂な声を上げた。
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「他人のコンプレックスを大衆の面前で嘲り、無力で罪のない少女を傷つける……魔王の幹部がそれでいいのですか!? 悪としての美学は、誇りはないのですか! 違うでしょう、人類の敵対者である魔王軍なら、そんな陰湿な真似なんてせず、己が鍛え上げてきた武力で冒険者を血祭りにするべきでしょうに」
何故かめぐみんはデュラハンに大して説教を始めた。
……ていうか、悪の組織の大幹部に向かって、悪の道を問うお前は誰目線なの? 後血祭りって発想が怖いんだけど。
「お、おい紅魔の娘。言いたいことを言うのは勝手だが、お前の胸で泣いているそいつを、まずは別の場所にでも座らせてこい! お互いに話はそれからだ」
ルミカに目の前でいじけられると、さすがの魔王軍もやりずらいらしい。確かにめぐみんとボスキャラとが対峙する姿を、後ろから見守るこちらとしても……。
ルミカがめぐみんにすがりついているせいで、魔王軍と戦う危険なシチュエーションのはずなのに、全然シリアスなムードが伝わらない。
「やれやれ、まだ理解していないんですかデュラさん? あなたがそういう態度をとると、上司である魔王の評価も下がるんです。誇り高き悪党として、もっと胸を張ってずっしりと、落ち着いて構えて下さい」
そもそも人類から見れば、魔王の評価なんて最悪だろうに。
「……そ、そうか、俺が間違っていた、すまなかっ、……そんなわけがあるか! それとデュラさんって呼ぶな!」
一瞬言いくるめられかけたデュラハンの様子を警戒しながら、めぐみんはルミカに下がるよう手で促す。
「……普通、普通、普通普通普通。そうよ、ルミカなんて紅魔の里では変わった名前扱い、里の外では紅魔族ぽくないって言われる。フルネームは長いからって、みんなに全然呼ばれない。あの時、あの時にゆんゆんを止められてさえいれば、……ぐす、私なんて所詮は何の力もないか弱い少女でしかない……紅魔族なのに魔法も使えない、村娘以下の雑魚でしかない。……そんな私に生きる価値なんて……もしかして、ルミカはいらない子?」
ルミカはめぐみんの指示通りにとぼとぼとこちらにくると、しゃがみ込み地面にのの字を書きながら泣いていた。
「ねえカズマ? 今から私が速攻で華麗にあのデュラハンを浄化したら、女神とお姉ちゃんとしての株が上がると思うの! どうかしら?」
お前に女神としての株なんざ、誰も期待してねえよ。俺はもう諦めた。
「なあカズマ、もしかして、私も今からあのデュラハンに頼めば、ルミカみたいな羞恥攻めをしてもらえるのだろうか?」
ダクネスはもう話すな! 悲しくなる。
「……俺は今、この状況でそんなことが言えるお前らをすごいと思う」
俺がアクアとダクネスに呆れていると、面倒くさそうにデュラハンが言った。
「……ちっ、まあいい。俺はお前ら駆け出し冒険者に、わざわざちょっかいかけにきたわけではない。この地には、ある調査にきたのだ。しばらくはあの城に滞在することになるだろうが、これからはもう爆裂魔法は使うな。いいな?」
「それは、遠まわしで私に死ねと言っているんですか? 世間にはあまり知られていないかもしれませんが、紅魔族は1日1回爆裂魔法を撃たないと死ぬのです」
……それが事実なら、何回も爆裂魔法を打つ手伝いをしている俺は、めぐみんの命の大恩人である。
「嘘をつくな! そんなに爆裂魔法をポンポン打てるやつがいてたまるか! 俺も生前は騎士だった、弱者を刈り取る趣味はない。俺の忠告を素直に聞き入れるのならば、今までの下劣な行動も水に流そう。だが、これ以上陰湿な嫌がらせを続けるのなら、お前は絶望を味わうことになるぞ?」
邪悪な気配を漂わせ始めたデュラハンに、めぐみんは1歩も引かず怒鳴り返す。
「陰湿な嫌がらせとはこっちのセリフです! あなたが近所にいるせいで、私たちは仕事もろくにできないんですよ。……何より、
「ふふん、任せておきなさいな。私があいつを惨たらしく浄化してあげる」
めぐみんに丸投げされたアクアは、ヤンキーのように首をゴキゴキ鳴らして、魔法を使う気満々だ。
セリフと態度が完全に悪役なんだが、それでいいのか女神。
「違うし……泣いてないし。こっち、ねえこっち見てめぐみん! 私だってアンデッドスレイヤーと呼ばれてたりするんだけど、だけどっ!」
いつの間にか立ち直っていたらしいルミカが、クイクイッとめぐみんのローブの袖を引く。
「ほう、紅魔の娘の切り札はアークプリーストか? 魔王軍の幹部であるこの俺に、駆け出し冒険者の浄化が通用するとでも? 確かにアンデッドにとって、アークプリーストは天敵だが、だからこそ弱点は対策済みだ。よし、ここは1つ、愚かな紅魔族に魔王軍の恐ろしさを教えてやろう!」
アクアが魔法を称えるよりも速く、デュラハンはめぐみんを指差し叫ぶ。
「なんじに死の宣告を! お前は1週間後に死ぬだろう!!」
デュラハンが呪いを放つのと、ダクネスがめぐみんの襟首を掴み、自分の後ろに隠したのは同時だった。
そしてダクネスの行動によって、めぐみんの袖を掴んでいたルミカは、ダクネスの前にズッコケた。
「なっ!? ダ、ダクネス!」
めぐみんが叫ぶ中、ダクネスの体がほんのりと黒く光る。ちくしょう、やられた!
「……ん? なんともないのだが」
死の宣告を受けたダクネスだったが、体に違和感はないらしい。
「ダメよダクネス! 汚らしいアンデッドが移っちゃったかもしれないのよ! きちんと調べないと」
呪いを掛けられたダクネスをアクアが触診する中、デュラハンは勝利を確信したように宣言する。
「その呪いは今は何ともない。若干予定が狂ったが、仲間同士の結束が強い貴様ら冒険者には、むしろこちらの方が辛かろう。……よく聞け、紅魔族の娘よ。このままではその女騎士は1週間後に死ぬ。愚かなる紅魔族よ、刻々と迫る死に怯える仲間の姿を見て、己の浅はかさを悔やみ、思い知るがいい! クハハハハハハッ!」
「……わ、私のせいで、ダクネスが……」
デュラハンの言葉にめぐみんが青ざめる中、1人の人物が声を上げる。
「……あ、あの、すいませんっ! えっと、その、真剣なお話中、本当に申し訳ないんですが……うぅ、何で私こんなに注目されてるの、でも頑張って言わなきゃ」
プルプルと震えながら声を上げたのは、さきほどめぐみんに濡れ衣を着せられた女の子だった。
「大丈夫だから落ち着きなよ、半泣きで震えてるけど、ハンカチ使う?」
そんな少女を心配し、ハンカチを差し出すルミカ。
「あ、ありがとうございまって……きゃあああっ! え、何それ血!? あ、あなたこそ大丈夫なのっ!」
ルミカに話しかけられ、落ち着くどころか余計にパニックになる女の子。疑問に思ってよく観察すると、ルミカの顔がホラー映画のキャラのように血まみれになっている。
……そういえば、顔面からコケてたもんな。
「安心して、こんなの掠り傷だから。掠り傷どころか、ただの鼻血だから!」
「……おい、そこの娘はなんなんだ? 本当になんなんだ……」
人間って、あんなに大量に鼻血出て平気だっけ? パニクる少女を安心させるために、笑顔でピースするルミカ。
そんな血塗れで笑う彼女の姿に、俺たちだけでなく魔王の幹部でさえ引いていた。
「大丈夫なのっ! ねえ大丈夫なのルミカ! そのレベルの出血を掠り傷で片付けるなんて、精神的な意味で心配になるんですけど……とにかくこっちきてっ! 今すぐヒール掛けてあげるからこっちきてー!」
「アクアったらどうしたの? 冒険者が血まみれになるのなんて、日常茶飯事でしょ?」
慌てふためくアクアの反応に、小首をかしげるルミカ。
ダメだこいつ、魔女なのに脳みそ筋肉というか女子力が足りない!
「……まさか、さっきの呪いが精神にまで影響してるんじゃ……どうしよう」
ルミカを悲しそうな目で見つめ、濡れ衣少女がぽつりと呟く……えっ、おいちょっと待て、今呪いとか言ったかこの子。
「お、おい、呪いってどういうことだ?」
「あの、私見たんです。クルセイダーの前で倒れていた、あの人の体がぼんやりと光っていたのを。……みんな女騎士さんに注目してて、気がついてないみたいだったから、だから私、伝えなくちゃって」
俺の問いに、ビクビクしながら答える魔法使いの少女。
なんてこった、マジかよ。
ダクネスの前で転んでいたルミカにまで、呪いが当たっていたなんて。
「なるほど。つまり私が咄嗟に身を呈して守ったおかげで、呪いはダクネスと半分こになったってことかな? よかったねダクネス、2週間に寿命が延びて。この間になんとか解呪の方法を……」
さらっと自分がコケたことを誤魔化そうとしつつ、ダクネスの延命を喜ぶルミカだったが。
「ほぇ? 呪い、……私にも呪い? ……う、嘘でしょっ! 1人に掛けるはずだった呪いが、2人に掛かっちゃったんだし、死の宣告は不発になってるかも。……きっとそう、そうだよね、そうだと言ってよデュラさんっ!」
現在自分が危機的状況にあることを理解したルミカは、顔色を真っ青にして人類の敵対者へと語りかける。
「ふむ、そうだな。こんなことは俺も初めてだが、……失敗どころか、逆に余命が半分になっている可能性すらある」
淡々とした口調で答えるデュラハン。
「……あああああっ! ……うあああああっ!」
希望を打ち砕かれたルミカは、地面に座り込み絶望の叫びを上げる。
「な、なんてことだ! つまり貴様は、私たちに呪いを解いてほしくば俺の命令を聞けと! 命以外の全てを差し出せとっ! つまりはそういうことなのだな」
「えっ、何それ」
……つまりどういうことだよ。
ダクネスが何を言ったのか理解できていないデュラハンが、素で返した。俺だって同じ気持ちだ。
ダクネスがこれから何を口走るのか、なんとなく予想できるけど聞きたくない。
「くっ……! 呪いなんかに、絶対に呪いなんかに、私たちは屈したりしない……屈してなるものか……! でも、どうしようカズマ! 見るがいい、あのデュラハンの欲望に満ちた目を! あれは私たちをこのまま城へと連れ去り、『ぐへへへ、いやらしい体しやがって! 呪いを解いて欲しくば黙って言うことを聞くがいい。ぐへへへへ、騎士の誇りが重要なら別に拒否してもいいのだぞ? ただしその時は、お前の代わりにもう1人の小娘が、ひどいことになるだけだ。デュフフフ、デュハハハ、デュラハハハッ!』と、予想もつかないマニアックなプレイを要求する変質者の目だっ!」
初対面の相手から大衆の前で変質者呼ばわりされたデュラハンは、乾いた声を漏らした。
「……えっ」
気の毒に。今なら俺、あの魔王軍幹部と酒飲みながら朝まで語り合える気がしてきた。
つーかデュラハンだからって、デュフフとかデュラハハハハなんて笑い方しないだろ。
これで変なイメージが定着したら、あの幹部泣くんじゃないだろうか。俺なら確実に引き篭もるぞ。
「く、やめろっ! ルミカには手を出すなっ! この私の体は好きにできても、心までは自由にできるとは思うなよ! 安心しろルミカ、騎士として、仲間として、お前のような子供を変態おやじの好きになどさせないっ! 城に囚われ、仲間を守るために魔王の幹部の理不尽な要求を飲まざるを得ない女騎士とかっ! くー、どうしよう、どうしようカズマっ!! 予想以上に興奮するシチュエーションだ! カズマと出会えて、本当によかった、……この少しさえない男と行動していれば、理不尽なイベントに巻き込まれるのではと、期待したのは間違っていなかった。私はこのような展開を待ち望んでいたのだ」
……こいつ、そんな風に思ってたのか。さえないやつで悪かったな。
「行きたくはない、行きたくはないがこれも正義のため。ルミカをロリコン幹部から守るためだから仕方ない!」
「……ないわー。ロリ扱いした上に性癖の理由に使われるとか、……心がゾンビになりそう、人って本気で絶望すると涙すら出ないのね、……知りたくなかった」
感情のない機械みたいなささやきがした方を見ると、暴走するダクネスの姿を、ルミカが死んだ魚のような目で眺めていた。どうやら死の宣告をされた直後に、ダクネスの不用意な発言が少女の心に消えない傷を生んでしまったようだ。
「ギリギリまで抵抗してみるから、私以外は街で待機しておけ! では、行ってくる!」
「任せた! お願いダクネス! 頑張って私の分まで呪いを解いてもらえるように、好きなだけデュラさんのお城にいていいからね。敵のアジトに潜入するなんて、すごいなーカッコイイなー、憧れちゃうよ! この際私も一緒に行こうかな、にゃっほーい!」
「えええっ!」
「止めろ、絶対行くな! ルミカはヤケになるな、そしてダクネスを煽るな! デュラハンの人が困ってるから」
嬉しそうに城へ走り出そうとするダクネスと、精神が麻痺しているルミカをなんとか引き止めると、安心した様子のデュラハンが目に入る。
……俺の仲間が、なんかごめん。
「と、とにかく! これに懲りたら城に向けて爆裂魔法は撃つな! 紅魔族の娘よ、仲間の呪いを解いて欲しくば、我が城にくるがいい! もしも最上階の俺の部屋まで辿りつけたなら、2人の呪いを解いてやろう……だが気をつけろ、城内には配下のアンデッドナイトたちが山ほどいる。駆け出し冒険者ごときに、果たして突破できるかな? クハハハハハハッ!」
デュラハンはそう宣言して、馬に乗り哄笑を上げながら走り去るのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「待てよ、めぐみん。1人でどこ行くつもりだ」
俺が街の外へ出ようとするめぐみんの背に呼びかけても、めぐみんはこちらを振り向こうともしない。
「……止めないで下さいカズマ、今回の責任は私にあります。今から廃城に殴り込んで、デュラハンに爆裂魔法を食らわせて! ダクネスとルーちゃんの呪いを解かせてやるのです。絶対に……2人を死なせたりしません」
めぐみんはかなり責任を感じているらしく、その声は震えていた。
「止めねえよ、俺も行くに決まってるだろうが。責任を感じてるのはお前だけじゃないぞ。俺もあそこが噂の幹部の根城だって、気づけなかったし」
よく考えれば、毎日最強の攻撃魔法を受け続けて壊れない古城とか、……怪しいにもほどがある。少し前のやり取りが、脳内にフラッシュバックした。
「カズマさん、本当にお願いしますね? アクセルの命運は、あなたの肩にかかっているんですから。なんちゃって」
すいません受付のお姉さん。アクアだけではなく、俺も気をつけるべきでしたっ!
「それにお前だけだと雑魚相手に魔法を使ってそれで終了。デュラハンの部屋なんか絶対辿り着けないぞ?」
「……しょうがないですね、死んでも知りませんよ?」
「知らなかったのかめぐみん、男ってやつはいつだって格好つけたがるものなんだぜ」
「格好つけるのはかまいませんが、気をつけて下さい。アンデッドナイトには、武器があまり効きません。なので、私の魔法がこの作戦の要になるでしょう。私がカズマを守ってあげます……いつも迷惑をかけていますが、こんな状況です、ドンと私を頼って下さい」
俺の提案にかなり悩んでいためぐみんだったが、渋々納得してくれた。
「確かに鎧装備した相手に片手剣じゃ、大して役に立たないかもしれない。だから別の作戦を考えよう。例えば敵感知スキルと潜伏スキルを使って、モンスターを全部無視してこっそりボス部屋に向かうとか。もしくは、毎日城に通って1階から順に爆裂魔法で敵を殲滅して行けば……」
俺の言葉に希望の光が見えてきたのか、めぐみんの表情も少し明るくなった。
「待って2人とも。あなたたちがそんな危険なことをする必要はない。……私が1人で行って、全てを終わらせてくるよ」
声が聞こえた方を振り返れば、ルミカが決意に満ちた顔で立っていた。
■■■ルミカ視点■■■
予想外の展開に、集まった冒険者たちは呆然と立ち尽くしていた。
死の呪いを掛けられた私も、気を抜けば今にも倒れそうな状態だ。どうしよう、私に残された時間は少ない。
おそらくデュラハンの城に乗り込み、正攻法で最上階に辿りつける可能性は限りなく0。めぐみんの爆裂魔法で壊せないってことは、強力な結界で城が守られているに違いない。結界さえなければ外壁を上って、直接最上階の窓を壊して突入するのだけど。
……詰んでる、完全に死んだな私。
もう遺言とか財産の整理とかしている時間も惜しい。
こうなったらヤケよ、呪いで死ぬくらいなら全財産でプリンを買い占めて、いっそ食べ過ぎで死んでやる! 見ていろデュラさん、私はあなたに屈しない。
絶望した私が死に際のカッコイイ言葉を考えていると、決意に満ちた顔のめぐみんが1人で街の外へ向かおうとしていた。
「……止めないで下さいカズマ、今回の責任は私にあります。今から廃城に殴り込んで、デュラハンに爆裂魔法を食らわせて! ダクネスとルーちゃんの呪いを解かせてやるのです。絶対に……2人を死なせたりしません」
私たちのために……めぐみん、あんたって子は。涙が出そうなくらい嬉しい。
「待って2人とも。あなたたちがそんな危険なことをする必要はない。……私が1人で行って、全てを終わらせてくるよ」
だからこそ、私は死地へ向かおうと決意した仲間を呼び止めた。
「……何を言ってるんですか、ルーちゃん」
私の言葉に、困惑するめぐみん。
「お、おい。恐怖心で気でもおかしくなっちまったのか?大丈夫だ、俺たちに任せてお前はダクネスとアクアと一緒に待ってろ」
心配そうにこちらを見るカズマ。彼の言う通り、今の私は死に怯えて心が麻痺しているのかもしれない。
「もしも掛けられた呪いが、1週間の半分になったとしたら。コツコツ1階から攻略してたら、きっと間に合わない」
「安心して下さい。あなたには爆裂魔法を使える、最強の幼馴染がいるんですから」
めぐみんの言葉は、いつだって私に勇気をくれる。この子のためなら、がんばれる!
「ダメだよ。もし無事に最上階に辿りつけたとしても、室内で爆裂魔法なんて使ったら城が崩れて、カズマたちが死んじゃう!」
本当にやめてほしい。私はそんなの絶対にいやだ。
「だから私が魔法を使うよ、……禁じられた力を」
「何バカなこと言ってんだ。爆裂魔法しか使えないルミカに、いったい何ができるって言うんだよ」
「カズマこそ、バカなことを言わないでよ。できるに決まってるでしょ、むしろ私は、……きっとそれしかできないもの、ふふっ」
カズマの言葉に思わず笑ってしまった。
「……できる、それしかできないって、まさか! ルーちゃんっ!!」
顔を青ざめさせるめぐみんと視線を合わせ、私はゆっくりと決意を口にした。
「ポンコツなアークウィザードの私でも、魔王の幹部を道連れにすることくらいならできる。全魔力と生命力を振り絞れば、爆裂魔法が打てる、……駆け出し冒険者の命1つで、魔王の幹部を倒せるなんて、安い買い物よね」
呪われて短い命なら、ドラマティックな最後がいい。恋焦がれた爆裂魔法を撃ってから死にたい。
めぐみんとデュラハンの因縁は、私の死を以て終わらせましょう。
「安心してめぐみん。あなたの敵は、私が地獄に連れて行くから。あの時言ってくれたこと、めぐみんは覚えてる? カッコイイから私も言わせてもらうね。めぐみんは死なせない、……私が守るから」
「そんな昔のことなんて、覚えていません、忘れました! ……だから、ルーちゃんが死ぬ必要なんてっ!」
今にも泣き出しそうな親友の顔を見ると、覚悟が鈍りそうになる。なので私は、思ったことを今全部言っておくことにした。
「信じてほしい、あなたが愛する爆裂魔法は最強なのだと。そして、そんな魔法を放てる、あなたの幼馴染も最強であることを。そして時々は、私のことを思い出して下さい、ルシフェリオン・ミッドナイト・カタストロフィは……友達のために命を掛けられる、最高にいい女だったって!」
私の命が今もあるのは、この子が救ってくれたから。獣に捕まりそうになったあの時、彼女が見捨てず抱きしめてくれたから。
だから私は誓ったんだ、どうせ死ぬならめぐみんのために死んでやるって!
覚悟しろデュラハン、私の幼馴染を殺そうとしたこと……地獄で懺悔させてあげる。
「……カズマにお願いがあるの。私の困ったお姉ちゃんたちをよろしく。3人とも、他のパーティーじゃやっていけないと思うから。さようならめぐみん、また来世でも友達になってくれると嬉しいな。……例え何度生まれ変わっても、ずっとずっと大好きだよ」
私はそれだけ言って、2人の方を振り返らずに駆け出した。
「…………痛い!!!」
が、駆け出そうとした1歩目で私はコケた。後ろを振り向けば、いつの間にかめぐみんに足首を掴まれていて。
「……ルーちゃん、あの時のやりとりを覚えていますか? あの時伝えたクールなセリフを、……あなたが私に言わせようとしたセリフを、たった今思い出しました。せっかくなので、冥土の土産に教えてあげます」
冥土の土産とかどう考えても、ろくなことじゃない気がするけど。例えめぐみんに何を言われても、私はもう止まらない……!
「私は友達を見捨てません。危ない所でも、一緒に遊びに行くのが友達です。例えそこが地獄であったとしても、2人で回れば楽しい気がしませんか」
掴まれていない方の足を前に出す。
「来世でまた会おう、我が友ルミカよ。私たちは何度生まれ変わっても友達です。そんな大好きな親友の最後に、そばに居させてほしいと言うのは、私の我がままでしょうか?」
可愛く小首を傾げるこの娘に、これ以上話させてはならない。動きなさいルミカ、耳を傾けてはダメ。
「こうも言いましたね、今度はもっと頭のいい子に生まれて下さい。でも私は最近思うのです、世話の掛かるバカな子ほど可愛いと」
聞くな、聞くな、聞くな!
全力で足を前に出せば、それだけで振り解けるはずなのに。私はこの子を守りたいから、あのデュラハンをなんとしても道連れにしなきゃ。
しなきゃいけないのに、……たった一歩が踏み出せない。
「今ならはっきり言えます。私はルーちゃんのためなら死ねるって。むしろ、あなたを1人で死なせるくらいなら、……私も一緒に死んであげます」
……!
「……ぐす、……ひっぐ、……めぐみんのバカ。全部覚えてるじゃない」
ダメだ、もう無理だよ。さっきから
すすり泣く私を後ろから抱き締め、めぐみんはさらに続ける。
「私たちは仲間じゃないですか、地獄だろうとどこだろうと、逝く時は一緒です……」
どうしよう、このイケメグミン。危うく惚れるところだった。
「……じゃあ行こうか。2人で」
「私とルーちゃんが力を合わせれば、きっとなんとかなりますよ」
めぐみんと並んで街の外へと再び歩き始める。
「おいおい、誰か忘れてねえか。俺もお前らの仲間だろうが。爆裂魔法を撃って動けないめぐみんを、ルミカが背負って帰れるのか?」
そう言って、カズマは私たちの横を歩き出した。
「……どいつもこいつも、バカじゃないの……でも……ありがと……」
私は2人に聞こえないように、小さくお礼を言った。
「気にすんな。デュラハンが街に来たのは、俺やめぐみんのせいだ。幹部をキレさせたのはルミカにも責任がある。なら、俺たち3人で落とし前をつけようぜ」
私のささやきが聞こえていたらしい。カズマが励ましてくれた。
「……バカじゃありません、私は学校の主席でした」
めぐみん……そこは聞かなかったことにするのが、優しさだと思う。
これからもみんなと笑い合うために、親友を助けてくれたダクネスを死なせないために。私たちは、戦うんだ。そう私が改めて決意を固めていると……。
「『セイクリッド・ブレイクスペル』!」
気合の入ったアクアの声がした。気になってそちらへ振り向けば、……そこにはアクアに魔法を掛けられ、淡い光を放つダクネスがいて。
……あれ?
「はい、次はルミカね。『セイクリッド・ブレイクスペル』! オッケー、これでもう大丈夫。呪いは解いたわ」
……あれ? ……え、嘘!
「ありがとうアクア。……こんなに簡単に解呪できるなら、もっとこの状況を楽しんでおきたかったな」
「美しく気高い完璧なアークプリーストであるアクア様に掛かれば、解呪なんて朝飯前なんだから。魔王の幹部の呪いすら簡単に解いちゃう、私ってすごくない? みんな私が女神だって信じてくれる気になったでしょ! 尊敬しちゃって、持て囃してっ! どうせならこの機会にアクシズ教徒に……」
ダクネスとアクアが何か言ってたけど、とあることで頭の中がいっぱいで、私はそれどころではなかった。
どどど、どうしよう! その場の雰囲気でめぐみんに、いろいろとはずいこと言っちゃったよ私!
「……ルーちゃん……」
私と似たような考えに辿り着いたのか、頬を赤らめためぐみんがこちらを潤んだ目で見つめてきて……無理です、目が合わせられません!
うう、最後だと思ったから真顔で大好きとか言っちゃったし……めぐみんも私のこと、大好きって言うし。私のためなら死ねるとか、もはや完全に愛の告白なのでは?
……私とめぐみんが結婚したら、お父さんはいったいどっちになるんだろう?
「えっ、ちょっとルミカ? どこ行くの?」
心配そうなアクアの声が、後方から聞こえる。気づけば私は誰もいない場所を目指して、全速力で走り出していた。
バカな妄想を、頭から追い出すために。
どうしようもない、羞恥心を忘れるために。
恥ずかしがるめぐみんの横顔を見てからずっと止まらない、……この胸の鼓動を誤魔化すために。
「私があの子にときめくだなんて、どう考えてもデュラさんが悪い! 全部呪いの影響なんだもんっ!」
そんな戯言を吐き捨てて、私はしばらく走り続けた。
ちなみにこの後、数時間我武者羅に走り続け、街の路地裏に倒れこんでいた私が。探しにきたアクアに背負われて帰る中、ずっと叱られたのはまた別の話。
おのれ魔王軍! この借りはいつか必ず、100倍にして返してやる。
今回の解説
・ダクネス
性癖がおかしい子。今までダクネスだけセリフが少ないような気がしたため、今回暴走させられた。ちなみに第1期題3話のオーディオコメンタリーによると、そっちの趣味はなくても親友のクリスがどうしてもと言うなら、百合も考えてくれるらしい。
・めぐみん
元祖頭のおかしい子。仲間思いのめぐみんなら、一緒に死んでくれたりするはず。今回最後の方に少しだけ百合フラグが立った。
・ルミカ
名前とか考え方がいろいろおかしい子。血まみれで笑顔になることを気にせず、ダクネスの変態行動を気にしなくなったり、女子力がおかしい方向に成長中。
自爆フラグ、百合フラグ、魔王軍への理不尽な復讐フラグなど、いろいろなフラグを建設中。目指せ1級フラグ建築士。
・ベルディア
圧倒的被害者。原作よりも紅魔族が1人増えたことにより、さらなる災難がデュラハンへと襲い掛かる! 今回の呪いで地味にルミカ覚醒フラグも立ててくれたぞ!
・引越し祝いの花火
この世界での花火とは炸裂魔法や爆発魔法などを空に打つことを、カズマさんは知らない。でも人の家に花火を打ち込むのはどう考えても頭がおかしいので、あながち間違ってはいない。
今回は文章が長くなってしまったので、解説を入れてみました。
最後に作者もこの前流行していた女子高生診断してみました。こういう女の子が書いていると思います。
3年B組 刃こぼれした日本刀ちゃん
身長…156cm
髪…オレンジでくるくる
目…黒くて猫っぽい
得意科目…情報
バスト…C
特徴…先生に好かれてる
性格…病んでる。やさしい子とは相性よし
性格が病んでるとか、作者が1番頭がおかしい子かもしれない。