あの後、ジャイアントトードに捕食された私たちは、カズマによって救出された。カエルの中は臭いだけで面白くなかった。少しだけ楽しそうと思って、のんきにめぐみんに手を振っていた過去の自分を殴りたい。
「ぐすっ……。生臭いよう……」
アクアが泣いている。
「カエルの体内って、臭いけど快適な温度ですね。いらない知識が増えました」
自分の限界を超えて爆裂魔法を使っためぐみんは、魔力だけでなく体力も失ってカズマにおんぶされている。
「むにゃむにゃ。もう諦めなよカズマ」
そして、私は寝たふりをしています。アクアが背中におんぶしてくれて快適だよ。
「こいつ、どんな夢見てるんだ?」
いやだなカズマ、夢なんて見てません。現実を見ています。
私は考えた。カエルの腹の中でよく考えた。このままだと、私が魔法使い(笑)であることがバレる。そして、答えはすぐに出た。しばらく意識が戻らなかったら、うやむやになるのではないかと。
「これからは、他の魔法で戦ってくれよ。爆裂魔法は強敵が現れるまで封印だ、まさに最終兵器だ」
カズマが、めぐみんにそう言った。これはナイスなタイミング。
「使えません」
そう、めぐみんは爆裂魔法しか使えないし、使わない。そして、こんな大問題が発覚すれば、私の存在なんて記憶の底に沈む。
「ごめん。よく聞こえなかった。もう一回言ってくれ」
カズマは現実を認めたくないようだ。
「……私は、上級魔法も中級魔法も下級魔法も使えません。爆裂魔法以外は使えません。笑いたければ、笑うがいい」
自嘲ぎみに笑うめぐみん。
「笑えねえよ、いろんな意味で」
どうすればいいんだと落ち込むカズマ。
「ふふふ。ふははははは。愚かな」
大爆笑する私。
「おい! こいつ本当に寝ているのか! 実は意識あるんじゃないか」
やばい。カズマが私の完璧な寝たふりに気がつきそうだ。
「むにゃむにゃ。愚かな人間たちよ、我に戦いを挑むと言うのか。すやすや」
「カズマ。その子マジで寝てます。夢の中で人類との最終決戦に挑む魔王にでもなっているんでしょう」
「何だ、寝てるのか。紅魔族は寝言まで中2病なんだな」
危なかった。カズマもめぐみんもバカで助かった。私は貝になる。砂浜に落ちている貝殻のように、存在感を薄くするのよ。
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「あははは! 俺たちには優秀な魔法使いがいて幸せだぜ! これからもよろしくな!」
その後、めぐみんをパーティーから追い出そうとしたカズマは、女の武器を使った紅魔族に敗北した。めぐみん、なんて恐ろしい子。
「さて、俺はクエストの報告に行くからお前ら2人は風呂入って来い。生臭いぞ」
よし、私は空気だ。カズマなんて完全に私の存在を忘れている。このままアクアに風呂まで運んでもらえば、私の勝ちだ!
「さて、ではルーちゃん」
めぐみんが私を睨んでいる。あれ? おかしいぞ。私は空気と一体になっているはず。
「はっ! 何でかしら、私今までルミカを背負ってるの忘れてたわ!」
私の盗賊もびっくりの潜伏スキルが気がつかれるはずがない。私を背負っているアクアですら、めぐみんが言うまで気がつかなかったのだから。
「起きているのは分かってます。いろいろ教えてもらいましょうか」
確かに我が潜伏スキルを見破ったことは褒めてあげる。でも、私はペテン師。例えどんなことをされても、寝たふりを止めたりはしない。
「すやすや」
「ねえ、めぐみん。ルミカは寝てるんだから、起したら可愛そうよ」
「そうだぞ。こいつはカエルと戦って疲れてるんだ。休ませてやれ」
アクアとカズマからの援護射撃! 私の演技力を甘く見たね。さあ、どうするのめぐみん?
「騙されないで下さい! ルーちゃんは変な特技をたくさん持っています! 中でも人を騙すのは大得意です! この子の通り名に白銀のペテン師なんてものもあったはずです」
「確かに、ギルドのお姉さんがそんなこと言ってたな」
まずい、めぐみんの説明にカズマが!
「それにアクア。いくら何でも、背負っている相手のことを忘れるなんて。おかしいと思いませんか? 寝ている人間が気配を消すなんて、不自然です」
「すやすや。アクアお姉ちゃん、かくれんぼだよ。むにゃむにゃ」
「夢の中でかくれんぼしてるからじゃない? だから気配が薄くなったのかも」
がんばれアクア! 私の作戦はあなたにかかってる。
「仕方がありません。この手だけは、使いたくなかったんですが」
ふふふ、何をしようとむだむだむだ! 貴様の負けだ、めぐみん。
「起きないと、ルーちゃんにキスをします!」
バカめ! 私にそんな脅しが通用するとでも思っているの?
「ルーちゃんが悪いんですよ? あなたが可愛すぎるからいけないんです」
え? え? え? え? 嘘でしょ?
「お、おいめぐみん! お前ルミカに何をするつもりだ! いや、別に俺は何をしても止めないが。むしろありがとうございます! キマシタワー」
おおお、落ち付け! カズマの反応からして、これはマジなの? 私の初めてのキスがこのままだと幼馴染の女の子に!
「どうしようカズマ! めぐみんってば本気よ! 目がマジよ!」
アクアまで慌て始めた。やばいやばいやばい。
だめだよどうしようだって私たちは女の子だよ!
「昔話だと、眠り続けるお姫様は王子様のキスで目を覚ますそうです」
違う違う違う! 私は男の人が好きなの! 確かにめぐみんは時々男らしいけど! こんなのはだめだよ! 恥ずかしいよ! 別に恥ずかしくなくてもだめだけど!
「私も初めてなんですよ、誰かにキスするなんて。でも、ルーちゃんが相手なら。初めての相手が、女の子でもいいかなって」
どうする? どうするのが正解なの? 助けて神様、私に力を!
女神エリス様からの解答。友達とキスするくらい、大丈夫です。私も酔っ払った友達の女騎士にファーストキスを奪われました。だから、女同士でキスなんて普通です! 普通なんです! 全然私は泣いてなんかいません! ショックなんて、女神が受けるはずないじゃないですか! 私みたいに友達に突然キスされて、恥ずかしい思いをする人がもっと増えちゃえばいいんです!
めっちゃ気にしてるじゃん! 女神めっちゃ気にしてるじゃないですか! ていうか、エリス様の友達女騎士なの! まあ、お互いいろいろ大変だけど、がんばりましょう。きっとどんな関係になっても、友情に変わりはないと思います。
女神アクア様からの解答。どんな性癖を持っていたとしても、そこに愛があり犯罪でないかぎりアクア様は許します。相手が悪魔やアンデッド以外なら、お金が恋人でも仕事が恋人でもペットが恋人でも許します。だからあなたも、アクシズ教に入りませんか? 今入信すると、アクア様が丹精こめて作った、手作りデストロイヤーぬいぐるみがもらえます。
何なの、手作りでぬいぐるみ作る女神って。アクア様って水の女神でしょ! くれるなら、水関係のものにしてよ! だいたい、お金が恋人とか仕事が恋人って恋愛関係の話じゃないでしょ!
でも、デストロイヤーぬいぐるみか。すごくほしい。
「ルーちゃん、覚悟はいいですか?」
ちくしょう! 神様なんて大嫌いよ! アドバイスにならなかったじゃん! もう誰でもいいから助けて!
街中に住むリッチーさんの解答。あなたのやりたいようにやればいいんです。自分が後悔しない生き方をして下さい。アンデッドの私には、こんなアドバイスしかできませんが応援しています。
何故リッチーが街中に住んでいるの! どうしてリッチーなのに神様よりも、しっかりしたアドバイスくれるの? リッチーに負けてるけど、大丈夫なのこの世界の神様! でも応援してくれてありがとう。私がんばるよ。
「起きるなら今のうちですよ。起きないとすごいキスをしちゃいます」
ありがとう、街中に住むリッーチーさん。私は覚悟を決めました。友達とキスくらい平気だよ! それに、私もめぐみんになら……キスくらいされても。
「カエルの粘液で顔とかもヌルヌルだけど、仕方ないですよね。ルーちゃんの初めては、生臭い味のすごいキスになりますけど。仕方ないですよね」
「仕方ないですませないでよ、何考えてるのめぐみん! 雰囲気とか気にしてよ! 100年の恋だって一瞬で覚めちゃうから! 私嫌だからね、これ以上ヌルヌルにされたくないもん! わあああん!」
私はめぐみんに掴みかかった。
「本当に起きてたのか。ちっ、もう少しで百合が見られると思ったのに」
今この男なんて言ったの! 舌打ちしたんだけど!
「ひどい。ルミカが私の背中蹴った。ここまで運んだのお姉ちゃんなのに」
ごめんアクア。でも、私はどうしてもめぐみんを殴らないといけなかったの。そして、そのお姉ちゃんごっこ続いてたんだね。
「ふふふ、すいません。冗談ですよルーちゃん」
「良かった、冗談だったんだ」
ああ、良かった。あやうくヌルヌルにされるかと思った。
「私が友達に、ひどいことをするはずないじゃないですか」
そう言っためぐみんの顔を見ると、少し顔が赤くなっていた。
「嘘だ! 絶対嘘だ! 私が起きなかったら、確実にすごいキスをしていたはず!」
「さて、ルーちゃん。寝たふりもバレちゃいましたし、教えてもらいますよ?」
どうしよう。怖い幼馴染が私の腕を掴んでいる。
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「ルーちゃんは、魔法が使えないんですか?」
いきなり本題に入るめぐみん。私は幼馴染に腕をロックされている。逃走するのは難しそうかな。
「それにしても、驚いたよ。どうして私の盗賊もびっくりな潜伏スキルがめぐみんには通用しなかったの?」
あれについて話すには、心の準備が必要になる。覚悟を決めるまでの時間稼ぎのついでに、疑問を解消しておきたい。
「簡単な話です。アクアやカズマが愚かだっただけのこと」
私の質問に答えるめぐみん。
「覚えておけめぐみん! 男女平等主義なカズマさんは、生意気な魔法使いに顔面パンチができる男だぜ」
格好つけた顔で、とんでもないクズ発言をするカズマ。
「お姉ちゃんには分かる! めぐみんはルミカのことが心配で仕方がなかったのよ。だから、ルミカに常に意識を向けていたの。おかげでルミカの気配が突然薄くなったことに一人だけ気がつけたのね。女神の目は誤魔化せないわ!」
適当な推理に胸を張るアクア。私の潜伏スキルに、誤魔化されていたくせに。女神の目は節穴に違いない。
「べべべべ、別にルーちゃんのことなんて心配してないですから! 勘違いしないで下さいアクア! ただ私は寝顔が可愛いなと思っただけですから!」
めぐみんが心配してくれたのは嬉しいし、恥ずかしくて言い訳しちゃうのも分かるんだけど。寝顔が可愛かったって、言い訳になるの?
「カズマさん、これがツンデレってやつなのかしら? 私初めて見たわ」
「ツンデレ評論家の俺に言わせれば、まだまだかな。めぐみん、もっと修行しろよ」
ツンデレなる意味不明なことを言うアクアとカズマ。
「どうしようカズマ! アクアの言ったことが当たってたなんて! バカっぽいアクアの言うことが当たるなんて! 明日の天気はファイアーボールかも!」
雰囲気を変えるために私はバカなことを言ってみる。
「落ち着くんだルミカ、アクアだって、1年に一回くらいは正しいことを言うんだぞ!多分だけど」
「2人とも。私のシャーロックホームズも土下座する推理力に文句でもあるの? 女神だって怒るのよ? ゴッドブローで泣かされたいの?」
真っ赤な顔で言い訳するめぐみん。殴り合いをするカズマとアクア。
そして、こっそり逃げ出そうとする私。逃げ足の速さから神速の堕天使と呼ばれる、ルミカ様を舐めないでよ。
「クックックック! フハハハハ! アアッハッハッハ! また会おうめぐみん!今回は引き分けだよ」
「なっ! 確かに私はルーちゃんの腕を掴んでいたはずなのに! どうして」
驚愕するめぐみん。
「愚かね、めぐみん。紅魔族随一の魔法使いが、聞いて呆れるわ」
私は不敵に笑った。
「愚かなのはお前だよ。どうして黙って逃げなかったんだ」
空気の読めないカズマ。やれやれ、これだから突っ込みキャラってやつは。
「分からないの、カズマ。お約束だからに決まってるじゃないの」
何故私は黙って逃げなかったのか。その理由は、悪党が逃げる時のお約束を守るためであり、決してめぐみんに後で怒られるのが怖かったわけではないのです。
「分かったわ。これはルミカの魔法よ! きっと彼女は、怒った幼馴染から逃げるため専用の魔法を覚えているのよ!」
さっきはそれっぽいことを言っていたのに。やはりアクアはアクアだった。
「なるほど。そんな特定のやつしか使わないような魔法があるのか」
あれ? カズマってバカだったの? いや、魔法に詳しくないだけか。
「まさか、テレポートを使ったんですか」
めぐみんは勘違いをしている。私はテレポートなんかできない。仕方ない。脱出手段を相手に教えるのも、またお約束だからね。
「そんなわけないでしょ? 何故なら、私は魔法が使えないのだから!」
クールに決まった。私のあまりの格好良さに、3人とも言葉も出ないようだ。
「「「ええええええ!!」」」
絶叫する3人。まったく、どうしたんだろう。何をそんなに……驚いて……。
「すいません。今の話、なかったことにして!」
私のバカ! どうして秘密にしたいことを、こんなあっさり言っちゃうのさ。覚悟なんて、全然できてないよ。
「よし、逃げちゃえ!」
私は逃走を再開した。とりあえず、3日くらい身を隠さないと。ギルド受付のリーナさんの家にでも匿ってもらおう。
「逃がしませんよ!」
私の腕をがっしりと掴むめぐみん。
「プリンアラモードより甘いよ、めぐみん。逃げ足の速さから神速の堕天使と呼ばれている私を、この程度で捕まえたつもりなの?」
「例えルーちゃんが神速だとしても、この密着状態からは逃げられません。この捕獲技をお姉ちゃんスペシャルと名づけましょう。姉より優れた妹などいないのです、諦めて全部私に話しなさい」
アクアもめぐみんも、私をだめな妹扱いするのはやめてほしいんだけど。よし、妹の力を見せてやる。
「さっき、私はどうやってめぐみんの手から逃げたのか。教えてあげるよ」
「なっ! 手が滑って」
そう、今の私たちは滑るのだ。ジャイアントトードの粘液のせいで。
「妹の方が姉より優れていたならば、それは妹と姉の立場が逆転するんじゃないの? これで私がお姉ちゃん。
めぐみんの手から逃れた私は、ギルドに向かって走り出す。
「真打ち登場! 次女を倒したとしても、長女のアクア様がいるかぎり、姉のプライドは傷つけさせないわよ」
めぐみんを突破した私の前に、立ち塞がるアクア。
「あっ! あそこにジャイアントトードが!」
「え? どこどこ? 早く逃げなきゃ!」
勝った、お姉ちゃん敗れたり!
愚かな長女の脇を通過し、私はギルドを目指して全力疾走。そして、最後の刺客カズマが現れた。
「俺はめぐみんやアクアのようにはいかないからな」
どこから出て来るのその自信。
「ふっ、冒険者のステータスで私に追いつけるの?」
「しまった! 俺は最弱職だった」
余裕でカズマの横を走り抜ける。ルシフェリオン・ミッドナイト・カタストロフィ様の完全勝利だ。バイバイみんな! 3日後くらいにまた会おう。
「ふにゅう!!」
あれ? ……どうなってるの? 突然全身に強い衝撃を受け、私は目の前が真っ暗になった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「さすがはカズマ。抜け目のない男だね。まさか、油断した私を背後から殴って気絶させるなんて。ナイスファイトだった、完敗だよ」
「俺は何もしてないからな。お前の自滅だからな」
そう、私はカズマの真横を通り過ぎた直後。滑って転んで気絶した。私の体はヌルヌルで、もちろん靴もヌルヌルだったのだ。そんな状態で全力疾走なんてしたら、転んで当然である。
「見事な作戦でした。3人の連携により、私は気がつかないうちに滑りやすい場所に誘導されていたのですね。出会ったばかりのあなたがたに、これほどのチームワークがあるなんて思わなかった。さすがの私でも想像できませんでした」
「可愛そうに。よほど自分のミスを認めたくないのね。そっとしておいてあげましょう」
慈愛に満ちた眼差しで私を見るな!お姉ちゃんの目で私を見るな!アクアのことが少し嫌いになった。
「ところでアクア。私は何故こんな状況になっているのかな」
「何って、めぐみんが膝枕してくれてるんでしょ?」
そう、私は膝枕されている。
「ねえカズマ。どうして、私はこんな怖い膝枕を体験してるんだろうね」
「男の子としては、羨ましいよ」
言葉とは裏腹に、私から目を逸らすカズマ。
「ふんふんふん」
鼻歌を歌いながら私の髪を撫でるめぐみん。だが、目は笑っていない。
「あの、めぐみんさん。私的にはもう意識も戻ったから、膝枕はもういいんだけど」
「ルンルンルン」
「えっと……その。頭をそんなに強く固定されると、動けなかったりするんだけど」
どうしよう。逃げられない。この状態だと、必殺土下座もできない。
「逃げないで下さい、動かないで下さい。動くとルーちゃんのきれいな髪が、抜けちゃいますよ?」
怖い! オサナナジミコワイ! 髪は女の命なんだけど!
「めぐみんのやつ、ルミカが少しでも逃げるそぶりを見せたら。髪の毛を抜くつもりか」
「違うわカズマ。もしルミカが勢い良く動いたら、めぐみんが手櫛で整えている髪が引っ張られて! めぐみん、なんて恐ろしい子」
カズマもアクアも解説する暇があるなら、囚われの私を助けてほしい。
「ルーちゃんは、魔法が使えないんですか? カズマが言うには、爆裂魔法を使っていなかったとか」
「違うよ! 私は魔法を使ったよ! あれは爆発系魔法の一つ、炸裂魔法。爆裂系魔法で、一番威力が弱い魔法なんだ」
「なるほどな、だからあの威力だったのか」
よし、カズマは信じてくれた。誤魔化して見せる、私は最後まで諦めない。美少女とは、決して最後まで希望を捨てないのよ!
「そうなんですか、でも不思議ですね」
冷や汗が止まらない。
「アクア。例の物をお願いします」
まさか、この娘。私を拷問する気? それは困るよ泣いちゃうぞ?
「はい、これ。カエルの死体の近くに落ちてたの」
……アクアが持っていたのは、ポーションのビンの欠片だった。
「……実は私、最近錬金術を研究していて。特定の触媒に魔力を流すと爆発する、付与魔術を開発したんだ!」
「そうなんですか、すごいですね。でもルーちゃんの説明した付与魔術なら、詠唱なんていらないですよね? だって魔力を触媒に流すだけでいいんですから。カズマが言うには詠唱をしていたらしいんですが」
ものすごい笑顔で私の頭を撫でるめぐみん。ルミカちゃんの敗北はもう確定的みたい。
「カズマの気のせいだよ! きっと風の音が呪文のように聞こえちゃったんじゃないかな」
必死に目でカズマに訴える。お願い黙ってて!
こくりと軽く頷いて、親指を立てるカズマ。
「呪文詠唱してたぞ」
「この裏切り者!」
カズマさん、冒険者をバカにしたことを根に持っていらっしゃる。
「さあ、ルーちゃん。もう言い訳タイムはおしまいですか? 何で魔法が使えないか、怒らないので話して下さい」
勝ち誇るめぐみん。こうなったら、最後の手段よ。
「いつからかな?」
「いつから、私が魔法を使えると錯覚していたの?」
ルミカさん第2の必殺技。その名も開き直り!
「言いたいことはそれだけですか?」
「ごめんなさい!」
私は幼馴染の笑顔に負けました。
「カズマ、さっきのアクアの説明を聞いていたよね?」
「説明ってあれか? 爆裂魔法のことか?」
「そう、爆裂魔法は才能がないと習得できない魔法なの」
もう観念した私はみんなに説明を開始した。
「まさか、ルーちゃん。爆裂魔法が習得できなかったの?」
悲しそうな顔をするめぐみん。
「安心してよ、めぐみん。あの時約束したよね、いつか爆裂魔法をお互い極めようって」
「なら何で、ルミカは魔法を使わないの?」
アクアの質問に、私は胸を張って答えた。
「めぐみんみたいに才能がなかったから」
「おい、才能がないなら爆裂魔法なんて覚えられないんじゃないのか?」
「我が名はルミカ、アークウィザードにして、爆裂魔法を極める者。爆裂魔法を極めたいとは言っていますが、爆裂魔法が使えるなんて言ってないんだよ」
「そう言うこと。分かったわカズマ」
どうやら、アクアは分かったらしい。
「私は爆裂魔法を習得できる才能はあったんだけど、爆裂魔法を撃てるだけの魔力がなかったんだ。めぐみんみたいに体力まで搾り出したとしても、爆裂魔法を撃つ前に死んじゃうから。ごめんね、めぐみん。恥ずかしいから言えなかったの」
「はあ」
ため息をつくめぐみん。やばい、怒ってるかな。
「私がそんなことで怒るはずがないでしょ?」
そう言って、めぐみんは私を撫でてくれた。
「めぐみん! ありがとう。私、これからがんばるよ!」
「良かったわねルミカ。妹たちが仲良しだと、お姉ちゃんも嬉しいわ」
アクアと私が喜んでいると、めぐみんが深いため息をついた。
「二人とも喜ぶのはまだ早いです、カズマを見て下さい」
めぐみんに言われてカズマを見ると、
「そうか、それは大変だったな。これからは他のパーティーでがんばってくれ!」
さっき、めぐみんを追い出そうとしていた時と同じ反応をしている。なるほど、今からバトルパートか。
「大丈夫! レベルアップすればステータスは上がるんだよ? 爆裂魔法もそのうち使えるようになるよ!」
「いやいや、魔法の使えない魔法使いとかいらないから!」
「私が望むのは経験値のみ! 今なら大魔法使いの将来が約束された美少女が、食費だけで仲間になるよ! お得だね」
「いやいや、俺たちのパーティーにはもう優秀な魔法使いがいるから! ルミカの才能は、他のパーティーにこそ必要とされているはずさ」
この男。手ごわい。ならば次のパターンよ!
「お願いします。私が敵を短剣でめった刺しにしたり、モンスターを爆殺したりすると、グロイからってどこのパーティーも拾ってくれないの!」
私の第3の必殺技、泣き落とし!
「グロテスクマスターの由来はそれか!」
「お願いだから! もうマスコットキャラ扱いでもいいから!」
「いらねえよ! そんな物騒なマスコット!」
この男、私のような美少女が涙目で頼んでるのに。まったく動揺しないなんて。
「さてはカズマ。ホモなの?」
「違うよ! どうしたらその発想が出てくるんだ!」
作戦変更。泣き落としパート2開始!
「お願いしますカズマ。この子は誰かが見てないと危険です。ルーちゃんは無自覚で火に油を注ぐ子なんです!」
他の人からの意見なら、カズマも聞いてくれるんじゃないかな?
「お願いよカズマ! 私がこの子たちの面倒をきちんと見るから!」
がんばれ長女! 私たち紅魔姉妹の生活はアクアにかかってるんだから。
「捨ててこいアクア。ヘッポコなお前に子供の面倒が見れるのか? 生き物の世話をするのは大変なことなんだぞ?」
「私やめぐみんは捨て猫か何かか! いいかげんにしないと、ぶっ飛ばすぞお前!」
カズマ、なんてやつだ。このぼけ担当の私に突っ込みをさせるなんて。1000年に1人の逸材だよ君は。
「私は別に魔法使いとしてパーティーに入りたいわけじゃないよ。どうせしばらく魔法は使えないんだから、前衛の剣士として契約するのはどうかな? 私はカエルを4匹倒す程度の実力はあるよ?」
「なるほど。でもな、アークウィザード二人もいらないしな」
「強力な魔法は使えるけど一撃放てばそこで終わりのなんちゃって魔法使いより、魔法が使えないけどそこそこ戦えるなんちゃって魔法使いは、いかがですか?」
「ルーちゃん! あなたって子は!」
すまないめぐみん。私はあんたを蹴落としてでも、就職先を手に入れる。
「こうなったら、禁断の我が秘術でカズマの意見を捻じ曲げちゃうよ」
「やめろ! 俺を洗脳するつもりか!」
洗脳なんてしない。ただ私はカズマにお願いするだけだ。
「お願いお兄ちゃん! ルミカをお兄ちゃんのパーティーに入れてほしいの!」
「何を言っているんだい妹よ。ルミカが生まれる前から、俺のパーティメンバーの席は1人分空いているよ。義妹専用に!」
禁断の必殺技妹殺し。妹殺しとは、私の演技力と恥ずかしさを込めた愛情表現。相手は死ぬ。
「ふう、正義は必ず勝つのよ」
「ルーちゃんもカズマも、どっちも悪ですよ。まあ、一緒のパーティーになれて良かったです」
えへへ。めぐみんったら、照れちゃって可愛い。
「ねえルミカにめぐみん! 私のこともお姉ちゃんって呼んで! 一回でいいの」
やれやれ、美少女って罪なのかしら。アクアを妹バカにしてしまった。これは責任を取って、めぐみんと二人でこの姉に可愛がられてあげるしかないかも。
「じゃあ、問題も解決したことだし。3人とも風呂入ってこいよ、生臭いぞ」
カズマに言われ、私たちは風呂へと向かった。
だが、この時の私は思いもしなかった。まさか、お風呂に入ったせいで。カズマと真剣勝負をすることになるなんて。
受付のリーナさんとは、3話でカズマにルミカについて説明していた百合好きなお姉さんのことです。