真也「急いでるねー」
こいし「まだ後2話分あるもんね」
ええ。クリスマスも頑張るので、早く進めないといけませんな。
真也「クリスマスかー」
こいし「クーリスマスが今年もーやーってくるー」
なんで知ってるんだ。
てなわけでそれでは
「「「スタート」」」
雲1つない快晴な日。しかし冬の寒さが太陽の暖かさを打ち負かしてしまうそんな季節。
黒いマフラーをつけた真也、それに紺色のケープを羽織り同じ色のマフラーを巻いたこいし。マフラーはこいしの手作りだ。いつも着ている服の上から着ているが、とても暖かそうに見える。
先日買った防寒具などを着た2人は地上に出てきていた。
真也「用事ってなにー?」
こいし「ひーみつ!」
聞いているとおり真也は今回の目的を知らない。こいしが人里に行きたいというので向かっているのだ。いつも目的があるわけではないが、どちらかが誘うときはなにかしらの理由はあるのだ。
行くこと自体は嫌ではないが、気色悪い視線や聞きたくもない陰口を叩かれたりするのは目に見えていた。
とはいっても、行って無意識を使わなければいつものことでもあるので、今更どうというわけではない。
ただまあ、心を開き読むようになったこいしのことが心配だった。
そんな心も筒抜けで、彼女は優しく微笑む。
こいし「大丈夫だよ。ささっと行けば問題ないから!」
問題ないように振る舞っている彼女だが、内心本当はまだ怖かった。
彼と会う遠い昔に見た、酷く醜い人間たちの心。妖怪も例外ではなく、みな覚りを前にしてその中を汚れたもので染めた。見たくもない怒りや悲しみ、憎しみや興味もない他人の秘密、恋慕まで知ってしまう。
結果、人間たちの容赦ない憎悪や憤怒の対象となり、地上を歩くと石ころを投げられることもあった。
そんな心を見ないために閉じた瞳はもう開かれている。今の時代の人間たちが、どんな心を持っているかなんて分からない。でも、どうせなら昔のようなものではないと思いたかった。
しかし、弱いところを見せてしまえば彼は心配し自分を守ってしまう。傷つく彼を見るのも嫌だから、彼女は忘れられぬ恐怖を心の奥底に沈め明るく振る舞う。
真也「……無理、しちゃ駄目だよー?」
気付けば彼が隣で手を握っていた。もしかしたら昔のことを思い出しているうちに近づいていたのかもしれない。
そして彼の言葉に一瞬言葉が詰まったこいし。間を空けて返した彼は、いつもの笑顔にいつの間にか心配したような表情を混ぜていた。
気付かれてはいないはずだが、やはり彼には見抜かれてしまうらしい。
思わぬ不意打ちに驚きつつも、嬉しい気持ちで一杯だった。
こいし「うん。ありがと」
改めて彼の気遣いに感謝し、嬉しそうに笑みを浮かべる。握られた手の暖かさを感じつつ2人はゆっくりと人里へ向かっていった。
◆
人里につき、中に入ろうとした真也。すると、こいしがそれを止めた。
こいし「真也は待ってて?これは私1人で行きたいの」
真也「え、でも大丈夫ー?」
1人ということに心配する彼に、こいしは嬉しい気持ちを抑えつつ頷いた。
用事を終えたらすぐに帰ってくるから、と言って臆することなく中に入っていった。
その様子を1人見守っている真也。
真也「大丈夫かなー」
どうにも拭えない不安を感じながら、約束通り彼女が出てくるのを待つことにした。
一方こいしはあまり周りを見ないようにしながら早足で歩いていた。
第三の瞳の視界内に入ると勝手に読んでしまうので、正面のみを見据えつつ、頭の中に入ってくる他人の思考を無視していた。
歩くこと数分で目的の場所に着いた。そこは、2人が持っているペンダントを買った店。
安堵の一息をして、こいしは中に入っていく。店内に客はおらず、彼女からするとなかなか良いタイミングだった。余計な思考をみる必要がないのはとても嬉しいことだった。
レジのところを見れば探していた店主がいた。
こいし「すいません」
店主「あいよ。あ、嬢ちゃんか。今日は連れはいないんだな」
彼女が話しかけると何かの本に目を落としていた店主が顔を上げた。見た目的には50代ほどに見えるが、実際のところはどうなのかは分からない。
言葉の通り店主はこいしと真也のことを覚えていた。2人とも時々この店でなにか買ったり、新しい商品を見たりしていたからだ。
店主の言葉にこいしは大きくうなずくと、本題を切り出した。
こいし「今回は作りたい物があるの。それで、いくつか色が必要なんだけど……」
店主「なにが必要なんだ?」
必要な色を答えると、店主は少し難しい顔をした。ちょっと待ってろと言って裏方に入っていった。
周りのアクセサリーを見ながら数分ほどして店主は帰ってきた。
店主「嬢ちゃん。1色だけ足りなかったな。紫なんだが、これが作るのが少々時間がかかるんでな」
こいし「じゃあ、今度来たときには作っておいてもらえます?」
店主「おうよ。なんなら作りやすいようにある程度形も決めといてやろうか」
1色足りないとのことだが、今度来たときには作っておいてくれることで解決した。さらに、店主の心遣いにより形まで決めといてくれるというのだ。
ここまでくると分かるだろうが、こいしは真也に手作りのものを渡そうとしていた。
こいし「前に買ったのと同じなんだけど、それでも大丈夫?」
店主「大丈夫さ。任せときな」
前回買ったのがかなり前のことで覚えているか不安だったが、それも杞憂たったようだ。
ちなみに、前回はちょうどよく青と黒のバラのペンダントが売っていたのを買っていた。
こいし「それじゃあ、また今度来ます」
店主「おうよ。大体一週間くらい空けてくれりゃ作れるはずだ」
彼女の立ち去り際に大体の目安を伝えてくれた。彼女も振り返りながら感謝の言葉を告げて頭を下げると、そのまま外へ出ていった。
それを見送った店主は読みかけの本を適当に置くと、裏方から色を作るための用具を取り出して早速作り始めた。
時間がかかるというのは、赤も青も強い色で配分が少しでも偏るとすぐに赤紫だったり青紫になるのだ。そのためにも早くから作らないといけなかった。
失敗が増えれば青と赤と色もまた取りに行かないといけないので、時間がかかるというのも頷けることだ。
本を読んで凝り固まった身体を適度に動かし、すぐに集中して色を作り始めた。
◆
外へ出たこいし。これで彼女の目的は大体果たせた。後はまた今度来て、作って彼に渡すだけ。渡したときの彼の表情がどうなるか、思い浮かべるだけで顔がにやけてしまった。
しばらく緩む頬を抑える作業をしていたが、ようやくしゃきとすると彼の待つ場所に歩き始めた。
相変わらず入ってくる思考。まだこいしが認識されてないのかほとんどの思考に彼女のことは出てこない。
それに安堵しているが、いつ出てくるか、それでなにが起こるかなんて分からないので警戒しつつ歩いていた。
ようやく門が見え、彼のいるところまで近付いてきた。姿は見えないが、たぶん門にもたれ掛かっているのだろう。
頭の中をごちゃごちゃと埋める思考とようやく離れられる。
そう思った瞬間だった。
『こいつ、覚りじゃないか?』という思考が入ってきたのは。
いきなりのことで足を止めて、周りを振り返ってしまった。人が多く誰が考えたのかわからない。しかし、振り返ってしまったことで逆にさらに同じような思考が増えた。
このままだと良くないと感じた彼女はすぐに歩みを再開し、早歩きで外へ向かう。
頭の中をちらちらと嫌なものが過ぎっていくが、そんなことは気にしていなかった。
そして、ようやく出口につく。ふっと一息つき最後の一歩を踏み出した──『気色悪いな。こんなところに出てくんなよ』──ところで、入ってきたの醜い思考に歩みが遅くなる。
外れていて欲しかった予想が的中してしまい、一瞬心を絶望が埋める。しかし、すぐにそれを振り切り彼の元へ駆け込んだ。
真也「あ、きたー……って、わっ」
そのままの勢いで彼に抱きつく。視界に入った彼の思考はただ心配していた。その事に抑えていたなにかが溢れそうになるが、ぐっと堪えて強く抱きしめる。
何も言わずに抱きつかれてなにもよく分かっていない真也だが、それでも優しく背中を撫でながらそれを受け止めた。
分からなくても人里に、1人で入ったのだから不安や恐怖があったのだろうと思った。実際それらはあっていた。だから彼女は何も言わずにこうしていた。
彼女は何も言うことはないが、ずっと心を読んでいた。自身への心配とやはり強い想い。それらを見てようやく気持ちが落ち着く。
こいし「ごめん。大丈夫じゃなかったかも」
真也「うん。いいよ。仕方ないから。用事が終わったなら帰ろっか」
そのままの体制で話すこいしに、真也はじっとこちらを見つめている第三の瞳にそっと触れながら返した。
抱く力が一瞬また強くなるが、それもすぐに元に戻る。
優しく触れ、撫でながら彼女が完全に落ち着くのを待つ。
2、3分ほどで彼女は離れた。
こいし「ん。ありがと。やっぱり真也の心は優しいね」
真也「あはは。こいしだからね」
簡潔に感謝を伝え、手を握る。その返答も同じように簡潔で、しかし心の中ではしっかりと想っていた。
空いている左手で能力を使って空間を開くと、地霊殿に繋げた。
早く帰った方がこいしのためにも良いと思ったからだ。それも筒抜けなのだが、彼女は何も言わずに空間に入っていく真也に着いていく。
その心の中に、消えぬ恐怖と暖かい想いを浮かべて。
◆
「やっぱりあれはどうにかした方がいいだろ」
「でもなんもしてないぞ?」
「いるだけで気色悪いんだ。そんなの放っておけるか」
どうでしたかね。
真也「なにもらえるのかな」
こいし「ひーみつ!」
もらえるのはまあ分かっちゃいますなあ。
んで、次回はクリスマス編書いて、いけたら年内には最後の日常書きたい(願望)
真也「頑張れー」
こいし「早いね」
思いの外時間がね。
それでは次回まで
「「「ばいばーい」」」