東方無集録   作:生きる死神

86 / 87
はい、間が空いて申し訳無い。
生きる死神です。
終章5話目です。
それではスタート。


黒い心の発露

 

 

 霧の湖の畔に経つ赤い館──紅魔館。そこの中にある図書館から続く地下、その先の部屋の中でフランはベッドに座って考え事をしていた。

 考え事の種は3日前に感じた強い霊力。それは悲しみや憎しみなど強い感情が込められていた。久方振りに感じたそれは、もう無くなって半年ほど経つ自身の狂気と似たように感じて気持ち悪くなる。

 それほどに強い霊力を発しそうなのが思いつく範囲で1人しかいなかった。

 

フラン「たぶんあれ真也だろうなぁ。でも、なにがあったんだろう」

 

 最近の彼はあんな負の感情などあるようには見えなかったと思い返す。とは言っても過去のこともあり、ただ表面に出していなかっただけかもしれないが、そうだとしてもこいしがいるならば止められていたはず。

 現場を見ていない彼女には何が起きているかは憶測しか立てられず、また、最近外に出ることを止められているため確認する手段もなかった。

 

フラン「なんで外出ちゃいけないんだろ。お姉様はなんだかイラついてた様な気がするけど……」

 

 自身に外へ出ないよう言った姉の言葉を思い出す。

 

レミリア「今は出ないでちょうだい。その、良くないわ。いい?」

 

 としか言っていなかった。その時はあまり気にしていなかったが、よく考えてみると言葉を濁している辺り怪しいところがあった。

 

フラン「さっきどこかへ行っちゃったし、追いかけてみようかな」

 

 よし、とベッドから立ち上がり扉を開け図書館へ向かう。

 そこにはいつも通り魔術書を読むパチュリーがいた。こぁは見あたらないが、仕事のために飛び回っているのだろうと思った。

 

フラン「パチェ。ちょっと外に言ってくる」

 

パチュリー「……そう。気をつけなさい」

 

 二言で返すとまた本に目をやる。しかし、声色はやけに心配しているようだった。

 止められなかったことに少し驚いたが、特に気にとめることもなくエントランスまで移動して玄関の扉を開く。

 そこで、先ほどの言葉の意味を理解した。

 

フラン「なにこれ。黒い……球体?変なの……!」

 

 玄関からも見える謎の黒い球体。どこの上に浮かんでいるのかは分からないが、それなりのサイズはありそうだ。

 しかし、それよりも驚いたことがあった。

 それは、

 

フラン「私、今なんて言った……!?」

 

 勝手に口が動いた。それは心の中で呟いたはずのもの。しかし、なぜかは分からないが今意志とは関係なく口から出てきたのだ。

 

フラン「どういうこと?これって、異変?だとしたら面倒だなぁ……また!?」

 

 まるで心の黒い部分を表すように全て口から出てきてしまう。止めようにも無意識に動くようで、どうすることも出来なかった。

 そして、すぐに思い当たった。これが誰が起こしたものか。

 

フラン「……真也。彼しかいない。でもどうしてだろう。会って話を聞かなきゃ」

 

 本心も今度は一致し、すぐさま外へ飛び出す。幸い空は黒々とした雲に覆われており、日傘はいらないようだった。

 

フラン「日傘が無くても動けるのは助かるな。気持ち悪いけどね」

 

 何となく慣れてきた裏腹な言葉に、苦笑いしながら黒い球体を目指す。姉を追うと言っていたが、今は自身の直感があそこへ行けと言っていた。そこに姉がいるような気もしているが。

 ところ変わって命蓮寺。ここからも黒い球体が見えていた。しかし、寺の住人は一言も発さない以外は変わった様子はなかった。

 1人を除いて。

 

ぬえ「なによあれ。こころは帰ってこないし、なんかみんな黙ってばっかりだし。つまらないわ……なに今の」

 

 青いUFOに身を預けてふわふわと浮かびながら呟くと、余計な言葉が混じった。フランよりこは落ち着いてはいたが、内心少し驚いていた。

 

ぬえ「もしかして、これ異変?だとしたら暇つぶしにはなりそうね……うーん、勝手に口が動くなぁ」

 

 間違ってはいない本心が口から出るが、特に気にはしていなかった。むしろ、誰も話さない理由が分かり、合点がいったところだ。

 ならば、と。黒い球体の方を向く。

 

ぬえ「面白そうね。行ってみましょうか。今なら誰にもなにも言われないしね」

 

 楽しそうにそして、相変わらず漏れる本音も笑いに変えフランと同じく球体に飛んでいった。

 2人が黒い球体に向かっている頃、空の上では要石に腰掛け同じように黒いそれを見下ろしている天子がいた。

 少し神妙な顔つきの彼女は、そこに来てから一言も発することなく考え事をしていた。その瞳には、心配と疑心の色。

 

天子「(いくつか打ち込んだ要石が返ってこない。なんとなくこれが真也がやったのは分かってる。中には彼がいるのだろうけど、なんでこんなことをしているのかな)」

 

 聞く人も答える人もいない疑問は彼女の頭の中のみでぐるぐると回り、唯一それを解決できる口は開く様子がない。

 考えてばかりでは視野が狭まるので、辺りを石に乗ったまま飛んでいるのだが、そこで見覚えのある人物が視界に入った。

 

天子「あれは……霊夢と魔理沙ね」

 

 黒い球体の下部からこちらに向かう赤と白黒の姿。口調も外向きに直し、二人がこちらに来たところでいつもと変わらぬ様子で声をかける。

 

天子「相変わらずね、二人とも。異変解決?まあ、それしかないんだろうけど。……あれ?なに今の」

 

 勝手に口をついて出た言葉に驚いた様子に、今来た二人はやはりといった顔だ。

 

霊夢「その通りよ。これは異変、それもかなりたちの悪いやつね」

 

魔理沙「全くだぜ。言いたくもない事まで言っちまうから大変だぜ。さっさと終わらせないとな……ほらな?」

 

 なるほど、理解した天子は頷き二人を見る。ここまで来た理由は関与しているかどうかだろう。まあ、彼女の様子からそれも結果は分かっていたが。

 

天子「残念ながら私は知らない。だからここでこうして考えごとしていただけ。暇つぶしにはなるけどね……口が動くなぁ」

 

 眼下の黒球をちらと見やり、二人に視線を戻す。解決組が動いたからには、これも終わりの見えたもの。しかし、彼は一度二人を破っていた。それを天子が知っているわけではないが、彼の力をある程度分かっている彼女は、不敵に笑う。

 彼女の笑みに不審そうな顔になる二人。その口が開くのはすぐだった。

 

天子「二人が強いのは知っているけど、彼も相当よ?私も暇しているし、手伝ってあげようか?まあ、ちょうどいい時間つぶしでしょうから」

 

 付け足される言葉も気にすることなく提案する。その瞳は楽しそうに二人の様子を伺っていた。

 聞いた二人も互いに何も言わずに考える、が。答えは案外すぐに出た。それは、二人からすると苦々しく、天子からすれば予想通りだった。

 

霊夢「そうね。人手は多い方がいいわ。本当はあまり妖怪には干渉してもらいたくはないんだけど、相手が相手だからそんなことも言ってられないわ」

 

魔理沙「どうせなら他にもいると助かるんだがな。宛になるかは分からんが……はぁ」

 

 異変の影響を受けない霊夢とは違い、もろに受けている魔理沙は一々漏れる言葉にうんざりしていた。その様子には霊夢も気付いていたが、振れることでもないのでスルーしていた。

 そして、残りの二人が揃う。

 宝石のような翼をはためかせ、フランが現れる。

 赤と青の三本の触手を蠢かせながらUFOに乗るぬえも現れた。

 ──ついに、役者は揃った。

 

フラン「なにしてるの?こんな場所で。変なメンツね……気にしないでね」

 

ぬえ「おぉ、なんだか人がいるわね。少し驚いたわ。なかなか濃いわね……あー」

 

 来た早々異変の影響で出た言葉に少したじろぐが、周りはあまり気にした様子もなく、それを見て二人も気にしないことにした。

 揃ったメンバーは、幻想郷でも屈指の強者と呼べる者ばかり。他にもいるのだが、誰も彼もが現れるわけではないだろう。

 

霊夢「ちょうどいいわ、二人も手伝いなさい。ここに異変の主がいるわ。相手も分かってる。少しばかり手こずりそうだから、人手が欲しかったのよ」

 

 彼女の言葉に二人も頷き、それを見据える。

 一切変化の無かったそれは、急に動き始めた。形成されていた球体の形は崩れて一つ一つが小型の黒い球になる。見覚えのあるそれは、今度は中心と思われる部分に収束していき、その数を減らしていく。

 そして、それらが全て晴れたとき。

 彼が姿を現した。

 予想は当たっていた。異変主が彼と言うことは。そう、それだけは。

 黒い球が消えた周りにいたのは、幻想郷のパワーバランスを担っている者たち。しかし、その誰もが意識がない。その中にはフランの探していた姉と従者の姿もあった。

 謎の力で浮遊していた彼女らは、重力に従い地面に落下する。助けようにも数が多く、どうあがいても間に合わない。

 落ちていく彼女らに見向きもせずに彼は口を開く。

 

真也「やぁ。ようやく揃ったね」

 

 何気なく声を発した彼は、底なしに黒い瞳を五人に向ける。その瞳に感情は無く、ただそこにいるだけのものとして彼女らを見ていた。

 

霊夢「待っていたとでも言いたいのかしら?」

 

 挑発的な彼の言葉に乗って彼女が返す。やや怒りの色が見える声だが、彼は全く気にしない。

 

真也「その通り、かな。まあ、異変解決は君の役目でしょ?だから待っていたんだ」

 

霊夢「あいつらと遊びながら、かしら?」

 

真也「遊び?そんなわけないよ。ここに無闇に突っ込んできたから、意識を無くしただけ。別に弾幕ごっこもしてなければ、殺し合いもしてないさ」

 

 淡々とした言葉の応酬はお互い懐をさぐり合うよう。しかし、そんなことを呑気にやっているつもりは彼女には無かった。

 

霊夢「なにがしたいのか知らないけれど、一応聞いとくわ。なにが目的かしら」

 

真也「目的、うーん。まあ、こいしの恨み晴らしと言えば分かりやすいかも知れないけど、ちょっと違うんだよね」

 

 その彼の言葉に霊夢ではなく別の人物が反応する。

 

フラン「こいし?なにかあったの?……あれ?」

 

真也「ん?霊夢辺りから聞いてないんだ。まあ、それを僕が言う必要はないから教えないよ」

 

 霊夢に聞けとばかりに閉口され、彼女を見るフラン。彼女以外に知っている者もいなかったため、周りからの視線が集まっていた。

 一つ溜め息をつき、腕を組んで考えるように目を閉じる。すぐに話さないのは言葉を選んでいるように見えた。

 

霊夢「……三日前、古明地こいしが人里の人間に囲まれて主に罵声と軽い暴行みたいなものを受けたわ。その場には彼と秦こころがいたらしいわ。どれも聞いた話だけどね」

 

 そう話し終え真也をちらりと見る。雰囲気が変わった様子もなければ、こちらに向けられた瞳の濁りがどうなるということもなかった。

 なんとか琴線には触れなかった。それが霊夢の思ったことだ。

 言葉を選んでいたのは、いきなり癇癪を起こされ攻撃されるのは良くないと考えたからだ。

 それも、杞憂に終わりほっとすると、今度はフランが彼に問いかける。

 

フラン「どうして私達に言ってくれなかったの?ここには私や天子、ぬえだっているよ。なのに、なんで?」

 

 真っ直ぐな視線が彼に向かう。攻めるとも案じているとも取れるその言い方に苦い顔を彼はする。

 ようやく表情の変わった彼に安堵の息が漏れたフランだが、その答えは予想外だった。

 

真也「必要なかったから、かな。正しくはこれの責任を負うのは僕だけで良かった」

 

天子「私たちにはそれを一緒に背負う資格はないの?」

 

 突き放すような言葉に黙ってしまったフランの代わりに天子が話す。

 少し長い沈黙が場を流れる。彼の目は天子に向いており、閉じられることもなくただ見つめていた。周りの視線も自然と彼に集まる。

 

真也「……ないよ。君たちは僕を倒して異変を終わらせればそれでいい。そのために、話さなかった」

 

霊夢「……あんたねぇ」

 

 きっぱりと拒絶の意志を見せた彼に、霊夢がまた溜め息をつき呆れたように睨む。

 

真也「さて、今は普通に喋れてるけど、それはここだけだからね。ちょっと、聞いてみる?」

 

魔理沙「聞くって、なにをだ?」

 

 主語のない質問に魔理沙が聞き返す。

 それを待っていたように彼は手を握り黒い空間を出現させる。その時、そのナニカが聞こえる前、彼は笑っているように見えた。

 その意味を問おうとして、聞こえてきたそれに思わず絶句する。

 

真也「いやぁ、本当に醜いよね。自分たちを棚に上げてよく言えたよ。──ほんっと、笑える」

 

 聞こえたのは、何かの罵り合う声。卑下する声。何かに耐えかねた啜り泣く声。罵声が飛び交っているのが容易に想像出来るようだった。

 思わず逸れた視線を彼に戻すと、笑えるなどと言っておきながら無表情だった。

 

『お前の一々癪に障る声が大嫌いだったんだよ!』

 

『お前だって同じだ!いつもいつも俺の邪魔しやがって!』

 

『あんたなんかより私の方が綺麗なのに、なんであんたが選ばれるのよ!』

 

『そういうところよ!醜さを押し付けないでもらえる?』

 

『お前は黙って愛想良く笑ってればいいんだよ!』

 

『私は人形じゃない!私にも自由がある!』

 

 これだけの声が聞こえる辺り、場所は人里なのだろうと察する。

 どれも聞くに耐えないようなものばかりで、気分まで悪くなる。

 

霊夢「嫌な音ばかりね。気分が最悪だわ」

 

真也「だろうね。僕も聞きたくないね」

 

ぬえ「じゃあなんで異変なんて起こしたのさ」

 

 明らかに矛盾したようなことを言う彼にぬえが聞く。うーん、と呟きすぐに次に繋げる。

 

真也「こうすれば僕に嫌悪は向くでしょ?これでこいしに向けられた嫌悪は消えた。後は僕がどうにかすれば解決さ」

 

フラン「どうにかって、具体的な案はあるの?」

 

 曖昧な彼の言い方を気にしてさらに追求する。問われた彼はすぐには答えず、間が空く。

 寒風が耳元でひゅーひゅーと音を鳴らす。黒い雲で埋められた空からは雨が降りそうだ。口が開くのを待ちつつ辺りを見回したフランはそう思った。

 1分ほど、実際にはもっと短かったかも知れないがようやく彼が口を開く。しかし、その答えは彼女が求めていたものではなかった。

 

真也「話す必要はないね。これは僕自身の問題だから、気にしなくていいよ」

 

 きっさりと断ってはいるが、後半少しだけ気遣ったようにも聞こえる。しかし、それを聞く前に彼が先を取った。

 

真也「問答はもういいでしょ?そろそろ始めないと、里がもっと荒れるよ」

 

霊夢「……あんた、もしかして」

 

 フランから視線を外し、霊夢に合わせる。その言葉と向けられた瞳から彼女は察した。察したが上で口を開いたのだが、その先は続けられなかった。

 その先の言葉を聞かないように彼が遮ったからだ。

 

真也「さぁ、始めよう。君たちは5人いるから僕は15回被弾したら負け、君たちは気絶するまで頑張ってね。スペルは何枚でもいいよ」

 

 唐突な弾幕ごっこのルール確認。だいぶ彼が不利なように思えるが、彼の実力と彼女らの実力を合わせたらほぼ同じようなものだろう。

 それでも彼は勝つ気だと霊夢は分かっていた。しかし、異変は必ず解決されなければいけない。この弾幕ごっこの結果はなんとなく分かっており、誰が決着をつけるのかも分かってしまった。

 それに気付いたから彼は遮ったのだろう。彼女は溜め息をつき、御札を構える。

 その様子に真也は前はいつも浮かべていた笑みを張り付けた。へらへらと、なにが起きても笑っていそうな表情を。

 

霊夢「ほんっとに最悪だわ。割に合わなすぎだわ」

 

魔理沙「あいつとやるのは避けられないんだなやっぱり」

 

 異変解決のスペシャリストは自身の獲物を構えて彼と対峙した。

 それを見て3人も心を決めた。

 

フラン「止めるしかない。これ以上あなたが背負うことはないんだから」

 

ぬえ「付き合ってやるわよ。ここまで来たんだから」

 

天子「こんなことにはなって欲しくなかったんだけどなぁ」

 

 それぞれレーヴァテイン、三つ叉の槍、緋想の剣を構える。

 ようやく準備が整った彼女らを見て彼は瞳と同じくらい黒い弾幕を浮かべた。

 

真也「それじゃあ始めよう?正義の使者なら僕みたいな真っ黒い悪なんてお決まりの展開で倒せるだろう。でも、ただではやられないから。」

 

 皮肉とも言えるその口はすぐに閉じて、それを合図に戦いは始まった。

 この場に勝者などいないであろう戦い。これはただの時間潰しだ。いつも言っていた彼の言葉通り、ただ待ち時間を無駄な争いで潰しているだけ。

 

真也「悪いとは思ってるよ。でも、異変の解決には君たちも必要だからね」

 

 誰にも聞こえないよう小声で呟く彼は、ほんの一瞬だけ申し訳無さそうに目をつぶった。

 

 




どうでしたかね。
実は本日が初投稿から一年だったりします。
我ながら遅いとは思っていますが、これからも活動は続けていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
それでは、次回までばいばい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。