でもわたしがその強さをうまく書ききれないんだ。
ちょっとした理由で、近々昔の映画を見直す必要が出てきました。
DVD買おうかな。
橙色に輝く炎の刃は、俊敏なデスクローでさえ避ける間もなく、その胴体へと真っ直ぐに突き刺さった。それは自身の爪にも劣らぬ深い裂傷を刻み、さらに炎がその傷口を焼き焦がす。
たまらず苦悶の唸りをあげるデスクローへと迫ったのは、地面に伏したガービーの拳であった。不利な体勢とはいえ、パワーアーマーにて強化された筋力から放たれる一撃は、大きく手傷を負ったデスクローを弾き飛ばすには十分なもので、ガービーの体を抑えていた拘束が外れる。
「ガービー……無事、ッ?」
ミニガンを片手に立ち上がるガービーに向けて、息切れしながらも問いかけるノエル。その問いに答えるガービーの言葉は、明確に戸惑いの色の見えるものであった。
「あ、ああ、問題ない。……だがノエル、あんたは―――」
ガービーの言葉を、ノエルは真っ直ぐ掌をガービーに向けて遮った。
「まだよ。―――まだ終わってない」
言葉通り、デスクローの苦悶の唸り声は怒りの咆哮となって二人の耳へと届く。だがその傷はあまりにも大きく、そして痛みからなのだろう、その動きは緩慢になっており、地上最強の生物の面影は影を潜めていた。
「……そうだな。話はコイツを片付けてから聞かせてもらおう」
構えたミニガンが高速で回転する音を聴きつけたデスクローが、その音の主、すなわちガービーを無力化するために身を起こす。
だがそれはあまりにも遅く、そうしてそれは無防備だった。ミニガンから放たれる5mmの雨の目指す場所。それはノエルが作り出した、大きな傷という弱点へ吸い込まれる。
強固な鱗板を失ったその胴を弾丸が蹂躙すれば、咆哮は弱弱しくなっていき、やがて聞こえなくなり。たっぷりと弾を吐き出したミニガンの回転が止まるのと同時に地面に崩れ落ち、死の爪はそれ自身が死を迎えることとなった。
たっぷり一分ほど、二人はそれぞれの武器を構え、その死骸へ向けたまま。それがもう二度と動かないことを確信すると、二人して大きく息を吐いた。
「あ~~~~~~~、っぶなかった!!!」
まるで勝鬨のような大声を上げたのはノエルである。だがその口から零れるのは、緊張が吹き飛んだかのような気の抜けた意味合いで、それを耳にしたガービーからは、笑い声が生まれる。
「ハッハ、そうだな。出来ればそう何度もやりたくはない経験だった」
ひとしきり笑った後にガービーに生まれるのは、先の疑問であった。ノエルの見せたあの摩訶不思議な一撃を、ガービーはどうしても理解することが出来なかったのだ。
「……なぁ、ノエル。一つ訊いておきたいことがあるんだが」
「やっぱり、そりゃそうよねぇ」
ガービーが疑問を投げかけるより前に、ノエルは一人納得している様子であった。彼の前であの手段をとった時点で、そういう疑問をぶつけられるのは当然だと思っていたからだ。
「当ててみましょうか、キミの疑問。『アンタは何者だ』か、『今のは一体なんだったんだ』。あるいはその両方。違う?」
「そうだなノエル、アンタの言う通りだ。どちらかと言うと、前者の方が気になるがな。なぜ入植者たちのことを知っていたのか、思えば不思議なことばかりだ」
ガービーのストレートな疑問に、ノエルは頷いた。そうして逆にノエルは、ガービーへと聞き返す。
「すっごく突拍子もない話になるけど、信じてくれる?」
「聞いてみないことにはな。ただ、アンタは無用な嘘をつくタイプには見えない」
ガービーにその意図はなかったにせよ、それはささやかな牽制となってノエルに届く。しばし迷った後に、ノエルは逆にガービーへと問いを返した。
「ガービー、ゼータ星人って知ってる?」
この世界において、荒唐無稽な話の代名詞とも言えるその宇宙人の話題に、思わず顔をしかめるガービー。
「何だって、ゼータ星人?おいノエル、緊張が抜けたのは分かるが、そんな与太話に付き合うつもりは………」
「いやいや、アタシがゼータ星人だなんて言ってるわけじゃないわよガービー。ただ、それくらい突拍子もない話だってこと」
与太話とガービーは言ったが、実はゼータ星人自体はこの世界には実在している。宇宙船が墜落したり、あるいは宇宙人に拐われたりした事実は数例ではあるが、ある。
だが重要なのはゼータ星人の存在の有無ではなく、ノエルの話。小さな首肯にてノエルに先を促すと、ノエルも頷き返し、続ける。
「本当に突拍子もなくて、キミにとっては多分、おとぎ話のような話よ。―――アタシはね、こことは違う別の世界から来たの」
「おいおい、ノエル。いくら何でもそれは……」
一笑に付すことこそなかったが、当然のようにガービーの口から漏れたのは、否定のニュアンスであった。だがガービーの視線がノエルの表情を捉えると、その言葉が失われる。ノエルの表情は茶化した様子もなく真剣なもので、それはガービーに更なる戸惑いを与えることとなった。
「本気で言ってるのか、ノエル?」
「こんな嘘言ったところで、アタシに何のメリットもないでしょ、ガービー。それに、アタシが嘘を言ってるかどうか分かる人がいるってこと、キミは知ってるはずよ」
ノエルの言葉が、博物館の中の入植者のうちの一人を示していることに気付いたガービーは、いっそその言葉にこそ驚かされて。ヘルメットの奥に隠されてこそいたが、その表情を驚愕のそれに変える。
「なんだって?まさか、彼女はアンタに自己紹介すらしていないはずだ!」
ガービーがパワーアーマーを取りに向かって、バルコニーからノエルが現れるまでは、ほんのわずかな時間でしかない。その間に自己紹介を済ませ、かつ『彼女』の秘密を聞くことなど、できるわけがない。
事実、ガービーの推測は間違いはないのだ。ノエルは博物館の中で会った人間は、ガービーの他にはスタージェスとしか言葉を交わしていない。まるで叫ぶようなガービーの詰問に、ノエルはあっさりと頷いた。
「そうよ、アタシがあの場で話したのはコズワースとスタージェスだけ。アタシの目的も含めて、その辺の話はせっかくだから、みんなと一緒にしましょうか?」
「……そうだな。それに、ひとまず危機が去ったことも伝えなければならないからな」
いつの間にか日は落ちて、徐々に夕闇が迫る中。二人は皆の待つ博物館へと踵を返し、歩いていった。
博物館に二人が戻ったとき、既にスタージェスたちは一階の広間に移っていた。入り口のドアを開けたときにスタージェスの銃口がノエルたちを一瞬捉えていたのは、警戒していた証なのだろう。
「ああ、お嬢ちゃん、無事だったか!それにガービーも、……ガービーだよな?随分とクールなパワーアーマーになっちまったが、無事で何よりだ!」
「デスクローの反応を検知したときは、手助けに向かうべきと思ったのですが。生憎と私のアタッチメントでは足手まといとなりそうでしたので」
ヒーローの凱旋に諸手を挙げて喜ぶスタージェスに、センサーアイを低く落として謝罪の意を伝えるコズワース。そしてその影に、若い男女が一人ずつと、老婆。ノエルはひらひらと彼らに手を振り、無事をアピールする。
「大丈夫よコズワース、こうして無事に戻ってきたんだし。―――で、少なくともこのあたりには、もうキミたちを襲うようなヤツはいないわ」
スタージェスらを安心させるように、そう口にするノエル。床に腰を下ろしていた男女のうち、女の方が、それでも不審げにノエルを見上げた。
「本当でしょうね?あたしたちを騙して、レイダーに引き渡すつもりなんじゃないでしょうね?」
「落ち着きなさいよマーシー。もしその気なら、アタシは最初からガービーの手助けなんてしなかったわよ」
その言葉に驚いたのは、マーシーと呼ばれたその女だけでなく。ガービーを除いた全ての者が、驚きの目(うち一つはセンサーアイであるが)でノエルを見つめていた。
「……なんで、あたしの名前を知ってるのよ」
「それなんだけど、ガービーには少しだけ話をしたんだけどね。突拍子もない話になるけど、聞いてくれるかしら」
ノエルは、順を追ってゆっくりと話していった。自分が他の世界の住人であること、そうして自分は元の世界へ帰るため、その手がかりとなるであろう人物、ノーラを探していること。
そのどちらもがが彼らにとっては荒唐無稽で、ゼータ星人のような与太話にしか思えず、ノエルに向けられた視線はほとんどが疑念や不審に満ちたものであった。ただ一つ、ベンチに腰を下ろした老婆の視線を除いては。
「そういうことだったのね、ぼうや。やっと分かったわ、その理由が」
「……どういうことだ、ママ・マーフィー?」
ガービーに名を呼ばれた老婆、ママ・マーフィーはゆっくりとガービーの側を向き、言葉を紡ぐ。
「今日、私は調子が良くてね。すごく見通しが良かったの。そこのコズワースちゃんがサンクチュアリからやって来たことも、はっきり見えたのよ」
「貴方の仰るとおりです、ミズ・マーフィー。私とノエル様はサンクチュアリからこちらへ来ました」
同意を返すのはコズワース。そしてそれに頷き、ママ・マーフィーはさらに続ける。
「そう。あなたを見たときにね、それははっきり見えたのよ、コズワースちゃん。それだけじゃないわ、他の誰を見ても、今日は沢山見えたの。―――でもね」
一度言葉を止めて、ママ・マーフィーは深く、深く息を吐く。たっぷり十秒ほどの沈黙の後に、彼女は短く言葉をこぼした。
「ぼうやはね、真っ白だったの。何一つ見えなかったのよ。過去も、未来も」
[クエストがアップデートされました:When Freedom Calls]
・[完了]デスクローを倒す
・ガービーたちをサンクチュアリへと案内するか、その場所を教える