だいぶ脱稿が遅れました。ハイクを詠みます。
なかなかこの新しい人が難産でですね()
ヴェズーヴァと名乗る訪問者の口にした、『ノエル』というその名。名だけを見ればありふれたものであるが、そこに続けられた緊張感のない美人という表現は、本来この世界の住人ではないノエルの特徴と一致していた。
そうしてそれが彼女のことを指しているのであれば、その名を知る者というのは彼女から直接名を聞いた者か、あるいは彼女を知る者と話をした者かのどちらかであろう。
「いや、生憎と聞き覚えのない名前だな。ここを訪れる者はそう多くないし、美人とあらば尚更だ。もっとも、俺とあんたで美人の基準が違うかもしれないがね」
ハンコックは皮肉げな言葉を投げたが、その真意は揶揄するためにあるのではなく、言外にヴェズーヴァの言う『ノエル』の情報を引き出そうとすることにあり。そうしてそれに気付いたヴェズーヴァもその意を汲んで、言葉を加えた。
「そうさナ。赤毛でポニーテール、背はオレより頭一つ低い程度、ってところか。……あァ、あと一つ重大な特徴として…………」
「重大な特徴として?」
「アホほど酒を飲む」
ハンコックへ端的に告げられた『重大な特徴』は、端的に過ぎる故にハンコック自身がその意味をしばらく飲み込むことが出来ず、怪訝な表情を生み出す。それはホラー映画もかくやと言わんばかりの表情であったが、やがてその意味を正しく理解したハンコックは、恐怖感のある表情のまま、再び問い返した。
「……一応訊いておくが、その美人は酒を燃料にして動く人造人間とかじゃないよな?」
「オレが科学者なら、好物はお酒です、だなんて人造人間は作らねェヨ。燃料代で赤字になっちまわァ」
あくまで茶化した様子ではあったが、ハンコックの問いに否定を返すヴェズーヴァ。その回答でハンコックの顔に浮かんでいたホラーは影を潜めたが、それでも質問の言葉は止まることはなかった。
「まあ、道理といえば道理だな。……しかしそれだけじゃあさすがにな。もっと何か手がかりになりそうなことはないのか?」
「もっと手がかり、ねェ。ポップ・カルチャーが好きでナ、演劇や映画、あとゲームなんかも楽しんでたみてェだが」
ヴェズーヴァの補足するノエルの特徴は、平和な時代であれば特段珍しいものではないが、ことこの世界においては酔狂に過ぎるものであり。そしてそんな酔狂な人間は、当然のごとくそう多くはなく、それ故に良くも悪くも目立つのであった。
「手がかりと言えば手がかりなんだろうが、残念ながら俺の記憶の外の人間みたいだな。……だが、ポップ・カルチャーの塊みたいな奴なら、ついこの間までこの街にいたな」
「ポップ・カルチャーの塊ねェ。マイケル・ジャクソンでも踊ってたのかナ?」
「今のあんたの格好の方が、よっぽどマイケル・ジャクソンだと俺は思うがね」
皮肉めいた二人の応酬は、されどどちらも冗談と理解していたので、険悪な雰囲気を生むことはなかった。ただし、当然のことながら和やかな雰囲気ではなく、若干の緊張感がその場を支配している。
その緊張感を打ち破ったのは、ハンコックの小さな咳払いだった。
「んん。……まあ、マイケル・ジャクソンじゃあないが、この街には正義のヒーローがいてな。そいつが手がかりになるかもしれない」
「正義のヒーロー、ねェ。確かに、ノエルの嬢ちゃんが好きそうな話じゃあるが。……で、そのヒーローさんはどこにいる?」
ヴェズーヴァの問いに、しかしハンコックは素直に答えを返さなかった。ひとつ指を立てて、舌をチチチと鳴らしながら、立てたその指を左右にと振る。
「そいつを教えてやるのは吝かじゃないが、出来ればその前に、あんたに一つ頼みたいことがあるんだが」
「……あン?市長直々の頼みなんて、よそ者のオレを使わなくても、アンタの手足で何とかなンじゃねェの?」
訝しげに問い返すヴェズーヴァに、ハンコックは小さく首を横に振った。
「こんな場所だが、市長の仕事ってのは意外と多忙なもんでな。いつだって猫の手も借りたい日々さ。あんたを猫扱いすると、後で痛い目を見させられそうだがね」
いうと、ハンコックは懐から小さな布袋を取り出し、ヴェズーヴァに軽く放り投げる。それを受け取った彼の手元から、ジャラ、といささか軽い金属音が響いた。
「ま、やってくれなくても別に構わんがね。そいつは市長からの歓迎の印だ。そいつで一杯軽くひっかけてきな、話はそれからでも構わない」
ヴェズーヴァが袋の中身を改めてみれば、そこに入っていたのはボトルキャップが数十枚。酒どころか、それなりの武器すら買える程度の額であったが、ヴェズーヴァはそれを不思議そうに見つめると、怪訝な表情で問い返した。
「なァ。この辺りじゃ、コイツが金の代わりみてェなモンなのか?外でオレに喧嘩を吹っかけてきた阿呆共も、コイツを後生大事に持ってたんだがヨ」
「………あんた、一体どこから来たんだ?……いや、まあそれは今はいい。お察しの通りだよ、そいつは金だ。少なくともこの辺り、コモンウェルスではな」
この世界でもっとも一般的な通貨、ボトルキャップのことを知らない様子のヴェズーヴァに、若干目を丸くしてハンコックが答えた。
「まあとにかく、だ。そいつで酒でも飲んできな。ちょっと引っ掛けた方が、話もスムーズに行くだろう?」
「そいつァ間違いねェナ。だが……アンタは来ねェのか?」
「さっきも言ったが、市長ってのは多忙なもんでね。個人的には、あんたと一杯やるのはとても楽しそうだと思うが、残念ながらそれはもう少し後の機会になりそうだ」
名残惜しいが一旦失礼させてもらうよ、とハンコック。その背を見送るヴェズーヴァは軽く肩をすくめ、奪い取ったライフルを手の中で弄びながら、先の男をノックダウンした壁の下の店へと足を向けた。
ナイフなどの小さなものから、得体の知れないロケット砲のようなものまで無造作に置かれたその店は、キル・オア・ビー・キルドの名が示すとおり、まさに武器屋であった。ただ一つ変わったことがあるとすれば、店主と思しき者が明らかに人間ではなく、ロボットであったことか。
「見てたわよ、色男さん。きっと明日には有名人ね」
「それでなくとも、此処じゃあ余所者はすぐ有名になンじゃねェの?」
与太話を交わしながら、ヴェズーヴァは手にしたライフルをカウンターの上に置いた。短いやり取りのあと、ヴェズーヴァの手の中に数十枚のキャップが納まる。
「ところでヨ、市長サマから酒でも飲んで来いって仰せつかったんだが、肝心の酒場はどこにあんだ?」
「その路地を挟んだところよ。サードレールって看板が出てるから、すぐ分かるはずだけど」
「おゥ、サンキューねェちゃん。なんかあった時にゃァ贔屓にさせて貰わァナ」
軽い口振りで礼を述べ、ひらひらと手を振りその場を去るヴェズーヴァに、店主であるロボットは外見からはまったく分からないものの、大いに狼狽していた。
「ひ、一目で私のことを女の子と見抜いた、ですって……?」
それはもしかしたら、グッドネイバーという荒野に咲いた一輪の恋の花、なのかもしれない。
[クエストがアップデートされました(ヴェズーヴァ):Another Stranger]
・サードレールでノエル、もしくはヒーローの情報を聞く
[Perkを取得しました(ヴェズーヴァ):Lady Killer ランク4]
・敵対する相手であっても、女性からの先制攻撃を受けません
・女性のコンパニオンと一緒に行動している場合、すべてのS.P.E.C.I.A.L.が1上昇します