結局シュラウドさんは原作台詞をちょっと喋る程度でした。
大丈夫、大丈夫……次こそは!
悪がボストンの街中に蔓延る時、一人の男が、影の中に身を潜める。
無実なる者を守り、罪人を裁く。その守護者の名は……シルバー・シュラウド。
今回のエピソードは……
『シルバー・シュラウドと白い騎士』
ミルトン・ジェネラル病院。戦前は地域住民の生命と健康を守る砦として働いたであろうその建物は、他の建物と同じく廃墟と化していた。
あえて違うところを挙げるとするならば、他の建造物よりも強固に作られていたおかげか、破損が軽微で建物としての機能をしっかり残しているところか。
そんな病院の入り口前に立ったヴェズーヴァは、まるで不可思議なものでも見たかのように眉を顰めた。
「…………妙だナ」
彼がドアを開ける手を止めたのは、中から人の気配がほとんど感じられないからであった。ラジオであれだけ大々的に人を呼びつける素振りを見せ付けた割には、あまりに準備が足りないように思えた。
そして違和感を覚えたことはもう一つ。道中に転がっていた複数の緑色の死体である。おおよそ人とは思えない巨躯が、ここに来るまでにいくつか見受けられた。そしてそのいずれも、鉛弾の雨を受け、蜂の巣になった状態で。
「確かシルバー・シュラウドってのは、サブマシンガンが得物だったか……?」
道中のあの戦闘をシルバー・シュラウドがやったと仮定すれば、この静けさにも説明がつく。ひとまずそう結論付けたヴェズーヴァは、扉を押し開け、中へと足を進めた。
廃墟じみた外観から想像されるとおり、当然のように瓦礫が散乱しており、加えて待合室と思しきその場所のベンチには、朽ちて風化しかけた人骨が転がっている。
それだけの年月がたてば、死臭もとうに消えているはずであるが、しかしヴェズーヴァの嗅覚は、微細な異臭を感じ取った。その白骨死体からではなく、広間の片隅、開いた扉の奥に。
「……血の臭いだナ」
ほんのわずかに漂う、錆びた鉄のようなその臭いを血液のそれだと断定したヴェズーヴァは、まさにその臭いの先、開いた扉に向けて足を進める。大多数の普通の感覚を持つ人間なら近寄りがたい状況だったが、彼に躊躇などは全くなかった。
開いた扉を抜けると、鉄臭さがより深まって。エレベーターホールらしきそのスペースの中央に、レイダーの死体がひとつ転がっている。うつ伏せになって動かないその体を、ヴェズーヴァは足の先で軽く転がすようにして表に向けた。
「…………サブマシンガン、か」
全身に弾丸を浴びたとおぼしきその様子を見れば、今まで覆い隠されていた血の臭いがさらに濃密になり、その場を支配する。その臭いにげんなりした様子を見せながらもさらに死体を調べると、その側に一枚の名刺のようなものが転がっていた。
「シルバー・シュラウド。……間違いねェナ」
その名刺を指で弾いて、死体の側に戻し。ついでと言わんばかりにレイダーの服を探ると、拳銃、弾丸、キャップがそのままの状態で残されていた。
「物盗りの犯行じゃねェってことか。……まァ、正義のヒーローならそんなモンか」
だが、目の前の男は別に正義でもなんでもない。レイダーにとって既に不要となったそれらは、満場一致で(当然、議決権はヴェズーヴァにある)その所有権が移動することとなった。
そうしてひとしきり所持品を奪い取った後、ヴェズーヴァは身を起こし周囲を見回す。エレベーターホールの奥へと続く通路は、天井が崩落していて通れなくなっていた。
「いくらスーパーヒーローでも、瓦礫をすり抜けて通り抜けることは出来ねェわナ」
一人で納得したヴェズーヴァは、視界の端で明滅するエレベーターのボタンを見つける。扉の前に足を進め、ボタンを押すと、低い機械音と共にエレベーターが動き出す。しばしの間の後に音は止まり、扉が開いた。
「……動力どうなってんだコイツ」
首を傾げるも、ともかくヴェズーヴァはエレベータに乗り込み、階下へのボタンを押す。すぐに扉は閉まり、無機質な『上へ参ります』という音声の後に、エレベータは下へ向けて動き出した。
動力はあれど照明は頼りなく明滅する程度のものであり、ともすればいつ停止してもおかしくないような状況であったが、程なくしてエレベータは正常に停止し、扉が開く。
「ちょっとしたホラーって言やァ、そうなんだがヨ」
ため息をつきながらエレベーターを出れば、入り組んだ通路の奥から、再び死臭が届く。まるでヴェズーヴァを導くかのようなその死臭をたどれば、やはりそこには穴だらけになったレイダーの死体と、シュラウドの名刺。
ヴェズーヴァは当然のように弾薬とキャップを頂戴して、その先へと進んでいく。元が病院とは思えないほどに入り組んだ通路を進み、たびたび目印のように転がる死体を越えて、最後にたどり着いたのはまたもエレベーターだった。
「……さァて。ご対面といきますかね」
開いたエレベーターの中に落ちた名刺を見て、そこがゴールであると確信したヴェズーヴァは、躊躇いもなく乗り込み、階下へのボタンを押す。
低い機械音と共に沈み行く感覚がヴェズーヴァを包み、事実それはヴェズーヴァを目的の場所へと導くものであった。
「止まれ、シュラウド。それ以上近づくとケントの頭の中身を見ることになるぞ」
エレベーターの扉が開くと同時にヴェズーヴァの耳に届いたのは、低く濁った男の声。そうしてそれに続いたのは、高らかに啖呵を切る女の声であった。
「無垢なる子供の後ろに隠れるとは。臆病者め、シンジン。目の前で倒れるがいい!」
見れば、階段の踊り場で膝立ちになった男を囲むように、数人のレイダーが銃を構えている。そのうちの一人、リーダーと思しき男が手にした銃は、階下にいた人影に向けられていた。
もちろんヴェズーヴァ自身ではない。黒いコートに身を包み、同色のフェドーラをかぶったその姿は、まさに人気コミックの主人公、シルバー・シュラウドそのものであった。
たった一つだけ違うことがあるとすれば、それは目の前の『シルバー・シュラウド』が女性であったことか。
「そんな風に喋るんじゃねえ」
シンジンと呼ばれた階上の男は、シュラウドの言葉を吐き捨てるように一蹴した。
「雑魚共はシュラウドが伝説か何かだと思っている。コミックから出て来たようだとな」
鼻で笑うようなその言葉の後に、シンジンはシュラウドに問いかけるように続ける。
「だが、お互い知っているように、シュラウドなどただの人間だ。そして弱い。さて、シュラウド。ここに来てどうするつもりだ。小さいお仲間のためか?」
「貴様の仲間はすべて打ち破ってきたぞ、シンジン。私がシュラウドでないと、何故断言できる?」
問いかけに返すシュラウドの言葉は鋭く、そして真っ直ぐであった。その威圧的な口調に、一瞬、シンジン以外のレイダーたちの間に動揺が生まれる。
だが動揺は、レイダーのみではなかった。エレベーターの中で動かずにいたヴェズーヴァも、別の意味で動揺を覚えていた。
「なンつー台詞回しだヨ。役者か、あのねェちゃんは?」
呆れと感服の入り混じったようなその呟きは、幸いなことにその場の誰も拾うことはなかった。動揺が走り始めた手下たちに、シンジンは一瞬だけ視線を向け、低い声で制する。
「言うことを聞くな、こいつは偽者だ」
再び視線をシュラウドに戻したシンジンは、その顔に挑発するような笑みを浮かべて告げた。
「これから起こることを教えてやろう。ケントを殺す。それからシュラウド、お前も撃ち殺す。肉の塊しか残らないぞ」
一呼吸置いて、シンジンの宣言は続く。
「それからグッドネイバーへ行き、役立たず共を残さず殺す。そして全てを火の海にしてやる。……誰もシンジンを倒すことなどできない」
「そいつァどうかナ」
それは、シンジンもレイダーたちも、そしてケントやシュラウドすらも予想だにしなかった声であった。エレベーターから出て来た、真っ白なスーツに身を包んだ男。黒一色のシュラウドと対照的なその姿が、シュラウドの横にゆっくりと歩いて並ぶ。
「人質取らなきゃヒーロー一人相手にできねぇニワトリ風情が、よくもまァべらべらと喋る喋る」
シンジンもレイダーも、シュラウドですら銃で武装している状況で、もっとも尊大な発言をしたヴェズーヴァのみが、銃を手にしていない。
「何者だ、オマエは?丸腰でシンジンの前に立つなんて、自殺願望か何かか?」
言葉と共に、シンジンの銃口がヴェズーヴァ自身に向けられても、彼はその態度を崩すことがなかった。それどころか、顔の前で指を立てて、チチチ、と挑発するように左右に振り。
「今から
[クエストがアップデートされました(ヴェズーヴァ):Another Stranger]
・[完了]ミルトン・ジェネラル病院でシルバー・シュラウドを探す
・シルバー・シュラウドにノエルの居場所を訊ねる
[クエストがアップデートされました(ヴェズーヴァ):The Silver Shroud]
・シルバー・シュラウドと協力し、シンジンを殺す
・(オプション)ケント・コノリーを救う