ひとしきり落ち着いた彼女が、改めて身の回りを確認する。
まず、この場所。そこは確かに彼女の口から出てきた通り、そこはサンクチュアリ・ヒルズと呼ばれた場所であること。
ただし問題は、彼女の知っているその場所が本来現実に存在するはずのないゲームの中の世界であること。
次に、彼女の格好。
着用している衣服こそ、普段の彼女の服装と変わらぬ革製のジャケットにハーフパンツであった。
普段の格好と違う箇所があるとすれば、それは左腕。
手首から前腕にかけて、小さなブラウン管のついた機械的な腕輪を着用していること。
「なに、Pip-Boyじゃないこれ。いよいよもってアタシ、ウェイストランドに転生でもしたの?」
呆れたように皮肉を口にする彼女であったが、その口調はほんの少し軽いものであった。
朝起きたらゲームの世界に自分がいたなどという、並の人間なら途方に暮れてもおかしくない事態であるというのに、彼女は悲嘆していない。
それにはそもそもの彼女の性格が楽観的だということもあるのだが、それ以外にもいくつかの理由があった。
ひとつ、彼女はもともと暮らしていた世界で、冒険者として生きてきたこと。
一歩間違えたら死ぬような修羅場をくぐってきた数も、両手両足の指では数えられないくらいにはあるし、そして少なくとも今は「ただちに生命に影響はない」状況である。
もうひとつが、いま彼女の口からこぼれた「Pip-Boy」の存在。
軽い鼻歌混じりにダイヤルを回したり、画面を指で叩いたりを繰り返す彼女。
そう。彼女はそれの使い方を知っているのだ。もっともそれは、彼女がこの世界の元となったゲームをやりこんでいたということなのであるが。
そしてそのPip-Boyの画面に映る、7つの英単語と数字。装着者の能力を大雑把に7種類に分けて数値化したものである。
この場合の装着者とはもちろん彼女、ノエルのことであり。その画面の中にはこのような文字が並んでいた。
Strength(筋力):5
Perception(知覚):8
Endurance(耐久):4
Charisma(カリスマ):7
Intelligence(知力):6
Agility(敏捷):8
Luck(運):6
「んんぅ。―――なんか納得いかないけど、もっともらしいって言えばそうなのかも」
なんだか微妙に不満そうな顔で、再びダイヤルを回す彼女、数回の画面の明滅のあとに表示されたのは、地図だ。
大雑把な道路と地形の他にはほとんど何も描かれていない。ただ一つだけ、小さな銅像のようなマークとともに【サンクチュアリ】との記載があることを除いて。
「なによ、マップ真っ白じゃない。役立たないわねぇ、もう」
ため息を漏らす。だがそのため息は、途方に暮れたような悲壮感に溢れるものではない。どちらかと言えばそれは、この先の行程が面倒なものになりそうだという、ものぐさな色に満ちたものであった。
そうして彼女は役に立たない(と彼女が判断した)地図に早々に見切りをつけ、三度ダイヤルを回す。画面の中に文字が躍り、やがてその文字は『RADIO』の表記で止まる。
そこで彼女が二、三度画面に触れると、ややあってPip-Boyから軽快な音楽が流れ始める。やや雑音混じりのその音楽がしばらく流れ続け、そして曲の終わりを迎えると、今度は曲の代わりに音声が流れ出した。
『こちらは、ダイヤモンドシティ・ラジオ。お相手は僕、トラヴィス・ロンリーマイルズです』
DJとおぼしき、トラヴィスと名乗った男の流麗な口調。流れた曲の紹介などを挟みながら、男は流れるようにトークを続けていく。
『ダイヤモンド・シティにお住みの皆さんは、あのラジオ演劇はお楽しみいただいてるでしょうか? そう、連邦にはあのシルバー・シュラウドの姿をしたヒーローが登場したのです』
トラヴィスのトークは音楽からニュースへと姿を変える。グッドネイバーという名の場所で、シルバー・シュラウド(恐らくラジオドラマの主人公なのだろう)の格好をした者が、犯罪者を私的に退治していると言う話。
それをひとしきり聞いた彼女はPip-Boyを指で叩き、ラジオを止めた。次いで、大きくため息をつく。
「ったく、どんなルート辿ってるのよ【サバイバー】ったら。ガービーはここにいないくせにグッドネイバーでシュラウドごっこやってるなんて」
呆れた声。そうしてその中に上がった『サバイバー』と『ガービー』の二つの名前。いずれも、この世界の元となったゲームの登場人物で、そのうちの『サバイバー』はゲーム内での主人公である。
「…………まあ何にせよ、いくつか分かったことがあるわね」
状況を整理したいのだろう。誰に聞かせるわけでもなく、彼女は独りごちる。
「ひとつ。ここは間違いなく、Fallout4の中であること」
それが彼女の遊んでいたゲームの名前であるが、今の状況においてそれはそれほど重要でもない。
「ふたつ。アタシはサバイバーじゃないこと」
この世界の主人公ではないと言うことは、非常に重要なことである。
これまで彼女が経験した『ゲームの世界に取り込まれる』事象は、すべてそのゲームの主人公を追体験する形であり、ゲームをクリアすることでその世界から解放され、元の世界に戻ると言う流れであった。
ところが今回は自分が主人公ではなく、そのセオリーが通用しない。それゆえに、元の世界に帰るには自分でその手段を見つける必要がある、と言うことであった。
「そしてみっつ。……アタシの当面の目的を見つけたということ」
状況は決して良くはないというのに、彼女はやはり途方に暮れていない。もちろん最終的な目標は彼女自身の世界へと帰還することである。
「まずはサバイバーを見つけないとね。どこにいるかはわかんないけど、グッドネイバーに行けば足取りくらい掴めるでしょ。それとまあ、もう一つは……ね」
自分の言葉に一つ頷き、歩み出そうとする彼女の背に、穏やかな声が投げかけられる。
「―――おや、こんにちは。今日はいい天気ですね、お嬢様」
[クエストがアップデートされました:TRACING "SOLE SURVIVOR"]
・サバイバーの行方を調べる
・?????と話す(オプション)
[クエストがアップデートされました:I WANT SOMETHING QUANTUM]
・ヌカ・コーラ・クァンタムを入手する