というかアレを彼に言わせたかっただけです。
ちゃんとノーラさんとクエストをこなした彼は、きちんとウェイストランドの風に染まったいい男になりました。
今回は一瞬しか出てきませんが。
話は少し前に遡る。
「ねー、コズワースちゃーん。お願いだから失意のおねーさんにグインネット、出してちょうだいよぉ~」
コズワースにグインネットを没収されたまま旅を続ける、意気消沈していたノエルの猫なで声は、無情にも冷徹な電子音声によって却下された。
「いけません。と言うよりノエル様、一体貴方は何に失意を抱いたというのですか」
「ほらぁ、さっきのVault81の話よぉ。おねーさんのお気に入りの子がいなかったから……」
気持ちの乗らないノエルのぼやきに、コズワースははて、と首を傾げるようにセンサーアイを傾けてみせた。
「お気に入りの子?それはノエル様の『サイト』で見られたということなのでしょうか?」
「あ、うん。とってもかわいい子でね、キュリーちゃんって言うんだけど」
キュリー。ノエルが情報収集のために立ち寄ったVault81に長い間閉じ込められていた、医療タイプのロボットである。
「アタシの見えた未来だと、ノーラさんがその子を閉じ込められた区画から出して、一緒に旅をしていたのよ」
寄り道多きノーラのことなので、この場所も通りすぎていったのではないかというノエルの目論見は、脆くも崩れ去ることとなった。
「……ノエル様、ひとつお伺いしたいのですが、宜しいでしょうか?」
「なによコズワース、勿体ぶったような言い方して」
アタシとキミの仲じゃない、と、出会ってまだ日も浅いロボットに向けてフランクな言葉で返すノエル。それに返すように投げられたコズワースの問いは、至極真面目な口調であったが、ずいぶんと突拍子もないことであった。
「もし、お気を害されたら申し訳ないのですが。ノエル様、貴方はもしかして同性愛の志向がおありで?」
「…………へっ?」
一瞬、コズワースの質問の意図が読めず、目が点になるノエル。
その後今までの会話の流れを思い返し、ようやく意味を理解した彼女は、あっははまさか、と笑い飛ばすように否定した。
「そーゆーのじゃないわよ、コズワース。アタシは可愛いものが好きなだけよ。あとイケメンも好きだけど」
「ノエル様の可愛いの定義が今一つ見えかねますが、仰りたいことは理解できました」
コズワースの内蔵メモリに浮かび上がった『ノエル=同性愛者』のフローは、やや不確実ではあるものの一応削除された。
「でもまあ、無駄足にならなかったのはよかったわね。なんといってもノーラさんの足取りが掴めたわけだし」
冗談のやり取りで気分が復活したノエルは、足取りも軽やかになる。Vault居住者の話によれば、ノーラはVault81に立ち寄っており、ダイヤモンド・シティへと向かった、とのことだったのだ。
その後を追うように、入り組んだボストン廃墟の路地を抜けて進めば、やがて目の前に大きなゲートが現れる。それこそが連邦最大の街、ダイヤモンド・シティへの入り口である。
「にしても、実際見てみると意外と大きいものね、ここって」
ゲートを抜け、ダイヤモンド・シティの中に入ったノエルが漏らした一言。ノエルの世界の大都市に比べれば、そして、大戦前のボストンに比べれば、ごくごく小さなその街。
だが、文明が崩壊した中、なおこの規模の集落が存在するというのは、ある意味驚異的なことであった。
「なんと言っても、連邦最大の都市ですからね。さすがにモハビのストリップ地区には劣りますが」
「うん、素直にすごいと思うわ。……ホントはこの目で色々見てみたいけど、まずは先にウルフギャングの頼みを済ませないとね」
そう口にして、Pip-Boyのコンソールに触れるノエル。今まで積極的に使ってはいなかった機能、クエストの並ぶタブを開くと、その一番上に並ぶ『The Disappearing Act-Retake』の文字。
「……うぇ」
思わず呻き声を出すノエル。それというのも、若干名前が違えど、彼女はこのクエストのことを知っていたからだ。
消えたダイヤモンド・シティの住民を探すという目的であるが、その結末は、お世辞にもハッピーとは言えないものである。
「如何なさいましたか、ノエル様」
そんなノエルの表情になにか感じるものがあったのか、コズワースのセンサーアイがノエルの顔を覗き込むように動く。
「あ、……ううん、ちょっと気分が優れないだけよ」
「それはいけません。ノエル様にはあまり馴染みのない話かもしれませんが、放射線被害かもしれません。念の為、医者にかかることをお勧めいたします」
「う、医者……かぁ」
至極真面目にノエルのことを心配するようなコズワースの言葉を聞いて、ノエルはますます言葉を詰まらせた。
それというのも、ウルフギャングから頼まれた荷物を渡す相手は、この町に二人いる医者の片方であり、そしてその男こそが先の『クエスト』に大きく関わっている者であるからだ。
「なんですか?まさかノエル様、医者が苦手などということはないでしょうね」
「いやまあ、苦手って言えば苦手な部類ではあるけど、そうじゃないのよ。……ほら、ダイナーでウルフギャングから配達の品、預かったでしょ?」
「ええ、確かに。ですが、それならばなおのこと好都合なのではないですか?」
「まあ、そうなんだけど……今のところ健康には問題ないわよ。ほら、RADも全然でしょ」
注意深く放射線の地域を避けてきたおかげで、確かにPip-boyの示すRADの値はほぼなかった。それはコズワースも理解できたのか、頷くようにボディを上下させる。
「それでは、他に何か気がかりなことでも?」
「そう……ね。アタシの思い過ごしならいいんだけど、そのための情報収集してもいいかしら?」
「問題ありません。できれば、奥様のことも併せてお調べいただければ」
ノエルの言葉を特に疑うこともなく、コズワースは了承した。
―――だが、その『情報収集』は、ある意味ノエルの実益に即したものであったことを、その時コズワースは知る由もなかったのだ。
ダグアウト・イン。宿と酒場が併設された、ノエルにとってはまさに天国とも呼べる場所に赴いたのは、それからすぐのことである。
だが、ノエルたちがその酒場の扉を開いた直後に聞こえてきたのは、なにやら複数の男たちが言い争うような声であった。
「なぁ、聞いてんのか。オマエだよオマエ。ちょっとカッコいいところ見せたからって、調子に乗ってんじゃねえのか」
レイダーよりは多少身なりのよい、しかしごろつきの枠を抜け出せない柄の悪い男が、カウンターに座った男に何やら難癖をつけている様子で。
しかしカウンターの男は動じる様子もなく、グラスの中の液体を喉に流し込む。そしてその男は、ため息ひとつと共にスツールから立ち上がり。
―――そして、それは一瞬の出来事であった。
グラスを置いて空になった右手に、いつの間にか拳銃が握られていた。それを瞬きする間もなく、ごろつきの額に突きつけ、一言。
「―――
一瞬、目の前で起きたことを理解できなかったごろつきの動きが止まり、そして状況を把握したのか、その男はひとつ頬に冷や汗を浮かべて、首を振った。
「……わ、悪い。人違いだったみてえだ、邪魔したな」
足早にその場を離れ、ごろつきはノエルたちの横を通って店を出て行った。この世界ではありふれた物騒なトラブルであったが、ノエルが驚いたのはそのトラブルの内容ではなく、その渦中の人物にある。
珍しいスタジアムジャンパーを着て、目にも留まらぬ早業を見せたその男こそ―――
「えっ……トラヴィス?」
そう。その男こそが、ダイヤモンドシティ・ラジオのDJ、トラヴィス・ロンリーマイルズであった。
[クエストがアップデートされました(ノエル):The Disappearing Act-Retake]
・ダグアウト・インでDr.クロッカーに関する話を聞く
・(オプション)ダグアウト・インでダイヤモンド・シティ内での変わったことについて尋ねる
[読者クエストがアップデートされました:Taxi Driver]
・ロバート・デ・ニーロ主演の映画『タクシードライバー』を見る
・(オプション)映画の感想を書く