かくひまが ありません
あしたから
おきなわに
あそびに
いってきます
ノエルの目の前で圧倒的な速さの銃さばきを見せたその男、トラヴィスは、ごろつき達が視界から消えたことを確認すると、出したときと同じく速い動きで腰のホルスターに戻し、そしてその視線がノエルたちの方へ向いた。
「おや。リスナーの子かな、見苦しいところを見せてしまったね」
挨拶がわりの小さな謝罪と共に、男は続けた。
「ご存じのようだけど、僕はトラヴィス・ロンリーマイルズ。ダイヤモンドシティ・ラジオのDJをやっている」
ノエルへの自己紹介は淀みなく、そして自然なものであった。そしてその自然さは、こと彼の話であれば新たな意味を持つ。
「うん、いつも楽しく聴かせてもらってるわ。アタシはノエル。……『前の』ちょっとオドオドした感じもキュートでよかったんだけど、ラジオとしてなら今の方がより素敵かな」
ノエルが初めてこの世界で聴いたダイヤモンドシティ・ラジオは、まだコズワースに会う前、この世界に降り立った直後のことである。そしてその時にはすでに、ラジオでのトラヴィスの口調は落ち着いたものであった。
つまりそれはゲーム中の話であったが、本物もその部分は変わらなかったようで、気恥ずかしげな素振りを見せるトラヴィス。
「ああ、恥ずかしいな。そうだな、確かに前の僕は、何をするにも自信が持てなかった」
頬を掻きながら、だけど、と彼は続ける。
「ある事件と、その事件の解決に手を貸してくれた人のおかげで、僕は変わることができた。……頻繁には起きて欲しくないことだけどね」
詳細はトラヴィスの口から語られることはなかったものの、ノエルにはその事件の心当たりがあった。トラヴィスに自信をつけさせるためのクエストは、ゲーム中、おそらくほとんどの人が経験するであろうものだったからだ。
「へーえ、そんな親切な人、まだこのあたりに居たのね」
よかったじゃない、と、あくまで雑談のように合わせるノエル。そのトラヴィスを助けた人物こそ、まさにノエルとコズワースの求めるノーラその人であるが、ノエルはそれを知りながらも、あえてそれを訊くことはなく。代わりにノエルの口から出たのは、それとは全く関係のない、別の質問であった。
「ねえトラヴィス、……アタシたち、ついさっきここに来たばっかりなんだけどさ。最近……そうね、ここ10日くらいの間で、この街でなにか変わった出来事ってなかった?」
一見、当たり障りのないように聞こえるその問い。だがノエルの中では、それはきちんと的を絞った質問なのだった。
事実、時間と場所を特定したその質問に対するトラヴィスの答えは、まさにノエルの求める物であったのだから。
「変わったこと……か。そうだな、アール・スターリングという男が失踪したことかな。特に誰かと争っていたということもなかったみたいで、皆不思議に思ってる」
「…………ああ、それはちょっと聞いたわ」
だが、トラヴィスの答えに返すノエルの言葉は、やや陰鬱なものであった。
「どうしたんだい、もしかして彼と知り合いだったりするのか?」
「ううん、そういうわけじゃないけど、そういう不穏な話は苦手でねー。何事もなければいいんだけど」
「随分とお人よしなんだな。……いや、優しい、と言うべきか」
ノエルのそんな受け答えに、トラヴィスは一瞬目を細めた後、わずか真剣な表情を見せた。
「だけど、十分気をつけた方がいい。それは素晴らしいことだとは思うが、君のその優しさを利用しようとする人も多いからね」
「うん、ありがとう十分気をつけるわ。……あ、そうだトラヴィス。もうひとつ訊いてもいいかしら。アタシDr.クロッカーって人を探してるんだけど、どこにいるか知らない?」
トラヴィスはしばし考える素振りを見せた。そしてややあって、戸惑いの色と共に口を開く。
「……そういえば、ここ最近はあまり姿を見ないな。同僚のDr.スーンなら知ってるんじゃないのか?」
「んん、わかったわ。ありがとうトラヴィス、今度一緒に飲みましょ」
愛想のいい笑みを残して、ノエルはダグアウト・インを後にした。
店の外に出たあと、ノエルの背後をついて来ていたコズワースが、やや躊躇いがちに言葉をかける。
「……ノエル様。アール・スターリング氏の話ですが」
コズワースのメモリの中で、ずっとエラーの出ていたことである。少なくともコズワース自身の目の前では、先のトラヴィスのと会話を除き、一度もアール・スターリングという男の話はしていない。
にもかかわらず、ノエルは『前にちょっと聞いた』とトラヴィスに答えたのだ。
「さすがねえコズワース。あなた探偵としてやっていけるわよ」
店から少し離れた場所で、ノエルはコズワースを振り返り、言葉を返す。
「お察しの通り、前にって言うのは、アタシの『サイト』もどきの話よ。そしてアタシは、この話の結末も知ってる」
辺りにコズワース以外の人間がいないことを確認すると、ノエルは自らの体験した結末を口にした。
アール・スターリングがDr.クロッカーの整形手術を受けたこと。そしてそれが失敗して、命を落としたこと。
最終的にそれが明らかになったとき、罪の意識に堪えかねて、Dr.クロッカーも自らの命を絶ったこと。
「後味の悪い話よね」
ノエルは大きなため息をこぼし、肩をすくめた。そして、続ける。
「アール・スターリングは、もう恐らく……亡くなっているでしょうね。だからアタシがどうにかできるのは、もう一人の方よ」
「そして、その証拠として彼の部屋にある『レシート』が必要だということですか」
コズワースはセンサーアイをノエルから外し、すぐそばの扉へと向けた。ノエルが歩いてきたその場所は、アール・スターリング本人の家の前である。
ノエルの体験した流れであれば、ここ、ダイヤモンド・シティに居を構える探偵から依頼を受けることで始まる事件であり、先の酒場の主人から部屋の鍵を借り受けることができるのだが、今のノエル自身は当然、その探偵と面識はなく、当然その手段は使えない。
「こちらへ近づいてくる熱源はありません。……お急ぎを」
そしてノエルの意図を察したのか、そうコズワースが促す。言葉に首肯で返し、ノエルはPip-Boyからヘアピンを取り出した。
道中立ち寄った商店でヘアピン自体は複数仕入れていたものの、問題は解錠の難しさではなく、時間との戦いである。
その家の所有者でないノエルが鍵を開ける行為は、当然このダイヤモンド・シティにおいても犯罪であり。それを住民やセキュリティに見咎められてしまえば、今後のノエルの行動に影響が出てくるのだ。
しかし、ノエルの心配とは裏腹に、それほど複雑な鍵ではなく。すぐに小さな音を立てて、扉は開いた。
「……ん。じゃあちょっと辺り見ててくれる、コズワース?」
「仰せのままに」
短い会話のあとに、ノエルは開いた扉の奥へと消えていった。
当然、コズワースのメモリにおいて、他人の家への不法侵入は悪事であるという認識はある。にも拘らず見張りという、ある種悪事の片棒を担ぐような行為に躊躇いもなく同意したことに、コズワースは独りそのセンサーアイを傾けた。
「―――影響を受けているのでしょうか」
以前のコズワースであれば、主人のこのような行為は咎めるところである。当然ノエルは自分の主人ではないが、ノーラと離れた『あの日』以来では、一番長く行動を共にしている相手でもあった。
日数にしてみれば一ヶ月足らず、大した時間ではないが、それでもいくつかノエルについて分かったことがある。
華奢にも見える外見ながら、荒廃したこの世界を生き抜くだけの度胸が備わっていることや、ときに鋭い洞察力を発揮すること。
そして一番重要なのが、彼女はほぼいつも彼女自身でない、他の誰かのための行動をしていると言うこと。
コズワースのメモリは、コズワース自身も気がつかないうちに、彼女の評価を改めていた。それはすなわち、『理由のない悪事を彼女が働くはずがない』と。
「……この問題が解決したら、お酒を少し返すことにしましょうかね」
コズワースがそう呟くのと、小さな紙片を手にしたノエルが出てきたのは、ほぼ同時のことであった。
「あったわ。やっぱりアール・スターリングは、Dr.クロッカーの手術を受けてたわね」
「―――では、やはり事件は」
「ええ。やっぱりDr.クロッカーと話をしなきゃいけないみたい」
辺りに気づかれぬよう、後ろ手にそっと扉を閉めたノエルは、手にした紙片……レシートをPip-Boyに収納して。
「行きましょうか。少なくともまだ一人は救えるかもしれないから」
それは、荒廃したこの世界において忘れられて久しい、人を信じるという行為の表れであった。
[クエストがアップデートされました(ノエル):The Disappearing Act-Retake]
・[完了]ダグアウト・インでDr.クロッカーに関する話を聞く
・[完了](オプション)ダグアウト・インでダイヤモンド・シティ内での変わったことについて尋ねる
・Dr.クロッカーと話をする
・(オプション)Dr.クロッカーを改心させる
[Perkを取得しました(ノエル):Sincere]
・カルマが善か中立である相手に対して、一人につき一度だけ、会話での説得確率が大幅に上昇します
・Perk、Skillを用いた選択肢には効果がありません
[Perkを取得しました(コズワース):Am I robot?]
・時折、ロボットらしからぬ非合理的な言動を行うようになります