「インスティチュートのショーン君には、もう会った?」
「―――っ!?」
それはノーラにとってまさに寝耳に水の質問であり、かつ、彼女の切望していた『答え』であった。驚きに目とセンサーアイを見開くノーラとコズワースをそれぞれ眺めて、ノエルは続ける。
「その様子じゃ、まだ会ってなかったみたいね。まあ今言ったとおり、ショーン君はインスティチュートにいるわ」
「……何故貴女が居場所を知って…………いえ」
ノエルに疑問の矢を投げつけようとしたノーラが、言葉を飲み込む。そして一度かぶりを振って。
「…………貴女は『他の世界から来た』と、はっきり言えるんですもの。……貴女は、この世界のことを、知っているのね」
国が違う。時代が違う。ノーラがそうであったように、目覚めたらそこは未来であった、という可能性だってなくはない。
だが彼女、ノエルはそれをはっきりと否定し、他の世界と表現した。それはつまり、この世界のことをもともと知っていたか、もしくはこういう『別の世界へ来ること』を何度も経験しているか、あるいはその両方だ。
そしてノーラの推測を裏付けるかのように、彼女、ノエルは首肯した。
「うん、大まかなところはね。さすがに全部を知ってるわけじゃないけど、この先起きるであろうこともいくつか推測はできるわよ」
「…………そう、なのね」
ノーラにとってこれ以上ない、自分の求めている答えを与えてくれるであろう人物。
信憑性のほどはともかく、ノーラがその答えにすがるのは自然なことであった。あるはずだった。
だが、実際にノーラがノエルに尋ねるのは、その答えを求める問いではなく。
「……それを教えてくれる貴女の目的は、一体なんなの?」
「元の世界に帰る方法を探してるのよ。可能性のある手段はいくつか思い付いたんだけど、そのうちの一つがインスティチュートなのよね」
そこまで言って、ノエルは困ったように頭を掻いた。
「……でもノーラさん、貴女はインスティチュートにはまだたどり着いてないんでしょう?」
「ええ。けれどわざわざ私を通す必要があるということは……貴女はインスティチュートへ行く手段を持ってないということなのかしら」
ノーラの問いにノエルは首肯し、大きくため息をついた。
「ご明察。手段を知ってる人に心当たりはあるけど、すぐにその手段が使えるとは考えにくいわね」
『本来の手段』では、いくつか必要なものを「調達」した後に、しかるべき人物にその話を持ちかける必要がある。
「もしノーラさんがもうインスティチュートにたどり着いてたなら、まずはそっちを頼ろうかと思ったけれど」
「―――残念だけれど、すぐには難しいわね。貴女は手段を知ってるかもしれないけれど、私はその手掛かりすらも、今は掴めていないもの」
嘆息するノーラに、ノエルは一度頷き、ひとつ指を立てた。
「ショーン君の話は、知ってる範囲ではできるわ。インスティチュートに行く方法も、直接は無理だけど必要なことを案内はできるわ。けれど、あたしはその手段は用意できないし、用意できそうな人を知ってはいるけど……」
「けれど何らかの理由があって、その人を頼ることができない、と」
もしもガービーらミニッツメンが彼らの本拠地、キャッスルを奪還していたのであれば、彼らに依頼することはできる。しかしいまだにラジオからは、キャッスル奪還のニュースは流れていない。
「そういうことね。だから別の手段を探さなきゃなんだけど……」
ノエルは頷き、そしてふと小首をかしげた。
「そういえばヴェズーヴァ、アタシはともかく、アンタこの場所知らないはずでしょ。どうしてここにいるの?」
唐突に話題を振られたヴェズーヴァは、その言葉の意味を暫し考えて、やがて大きく溜め息をついた。
「覚えてねェのか。そもそもおかしいと思わねェのか、オマエはともかくオレがこの場にいるのがヨ」
「まあ、あんたあたし以上に機械とかダメなタイプだもんねぇ」
「喧嘩売ってンなら戻ってから買うぞ」
ぶっきらぼうに言い捨てると、かぶりを振ってヴェズーヴァが続ける。
「プレ……『参加者』の救出依頼だ。ギルドからのお達しでヨ。生きてる世界に複数が飲まれたのは、これが初めてなんだとさ」
状況は把握しているのか、言葉を選び答えを返したヴェズーヴァ。
「直接あっちから引っ張るこたァできねェってことだから、オレはソイツを伝えに来たってワケだ」
「……それ、アンタも帰れないんじゃない」
呆れたように呟くノエルに、ご明察、とヴェズーヴァは肩をすくめた。
「んで?お姫様を救う王子様には、この状況をパリっと打破する『別の手段』が見えてンじゃねぇノ?」
言いながらヴェズーヴァはサードレールでせしめたボトルを呷ると、おもむろにラジオの電源をオンにする。するとそこから流れてきたのは、ノエルはすでに直に聞いたことのある、落ち着いたトラヴィスの声だった。
『彼らのことをなんと呼べばいいのかって?もちろんご存知でしょう……そう、Vaultbusters!』
ラジオから流れる彼らが、本来この世界にいない人物であることを、ヴェズーヴァは当然知らない。だが、そのラジオの話があまりにも『出来すぎている』ことは理解できる。
いい勘してるわね、とノエルは頷いて、……そこでヴェズーヴァのボトルが羨ましくなったのか、コズワースに手のひらを差し出すが、コズワースはボディを左右に振った。
「けち。……まあそうよ、あたしの知らない話に首を突っ込んでいけば、どこかから何かできるんじゃないかなって。ノーラさんにはちょっと回り道になるかもしれないけどね」
虎の子のグインネットを禁じられ、肩をすくめながら言うノエル。そして、それに同意する意見は二つあった。
「回り道も何も、手詰まりなンだろ。なら、繋がってる道を歩いてみるしかねェだろ」
「私も賛成ね。……というよりは、実は私も気になっていたのよ。あの三人はね」
ダイヤモンド・シティには市長をはじめ、幾人かの有名人がいる。人造人間の探偵や、過激な新聞記者、ノエルが酒場で会ったトラヴィスもその一人だ。
そしてノエルは知る由がないが、ノーラの口にした三人もまた、名の知れた存在であった。
「話が早くて助かるわ。……それじゃノーラさん、案内してくれる?」