本当は週一更新くらいの予定だったものが、日刊ペースになってて作者びっくり。
ほんの少しだけ、ノエルさんの出自が書かれます。あまり重要ではない(断言)
そしてほんの少しだけ戦闘します。ホントにほんの少しだけ。
「よろしければ、貴方様のお名前をお聞かせ願えますか?」
「あ」
彼、コズワースの紳士的な問いに、一瞬呆けたように口を開くノエル。彼女の側はそれは言うまでもなくコズワースのことを知っているが、その逆は決して真ではない。
「ゴメンね、うっかりしてたわ。アタシはノエル。トレーダーみたいなことやって暮らしてるわ」
コズワースへの自己紹介に含まれた、彼女の職業、トレーダー。実のところ彼女のこの発言は、偽りない事実である。
ただしそれはこの世界でなく、もともと彼女が住んでいた世界においての彼女の職業であったが。
「度胸のある方でいらっしゃいますね。ガードも雇わずに旅をするなどとは」
「あはは、キャラバン組むほど品揃えは良くなかったからね。実際の生計はほとんど、そっちじゃなくてこっちのキャラバンだったわ」
言いながら、カードをシャッフルする仕草を見せるノエル。ここ連邦より遠く離れた、モハビ・ウェイストランドと呼ばれる地で流行していたトランプゲームだ。
「私がカードを持てるならば、ぜひお相手願っていたところで御座います」
「あら残念。じゃ、今度チェスでもお願いしてみようかな。けちょんけちょんにされそうだけど」
「少なくとも、奥様よりは腕の立つ方であることを願いますよ」
ひとしきり二人の間にジョークの花が咲いたところで、ティータイムのような平和な時間は終わりを告げて。ノエルとコズワースは坂を降り、サンクチュアリ・ヒルズを抜ける橋へと歩き出す。
「ところでノエル様。グッドネイバーまで距離もありますが、どのようなルートで向かうおつもりで?」
「そうねぇ。コンコードから南下して、そのまま線路沿いにダイヤモンド・シティを通って東に向かいましょうか」
今にも崩れそうな橋を歩きながら、ノエルはそう提示する。
そのルートはゲーム内では比較的安全なルートで、加えて途中には人の集まる場所もいくつかある。ある意味でゲーム的に言えば『チート』とも呼べる彼女の言葉に、コズワースは満足げに同意の言葉を返した。
「ベストな選択だと思います、ノエル様。多少時間はかかりますが、そのルートであれば放射能の危険性も少ないでしょう」
「ふふん。もっと誉めてくれてもいいのよコズワース。まあアタシとしては、旅程は未定、冒険は危険でもいいんだけど」
「ジョーク生成アレイの更新が必要ですね、ノエル様」
「辛辣っ!」
渾身のジョークを無機的な言葉(そもそもコズワースは当然無機物であるのだが)で切って捨てられ、がくりと肩を落とすノエル。だが復活は早かった。歩みの先に朽ちた建物を見つけたからだ。
「あ、コズワース。ちょっとそこの燃料スタンド、見ていくわよ」
「構いませんがノエル様、そこには特にめぼしい物はないと思われますが?」
「ううん、ちょっと気になることがあってね―――」
言うが早いか、錆びたガードレールを軽く乗り越えてスタンドに近づくノエル。後を追うコズワースはノエルと違い、行儀良くガードレールを避けて行く。そうしてノエルの視線の先にあるのは、主のいない犬小屋がひとつ。
「いない……かぁ」
何も単純に、彼女がペットを欲しがっているわけではなく。元のゲームではその場所に主人公―――ノーラの相棒となる犬がいたのだ。その犬が居ないと言うのは、ノーラが連れて行ったのか、それともそれ以外の何かが原因なのか。
「犬小屋ですね。ノエル様、もしかして犬がお好きなので?」
「うん、まあ犬だけじゃなくて猫も好きだけど、いつも可愛がりすぎて逃げられちゃうのよね」
しゃがみこんで犬小屋を覗いていたノエルが冗談めかして立ち上がった瞬間、乾いた破裂音が遠くから響く。
紛れもなく、それは銃声であった。
「コズワース、今の……」
「ええ、間違いありません。銃声ですね、しかも距離と方角から計算するに、概ねコンコードの方かと」
如何なさいますか。そうレンズ越しの視線で問うコズワースに、ノエルは一つ頷いた。
「行くわよ。万が一だけど、そこに居るのがノーラさんって可能性もあるしね。……それに、一つ試したいこともあるし」
「承知いたしました。お供いたしますよ、ノエル様。……ですが、くれぐれもご無理はなさらぬよう」
コズワースの言葉にオーケー、と一言返し、彼女は銃声の元―――コンコードへと走り出す。そしてその後ろをジェット推進でついて来るコズワース。
さして長い道ではないが、その場所にたどり着くまでにも散発的に銃声が響く。だが銃声だけではなく、その中にラジオのノイズが歪んだような重い音も混じる。レーザーと呼ばれる光学兵器のそれだ。
建物の影になって見えにくいが、時折赤い光の線が走って、すぐに消える。
光の線が向かう先から、今度は反撃とばかりに銃声。間違いなく、何者かが争っている様子である。
そうしてその音に近づいてきたのを確認すると、ノエルは路地の陰に隠れ、ひとつため息をついた。
「ホントはこれ、アタシがやるべきことじゃないんだけどなぁ」
その呟きはコズワースの聴覚センサーには届かなかったのだろう。違和感のあるその言葉に、コズワースは疑問を返さなかった。その代わりに戻ってきたのは、コズワースの分析である。
「先程、あちらの建物の上に一名、人影が見えました。本物かどうか断言は出来かねますが、その格好はミニッツメンのものです。―――対して、銃を発砲している側は複数名。格好や状況から判断して、レイダーの集団に間違いありません」
「オッケー。どっちに付くかなんて、言わなくても分かるわよね。アタシがきっかけ作るから、コズワースは裏から回って挟撃しましょう」
「承知いたしました。ご武運を、ノエル様」
ノエルの提案に素直に従い、コズワースは路地を抜け、ノエルの元から離れる。視線を通りの側に戻せば、そこにはコズワースの言葉通り、荒んだ格好をした略奪者―――レイダーの姿が一つ。拳銃を構えて、遠くに居るであろう標的に狙いを定めている。
「あっちのアタシができること、ここでも出来るかどうか、試しておかないとね……」
元の世界の彼女は、この世の者ではない力、『魔法』が存在する国の住人である。
騎士と魔法の国、竜騎兵と弓兵の国、電子と機械の国。その三国が統治する世界で、彼女は生きてきた。
伝説の勇者でもないただのトレーダーだった彼女が、たった一つだけ使える魔法。それが『炎』。
争っている者のことを知っている彼女が、わざわざ路地に隠れたのも。コズワースに挟撃の指示を与え、自分一人だけになる状況を作り出したのも。全て、この瞬間を見られることを避けたかったから。
「流れ星に背を向けて―――祈る両手の指を、一つずつ解いて―――!」
まるで詩のようにノエルが言葉を紡いだ瞬間。ゴゥ、という音ともに、レイダーの構えていた拳銃が、激しく炎に包まれる。
「なっ……うわぁ!?」
正面の獲物にのみ注視していたそのレイダーは、まったく予想だにしなかった事態に驚愕し、手にしていた拳銃を取り落とす。
「よぉっし、ビンゴォ!!」
完璧な『きっかけ』を作ることに成功したノエルは、唯一の武器、シシケバブを構えて―――レイダーへと走り出した。
[Perkを取得しました:Pyrokinesis ランク1]
・V.A.T.S.の届く範囲で、任意のターゲットに炎ダメージを30与えます
・3回まで使用可能で、3時間以上の睡眠を取ることで使用回数がリセットされます
[クエストがアップデートされました:When Freedom Calls]
・付近のレイダーを無力化し、ミニッツメンに協力する