旧アニメでポックルが言っていた、三年前に受験したという試験が舞台。ポンズ視点で進む「あったかもしれない、もしもの話」です。
※ポンズの口調が原作と異なります。CP(クルポン)要素有り。■pixivにも掲載しております

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※ご注意
ポンズの口調が原作と異なります。CP(クルポン)要素有り。


ファーストコンタクト

 漆黒の闇を切り裂くように、かぼそい月が上がる晩だった。ポンズはかすかな光をたよりに、木々の間を注意深く進んでいた。

 

 四日前、ポンズ含む第284期ハンター受験生は三次試験会場の孤島へ連れてこられると、有無を言わさず島内へと放り込まれた。 各々の手に小さな木片を握らせ、試験官は言った。 自らの持つ割符 ——— 一枚の木片を二つに割ったもの ——— の片割れを所持する相手からそれを奪い取れ、と。 手段は問わないとのことだった。

 

 言ってしまえば、人間狩りだった。

 

 あれから四日経った。気の遠くなるような時間でもあり、めまぐるしく場面が変わる映画のような時間でもあった。

 

 初日、いきなり見知らぬ男に襲われた。夜だった。うかつにも入島してからずっとつけられていることに気がつかず、寝込みを襲われた。

 ほうぼうのていで逃げ出し、なんとか割符は死守したものの、その日以来眠るのが怖くなった。日が沈み、周囲が闇に呑まれると 気が狂いそうになった。

 

 あれから男は一度も姿を見せない。

 

 (それとも、相手は私を見つけてて、私がそれに気づいて ないだけ、とか)

 

 さっと背後をふり返る。

 何も居ない、ように、見えた。

 ほう、とどこかで鳥の声がした。

 

 (まいったなあ……)

 

 ここしばらくずっとこんな調子だった。ひたひたと忍び寄る暗い影から逃れるように、夜はひたすら 動き続け、昼間に少しまどろむとまた動いた。

 眠るのは恐ろしかった。だが、いいかげんまとまった睡眠をとらないと精神より先に 体がどうかなりそうだった。

 ポンズは限界を感じ、久しぶりにゆっくり休める寝床を探すことに決めた。

 

 月の影が地平線にかかる頃、海岸付近に一つの洞窟を発見した。あたりには背の高い植物が複雑に生い茂り、すぐ横を通っても 入り口はまったく見えなかった。

 自分でもよく見つけたものだと感心しながら、念のため先客が居ないか慎重に様子を伺う。 と、中で何か物音がした。目を凝らし奥深くを覗こうとして、

 

 「動くな」

 

 耳元に押し殺した男の声がし、 ポンズが反応するまもなく首筋にヒヤリと冷たい物が当たった。

 

 

 しまった。初歩的な罠だ。

 

 ついに恐れていた瞬間がきてしまった。耳鳴りのように動悸が激しくなる。

 「奥へ進め」

 背中を冷たい汗が流れるのを 感じながら、ポンズは洞窟の中に足を踏み入れた。男の力は強く、とても振り払えるようなものではなかった。

 「何人で動いている」

 「別に、誰とも……」

 相手の機嫌を損ねない程度にゆっくりと質問に答える。そのスキにポンズは視線だけを動かし、辺りの状況を確認した。 洞窟は入り口の大きさに比べて思ったよりも広く、二人の人間がどこにもぶつかることなく進むことができた。

 と、男の声が一段と低くなった。

 「割符の番号は」

 しばしの沈黙。

 「……六……」

 どうやら男は一人で行動しているようだった。一人分の荷物が隅に置かれているのが見える。

 「割符を見せろ」

 震える手で割符を取り出し、見せる。男は割符を取り上げるかわりに、

 「……ここへ何しに来た」

 と聞いた。

 「しばらく寝てなかったから、休めるところを、探しに……」

 なんとかスキを見て逃げ出せないかと必死に頭を働かせていると、 意外なことに

 「すまない。考えすぎだったようだ……」

 と男はあっさり身を引いた。

 

 あまりのあっけなさに 驚きつつ、ポンズは恐る恐るうしろをふり返った。

 

 入り口から差し込む光に照らされ、こがらな人影がぼんやりと浮かび上がって 見えた。月光に透けて見える髪がきらきらと銀色に光って、こんなときに場違いだと感じつつもポンズは

 とてもきれいだ、

 とおもった。

 

 

 そのまま銀色の線を目で追いながら相手の出方をうかがっていると、ゆらりと白銀の影がゆらめいた。ポンズはとっさに身構えたが、男はそのまま うずくまってしまった。

 「?」

 その様子をいぶかしく思い、相手の姿をあらためてみると、

 男の片腕は真っ赤に染まっていた。

 「っ、そのケガ、は……?!」

 「……あんたには関係ない」

 確かについ今までポンズを脅していた人物だ。助ける義理などない。

 けれど放っておけない傷口を見た瞬間勝手に体が動いていた。

 「私、少しくらいなら治療に必要な道具と知識、 もってます。止血を、」

 そう言いながらポンズが近づくと、

 「さわるなッ!」

 強い拒絶にビクリと手を止める。

 「これくらいオレ一人で処置できる……もう行け」

 しかし、すでに手を伸ばしてしまった。いまさら引っ込める気も起こらず、

 「何言ってんですか、さっきから見てれば血ィダラダラ出して全然処置できてないじゃないですか。 このままだとまともに試験も受けられませんよ。ガマンしないで患部を見せて下さい」

 と早口でまくしたてた。

 「……近づけば、刺すぞ」

 そう言って男は先ほどまでポンズの首筋に押し当てていたのであろう小刀を握り直し、油断ならない瞳できつく睨んだ。

 だがポンズはそれを聞いてもたじろぐことなくまっすぐ男を見つめ、すうっと息を吸い込むと腰に手を当てて言った。

 「そりゃ見ず知らずのハンター試験のライバルを信じろって言うほうが無茶かもしれないですけどね、 人の命がかかってるときに試験も何もあったもんじゃないでしょう。そもそもハンター同士は殺しあうような憎い仇なんですか。 いざというときは協力し合う仲間じゃないんですか。少なくとも私は同じハンター志望者としてあなたを助けたいと思うし、 一緒に合格できたら良いなって思いますよ」

 一気にそうまくしたてると、呆気にとられた男は目をパチクリさせ

 「あんた…変わってるよ」

 と言った。

 「ハンター志望者には変わり者が多いですからね。私、ポンズって言います」

 「…オレは、ポックル」

 

 もうポンズが近づいてもポックルは嫌がらなかった。手早く止血するとポンズは袋から三日月形の針を 取り出した。

 「うっ……、縫うのか……」

 ポックルがなんとも嫌そうな顔をするので、「これくらいで音を上げるようじゃ ハンターになれませんよ」と笑って言うと、ピタリと口をつぐんだ。しばらくのあいだポンズの手を動かす音と、二人の呼吸音だけが 静かな洞窟に響く。

 

 

 やがて作業が終わりに近づくと、

 「さっきは、すまなかった」

 と ポックルがつぶやいた。

 「ん、」手元に集中していたポンズは生返事をしたが、意味を理解すると慌てて顔を上げ、

 「あっ、別に、気にしてませんし、こういう試験内容だし、」

 となんだかしどろもどろになりながら返事を返した。 最初に聞いたポックルの声とはあまりにも違うやわらかい響きに驚いたのだ。

 ふと思いついたように

 「……オレ、この試験始まってから、 初めて人と話したかも」

とポックルが言ったので、

 「あ、私も」

 とポンズも言った。二人してちょっと笑う。

 ぽつり、ぽつりとポックルは話した。

 「受験前は覚えていたのに、試験が進むにつれていつのまにか忘れていた……。 腕の傷を負ったとき、オレはターゲットを狙っていて、迷い無く殺すつもりでやった。 だが狙いは外れて、もみ合いになって……、あのとき、オレは相手のことを同じハンター志望者で、人間だとは考えなかった。 動物か何かくらいにしか思ってなかったな」

 「それじゃ、私のときはどんな動物を思い浮かべました?」

 ポンズが冗談で聞いてみると、ポックルは生真面目な顔をして「虎」と答えた。

 「え、そんなにゴツそうに見えました。」

と言うと、 笑いながら

 「いや、怖かったから。オレを狙って来たのかと思ってさ」

 とポックルは言った。

 「私も怖かったですよ、なにせ初めてのハンター試験で知り合いは誰も居ないし、三次試験は初日にいきなり襲われるしで、 後ろから声をかけられたときにはここで終わりかと思いました」

 「それは悪かった……、ん、あんたもルーキーだったのか? じゃ、トンパって奴に会わなかったか。18番の」

 「あっ、新人潰しの人?なんでも初めのほうに毒を撒いてたとかなんとか」

 「ああ、幻覚剤を混入させたジュースを配ってたみたいだ。先にあいつに騙された奴がいて、そいつの末路を見ていたから 引っかからなかったが……、受験生の中にはあんな暇人もいるんだな」

 「あの人、もう試験を受けはじめて32回になるらしいですよ」

 

 すでに腕の治療は終わっていたが、二人の間には気のあったもの同士に流れる打ち解けた雰囲気がただよい、 おたがいなんとなく離れがたい気がしてそのまま長い長い話をした。

 

 

 

 

 気がつくと、周りがうっすらと明るくにじんでいる。ハテ、ここはどこだったかと見慣れぬ景色に首をかしげ―――、 自分がたった一人で洞窟内で眠っていたと分かると、ポンズは慌てて飛び起きた。

 荷物は一通りそろっており、割符も盗られてはいない。見ると体には自分のものではない 毛布がかけられていた。

 昨日の男……ポックルはどこに行ったのかと視線を巡らせると、洞窟の入り口にたたずんでいるのが見えた。

 

 「……おはようございます、ポックル、さん」

 突然名前を呼ばれて驚いたのか、ポックルは目をまるくしてからちょっと照れると

 「おはよ、ポンズ。よく眠れたか」

 と聞いてきたので、ポンズは一人爆睡していた事実を思い出し少し赤くなって

 「それはもう」今までにないくらいぐっすりと。

 と、最後は心の中だけで答えた。

 「腕の調子はどうですか?」

 決まりが悪くなったのでさっさと話題を変えると、

 「ああ、いいみたいだ。正直、ポンズが居なかったらまずかったな。昨日はほんとうにありがとう」

 と真面目にお礼を言われてしまい、ポンズはますます頬が紅潮するのを感じた。

 

 その時、ポンズはあることに気がついた。

 「そういえば、ずっと見張りをしていてくれたんですか?得体の知れない、尾行が ついていたかもしれない私なんかほっといて、どこかへ行くこともできたのに」

 「あー、いや、」

 ポックルはなぜかポンズではなくその斜め上を見ながら、

 「助けてもらった借りがあるし、ほっとくのも寝覚めが 悪いから、な……」

 とどこか歯切れ悪く言うと背中を向けてしまった。

 「……お礼を言わなくてはならないのは、 こっちのほうですね。ひさしぶりにゆっくり休めて、助かりました」

 ふんわりと微笑みポンズが感謝の言葉を述べると、

 「礼には及ばないさ。これくらいなんでもない……あーところで」

 ポックルはそこでコホンとひとつ咳払をした。

 「ポンズ、割符はもう手に入れたか?」

 ポンズは首を振り、まだだと告げた。

 「じゃ、ポンズさえよければ、この試験、しばらく一緒に組まないか。 借りも返したいしな」

 相変わらず背を向けたままポックルは話していたが、ポンズには彼が耳まで赤くなっているのが分かる気がした。

 ポンズはポックルの側に近づき手を取ると、

 「どうぞ、よろしく」

 と言って握手した。

 

 


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