ヘイハチ視点のシチロージ考。シチロージが持つ朱色の得物と、そのひととなりについて。
ワンライ(#SAMURAI7版深夜の小説60分一本勝負)のお題「白銀の刃」で、参加させて頂いたものに加筆修正いたしました。
※大戦時代の捏造ありです。苦手な方はご注意下さい。■pixivとHPにも掲載しております

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白銀の刃

 普段の柔和な姿から想像もできない。獰猛な笑みを浮かべ、白銀の刃を閃かす様は、まさしくサムライだと思った。

 

 

 カツシロウが追っ手の矢に倒れ、ホノカの厚意で、カンベエ一行は暫し式杜人の里に逗留する事となった。

 矢が放たれたとき、そばに居ながら何もできなかった。その不甲斐なさから、ヘイハチは見張りを買って出た。するともう一人、名乗りを上げる人物が居た。

 一行に新しく加わったその人物は、大将の古女房だという。機械の左腕を持った男の、粋な朱色に塗り上げられた杖が、ヘイハチの目を強く引いた。義手と同じく、仕込みがあるのだろうか。そんなことを考えていると、ついつい目がいってしまう。

 

「当ててごらんなさい」

 

 物思いにふけっていたヘイハチは、驚いて顔を上げた。そこには洒脱に片笑んでみせる、三つ髷の人物が立っていた。

 

 

「ヘイさん、さっきからこいつに目が釘付けですぜ」

 

 

 そう言ってチョイと朱塗りの杖を掲げてみせる。何を考えているか見透かされ、ばつが悪くなったヘイハチは、これはとんだご無礼を、と非礼を詫び、視線を周囲に戻した。

 

 

「カラクリ。お好きなんでしょう」

 

 

 なおも声をかけてくる男に、ヘイハチは変わったサムライも居たものだ、と訝りつつも、「その杖は、仕込み槍ですか」と口にした。

 どうやら当たりだったらしく、男の両目が見開かれる。すごい、よく分かりましたね、と、屈託なく笑う姿に、多少毒気を抜かれた。

 ヘイハチは、この男が少し苦手だった。

 

 

 仕込みの武器には見覚えがあった。工兵だったヘイハチは、斬艦刀の整備を担当したこともある。そのとき、多くの斬艦刀乗りは、狭い機内に己の刀を持ち込めるよう、様々な工夫を凝らしていることを知った。

 そして、工兵という、サムライであってサムライではない者達を、軽侮の目で見る姿もだ。

 

 

 ヘイハチが工兵だったことは、まとう衣服で一目瞭然のはず。しかしこの男は、出会ったときから一度も見下すようなそぶりを見せない。むしろたいへん好意的である。たった五年でここまでサムライらしさが抜けるものなのか。得物が仕込みである以上、男が斬艦刀乗りだったことは、ほぼ間違いない。ヘイハチは元斬艦刀乗りとの距離を、計り兼ねていた。

 

 

 なぜ、仕込みが槍だと分かったのか。あれこれと話しているうちに、ヘイハチは昔の事が思い出され、知らず常の恵比須顔に苦みが混じった。それを男は敏感に感じ取り、流れを自然と心地よいほうへ変える。あまりの話術の巧みさに、さすが幇間を務めていただけある、と感心した。

 だが、そのような本心を悟らせない物腰に、かえってヘイハチは警戒心を強めてしまう。我がことながらなんと面倒な性分か。

 この男は、仲間なのだ。

 胸の内で反芻した言葉が、ずくりと痛んだ。

 

 

 式杜人の洞窟を抜けてすぐ、野伏せりに襲われた。待ち伏せされていたのだ。内通者がいることは明白だった。

 しかし今はそれを詮索している暇はない。その場に居た全員が抜刀し、目の前の野武士へ斬り掛かる。

 ヘイハチはこのとき初めて、仕込み槍の全貌を見た。伸縮自在の棒から柄が展開すると、先端から三つ又の刃が飛び出した。剣呑な空気をはらむその槍で、あっという間に鋼筒四体を薙ぎ払ってしまう。戦う姿は別人のように獰猛で、白銀の刃を振るう姿は、まさしくサムライだと思った。

 やっと男の本性を掴めた気がした。仕込み槍のように、常は粋でやわらかな姿だが、ひとたび戦になると、迷い無く刃を振るうサムライとなる。普段の柔な物言いも、戦の無駄一つない剛の様も、どちらも男の本性なのだ。

 ただひたすら仲間のために尽くす男の戦いぶりに、ヘイハチは固くなっていた心をほぐした。

 仲間に心を開くのは恐ろしい。だが、この人物なら。

 

 

「まこと、シチロージ殿は興趣が尽きない御仁ですね」

 

 

 心の中でつぶやくと、ヘイハチは眼前の野伏せりを、一刀のもとに切り伏せた。

 


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