ロングライ(#SAMURAI7版長期間真剣小説一本勝負)のお題『虹雅峡で一息』で参加させて頂きました。くたばりぞこないのボーガン男がヒョーゴさん宅で夕飯をゴチになるお話。※pixivとHPにも掲載しております

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虹雅峡で一息

ときどき自分は何をしているのか、と思うことがある。

 

ぽかぽかとした春のはじめ、やわらかな光が窓から差し込み、部屋の畳たたみをあたためていた。

キュウゾウは御前の供で出張。俺は非番。

ふとんでも干すか、とヒョーゴは何とはなしに窓を開け、ぎょっとした。

コワモテの男が屋根の上でくつろいでいる。

それもたくさん。

庭の桜から花弁が舞い、そこでまどろむ用心棒たちを少しずつおおい隠すさまは、なんとも異様な光景である。

「あ、ヒョーゴさん」

だらだらとねそべるセンサー男が、のんびりと声を上げた。

「何してる」

「俺たち光が動力源なもんで、こうして充電してるんです」

「……大変だな」

「いえいえ。けっこう楽しんでやってますよ」

ふと、ヒョーゴはセンサー男のとなりでねむる人物に目をとめた。

仰向けで目をつむり惜しげもなく花を受ける男。両手は胸の上で祈るように組み、口元はうすく開かれていた。

いつもならやたら目立つ男が、えらくおとなしいのが珍しい。よほど疲れているのか、はたまた。

「今日は静かだな」

視線をはずさないまま告げると、ああ、と解したセンサー男は「最近眠りが深いんです」と、ため息まじりに答えた。

「支障が出るようなら医者に診てもらえ」

「それを直接言ってやってくれませんか。俺が言っても聞きやしない」

ヒョーゴさんなら言うこと聞くかも。

冗談半分で話すセンサー男は、となりでねむるボーガン男の腹を、たしたしとはたいた。

「ヒョーゴさんがいるぞ」

声をかけても無言。

「死んでないか?」

「じゃあ昼寝のまま花葬ですねぇ。贅沢なやつだ」

そう言ってセンサー男は手元の花びらをすくいとり、桃色の髮へ桜色をはらはらとかぶせていく。

呆れたヒョーゴは、式には呼べよ、と言い残し、ふとんを干すべく引っ込んだ。

 

---

 

その日、ギョッとするのは二度目だった。

ふとんを取り込むべく窓に近づけば。

まさかとは思ったが、いた。

おおぜい転がっていた用心棒たちは跡形もないが、ぽつんと花に埋もれるようにして身を横たえている男がいる。あれからずっと眠っているのか。

春先とはいえまだ冷える。

「おい」

呼んでみる。

「ボーガン」

反応無し。

「晩飯だぞ」

ピクリとも動かない。

最後のはさすがに無かったなと思いつつ、さてどうするかとヒョーゴは思案した。

ひとまず生きているのかだけでも確認することに決め、窓枠から飛び降りた。男に近づき、顔にかかっている花びらを払い落とす。薄く開いた口元に手をかざし、呼吸の有無を問う。

特に何も感じられない。

念のため胸に手を当ててみるが、鼓動もなく。首筋に指を添えるが、すでに身体が冷たかった。

 

---

 

そして男がここに残されていった理由を知った。

めちゃくちゃ重いのだ。

よく屋根瓦が割れなかったものだ、とヒョーゴは男の顔を小憎らしく見つめながら、その長軀を担ぎ直した。

苦労して自室に運び入れてから、ハタと気づく。

カムロに連絡もいれず、現場検証も済ませぬまま、素人判断でひと一人を移動させたこの状態。

厄介なことになるのは明白だった。

頭痛の種である男は、ヒョーゴが一日かけてぬくぬくにしたふとんの上で、のんきにねむり続けている。本格的に頭が痛くなってきたヒョーゴは、盛大なため息をひとつ吐いて、事の次第をとどけ出るべく腰を上げた。

そのとき、にょきりとあらわれた生っちろい腕がヒョーゴの羽織を掴む。

ギョッとするのは本日三度目のこと。

次いで、腕の持ち主が叫んだ「晩飯!」という台詞に、心底から脱力したのだった。

 

---

 

「お前は死んだふりが趣味なのか?」

調理場で玉ねぎの皮をむきながら、ヒョーゴは手を清めているボーガン男に問いかけた。

「なかなか迫真だったでしょう」

支度を手伝うべくついてきた男に、ヒョーゴは玉ねぎと包丁を手渡し、指示を出す。

考え、考え、包丁を入れるボーガン男と、不揃いに刻まれていく哀れな玉ねぎを横目に、

「くたばるのは勝手だが、俺の目が届かぬ所で勝手に果てろ」

片手鍋に調味料を入れ、さわらの切り身を投入し、

「迷惑だ」

そう言って蓋を閉めた。

「ヒョーゴさん、これ、目にめっちゃ染みる」

大の男が情けなくもボロボロと涙をこぼし、鼻をグスグスいわせながら訴える。

「口から息を吸って、鼻から出すとマシだ」

おお、本当だ、と感動しているようすに、

「最初だけな」

と付け加えると、ボーガン男はまたぽろぽろ涙を流しはじめた。

 

---

 

「こんなまともな食事を拝んだのはひさしぶり」というボーガン男は、たいそう感動しながら夕飯を味わった。

「今日の礼はいずれ必ず。また飲みに行きましょう」

そう言ってニカッと笑った顔貌はずいぶんおさなく見えて、仕事時の酷薄な雰囲気からはちょっと想像しにくい。

「期待しとらん。礼を受け取れる保証もない」

「そうですねェ……あ」

何かを思い出し、ふところをあさるボーガン男が取り出したのは、かわいらしい葛湯の包みだった。

「コレ。買ったものの、湯を沸かすのがめんどうで。もらって頂けるとありがたいです」

ずいぶん健康的なものが登場し、面食らったヒョーゴは、差し出されて思わず手に取ってしまった。「ごちそうさんでした」の言葉とともに消えるボーガン男の背中を見送り、ヒョーゴは軽く舌打ちした。

 

---

 

ときどき自分は何をしているのか、と思うことがある。

生身の体も、機械の体も、いずれ終わりが来る。

 

友として気をゆるす相手は一人で充分だった。充分だったのだ。

 

葛湯の包みから花弁がはらりとこぼれ、しんしんと冷える部屋に、あわい桜色を灯した。

元和十三年、春分のことだった。

 

 


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