そうと決めたからにはあの小説をもう一度、読破する必要がある。
もう何年も前に読んだものだ。好きな作品の1つではあったが、何度も読み返したりはしていない。大まかなあらすじは覚えているが、記憶が曖昧になっている。
あの小説には映画版もある。あの映画は原作に忠実で非常によくできていた。しかし、都合上、カットされたシーンも存在する。その部分がどのくらい大事なものになってくるかはわからないが、やはり原作をもう一度読み返した方がいい。
一刻も早くそうしたかった。今はスマホでもライトノベルを読むことができる。しかし、現在、俺は自分の携帯を紛失してしまっている。まぁ焦ることはないのだ。
家に帰れば、原作のライトノベルがある。俺の部屋の本棚の隅に忘れられたように置かれているはず。
俺は帰路を急いだ。
×××
「ない……」」
思わず口に出てしまった。
家に帰って、出迎えてくれた小町とカマクラを適当にあしらって来たというのにない。部屋中ひっくり返して探したが、一向に見つからない。
それどころか、俺の部屋の本棚が大幅に変更されている。なにこれ?どういうこと!?
本棚にあった大量の小説、ライトノベルの類が姿を消し、漫画や雑誌にすげ変わっている。マジかよ。俺の大事なラノベちゃんたちが……。
たぶんだが、なくなった理由。それは俺がリア充になったからではないかと思う。これは俺の勝手な見解だ。リア充で友達もいて、彼女もいるような人間でもライトノベルを好んで読むような奴もいるだろう。いろんな人から愛され続けるライトノベルってすごい!!
話が逸れた。
不思議なことにすべてがなくなったというわけではなかった。それは本棚の隅に申し訳程度に保管されていた。その作品たちは俺が中学の頃に好んで読んでいたもの。これはどういうことだろう。これについては後で考察しよう。
ないものは、しょうがない。
もうこうなったら映画版でも構わない。
自室のパソコンをすぐさま起動し、我らがGoogle先生に聞いてみることにした。今の時代、ネットで調べれば動画の1つや2つすぐに見つかる。違法視聴はよくないよ!!
そんなことは百も承知だ。しかし今は緊急事態なのだ。許せ、著作権。
俺は検索欄に”涼宮ハルヒの消失”と打ち込み、Enterキーを叩いた。
結果報告。
涼宮ハルヒに関する情報は何一つヒットすることはなかった。
表示されているのはまったく関係のない記事ばかり。画像1つ映し出されることはない。
諦めずに検索を続ける。
消失を憂鬱に変えてみたり、退屈に変えてみたり、驚愕、動揺、溜息……。
結局、涼宮ハルヒに関連する情報は何一つヒットすることはなかった。
これは一体どういうことだ?
なぜ、この作品自体の存在までもが消失しているのだ。
もしこれがこの現象を引き起こした奴の仕業ならかなり厄介だ。俺がここまで辿り着くかもしれないと予想していたことになる。まったくどこの馬鹿だ。あの名作を消しやがって。
しかし、原作者の名前を調べてみると原作者さんは存在していた。涼宮ハルヒ以外の作品はちゃんと存在している。やはり意図的に消された可能性が高いな。
ここに来て、またも振り出し。
きっと今頃、こんなことを仕出かした奴は俺の落胆ぶりを想像してほくそ笑んでいることだろう。そんなことを思うと、なんだか腹が立つ。
1人、自室で頭を抱えていると、後ろから声をかけられる。
「兄貴?」
「うおっお!?びっくりしたな」
振り返ると、心配そうに俺を見つめる小町の姿があった。
「なんかあったの?」
「ああ、いやなんでも」
「もしかしてお気に入りの動画が消えちゃったとか?」
いやいや、なぜそれの存在を知っている。てか、消えてない。
もしかして小町の奴、また俺のパソコンを勝手に使ったのか?しかし、俺に抜かりはない。絶対に見つからないところにパスワードをかけて隠してあるのだから。
「あんな単純なパスワードじゃすぐにわかっちゃうよ?」
ぬかった!!
なぜだ。なぜわかった!?というかもうお約束だよね。
あれを見られたのか……。
俺の性癖が小町に知られてしまったというのか。べ、別にそんなやばいやつじゃないから!普通だよ、普通!ちょっとアニ……。じゃなくて、もうお兄ちゃん泣いちゃいそう!!
「まぁなんでもいいけど、ご飯だよ?早くしないと兄貴の為に作った好物のハンバーグが冷めちゃう。あ、今の私的ポイント高い」
なんでもよくはないだろう。しかし、いつの間に俺の好物はハンバーグになったのだ。まぁ嫌いじゃないけど。
小町はそう言って俺の部屋を出て行った。
小町が去った後すぐに隠してフォルダを確認したところ、俺の趣味とは異なるものが保存されていた。
×××
リビングで夕食を食べながら、小町にこの件について聞いてみることにした。さすがにど直球に聞くわけにもいかない。いくら小町であってもすべてを正直に話せば、俺の頭がおかしくなったと疑うだろう。それに今の小町は俺の知っている小町ではない。最悪、親父か母ちゃんに通報される。
何から聞くか。まずは俺の髪のことについて聞いてみるか。
俺はそれとなく小町に尋ねる。
「小町」
「ん?」
「この髪、どう思う?」
「……」
小町は箸を止め、半目で俺を睨む。おお、この小町がやるとなかなかに怖い。
しかし、俺はこいつの兄貴だ。兄としての威厳を保つためにもここで退くわけにはいかない。
「どう?」
「どうって?」
「その色とか」
「朝も同じこと言ったじゃん」
「……」
小町の威圧的な態度に押し黙るどうも俺です。もう威厳も何もあったもんじゃねえな。元からねえか。
しかし、小町は世界がおかしくなったとしても小町は小町なわけで。
押し黙る俺を見て、やれやれといった感じで答えてくれる。
「まぁいいんじゃない?黒いのも」
「そうか?」
「金髪よりはいいんじゃない?あれやり続けると髪も痛むし」
「き、金髪?」
あまりの衝撃に意味もなく復唱してしまった。金髪て、おい。
金髪になった自分を想像することができない。目の濁った奴が金髪になんかしたらただのグレた非行少年だろ。
そんなことを思っていると、小町はじっと俺の顔を見つめる。
「ど、どした?」
「いや、兄貴さ、なんか目が……」
「目がどうした?」
「前みたいに濁ってきてるよ?」
な、なんだと……。
×××
夕食を済ませ、自室へと戻ってきた。
小町から聞き出せた情報をまとめよう。
小町によると、この世界の俺は中学時代までは今の俺とそんなに変わらなかったらしい。中学生までは目を濁らせてしまうほどのボッチだったとのこと。おそらく俺の部屋に残されていた数冊のライトノベルはボッチだった頃の遺品。
高校に入ってしばらくして髪を染め、次第に変わっていったらしい。所謂、高校デビューというやつだ。しかし、高校デビューとは、入学に合わせて行うものであるはず。入学してからしばらくしてということはこの世界の俺には何かがあったのだろう。何かが弾けてしまったのか。
1つ思うことがある。入学してからしばらくしてそんなことをやり始める奴は大抵痛い奴だ。1年の頃に同じクラスだった奴にそんなのがいた記憶がある。
しかしだ。今の俺の立場はどうだ。皆から慕われ、羨望の眼差しを向けられている。まるであの葉山隼人のように。
これには何か原因があるはず。俺が金髪にしたのも、何かきっかけがあったはずなのだ。
まぁこれについてはこれ以外考えても仕方がない。追々探っていくとしよう。
さて、本題に入ろう。
まずはここまでの情報をまとめる。
昨日、12月17日までは今までと変わらない普通の世界だった。その証拠に寝る前の小町は何も変わっていたなかった。
そして今日、12月18日の朝から異変が起き始めた。本来いるはずのないカマクラが布団に潜り込んでいたり、小町がお姉さん感を出し始めたのも今日の朝だ。
ということは俺が変な妄想に耽っていた昨日の未明から今日の早朝にかけて何らかの事象、あるいは改変があった。そう考えていい。
学校に行くと、風邪を引いた材木座に遭遇した。昨日会ったときは、風邪などまったく引いていなかった。それどころかどっかの空を飛べるあんぱんかと思うくらいに元気100倍だった。
あのときの材木座の様子は今思うと、少しおかしかった。風邪だけではない。話しかけた俺への返答があまりに他人行儀だった。この世界の材木座がどう変化しているかはわからないが、リア充へと変貌を遂げた俺と関わりがあるようには思えない。だから材木座は俺にあんな態度を取った。あいつからすればリア充が自分をおちょくりに来たと思ったのかもしれない。
で、教室に向かうと、戸塚が女の子になっていた。女の子に。
やっと俺の夢を実現できる。戸塚に毎日味噌汁を作って貰えるぅ!!!!
じゃなくてだ。戸塚は戸塚だから戸塚なのだ。もう意味わかんねえな。
しかし、現実的に考えると、戸塚は男の子だから魅力があるのだ。全然、現実的に考えてねえな。でも実際に戸塚が女の子になってしまったと考えると俺なんかではもう無理だ。まさに高嶺の花。もう手の届かない存在になってしまう。それは嫌だ。だから戸塚は男の子に戻ってもらう。真顔。
まぁ最初にそれに驚愕したわけだが、それに続いて、三浦、戸部、海老名さん。そして折本。
彼女らはとても親しげに話しかけてきた。それだけでもビックリ仰天するレベルだと言うのに、別の高校の生徒であるはずの折本まで登場する始末。たぶん折本の立ち位置は”朝倉”。やべえ、俺、折本に刺されるやん。
まぁ物騒なことを考えるのは後にしよう。だが、警戒しておくに越したことはない。
彼女らを含め、学校全体と言っていいほどの規模で俺の扱いは葉山と同等のものになっている。改めてそう考えるとやばいな。この世界の俺は何をしたんだろうか。
こういう考え方はどうだろう。
あの小説の主人公は涼宮ハルヒが引き起こす様々な事件にうんざりしていた。
俺は取り繕い続ける日々に嫌気が指していた。そして現実逃避した。
過程は違えど、どこか似てはいないだろうか。
あの主人公は最終的にその日々が楽しかったと認めた。面白くないわけがないと強く制定した。
俺も同じだ。失ってから楽しかったと、大切なものなのだと、心からそう確信した。
俺も馬鹿な男だな。まったく。
このことから物語自体は違えど、話の核は同じだと言うことがわかる。
こんなことを仕出かした奴は俺に知らしめたかったのだろうか。本当にお節介なやつだ。
そして消えた3人について。
由比ヶ浜は見つけ出すことができた。まったく別の姿になっていたが。
彼女の立ち位置は”長門”になるのだろう。なぜ彼女が選ばれた?あまりにキャラがかけ離れ過ぎている。本来ならこの役は雪ノ下はずだ。そっちの方がしっくりくるだろう。あの毒舌が消え失せた大人しい眼鏡をかけた雪ノ下の方がキュンとくる。何言ってんだ俺は。
しかし、由比ヶ浜ではただ呆然とするだけ。由比ヶ浜本人かどうかもわからなかった可能性だってある。
もうこれに関してはこれ以上文句を言ってもしょうがない。
あとは消えた雪ノ下と葉山だ。立ち位置は”ハルヒ”と”小泉”。
おそらくだが、あいつらは別の高校にいる。たぶん海浜総合高校あたりに。折本は”あんな頭のいい高校”と評していた。あの小説でもお嬢様学校が進学校に改変されていた。このことからあいつらは間違くそちらの高校にいる。
大体の立ち位置や改変はこのくらいだろうか。
最後に残されている点。
それはこの現象を”誰が”引き起こしたのかである。
大本命は長門と同じ立ち位置の由比ヶ浜。あの小説では、蓄積されたエラーデータがバクのトリガーとなって長門の異常動作を引き起こし、ハルヒのSFヘンテコパワーを掠め取った。
仮に由比ヶ浜が犯人だったとしよう。まず最初に由比ヶ浜はたぶん宇宙人しゃない。のっけから全否定だな。
気を取り直して、由比ヶ浜が何らかの方法でSFヘンテコパワーを掠め取ったとしよう。それは一体誰からだ。これで行くと、他の誰かがその力を有していたことになる。1番の謎はそれだ。
由比ヶ浜自身が最初からその力を有していた可能性もある。
しかし、由比ヶ浜がこんなことを願うか?
俺をリア充にしたのは……まぁいいとしよう。良くない。
問題は由比ヶ浜自身だ。
明るく元気で皆から人気だった由比ヶ浜が自分からあんな風になりたいと願うものか?いや、それはないだろう。
しかしだ。逆に彼女は疲れていたのかもしれない。空気を読み、皆に合わせて場を取り繕う。あいつの特技でもあった。あの部室でもずっと続けていたことだ。
由比ヶ浜はそんな日常にうんざりしていたのか?わからない。彼女の心の奥底まではわかりかねる。
しかし、昨日の帰りに見せたあの顔はなんだったのだろう。今思えば、伏線になっていたようにも思える。
残念ながら、犯人が由比ヶ浜だと絞り込むにはまだ判断材料が足りないな。
さて、次点での可能性がある人物。
それは雪ノ下だ。
以前、出会ったばかりの頃に”世界を人ごと変える”なんて野望を聞いたことがある。
これは由比ヶ浜にも言えることだが、なぜ俺をそのままにした?
あの小説では、どちらがいいか選べと選択肢を委ねられていた。俺もそうなのか?どちらにせよ、そんなものはもう決まってる。
そして、彼女が犯人に浮上したもう1つの理由。それは昨日の葉山との会話だ。
彼女らの会話からは切羽詰まっていた様子が窺い知れた。雪ノ下は葉山と何らかの協力関係にあり、世界を改変した。
しかしながら、この説で行くと、彼女はSFヘンテコパワーを有していないことになる。元々持っているなら、俺に宣言するまでもなく実行すればいいだけのことである。
そうならなかったということは、雪ノ下も誰かからその力を掠め取った可能性が高い。
そして、1番のダークホース。
陽乃さんだ。
なんとなくだが、SFヘンテコパワーを有している人物としては彼女が1番しっくりくる気がするのは気のせいか。
陽乃さんが俺を残して世界を改変するとは思えない。イタズラにも程がある。
陽乃さんに関しては違う説が考えられる。
陽乃さんはその力を元々持っていた。自覚があったかどうかはわからない。
あの慌てた様子から察するに、雪ノ下が世界を改変しようとしていることに気がつき、それを止めようとしていた。
しかし、それは叶わず世界は改変されてしまった。少し強引だが、その時に何らかの事件が起き、それが原因で俺だけが取り残された。
長らく考察したものの、どれも仮説の域を出ない。
この現象はおそらくあの小説を基づいて起こされたものであるはず。そうとは言い切れないが考え方は間違ってないはずなのだ。
だが、凝り固まるのはよくない。
別の観点から見てみよう。
俺が世界線を飛び越えた説。
あの小説の中にも同じような説が出ていた。
よく似ているがどこか違う。パラレルワールド的なアレだ。
この世界には確かにリア充になった俺がいた形跡がある。皆の記憶だけじゃない。今いる俺の部屋がそれを物語っている。
大量にあった小説の代わりにすげ変わったものの中にはファッション雑誌なんかもある。クローゼットの中には今流行りの洋服なんかもあった。それに俺の趣味とは明らかに違う動画の数々。アニメは1つもなかった。どちらかというと、、、やめておこう。
考察とは少し外れるが、リア充になろうと努力した跡が見られる。頑張ったんだな俺。俺じゃねえけど。
リア充になった俺が存在したのは確かだ。それで俺が世界線を飛び越えてきたとしよう。リア充になった俺はどこへ消えた?
まさかボッチの俺と入れ替わって俺の元いた世界には行ってしまったわけではあるまいな。
それだと、少し罪悪感が湧く。
必死に努力して、リア充になり得たというのに、一夜にしてそれが一変。
昔の自分の立ち位置に逆戻り。なんとも残酷な話だ。気が狂うまである。
しかしだ。その説が正しければ、あちらには雪ノ下と由比ヶ浜がいる。まぁ驚きはするだろうが、なんとかなるだろう。投げやり。
犯人の考察はここまで。
ここからはどうやって元に戻すか、または戻るか、だ。
うーん。これに関してはマジでなんも浮かばない。
あの小説のように3年前にタイムスリップしても何かがあるとは思えない。
俺の人生を照らし合わせても、3年前には学校の校庭に落書きする少女や未来から来た教師風未来人との思い出はない。さて、どうしたものか。
犯人が誰だかわかったとしても、改変されたこの世界でまだSFヘンテコパワーが残っている可能性は低い。これはあの小説基準だが。
これって結構やばい?
いや、マジでやばいな。あの小説をヒントにいくら考察しようとも、この現象を解決する手段が何1つ見つからない。
俺には頼れる宇宙人も未来人もいない。
さすがに手詰まりだ。
マジでどうしよう。
これってどう足掻いても絶望じゃねえ……?
×××
なんとも言えない絶望感に苛まれながら、ベットへと倒れこんだ。
「やべえ……」
もうこの一言に尽きる。
打開策が全く見えてこない。
この現象を解決するための攻略本である小説の自体が消失してしまっている。
もう記憶が薄れているせいで、ここから先の内容がよく思い出せない。
確か、またあの部室に行って、その後、長門の家に行ったんだっけか?
となると、明日、俺は由比ヶ浜の家に行かねばならなくなる。さすがにそれは無理じゃね?
由比ヶ浜は団地育ちだと聞いている。まだその団地、もしくはマンションに住んでいるかどうかはわからないが、おそらく両親までは消失してはいまい。
この点から考えると、やはり雪ノ下の方がしっくりくる。あいつ、マンションに1人暮らしだし。かと言って、1人で雪ノ下のマンションに乗り込む勇気もないが。
さて、どうするか。
とうとう行き詰まり、同じような考えるがグルグルと頭の中を回っている。
あー、だめだ。考えれば考えるほど、マイナスな方へと突き進んでいく。
もう俺は戻れないんじゃないか?
頭に過るマイナスな要素を吹っ切るように体を起こす。
このままだと本当に気が狂いそうだ。
コーヒーでも飲んで気分転換でもするか。
自室を出て、リビングへと向かう。
すると、そこには疲れ果てた母親の姿があった。
「おかえり」
「あんた、起きてたんだ」
「ああ、眠れなくてな」
うん、普通だ。何も変わっていない。
この分だと親父も変わっていないだろう。そのことにどこか安心感を覚える。やっぱ家族って大事!
そんなことを思っていると、母ちゃんは俺の頭を見て、目を見開く。
「あんた、黒に戻したの?」
「ああ、なんとなくな」
「また昔みたいに戻ったの?目もなんか濁ってるわよ?」
なんでしょうね。この気分は。
安心感はあるのだが、どこか落胆させるような要素を含んでいる。
まぁ逆に言えば、これが俺の母親なのだ。どうせなら優しい母ちゃんになって欲しかったぜ。
その後、少しだけ会話をして母ちゃんは風呂に入ると言ってリビングから出て行った。その間に作ったコーヒーを持って自室に戻る。
その途中、小町の部屋の前を通ると、扉から光が漏れていた。そういや受験生だったっけな、小町。
心中で頑張れとエールを送って自室に入った。
熱いコーヒーをちびちび飲みながら、再び、思考を巡らせる。
1つ、まだ考察していないことがある。自分から掘り返したいものではないのだが、仕方ない。
それは俺の頭がおかしくなった説。
すべてが俺の妄想で、現実ではない。
先ほどとは別のベクトルで落ち込んでゆく。
しかしだ。この説を完全ではないが、由比ヶ浜の存在で否定することができる。
この世界の由比ヶ浜は大人しくて本が好きな普通の女子高生。
この世界の俺はかけ離れた存在。そんな彼女をわざわざリア充のトップカーストまで押し上げるか?
そんなことをするなら、他にめぼしい女子がいるだろう。戸塚とか。
冗談はさておき、そんな面倒なことをするとは考え難い。この説を完全なものにするにはやはり雪ノ下を見つけ出すしかない。理由は由比ヶ浜と同じ。別の高校から引っ張ってきてまでそんなことをするはずがない。あいつの存在を確かめることができれば、俺がまだ正気であることを証明できる。
しかし、海浜総合高校に乗り込んでも今の俺ではきっと相手にされない。
あいつとお近づきになるには、何か伝を作らなければならないな。
気づけば、時計の針はてっぺんを通り越している。
そろそろ寝るか。明日も学校だ。
明日はもう少し頑張るか。三浦にもう心配をかけさせたくない。
そんなことを思いつつ、ベットに潜り込んで布団を被った。