サイレンが鳴り終ると、盛田は二人を心配し、声をかけた。
「二人とも大丈夫ですか?」
「はい、私もおばあちゃんも怪我はありません。」
「では、先にパトカーに戻っていてください。」
現在、異常事態が続発しているため本庁に連絡した方が良いと考えた盛田は、二人を連れて駐在所へ戻ることにした。
あれだけの地震があれば島民も駐在所に向かっていことも考えられたため、盛田は周囲を確認してからパトカーに向かうことにした。
しかし、盛田が周囲を確認していると異変を見つけた。
「漁船が無い・・・?それに・・・何だあの埠頭の壊れ方は・・・?」
先程まで波に揺られていたはずの漁船が無く、コンクリート製の埠頭も何かが爆発したような破損状況だった。
明らかにおかしいのだが、盛田は警察官として香苗と美沙子の二人の安全を確保するべく、パトカーへと足を進めた。
パトカーに乗った盛田はシートベルトをつけてエンジンをかけた。
「これから駐在所へ向かいますので。」
後部座席に乗り込んだ二人に行き先を告げた盛田は、パトカーを回して沿岸部の道路を走って駐在所を目指した。
道中、いくつかの建物は崩壊していて道路や堤防も破損していた。
明らかに先程の島内と変化していることに戸惑いつつも、盛田は駐在所に戻ってきた。
「では、朝まで駐在所で待機しましょう。朝になったら本土に連絡してみて状況を確認します。朝まで奥の家で休んでください。」
「ありがとうございます盛田さん。」
「いえ、警官としてやるべきことですから。」
香苗は盛田に礼を言うとパトカーを降りて駐在所に入って行った。
盛田はパトカーを駐在所横に駐車してからエンジンを止める。
そして、パトカーの鍵をかけると、駐在所に戻って島民がやって来た時に対応すべく待機することにした。
だが、1時間経っても2時間経っても誰も来ないし電話もかかって来ない。
明らかに異常だと思った盛田は周囲を捜索することにした。
ちゃんと装備があることを確認した盛田は懐中電灯をもって駐在所を出る。
小型でありながらLEDライトのおかげで周囲は明るく照らされている。
「全く・・・警官生活でこんな事案に遭遇するとは・・・。」
盛田はぼやきながら、駐在所から数メートル離れた食堂へとやってきた。
駐在所から近いこともあって、彼もよくこの食堂を利用している。
誰かいることを願いつつ、盛田はゆっくりと食堂の引き戸に手をかけた。
鍵はかかっておらず、簡単に引き戸は開いた。
おかしいと思った盛田は店内を懐中電灯で照らす。
「すみません、盛田です。誰かいませんか?」
誰も店内にはいなかったが、まるで何かを恐れるように出て行った形跡があった。
ひっくり返った椅子や食器、点けっぱなしで砂嵐が映されているブラウン管テレビ、そういった物が暗闇と相まって、余計に恐ろしさを助長している。
「そんな・・・今朝はこんなに荒れていなかったのに・・・・。」
盛田は店内を捜索してみるが、めぼしいものは何もなかった。
何も無いと思っていたが、ふと懐中電灯を当てた壁のカレンダーを見て、盛田は現実が怪しくなった。
「そんな・・・・ありえない、今は2016年だぞ!?」
壁に掛かったカレンダー、それは1987年、8月15日を示していた。
その日付を見て盛田の頭は混乱し始める。
「一体全体・・・この島で何が起きているんだ?」
盛田は食堂を出ようとした時に何かを蹴っ飛ばしてしまった。
慌ててそれに懐中電灯の光を当てて見ると、蹴っ飛ばしたものは一昔前のラジオだった。
動かしてみるとまだ動くようで、盛田はダイヤルを弄って電波が受信しようとした。
ダイヤルを回してみるとノイズが聞こえてきた後、放送が聞こえてきた。
『・・・・次のニュースです。本日8月15日午前9時に、深海棲艦と我が国との戦争が始まってから10年が経過します。未だ戦況は膠着していますが、大本営と防衛省の発表では、確実に終戦に向かっているとのことです。また、近日中に深海棲艦のいる可能性がある「夜身島」の武力制圧作戦が決行され、安全が確保されれば島民の物品回収が許可されるとのことです。』
「武力・・・・制圧!?」
ラジオを聞いた盛田は現在の状況を理解してしまった。
現在この電波がから流れている情報では時代は1997年の8月15日。
しかも、深海棲艦と日本が戦争をしているという状況だ。
これから考えるに、盛田らは2016年の世界から1997年の異世界に落ちたということになる。
「まさか・・・あのサイレンが!」
サイレンが鳴ったあとで島内が様変わりしているところから、盛田はあのサイレンが原因だと考えた。
だが、それよりも重要なことがある。
「そう言えば・・・・放送では近日中に武力制圧作戦があると・・・・まずい!最悪の場合、沖で戦闘が始まる。そうなれば艦砲射撃の砲弾が島内に!!」
最悪のシナリオが思いついた盛田はラジオをその場に置いたまま、懐中電灯を手に食堂を飛び出した。
盛田は賢明に走り、駐在所横に留めてあるパトカーのドアを開けてパトランプを動かした。
「今島内に人がいないなら、この赤色灯で目立つはず・・・誰か気づいてくれ!」
盛田は淡い期待を抱きながら駐在所の中にいる二人の安全を守るために駐在所へ戻った。
それから数分後、月に照らされた海を駆けるモノがいた。
一般人が見たら目を疑うだろう。
なんせ、6人の女性が海の上に立っているのだから。
「およ?」
「睦月ちゃん、どうかしたっぽい?」
海上で立ち止まった藍色のコートを羽織った睦月と呼ばれた少女、睦月型駆逐艦一番艦「睦月」は夜身島を眺めていた。
それに気づいた金髪の少女を筆頭に一緒にいた5人が海上で立ち止まる。
「夕立ちゃん、あれ・・・・夜身島だよね?」
「え?・・・・海図だとそうっぽい。」
夕立と呼ばれた金髪に、犬の耳のように跳ねた髪の毛の少女、白露型駆逐艦四番艦「夕立」は持っていた海図をみて答える。
「でもさ?この島って今は無人島なんだよな?もしかして幽霊とか・・・・?」
「み、深雪お姉ちゃん!怖いこと言わないでよ!」
くせっ毛でセーラー服を着た深雪という少女、特一型駆逐艦四番艦「深雪」は低い声で言う。
それを聞いた髪を三つ編みにしていて、深雪と同じセーラー服を身に纏った少女、特一型駆逐艦九番艦「磯波」は小刻みに震えながら怒る。
「そういっても磯波ちゃん・・・睦月たちも幽霊みたいなのモノじゃ・・・?」
「そう言われればそうっぽい。」
睦月と夕立が喋っていると、彼女たちを率いていた女性が近づいてきた。
「皆さん、おしゃべりをしている場合ではありませんよ?」
「でも神通さん、夜身島に光があるのはおかしいと思うんです。」
「私もそう思うな・・・神通はどうなのさ?」
睦月が、鉢金を巻いていて魚雷発射管を刀のように差した侍のような風貌の神通と呼ばれた女性、川内型軽巡洋艦二番艦「神通」に言うと、その後ろから神通の服と似ているが、どこか忍者のようにも思える服装の女性、川内型軽巡洋艦一番艦「川内」が睦月に賛同した。
しかし神通は川内に反抗した。
「川内姉さん、私たちの任務は偵察です。夜身島周辺に深海棲艦が駐屯していないかを確認しなければなりません。」
「分かってるって。だから私たち第三水雷戦隊の四人が選抜されたんでしょ?那珂は遠征中だし、吹雪は第一艦隊で赤城さんの護衛も務めるエースになったからいないけどさ。」
川内らはかつて「第三水雷戦隊」と呼ばれる艦隊に所属していた。
当時、川内型軽巡洋艦三番艦「那珂」と特一型駆逐艦一番艦「吹雪」も所属していたが那珂は遠征任務、吹雪は転属になった際に抱いていた夢を叶え、第一艦隊で赤城型航空母艦一番艦「赤城」を護衛するエースに成長したため、今回は吹雪の妹の深雪と磯波が参加している。
彼女らに課せられた任務は、「夜身島周辺の深海棲艦の出没量を把握せよ」というもので、夜身島に上陸することは任務外であった。
その上、夜身島は嘗て要塞島だった過去があり、敵の陽動作戦という可能性もある。
そのため、神通は夜身島に近づくことは否定的だった。
「ですが姉さん・・・。」
「相変わらず頭が固いなぁ・・・神通は。罠だったとしても夜戦で負ける訳ないから大丈夫!さぁ、夜身島に進路を向けるよ!」
「おー!」
川内に習うように深雪も進路を夜身島に向ける。
磯波はお調子者の姉を1人で行かせると危険と判断し、慌てて後を追う。
夕立と睦月も第三水雷戦隊時代から川内を知っている為、半場諦めた様子で渋々付いていくことにした。
神通は溜息をつきながら腕時計を確認した。
「マルヨンマルサン・・・日の出まで一時間ですか・・・・・始末書は覚悟ですね。」
神通は帰還したときに受けるであろう処分に頭を悩ませながら、夜身島へ向かう問題児である姉の元へと向かった。
「駐在所近くの食堂」がアーカイブに追加された。
アーカイブもあるんじゃよ。
1000文字超えたら投下します。