まあ、区切りがいいところがなかったので・・・。
許してヒヤシンス☆
横須賀鎮守府第一艦隊に護衛されつつ、波に揺られながら横須賀へと向かう輸送艦「おおすみ」。
その艦内の食堂では盛田と香苗、美沙子の三人が机の上に置かれた新聞を見ていた。
その新聞は現在が1997年であることを示しており、それを見ている三人は浮かない顔だった。
「・・・盛田さん。私達、どうなるんでしょう?」
香苗の小さな声に盛田は目線を下げながら答える。
「・・・現代と変わらない法律であれば、我々は存在しない人間です。当然、日本国籍もない。そうなるといろいろと厄介なことが待ち受けているのは変わりありません」
「ぐ、具体的には?」
「最悪の場合は密入国および不法侵入で逮捕されるでしょう。自分の場合はそれに職務詐称、銃刀法違反、軽犯罪法違反、住居不法侵入などが適応される可能性が高いですね」
「そ、そんな・・・」
うなだれる香苗に寄り添う美沙子。
そんな二人を見かねた盛田は「ですが」と付け加えて言葉を続ける。
「お二人が日本国民であることは自分がよく理解しています。市民の安全を守ることが警察の使命。お二人が逮捕されるようなことは警察官として必ず避けてみせます」
「盛田さん・・・ありがとうございます!」
「いえ、これも警官のやるべきことですから」
目に涙を浮かべながら頭を下げる香苗。
そんな彼女を見た盛田は、より一層、この二人を守らなければならないという使命感に駆られることとなった。
そして、横須賀到着を告げる艦内放送が流れた。
パトカーを降艦させた後、盛田は松野一佐と面会していた。
「松野一佐、わざわざ救助していただき、感謝します」
「いえ、これも自衛隊の務めです。・・・この後は忙しいと思われますが頑張ってください、盛田巡査長」
互いに敬礼を交わすと、盛田は艦娘と香苗、美沙子の元へ、松野一佐は艦内へと戻っていった。
皆の元へと戻ると、香苗と美沙子は応接室へ。盛田は吹雪に連れられて執務室へと案内されていた。
道中、何人かの艦娘と遭遇するも、皆が同じように警察官である盛田を奇怪しい目で見ていた。
彼も警察官である以上は、人に見られる事には慣れているつもりではあったが、まじまじと見られるとやはり気恥ずかしいものがある。
そんな羞恥に耐えながらも長い道のりを経て、「執務室」と達筆な字で書かれた板が右側の壁にかけられている立派な扉にたどり着いた。
「ここが司令官のいる執務室です。・・・大丈夫ですか?」
「たたっ!多分大丈びでひゅ!」
顔面蒼白で脂汗をかきながらガタガタと震えてかみかみな言葉を発する盛田に吹雪は苦笑いをせざるを得なかった。
そんな中で盛田の頭の中にはあることが浮かび上がった。提督の階級だ。
こんな横須賀という日本の重要な場所を任されるぐらいなのだから、階級は当然高いはず。
そう考えて吹雪に尋ねると「司令官は少将ですよ?」と返答が返ってくる。
それを聞いて即座に頭の中で少将を自衛隊の准将に置き換える。そしてそれが自分の所属する警察という組織の中でどの階級に位置するかを考えると、はじき出された階級は警視正。
簡単に言えば下っ端の自分が面と向かうことなんてよほどのことがない限りあり得ない上層部の人間の階級がたたき出されたのだ。
それは今まででの緊張にさらに拍車をかける結果となり。盛田は腹痛までをもを伴い始めた。
「と、とりあえず司令官はそんなに厳しい人ではないので大丈夫だと思いますよ?」
「う、うん・・・とりあえずその司令官さんとお話はさせてくれるんだね?」
「ええ、司令官がそうするように言いましたし・・・それでは行きますね?」
「うん、頼むよ」
盛田が答えると吹雪は三回ノックをしてから自分の名前と目的を扉越しに言う。
すると中から入室を許可する若い女性の声が聞こえ、吹雪が扉を開いた。
普通に入っていく吹雪に少し驚きながらも、盛田は制帽を脱いでから入室し、右手で制帽のひさしを持つ。
そして両腕を体にぴったりとつけると、提督へ向かって礼をした。それに対して提督は制帽を取り、盛田と同じようにして一礼する。
提督が頭を上げると、盛田も頭を上げた。
「お初にお目にかかりります。日本警察警視庁、夜見島駐在所駐在警察官の盛田孝則と申します。階級は巡査長です」
「遠路はるばるご苦労様。私はこの鎮守府の提督の冨澤葉子、階級は中将です。早速本題に入るので、どうぞおかけになってください」
「失礼します」
一言断ると、盛田は用意された椅子に座る。
執務机を挟んで提督と面と向かうと緊張感は最高潮を迎える。だがそれ必死で抑え込みながら提督の言葉に耳を傾ける。
「ではまず・・・あなたは本当に警視庁の警察官なんですか?」
「間違いありません。自分は2014年4月1日、辞令通りに夜見島駐在所に配属されました。そしてそこから二年間、駐在警察官として勤務していました」
「2014年・・・つまり未来から?」
「正確には・・・異世界と申し上げたほうがよろしいでしょうか。我々の世界には艦娘や深海棲艦なる存在はいませんでした」
「なるほど・・・ではあなたが存在しないのも符合しますね・・・ですが、そんな戯けたことを信じろと?」
視線を鋭くする提督に臆しかけた盛田はなんとか持ちこたえ、提督に対して言葉を放った。
「・・・自分はどうなっても構いません。銃殺、絞首、終身・・・どんな刑でも甘んじて受け入れましょう。ですが!自分と一緒に来た島民2名の安全は保障していただきたい!あの人たちは巻き込まれただけなんです・・・どうか、お願いします」
盛田は立ち上がると深々と礼をして提督に訴えかけた。
相手に表情は見えなかったが、唯々祈るしか盛田にはできなかった。言うほど時間は経っていないだろうが、彼には非常に長く感じられた。
その時間は提督の一言によって止まる。
「んー別に私は貴方を咎めるつもりもないからね~」
「えっ?」
重い空気から一転、盛田は変な声を出しながら驚きの表情で提督の顔を見る。
提督は机に左肘をつきながら手に頭を支えさせながら気だるげに盛田を見る。
「いや~元はここの司令官じゃないのよ、私。ほんとは呉の提督でね。大本営の指示で一定期間勤務地を交代してるわけ」
「は、はあ・・・」
「んで、本来の提督さんにこの事態をどうするか聞いたらさ『警察とは話しつけとく』ってさ。島民の方も戸籍とか何とかなるでしょ」
「つまり・・・」
「貴方が私と話すのはあんまり意味ないってわけ」
提督から放たれた爆弾発言によって吹雪は盛大にずっこけ、盛田は緊張の糸が切れたのかフラフラと椅子に座りこんだ。
そんな二人の様子を見て笑う提督。一頻り笑うと、今にも殴りかかろうとせん吹雪を後目に、腹部を抑えながら盛田の肩に手を置いて言った。
「まあ、あとは明日帰ってくる本当の横須賀鎮守府の提督さんに頼みなさいな。私からも多少言っておいてあげるから」
「じゃあ私は間宮さんの所に行ってくるわね~」と言い残して執務室を去る提督。
執務室では後を追って殴ろうとする吹雪と、警察官として暴行罪を未然に防ぐべく、吹雪を羽交い絞めにして抑える盛田の攻防戦が繰り広げられるのであった。
そして運命はその元機を静かに動かせ始めた。