セカンド スタート   作:ぽぽぽ

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第29話

 

 

 

 ヒヤリと冷えた空気を風が運び、私の肌を少し強張らせた。刀が入った絹で出来た袋を、片手でぎゅっと握り込む。持ちなれたそれは、しっかりと私の掌に馴染んで、寒さなど何事もないかのような顔を作らせてくれた。  

 

 いつもは部活動で騒がしい筈の玄関を出てすぐの道も、期末テストの影響で穏やかな話し声しか聞こえない。淡々とした足取りで私は歩く。なんとなく見た雲の流れは早く、掠れた雲が青空を侵食していくように見える。

 

 

「桜咲」  

 

 聞き慣れない声が、私の名前を呼んだ。振り替えると、クラスメイトの明智さんが少し遠くに見えた。思ったよりも離れた場所から声をかけていたらしい。長い黒髪を揺らし、膝よりももう少し丈のある制服のスカートをいじらしそうにしながら此方に向かってくる。明智さんが側に来るまで、私は無言で待った。

 

「……どうかしたんですか? 」  

 

 この距離を早歩きしただけで若干の疲れを見せる明智さんに、私は適当に聞いた。いつも凜とした姿勢の彼女が、ここまで体力のない人だとは思わなかった。

 

「……桜咲が見えたから、声をかけてみたんだ」  

 

 時間をかけて息を整えてからそう言った明智さんを、私は不審に思った。  

 

 私と明智さんとの関わりなど、何もない。二年もクラスで一緒にいるので、勿論顔くらいは把握している。しかし、たまに廊下ですれ違っても、静かに挨拶をされ、黙って会釈する。その程度の仲だ。私が彼女の事について知っているのは、お嬢様とそれなりに仲が良く、クラスメイトの中でも真面目でたまに纏めてくれる人、ということくらいだ。私から見てそれだけしか知らないのだから、明智さんも私に対しての情報などその程度であろう。いや、クラスで目立たない私のことなどきっとほとんど知らない筈だ。  

 

 黙っている私に見かねて、明智さんは続けて問う。

 

「桜咲は、今からどこにいくんだ? 」  

 

 普通の問い掛け。裏を読もうとするのは慎重過ぎるのかもしれないが、私は肩に張った力を抜くタイミングを逃してしまっていた。

 

「……部活です」

 

「テスト期間なのにか? 」

 

「…………」  

 

 見抜いたような目で私を見られる。本当は、楓を見習って山にでも行き、剣を振ろうとしていたのだ。いつものこの時間は部活動で竹刀を振るのだが、テスト期間の部活休みで道場にはきっちりと錠がかけられている。鈍るのも嫌なので、修行でもしようと思っていた。

 

「勉強は、大丈夫か? 」  

 

 沈黙する私に、明智さんは再び問い掛ける。ここまで聞いて私は、なるほど、と察しがいった。そういえば教室ではテストで点をとらないとネギ先生がクビになるだの騒いでいた。何かとネギ先生をフォローしている明智さんは、少しでも力になろうとしているのだろう。

 

「無用な心配です」

 

「……今日の授業の様子からはそうは見えなかったが」  

 

 お節介だな、と思った。確かに今日授業で当てられた問題は解くことが出来なかったが、だからと言って明智さんには関係のないことだ。そもそも、私は勉強なんぞよりもっと優先すべき事がしっかりと決まっている。ネギ先生についても、そこまで私に関係のあることではない。  

 

 ネギ先生の素性については把握している。魔法使いだと。年端もいかない少年が教壇の上に立った時はそれなりに驚いたが、魔法使いだと聞けば納得できた。

 初めはおどおどとした様子に頼りがいのなさを感じたが、当然のように堂々と黒板の前に立ち、しっかりと授業を進めていく、今では彼が少年であることを忘れてしまいそうなときもある。流石は優秀な魔法使いだな、と感じた。魔法の実力のほどはまだ分からないが。

 

 しかし彼がどんな状況であろうと、私にはさして関係のないことである。私はお嬢様のために力を尽くすことで急がしいのだ。

 

 

「…………桜咲がもしよければ、一緒に勉強を」

 

「無用だと言ったでしょう。自分の力だけで十分です」  

 

 明智さんの言葉に被せる様にして、ピシャリと冷たく突き放した。被害妄想であろうが、暗に勉強出来ない馬鹿と言われた気もして、想像していたより低い声が出てしまった。閉口してしまった明智さんに、では、と別れの挨拶を早急に告げて、私は背を向けてスタスタと歩いた。  

 

 

 それからしばらく進み学内から遠く離れた所で、後ろから追撃の声も付いてくる気配もないことが分かった。私に勉強をさせようとするのを諦めたのだろう。この時期でも根強く生える草が茂る道を足早に歩きながら、 一応私はちらりと後ろを見るが、やはり明智さんはいない。

 ふぅ、と安堵とも言えぬ息を静かに吐いて、視線を前に戻した。  

 

 

 …………よく考えれば、クラスメイトに何かを誘われたのは久しぶりだった。  

 

 だからなんだという話だが。と一人で冷静に頭の中の声に返して、私は山の中に入っていった。    

 

 

 

 ○  

 

 

 

「……何をしているんだ龍宮」

 

 

 寮室に戻ると、ルームメイトの龍宮が机に向かいシャープペンを走らせていた。褐色の肌え背が高く、黒髪でキリリとした目をしながらも物静かな彼女は、とてもじゃないが中学生に見えない。そんな彼女だからこそ、学生らしく机に向かう姿が不自然に見えた、などとは言わない方がいいんだろうか。

 

「何って、勉強だよ。期末テスト、もうすぐだろう」

 

「見れば分かる。しかし今までテスト前にそんな風に勉強していたか? 」  

 

 そう尋ねながら、自分の汗で染みた服を洗濯籠に放る。修行をして一汗かいた後、大浴場に寄って来たので今はスッキリとしている。しかし大浴場には何人ものクラスメイトがいて、皆揃ってA組にしては珍しくテストの話をしているせいで、何だか居心地が悪く早々と上がってしまったのは少し残念に思っていた。

 

「失礼な、いつもしていたぞ」

 

「そうだったか? あまり机で勉強しているイメージはなかったんだが」

 

「いつもは教室の授業中である程度こなしていたんだが、まぁ今回ばかりはちょっとな」  

 

 私に言葉は返すが、龍宮はノートに黒い文字を書くのを止めなかった。龍宮もネギ先生のクビを心配しているのだろうか。そんなに仲が良さそうには思えなかったが。私はその事を聞くと、龍宮は軽く溜め息を吐いて手を止め、椅子ごと私に向き直った。

 

「刹那……分からないのか? 」

 

「……何がだ? 」

 

「今、ネギ先生はクビを回避しようと生徒に一生懸命勉強を教えている。それも、バカレンジャーに重点を置いてな」

「……それで?」

 

 期末テストのクラス総合点数を上げるために例の五人を集中的に教えるのは当然だ。だがそれと龍宮がいつもより勉学を励むのとが繋がらない。  

 察しが悪い私にまた溜め息を吐いてから龍宮は言った。

 

「……あのクラスでビリにだけはなりたくないと思わないのか」

 

「…………あ」  

 

 そ、そうだ。あの五人が勉強して成績を上げるということは、それに抜かされたものは同様のレッテルを貼られるということではないか。  

 私は思い出す。バカレンジャーなどと不名誉な名前で呼ばれクラスで勉強出来ないものの象徴として称えられる彼女達を。何かあると「バカレンジャーは相変わらずだなぁ」なんて言われてしまう彼女達を。

 言う方も冗談めいた形なため、彼女達はそんな言葉を飄々と受け止めるが……駄目だ、私はきっと堪えられない。と言うより、いじられなれていない自分があのクラスでそんな風に言われる想像が出来ない。

 

「し、しかし、いくら勉強しようとそんなに急に点数が上がったりなんて」

 

「ネギ先生は相当必死に教えているし、彼女らもそれに応えているらしいぞ。事実彼の教え方は上手だし、相当良くなると思っていい」

 

「……ぐぐ」

 

 額に汗がたらりと垂れ続けて止まらない。運動で書くような汗ではなく、冷えて悪寒をそそるような汗だ。このままだと、私はバカレンジャーとやらに組み入れられてしまうのか。それとも、他の五人が急に勉強が出来るようになり、私が一人でただのバカと名付けられるのか。  

 頭を悩ます私に、龍宮は小声で強すぎる追い討ちをかけた。

 

 

「…………木乃香お嬢様も、刹那が急に学年ビリを取ったらどう思うだろうな」    

 

 その言葉で、私の頭に突然電流が走った。

 

 ザザザとノイズが脳を揺らし、黒い横線がいくつも入った画面が浮かび上がる。段々と線は姿を消して、やがて鮮明とした映像が作り出される。教室に、私の大切な人が一人。カーテンを揺らす風と共に、その人の髪もはらはらと舞う。

 

 彼女は、ゆっくりとカメラに目線を向けて……

 

 

 

『せっちゃんて、こんなに馬鹿やったんやね』    

 

 

 

 

「龍宮! 頼む! 私に勉強を教えてくれ! 」  

 

 叫んだ。私は龍宮の肩を勢いよく掴み顔を近付けて頼んだ。このままではまずいことは自分でも分かった。

 しかし龍宮は私が近付くのに合わせて、冷静に顔を後ろに下げつつ答える。

 

「そうしてやりたいのは山々なんだがな、私も今は自分のことで精一杯なんだ」

 

「……くっ! こうなったら私もネギ先生の所へ……」

 

「五人でかなり一杯一杯そうだったからな。後から来た刹那に構ってくれるかは分からんぞ」

 

「……くぅぅ」    

 

 私は龍宮の肩を持つ手を震わせながら唸る。何故こんな時期に私は修行などに時間を使い続けたのか。それが無駄とは言えないが、もっと上手く時間を使えば勉強にも時間回せたのではないか。

 

「他に当てはいないのか? 」

 

「…………あ」  

 

 思い当たる人が一人。そういえばちょうど今日私に声をかけてくれた人がいたではないか。あんな断り方をして再び頼むなど許してくれないかもしれないが、そこは頼み込むしかない。本気で頼むしかない。  

 

 気付くが否や私は教科書や参考書を一纏めにしそれを持ち、龍宮に「出てくる! 」と口早に告げて部屋から飛び出していた。

 

 

 だから、「……ちょろい仕事だったな」と映画の前売り券を揺らしながら呟く龍宮になど、気が付くことは出来なかった。    

 

 

 

 ○    

 

 

 桜咲と私は、特に接点がない。物静かで、他の生徒ともあまり関わりのない彼女とどの様にコンタクトをとるかは中々に難しい問題であった。事実、一度駄目元で話し掛けても録に取り合ってもらえなかった。私の聞き方も悪かったのも原因であっただろう。  

 

 なんとなく、そんな結果になるのは分かっていたので事前に桜咲のルームメイトである龍宮にお願いをしていた。彼女を勉強するように仕向けてくれないかと。関係もない私に言われてもやる気の出ない桜咲の気持ちも分かるし、私の都合で人に勉強を強硬するのもどうかとも思う。それでもネギ先生のために出来ることはしようと思い、龍宮に頼んだ。こういうものは、仲が良いものに言ってもらった方がいいだろう。  

 龍宮は映画をたまに見に行くと楓から聞いていたので、教授が映画など行かないからと私にくれた前売り券で手を打った。龍宮と私もそこまで関係があるわけではないが、彼女は面白そうに口角を上げながら承諾してくれた。  

 

 そしてすぐその日の夜、龍宮が上手く促してくれたのか、大量の教科書などを持って桜咲が私の元に来た。頭を地面に擦るような勢いで頼む姿に、「龍宮、やりすぎだ」とも思った。  

 

 とりあえず、私は彼女を部屋に入れて共に勉強をした。それから、思ったよりも授業内容を把握してない彼女に、テストまで日が暮れたくらいの時間に私の部屋に訪れて、勉強をした方がいいかもなとやんわり提案した。少し嫌そうな顔をしたが、背に腹は変えられないといった様子で彼女は頷いた。

 

「……ここの計算は代入法を使う方が速く解けるぞ」

 

「あ、確かに。そうですね」  

 

 そう言って、桜咲はノートに消しゴムを押し付け数字の羅列を消していき、ぱぱっと素早くケシカスを退ける。  

 あの時の態度からは考えられないほど、桜咲は素直な子であった。私が何かを言うと、成る程と頷き即座にノートにメモをしていく。根が真面目なんだろう。初めなんか、教えを請うからと丁寧な敬語を凄まじく並べてきたが、流石にクラスメイトの間でそれは……と自重してもらった。

 

 彼女はさらさらと、鉛筆を走らせていく。ノートに顔を向けながら、さらりと垂れた綺麗な 黒髪を耳にかける動作をした。  

 桜咲は決して勉強が出来ないと言うことではない。ただ、工夫が必要なものや引っ掛け問題などに少々弱いだけである。そのため基本問題を反復し応用問題の傾向を理解すれば、平均点以上を取るのは難しくないと思えた。  

 バカレンジャーを越えられますか、と仕切りに気にしていたが、この様子なら恐らく大丈夫だと思う。  

 

 無言の二人の間に、鉛筆が真っ白な地面をコツコツ走る音だけが聞こえる。軽快なそのリズムは、少し心地よかった。

 

「…………終わりました」  

 

 コトリと桜咲が鉛筆を置いたのを最後に、その音は止まってしまった。  

 そのまま桜咲が、お願いします、とノートを差し出し、私は受け取って赤ペンの蓋をキュポンと取った。  

 今度は、赤ペンの滑る音が私達の耳に響く。少し視線を上げて桜咲の方を見ると、些か疲れたのか休んでるように見えた。  

 そんな桜咲を見て、不意にあることが気になった。勉強を見る前はまったく関わりのなかった私達だが、少しだけ桜咲に対して気ががりに思ったことがあるのだ。  

 

 私は赤い丸を描きながら、なんとなく尋ねてしまった。    

 

「桜咲は木乃香と喧嘩でもしたのか?」

 

「…………っ!」    

 

 桜咲が纏う空気が、変わった。

 

「……いえ、喧嘩などではなく、その…………」  

 

 小声で話を初め、どんどん尻窄みになっていく。終には、口から言葉が出なくなっていた。    

 ……やってしまった。

 目に陰りを見せ、不自然な表情で俯く彼女を見て、私はそう思った。無遠慮に踏み込みすぎてしまったのだ。  

 木乃香と一緒にいるとき、彼女はたまに桜咲に視線をやっていた。木乃香らしからぬ、不安そうな顔で桜咲を見るが、気付いていないのか桜咲が此方を振り向くこと一度もない。そんな様子を側で何度か見て、二人の間に何かあったのかと想像はしていた。しかし、木乃香からその話をしようとする気配がないため、いつか彼女が話してくれるまで待とうと決めていたのだ。  

 それを、一時の感情で不作法に押し入ってしまった。彼女は、未だに考えるように固まり、複雑な顔をしている。  

 

 私は、自分の無神経さに腹が立った。  

 人間関係の問題ほど、複雑な物はない。二人の間の過去や経験が絡まり、その背景を正しく理解できるものは当人達以外にいないのだ。大して事情も知らぬ第三者が首を突っ込み、より関係を悪化させることも多くある。だから、他人が出張るのは本当にどうしようもなく相談された時だけでいい。それが、私の持論だったのに、彼女達の関係を喧嘩でもしたのだろうと甘く見てしまった。  

 どんな事があったかは分からないが、簡単な事情でないことは彼女の顔から想像できた。とても真剣に悩ませる内容であることが見てとれた。    

 

 二人の間に流れる音が、消える。ペンを動かし先の質問を無かったかのようにしたかったが、打ちひしがれたかのようにじっと目を伏せて考え込む桜咲の前で線を引く音を出すことすら躊躇われた。  

 

 彼女をこれ以上困らせたくなくて、私が、「済まない、忘れてくれ」と声をかけようとしたその時、桜咲はゆっくりと顔を上げた。

 

「明智さん、国語を教えてもらえますか」

 

 私が戸惑いつつも、その言葉に応えると、彼女は机の脇にあった国語の教科書を抜き取りパラパラのページを捲る。

 

「…………『山月記』というお話を、ご存知ですか」  

 

 そう言って、彼女は机に教科書を広げた。そこは、今回のテスト範囲でなかった。高校向けの題材だが、『挑戦してみよう』というコーナーで中学教本にも書かれた小説で、有名な話であった。  

 

 その話は、唐の時代を舞台にしたものだった。主人公が自身の臆病な自尊心と尊大な羞恥心から突然虎に姿が変わってしまい、友人に最後の詞と別れの言葉、妻子への援助を頼んでから、その後は虎として生きていく、という内容であった。

 主人公は、自身の醜悪となった姿に嘆きつつも、友人を襲わないために気を使い、二度と人となることはなかった。  

 

 私は、桜咲の意図を察しきれず静かに質問を待った。少しすると、桜咲は何かを抑えるように含みのある声を出す。

 

「この主人公は、自分が意図しないところで、突然人を襲う虎になった。自分を化け物だと思い込んだ彼は、友とも、妻とも決別することを誓った」

 

 桜咲は、教科書のページにずっと目を向けながら、続けた。

 

「…………もし、もしです。明智さんが、突然このような虎……化け物になってしまったらどうしますか」

 

「……」  

 

 いくら私でも、この質問が重要な質問であることくらいは分かる。わざわざ化け物と言い直し、切迫とした目つきから、これは彼女にとってとても深刻な話なのだろう。だが、同時に多少の諦めを感じられる声でもあった。

 誰かの答えを聞いてどうにかなるものでもない、でも、誰かの答えを聞いてみたい。そんな感情の籠った声である気がした。

 

「……そうだな」  

 

 私は、この話が木乃香との仲にどう繋がるかなど分からない。彼女の欲しい答えが分からない。だから、真剣に考えて、自分の答えを伝えることに決めた。  

 

「私はきっと、皆の元から離れると思う」    

 

 どうしようもなくて、さらに自分のせいで、大切な人達が危険になるくらいなら、私は一人を選ぶ。今なら未来ある彼女達を優先するし、妻がいるなら愛する妻を優先する。その想いはきっとどんな時もブレないと思っている。  

 

「……っそう、ですか……。そう、ですよね」  

 

 私の答えを聞くと、桜咲は胸に何かが刺されたような表情をした後、俯き、消え入るような声を出した。手を少し震わせ、耐えるようにしている。

 

「……だけど、きっとそんな簡単には行かせてくれないんだろうな」 

 

「……え? 」

 

 下を向く桜咲に先ほどの続きの言葉をかけた。それが予想外だったようで、彼女は俯きの体勢からおもむろに私の顔を見た。その勢いで、彼女が髪が揺れた。

 

「私の周りの子達は、私が化け物になったくらいで離れない、そんな気がしてな」  

 

 そう言って、私は桜咲に微笑んだ。  

 

 きっと、思い上がりではない。私の大切な人達は、近くの誰が離れていっても、お節介に、しつこいほどに、食らいついていく。そんな子達だ。  

 

「……あなたは、怖くないんですか。自分が、周りに恐れられ、卑下されるのが」    

 

 彼女は、歯を食いしばるかのような表情だ。不安と怯えで、心に影を落としている。

 

「怖くないとは言えないが、それ以上に信用してる……かな」

 

 私は、しっかりと彼女を見つめて、続ける。  

 

 

 

 

「君にも、いるだろう? 何よりも大切で、信用できる人が」    

 

 

 

 

 私の言葉に、桜咲の目が大きく開いた。いつの間にかその手の震えは止まっている。彼女は、目を閉じて上を向いた。ゆっくりと何かを考えているようだ。

 

 

 

 少しして、彼女は私の方を見て、優しく笑みを浮かべた。  

 

「……そう、ですね。あの、今日はありがとうございました。少し、少しだけ、気持ちが紛れた気がします」    

 

 そう言って、彼女は荷物を纏め始めた。

 

「あとは、自分で頑張って見ます」と私に告げて、彼女は部屋を出ていく。  

 

 

 その表情から、私の答えが役に立てる物だったかなんて分からなかったが、気持ちが紛れたと言った彼女の言葉を、信じることにした。

 











小ネタ
『凸凹』





「今更ですがこのクラスって、個性的ですね」

「おお、ゆえっち急にどしたん」

「いえ、改めてこの教室を見渡してみたら、中々濃い面子だなぁと思ったのです」

「まぁーそだねー。すごい凸凹してるなーって私は思うな」

「凸凹?ハルナ、どういう意味ですか」

「例えばさ、鳴滝姉妹とかゆえっちは幼いじゃん。どうみても小学生って感じで」

「……そうそうに腹の立つ言葉を言われましたが、まぁ続きを聞きましょう」

「逆に明らかに中学生じゃないじゃん、って人も何人もいてさ。凄い凸凹してるなーって。多分中間値とったら結構平均なんじゃない?うちのクラス」

「……一応聞いておきましょうか、中学生に見えない人は誰ですか?」

「えと、龍宮さんと、千鶴と、ななみんと……」

「ほー」「へー」「ふーん」

「……あれ? お三方、いつの間に後ろに?」

「ちょうど今、だな」
「ハルナちゃんひどいわー、そんな風に思ってたなんて」

「ちょ、待って、これはちがくて、龍宮さん銃!銃はしまって!! 千鶴ネギはどっからだしたの!? な、ななみーー助けて―――!!!」


「まぁ自業自得だな」

「ですね」

「というか夕映。わざとハルナをはめただろ」

「ばれましたか」






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